その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

平田オリザ 『演劇入門』 講談社現代新書

2014-07-13 08:43:35 | 


 演劇について少し勉強してみたいと思い、平田オリザさんの著作を手に取ってみた。演劇を見る際に何をどう見るのかの、ヒントが掴めればなあと思った次第である。

 本書は、演劇について戯曲、演出、俳優といった角度から平易な言葉で論理的に説明されていてとても興味深く読めた。見る側の視点よりも創る側、参加する側の視点で書かれているため、見るのが専門の私のようなものには、舞台裏をのぞき見るような面白さもある。

 大胆にまとめてしまうと、戯曲は「場所・背景・問題」を枠組みとして成立し、登場人物は「内部の人」(問題に直面している人)、「外部の人」(問題を解決したり、複雑にしたりする人)、場合より「中間の人」で構成される。そして、プロット(話の筋:筆者の場合は人の出入りとそこでもたらせる情報)、エピソード(出来あがったプロットに合わせて、その場面で何を話すのか)が考えれて、台詞の記述に入る。このプロセスが、事例を含めながら一つ一つ説明される。そして、戯曲、俳優、演出の関係は「コンテキスト」(一人ひとりの言葉の内容、一人ひとりが使う言葉の範囲)の擦り合わせとして解説される。

 こうした、演劇の創り方とともに、近代演劇と現代演劇の違いについての主張も興味深かった。「伝えたいこと」(テーマ)があったのが近代演劇で、現代演劇では、時代の変化(脱イデオロギーの時代、芸術の社会的役割の変化)から「伝えたいこと」が無くなり(またはそれを排除、後退させて)「私に見えている世界を、ありのままに記述すること」がその役割となっているということだ。

 もちろん、演劇には様々な考え方やアプローチがあるだろうから、筆者の思想や方法論はその一つに過ぎないのだろう。それでも、ここまで分かりやすく、演劇の手法を伝えられる能力というのは、まさにプロの仕事であると感じた。氏の演劇が上演される機会には、また是非足を運んでみたい。
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