毎年、この季節にN響がやっている季節ものイベントのようですが、私は初めてでした。当日券狙いで出かけたところ、窓口で会員は1500円のD席(通常のE席)が1000円、C席(通常のD席)が2200円(定価3200円)に割引になると知り、ついつい財布の紐が緩み、3階中央の2列目のC席チケットをゲットしました。正直、指揮者も知らない人だし、(失礼ながら)大きな期待は無く、1曲目のコシの序曲聴きたさに出かけたのですが、これがとんでもの、私にとってサプライズ公演となりました。
まずは、指揮者のレオ・フセインさん。名前からして中東系の方かもしれませんが、イギリス系の若手指揮者で、現在はザルツブルグ州立劇場音楽監督(ザルツブルグ音楽祭には行ったことあるけど、こんな歌劇場があることは知らなかった・・・)とのことです。1978年生まれとのことですから36歳ぐらいです。N響にも初登場のこの方、年齢にそぐわない、落ち着いた円熟した音楽を聴かせてくれました。特に、印象的だったのは、小編成ながらも、メリハリがある輪郭がしっかりしていて、かつ情熱的でもあったジュピター。そして、色彩豊かで美しいラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」と「ラ・ヴァルス」。日本での知名度はそれほどでもないと思うのですが、思いがけな強く印象に残る指揮者でした。是非、定期も振って欲しいです。
そして、続いてのサプライズは舘野 泉さんのピアノ独奏によるラヴェル「左手のためのピアノ協奏曲」。これまた恥ずかしながら、舘野 泉という方は、名前を聞いたことがあるぐらいで詳しくは全く存じ上げませんでしたが、プログラムを読んでびっくり。何と70歳代後半のピアニストですが、60歳代半ばで脳出血により右半身不随となったものの、2年後に左手のピアニストとして復帰し、今も海外公演を含め演奏活動を行っている方とか。実際、舞台袖からステージ中央に移動する舘野さんの歩きぶりは後遺症を感じさせるものでしたが、そのピアノ演奏は堂々として、力強いものでした。ステージ一杯に広がったN響メンバー相手に、堂々と渡り合う姿には、驚異と尊敬の念で気持ちが一杯になります。
さらなるサプライズは、この日の聴衆のみなさん。企画ものということでいつものN響定期会員の方とは違う層の人が沢山来られていたのでしょうか?少なくとも、3階席はいつもより平均年齢が間違いなく20歳以上低かったですね。これがN響のコンサートかと目を疑うほど、違った空気が漂ってました。そして、この聴衆の皆さんが素晴らしかった。特に、「亡き王女のためのパヴァーヌ」が終わった後、フセインさんはかなり長めに指揮棒を降ろさず間を取っていたのですが、その10秒程度の静寂が完璧だった。「最後の余韻までお楽しみください」というアナウンスどおりの、曲の美しさを脳内で反復しながら、曲の終末を胸で受け止める。こんな素晴らしい、終わり方は久しぶりでした。
予想外の大サプライズに見舞われたN響「夏」2014。幸せな2時間でした。N響の皆さま、ありがとうございました。
N響「夏」2014
NHKホール
モーツァルト/歌劇「コシ・ファン・トゥッテ」序曲
モーツァルト/交響曲 第41番 ハ長調 K.551「ジュピター」
ラヴェル/左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調
ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル/バレエ音楽「ラ・ヴァルス」
指揮:レオ・フセイン
ピアノ:舘野 泉