シリコンバレーの有名な起業家であり、投資家であるピーター・ティールによる起業論。(スタンフォード大学で起業について講義したものがベースになっている。)講義録ベースのためか、系統的で理論的な経営書よりよりはかなりエッセイに近いつくりであり読みやすい。
筆者は、2000年のハイテクバブルの反省から教訓となったような以下のことは誤っていると言う。
1.少しずつ段階的に前進すること
2.無駄なく柔軟であること(リーン・スタートアップ)
3.ライバルのモノを改良すること(既存顧客のいる市場から始める)
4.販売ではなくプロダクトに集中すること
むしろ、筆者が説く原則はこうだ。
1.小さな違いを追いかけるよりは大胆に賭ける
2.出来の悪い計画でもないよりは良い
3.競争激しい市場では収益が消失する(だから独占を狙う)
4.販売はプロダクトと同じくらい大切である
また、筆者が強く主張するのは、「賛成する人がほとんどいない大切な真実は何か?」という問いで「隠れた真実」をみつけビジネスに結び付けることの大切さである。
仕事柄、私にとって面白かったのは組織・人に関する考察だ。スタートアップにかかわる人間はフルタイムで、四六時中同じ場所で働くべきとか、スタートアップ時のCEOの年収は15万ドルを超えてはいけないといった主張だ。「高額報酬は現状維持のインセンティブになるだけで、社員と協力して積極的に問題を表に出して解決していく動機にはならない。逆に、現金報酬の少ない経営者は企業全体の価値を上げることに力を注ぐ」(p156)。その通りだと思う。
ただ正直なことを言えば、パーツパーツでは首肯できるところも多いのだが、全体として筆者の言いたいことが素直に頭に入ってきたかというとそうでもなかった。自分自身、文字面では追えていても、筆者の言いたいことを十分には理解できていないような気がする。ピンと来てないのである。今更ではあるが、私にはベンチャーは向かないということなのかもしれない。
目次
日本語版序文 瀧本哲史
はじめに
1.僕たちは未来を創ることができるか
2.一九九九年のお祭り騒ぎ
3.幸福な企業はみなそれぞれに違う
4.イデオロギーとしての競争
5.終盤を制する―ラストムーバー・アドバンテージ
6.人生は宝クジじゃない
7.カネの流れを追え
8.隠れた真実
9.ティールの法則
10.マフィアの力学
11.それを作れば、みんなやってくる?
12.人間と機械
13.エネルギー2.0
14.創業者のパラドックス
終わりに―停滞かシンギュラリティか