その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

生島 淳 『ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話』 文藝春秋 2015

2016-03-22 08:00:00 | 


 タイトルが長すぎてブログのタイトル枠に収まらなかった。フルのタイトルは 『ラグビー日本代表ヘッドコーチ エディー・ジョーンズとの対話 コーチングとは「信じること」』である。昨年のラグビーのワールドカップ開催中に、日本チームの活躍に触発されて図書館で予約したところ、半年以上経ってやっと回ってきた。

 ワールドカップでの日本チームの歴史的な大活躍はまだ記憶に新しいが、本書はそのヘッドコーチであるエディさんへのインタビューをもとに書かれた本である。日本人論であり、コーチング論であり、世界レベルでの現代ラグビー論であり、一冊で3粒は間違いなくおいしい。

 舌鋒鋭く、物事の本質を突いたエディさんの指摘はうなずかされるところが多い。理論だけでなく、しっかり結果を残してきた人なので、説得力も桁違い。ラグビーの面白さ、奥深さにも触れることができるおすすめ本だ。半年も待たずに、さっさと本屋で買っておけば良かったと思った。お勧めです。


《目次》
1 コーチングはアートである
2 コーチングの流儀1 アイデアをいかに生かすか
3 コーチングの流儀2 数字を使いこなす
4 勝つための組織作り
5 革命の起こし方―日本の課題を整理する
6 教育の価値を考える
7 コーチング最前線
8 ラグビーの世界地図―南半球編
9 ラグビーの世界地図―北半球編


(備忘のためのメモ)
・規律と楽しやさ、規律と柔軟性は決して矛盾しません。・・・本来、『生活の中で正しいことをする』のが規律なのです。(pp20-21)
・スポーツとはあくまでもリクリエーションの一部。・・・本来、リクリエーションとは、何かをもう一度創造するという意味の言葉です。日本では、『レクレーション』と発音されて娯楽的な意味合いを帯びているようですが、それとは違う種類のものです。スポーツは本来の意味でのレクリエーションの一部であり、人間の人生においてエレルギーや活力を与えてくれる活動です。(p29)
・怒るのは選手たちにまだパワーが残されているときでなければなりません。(p43)
・パスとキックの比率。世界の常識は4回パスしたら、1回はキック。日本は11対1が最適。(p53)
・今後のラグビーでスタンダードになっていく数値は、「スタンディング」の時間だという。・・・「・・・ひとりが寝ていれば、どこかにスペースが生まれてしまうからです。」(p60)
・日本では『この仕事をしっかりやりましょう』と、全体像を提示することなく、一部のパーツを任されることが多いのではないでしょうか。・・・パーツできれいに仕事をこなせば、ほめられるので、『次』のことを考える習慣がないんです。・・・『ナイスタックル』と・・・かけられると満足して、ハッピーになってしまう。(p61)
・有望な選手であれば、国内の枠で考えるのではなく、将来を見越してポジションを決めるべき。国際レベルに照らし合わせてみるべき。(p72)
・日本ではもっとクリエイティビティに焦点をあてるべき。もったいない。クリエイティビティがあるからこそ、日本人のアスリートも世界に出て活躍できている。(p93)
・ジュニアの時にはディフェンスよりもアタックのスキルを教えることが大切。・・・ディフェンスはシニアのレベルでも3つか4つの約束事で対応が可能であり、それに加えてメンタリティが重要になる。・・・アタックは、「ディシジョンメイキング」、決断する要素が入り、選択肢の数が膨大になるので、小さいころからの積み重ねが重要。(p116)
・「ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン」という言葉をラグビー界で使うのは日本人だけでしょう。ワン・フォア・オールが強調されていて、才能豊かな選手に合わせて周りが動く「オール・フォア・ワン」が軽視されていないか?(p128)
・日本チームにはなかなかリーダーシップが育たたない。・・・『責任』が生まれない集団にはリーダーシップが育たない。日本人は、相手を追い詰めるような議論も好まれませんから、責任の所在も曖昧で、リーダーが育ちにくい環境にあると思います。(p134)
・リーダーの要素。・自分が所属しているチームで絶対に勝ちたいと思っていること、・懸命に練習すること、・他の選手にポジティブな影響力を及ぼし、責任を持たせられること(p134)
・ほとんどの日本の選手たちは、自分がリーダーになりたいと思ってはいない。・・・日本の選手たちは、自分が責任をもってやりますと言いたがらない。役割を分担するのを好みます。・・・ラインアウトのサインを決める時も、最終的に一人でなく、2,3人で決めましょうという形に持っていく。そんな人任せの判断しかできないようでは絶対に勝てません。グラウンドはディスカッションする場ではないですし、そんな時間もないですからね。瞬時に判断するリーダーが必要なんです。(pp137-138)
・これからのラグビーはアメリカン・フットボールのにより近い形になっていく気がします。・・・選手個々の判断力は重要ですが、役割の分担がよりハッキリしてくるのではないでしょうか。・・・現代のラグビーでは個々の選手の身体能力が目覚ましく向上して、ますます速く、強く進化しています。そうなるとスペースが少なくなって、『ディシジョン・メーカー』が決定的な仕事をするようになるのは必然の流れなのです。そして、それを支えるフォワードはこれまで以上に仕事人として自分の役割に徹しなくてはいけなくなる。(p202)

 
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