
演出家の平田オリザさんによるこれからの日本論。
内容は多岐にわたるので、私の国語力では、うまくまとめるのは難しい。一つのポイントは、リアリズム。平田さんは、3つの種類の寂しさ、即ち1)日本はもはや工業立国ではないこと、2)もはや、この国は、成長せず、長い後退戦を戦っていかなければならないのだということ、3)日本と言う国は、もはやアジア唯一の先進国で無いということ、を「卑屈なまでのリアリズム」を持って認識し、向き合う必要があるという。そして、「坂の上の雲」を求めた日本から「下り坂をそろそろと下りる」日本へ変換していかなくてはならないと説く。
その過程においては、「自己肯定感によるまちづくり、まちおこし」(p73)が大切で、「文化資本」が重要な役割を果たす(p120)というのは、演劇による町おこしや教育を行っている筆者ならではである。
そして、もう一つの課題意識は少子化。平田さんは、少子化、人口減少対策の本質は、都市においてはワークライフバランス、地方においては非婚化、晩婚化対策と考える。地方には、「偶然の出会いがない」(p222)ことが最大の問題と考える。筆者の目標は、「子育て中のお母さんが、昼間に、子どもを保育所に預けて芝居や映画を見に行っても、後ろ指を指されない社会を作ること」(p19)であるという。
小豆島、但馬・豊岡、讃岐・善通寺といった具体的な地方の状況、町おこしにも触れられているので、議論は地に足がついている。東京に住む私には、なかなか地方の現状は分かりにくいのだが、筆者の経験に基づいた地方の記述は、如何に自分の見方が東京中心に偏っているかに気づかされる。
一方で、部分・部分では首肯するが、これを世の中のシステムとして廻していくのは、相当の時間とエネルギーがかかると思うし、人々の共感が得られるのかが気になる。記述は具体的ではあるが定性的であるのも、今一つ肚落ち感に欠ける。私自身はアベノミクス支持派ではなく、張りぼての「経済政策」は少しばかりも良いとは思わないけど、筆者の説くリアリズムも元気がでない。若い人が本書を読んだらどう思うのか。
問題提起の本として、もう少し自分なりに考えていきたいテーマだ。
【目次】
序 章 下り坂をそろそろと下る
小さな国/スキー人口はなぜ減ったか/三つの寂しさと向き合う/ちっとも分かっていない
第一章 小さな島の挑戦――瀬戸内・小豆島
島の子どもたち/キラリ科/なぜ、コミュニケーション教育なのか/人口動態の変化/Iターン者の増加/島に出会った理由/農村歌舞伎の島/町の取り組み/小豆島高校、甲子園出場
第二章 コウノトリの郷――但馬・豊岡
環境と経済の共生/城崎国際アートセンター/短期的な成果を問わない/城崎という街/アーティストのいる街/小さな世界都市/未来へ/豊岡でいいのだ
第三章 学びの広場を創る――讃岐・善通寺
四国学院大学/大学入試改革/大阪大学リーディング大学院選抜試験/三位一体改革の本質とは何か/四国学院大学の新しい試験制度/地域間格差の恐れ/変われない地域/伊佐市
第四章 復興への道――東北・女川、双葉
福島の金/女川/獅子振り/高台移転/番屋の力/ふたば未来学園/低線量被曝の時代を生きる/対話劇を創る/地域の自立再生とは何か
第五章 寂しさと向き合う――東アジア・ソウル、北京
『新・冒険王』/日韓ワールドカップと嫌韓の始まり/インターネットという空間/確証バイアス/韓国の病/ヘル朝鮮/北京へ/文明と文化の違い/新幹線はなぜ売れないのか/文明の味気なさに耐える/安全とは何か/零戦のこと/最大の中堅国家/安倍政権とは何か/二つの誤謬
終 章 寛容と包摂の社会へ
『坂の上の雲』/四国のリアリズム/人口減少問題の本質とは何か/偶然の出会いがない/何が必要か/亡びない日本へ