その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

青木 美希 『地図から消される街 3.11後の「言ってはいけない真実」 』 (講談社現代新書、2018)

2020-06-09 07:30:00 | 

3.11以後、時間の経過と共に「復興」がキーワードとなる陰で、忘れ去られた存在になりつつある原発事故の被災者たちを追ったレポート。東電の「現地採用者」たちの現在、「除染」の実態、帰還政策の意図、がれき撤去を巡る官僚・規制委員会の言動、避難民へのいじめ、自主避難者への対応などが筆者の取材をもとに紹介される。

一つひとつのケースなので、これらがどの程度一般化されるのかはわからない。ただ、被災者一人ひとりにそれぞれに被害、避難、復興の物語があることを実感するし、それを最小公倍数としての被災者支援政策では救い切れないのも肌感覚として理解できる。取材模様も描写されているので、リアリティ高く迫力がある。原発、復興の複雑さ、難しさが滲み出ている一冊だ。

今の政権の言動を散々見聞きして来て、今更、政府の言うことをまともに受ける人がいるとも思えないが、改めて、いかに政治家や官僚が、自分たちの政策目標の達成のために情報の公開をコントロールし、都合の良いメッセージを流し続けているのかついては唖然とするばかりだ。結局、損をするのは騙される国民なのだ。

私がぼんやりしていたのだろうが、日本が原発を続ける大きな動機の一つが、核武装可能性を残しておくことによる国防上の優位性確保(石破さんは明言している)という見方があるのは初めて知った。確かに説得力ある仮説である。

筆者が所属する朝日新聞にありがちだが、比較的ワンサイドに寄った書きっぷりなので、慎重に読んだ方が良いと思うところはあるが、政策の裏の現実・現場を知るための貴重な一冊であり、一読を勧めたい。

 

目次

はじめに
第1章 「すまん」──原発事故のため見捨てた命
第2章 声を上げられない東電現地採用者
第3章 なぜ捨てるのか、除染の欺瞞
第4章 帰還政策は国防のため
第5章 官僚たちの告白
第6章 「避難者いじめ」の真相
第7章 捨てられた避難者たち
エピローグ──忘れないこと、見続けること

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