江戸時代末期から明治にかけて活動した通詞(通訳士)堀達之助の一生が描かれる。
代々オランダ語通詞の家に生まれ、オランダ語に通じ、ペリー来航時には主席通詞として対応した。その後、ドイツ商人からの奉行あての請願書の扱いを誤り4年余り入牢。出所後は日本初の本格的な英和辞書「英和対訳袖珍辞書」を編纂するなど、振れ幅の大きな一生を送った。
職業専門家として歴史の大きな転換期に居合わせた主人公の生き様が、作者特有の乾いた文体で淡々と記述される。 本書の面白さは、堀のアップダウンある人生の追体験だけでなく、黒船来航以降の幕末維新の激動の日本が、通詞の目を通じて感じ取れることだろう。スペシャリストとしての立場からの時代観察や考察は、多くの歴史物語で描かれる志士たちの思想や理想と言った思いとは別の次元であり、客観性を帯び興味深い。
歴史小説好きの方に自信をもってお勧めできる。