その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

山本貴宏 『セールス・イネーブルメント 世界最先端の営業組織の作り方』(かんき出版、2019)

2020-07-12 07:30:00 | 

欧米のグループ会社のGTMチーム担当(Go to Market、営業戦略チーム)がやたらとセールス・イネーブルメント(Sales Enablement)とわめくのだが、グーグル先生に聞いてもどうも腹落ちしない。そんな状況で手に取った一冊である。

本書にも書かれているが、会社によって定義は異なっていて、「現在のところ、ネーブルメントについて確固たる定義があるわけでないという状況」(p41)とのことである。文脈から察するにうちのGTMメンバーが言っているのはInsights社の定義「営業の成果と生産性を上げるための仕組み」に近い気がするが、ターゲティング等含んだハイレベルなマーケティング戦略の意味合いも含んでいる。本書では、「成果を出す営業社員を輩出し続ける人材育成の仕組み」と定義し、勘と経験に頼らず継続的に成果を出す営業組織・人材育成についてが解説される。

手に取ってページをめくってもらえればすぐ分かるが、本書の特徴は特筆すべき記載の平易さ、わかりやすさにある。しかも、重要なところはゴシック体で印刷され、しかも丁寧にアンダーラインまで引いてある。かといって、内容が軽いわけではない。重要なことがポイントに絞って書かれている。

成果(アウトプット)視点で育成を捉えなおし、「組織としてどのような成果を達成したいのか」を明確にしたうえで、「そのためにどのような行動をとれる人材が必要なのか」(行動)、そして「そのためにどんな知識やスキルが必要なのか」(知識・スキル)と3つのレベルでカスケードさせる「育成のフレームワーク」は基本的だがとっても大切だ。

また、営業プロセスの視点を自社視点から顧客視点に変え、営業プロセスの整合性を図ること。そして、顧客の意思決定状況をベースに会話をすることの重要性など、とっても基本的なことではあるものの、忘れがちな基本の基を思い出させてくれる。

そのほかにも具体的イネーブルメントの実施ステップや実際に取り組んでいる企業事例の紹介なども有用だ。

さっと読めば2時間かからないと思うが、流し読みは勿体ないので、じっくり考えながら読みたい一冊である。

 

目次

第1章 なぜ営業組織にセールス・イネーブルメントが求められるのか

  1. 日本の人材育成と営業教育の位置付け
  2. 欧米で注目されるイネーブルメントの動向
  3. 成果起点で考える育成のフレームワーク
  4. 本質的に取り組むべき課題の所在
  5. イネーブルメントの必要性
  6. イネーブルメントにまつわる情報整理
    など

第2章 顧客起点で営業プロセスを見直し、マーケティング部との溝を埋める

  1. 顧客視点での営業プロセス設計
  2. マーケティングと営業の溝
    マーケティングと営業の間の溝を埋める方法
    「インサイドセールス &システム」の組み合わせ
    案件創出の別アプローチ:新規ビジネス開発チーム
  3. 最適化された営業プロセスを支えるイネーブルメント

など

第3章 セールス・イネーブルメントの構築法
イネーブルメントの作り方の全体像
イネーブルメントで使うコンテンツの作り方
ハイパフォーマーはイネーブルメントに協力するのか?
イネーブルメントプログラムの具体例
育成テーマに応じてコーチ役を変える
ツール・ナレッジ化の例
イネーブルメント構築の5ステップ
フェーズ1:営業データの収集と整備
フェーズ2:兼任または専任人材のアサイン
フェーズ3:プログラムの開発と提供
フェーズ4:イネーブルメントデータの蓄積と営業成果との検証
フェーズ5:経営層とのイネーブルメント結果レビューサイクルの確立
企業規模別の進め方
イネーブルメント組織をどの部門に配置するか
イネーブルメントチームのKPI(評価指標)
「イネーブルメント進捗マップ」で自社の位置を確認 

など

コメント
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