パーヴォさんのさよならコンサート、しかもソリストにヒラリー・ハーンという今シーズンの目玉公演だったはずが、コロナ影響で無念の来日キャンセル。失意のお知らせとともに舞い込んだのは、代役が尾高忠明さんと金川真弓さん、しかもプログラムがイギリス・アメリカ作品のプログラムとのご案内。不幸中の幸い、災い転じて福となす、瓢箪から駒・・・何と呼ぶかは人それぞれでしょうが、落ち込んだ気持ちを切り替えるには十二分の布陣となりました。
期待通りどれも素晴らしい演奏だった中で、私的に超特筆は金川真弓さんソロによるバーバーのヴァイオリン協奏曲でした。初めて実演に接する方ですが、周囲の空気が変わるようなその存在感に圧倒されました。
まず、演奏姿の美しいこと。P席の私からは後ろ姿しか見えないのですが、姿勢の良さ、凛とした佇まいに魅せられます。そして、発せられる音の奥深さが印象的。しっかりとした芯がありつつ、潤い豊かで、抒情たっぷり。自らの音を主張しつつ、音がオーケストラのアンサンブルの中に溶け込んでいきます。ハーゲンダッツのクッキー&アイスクリームを食している感覚です。
オーケストラも気合入っていました。金川さんが時折送るアイコンタクトに応えるように芳醇な音を奏でる木管陣。シナジーという言葉がぴったりのソリストと寄り添いながら+αを生み出す弦陣。お見事でした。第2楽章の美しさには思わず涙が零れました。至福の時間でした。
前後に演奏されたブリテン、エルガーの両曲も圧巻でした。「英国的な音楽」というのが果たして存在するのか、私には理解を超えていますが、両曲から感じたのは私自身4年弱生活したイギリスの香りでした。ターナーやコンスタブルの絵を見るようにイギリスを感じます。ブリテン「ピーター・グライムズ」からは寒村や荒れた海。エルガー「謎」からはイギリス全般に漂うまったりと穏やかな空気や人たち。尾高さんの指揮がそうしたイギリス要素を浮かび上がらせてくれている。そんな気がしました。
この1,2月はオミクロンに振り回された形のN響定期でしたが、振り返ってみると、反田恭平さん、服部百音さん、小林愛実さん、そして今日の金川真弓さんと、錚々たる日本の若手音楽家の演奏を聴かせてもらったことになります。この人たちが今後、年月、経験を重ねていって、さらにどんな音楽家になっていくのかが本当に楽しみです。三者三様の成長を遂げて欲しいですね。
第1953回 定期公演 Bプログラム
2022年2月17日(木)開演 7:00pm
サントリーホール
指揮:尾高忠明
ヴァイオリン:金川真弓
ブリテン/歌劇「ピーター・グライムズ」- 4つの海の間奏曲 作品33a
バーバー/ヴァイオリン協奏曲 作品14
エルガー/変奏曲「謎」作品36
No. 1953 Subscription (Program B)
Thursday, February 17, 2022 7:00p.m.
Suntory Hall
Conductor: Tadaaki Otaka
Violin: Mayumi Kanagawa
Britten / "Peter Grimes," opera − Four Sea Interludes Op. 33a
Barber / Violin Concerto Op. 14
Elgar / Variations on an Original Theme Op. 36 "Enigma"