その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

貴田 正子『深大寺の白鳳仏: 武蔵野にもたらされた奇跡の国宝』春秋社、2021

2022-02-21 07:30:20 | 

国宝にも指定されている深大寺の釈迦如来倚像。私が大好きな仏様である。端正で優しい表情、凛とした佇まいが、心を落ち着かせてくれる。深大寺で何度か見ているし、東京国立博物館での仏像展で展示されていた。

本書のタイトルを見て、地域活性化目的のPR本かと思ったのだが、中身は「仏像伝来の謎解きルポルタージュ」である。香薬師像(昭和18年に新薬師寺から盗難にあって以来行方不明)、法隆寺の夢違観音と並んで「白凰三仏」と称せられる深大寺の仏様が、畿内の工房で作られ、どのようにして関東、深大寺に渡ったのか。筆者の文献調査、フィールドワーク、関係者への聞取り調査などを通じて、筆者の仮説が構築される。

推理小説を読むように一気に読ませる。白鳳時代の時代背景、政治状況も踏まえながら、仏様の伝来を巡る謎解きは歴史の想像力を駆り立ててくれる。物的証拠類・史料が乏しいことが、さらに妄想を拡大させる。

初めて知ったことも多い。伝来の鍵となる渡来人(高句麗王族)の末裔であり、武蔵の国の国司を2度も務めた高倉(肖奈)福信なる人のこと。また、狛江市の狛江が高麗から来ているという話は聞いていたが、調布の深大寺付近が渡来人によって開拓された土地であるということも初めて知った。

何となく図書館で手に取った本であったのだが、私的にはツボにはまった一冊であった。奈良時代マニアや白鳳仏が好きな人は、是非、読んで見て欲しい。

 

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