その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

ハビエル・ガラルダ 『愛を見つめて 高め合い、乗り越える』(集英社インターナショナル新書、2023)

2024-12-24 07:28:24 | 

参加している読書コミュニティの課題図書として読んだ。読書会のいいところは、本書のように自分では普段手に取ることのない書籍を読む機会ができることである。

筆者は長く日本に滞在するカトリック系の司祭であり、神学者。その筋ではとっても有名な方のようだ。

本書を読んで、「利他」について考えようというのが読書会のお題だったのだが、俗にまみれた私には難度が高く、読んでは見たものの、考えがまとまらないままとなってしまった。せめて、雑駁ながら印象に残った記述をいくつか自分のために書き残しておきたい。

○人間愛の特徴:無償

・「報いなど期待せずに、お互いに無償で分けた情こそが、人間愛です。・・・見返りを目的として行いは、愛ではなく、利害関係に過ぎません。しかし、誰しも感謝や関心といった細やかな見返りは、心の底で望んでしまうでしょう。それでも、何らかのご褒美や報酬を目的とせず、条件にもしないことが大切です。」(p.56)

・「『バラを捧げる手には、薔薇の香りが残る』と言うことわざがあります。お礼に別の花を受け取ることや、金銭を受け取ることがなくても、自分の手に残ったバラの香りは、ささやかでも深い喜びをもたらします。この香りは自己満足ではなく、愛に伴う、精神的な作用です。良い心が感じさせる「調和」と言う香りなのです。」(p.57)

→「利他」を考える上で、「無償/有償」、「見返りの有無」は切り口の1つと考えたのだが、「利他」と本書で説かれる宗教的「人間愛」の関係はどう考えればいいのか。私たちは、無償の利他的な行為でも、非経済的な報酬は受けていると思う。ここでは、愛についてはそれすら期待するべきではないと言うことのように読める。

○向上心

・「向上心はより優れた状態を目指そうとする心です。自分の得意な分野で出世を果たしたいと言う情熱は、高慢にも映りますが、素晴らしい憧れです。向上することよりも、目立たないでいることを選ぶ気持ちは、謙虚さから生じるのではなく、怠慢や臆病から生まれているかもしれません。」(p.144)

・「成長と自己実現は、向上心の目的ではなく、向上への努力の結果です。向上そのものの目的は、誰かの助けとなることです。人が助かるために、自分を改善することが手段となります。」(p.146)

・「おごらずに、人が助かるために人に仕えると言う姿勢が、向上のためのカギです。」

・「人を大切にするあまり、自分と言う水差しにワインを注ぐことを語る人は、すぐに空になって何もできなくなってしまいます。
かといって自分を大切にする。あまり、水差しのワインを誰にも分け与えなければ、そのワインは参加するばかりです。
ワインでいっぱいに満たした水差しを、テーブルに置いておけば良いのです。飲みたい人は飲む、そうしたらワインを注ぎ、足せば良い。こうすれば、水差しのワインは常に新鮮です。
このような姿勢が、自己愛と人間愛等両立させます。自分のために生きるのか、人のために生きるのかと言うジレンマは自然に解消します。」(p.148)

→向上心は成長や自己実現のためではなく、誰かの助けになるためという考えや、そのイメージとしてのグラスのワインの例えは、これまでの私の発想にないもので新鮮だった。

○信じすぎずに信じる

「人を信じすぎれば人にだまされることもあります。でも人を信じなければ、人は離れて行きます。(中略)心も目も開く。これはその人の行動をしっかり見ながら、信じようとすることです。」(p.126)

→以前読んだ山岸俊雄『安心社会から信頼社会』で指摘があった信頼社会における「ヘッドライト型知性」にも通じるものかと理解。日本人は身内(うち)でない人に心と目を開くことが苦手。そとの人に対して、「信じすぎずに信じる」ことを身につけたい。

「利他」のお題についてはもう1冊課題図書があるので、読了次第、また投稿予定。

 

【内容】
「第一部 愛の対象」
第1章 自己愛について
第2章 人を大切にする
第3章 友情
第4章 男女の愛
「第二部 愛し合う」
第5章 コミュニケーション
第6章 求め合う
第7章 赦し合う
第8章 信頼が生まれるとき
第9章 忍耐とは何か
第10章 分かち合い
「第三部 高め合う」
第11章 向上心
第12章 生きる夢
第13章 謙虚な自信
第14章 心が望む価値観

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする