生成AIについて、技術、人間の仕事への影響、創作物への影響、人類との未来などの切り口で解説した書籍。筆者は東大のAIで超有名な松尾研究室の研究者である。専門家の著書にありそうなマニアックな内容は皆無で、むしろその道のプロならではの明快で分かりやすい解説で、すらすら読めて頭にも入る。生成AIの入門には最適の図書と感じた。
以下、印象に残った記述を書き抜き、サマっておく。
・「いかに賢いアルゴリズムを開発するか」に力が注がれた従前のAI研究は、「良い性能を出すにはトランスフォーマーのニューラルネットワークを、大量データセットで長時間学習すればよい」というスケーリング則により「いかに(データセットや学習のための)お金をかけられるか」という問題に変わってしまった。(pp.69⁻71)
→明示はしていないが、これはもうAI開発のメインストリームではお金の無い日本は勝てない、アメリカや中国のおこぼれをもらうしかないということだ。
・機械学習やディープラーニングは、人間が作業をプログラミングするのではなく、データから自ら学習することにより、非定型型の作業の一部を可能とした。言葉にできない作業過程も自律的に学んでくれる。・・・人間の創造的な作業とされていたものの大半は、「過去の経験のなかから、価値ある新しい組み合わせを見つけること」であり、生成AIは膨大なデータ学習からこれらをみつけられるようになった。・・・生成AI登場後の「AIの影響を受けにくい職業」とは、肉体労働を中心とした職種。(頭を使うことはAIができるが、服を畳む、食べ物を箸でつまむ、ものを探して持ってくるといった作業はAIにとって大変)(pp.105-113)
→「AIは肉体労働が苦手」は前に読んだ西田宗千佳『生成AIの核心』にも指摘があったが、笑うに笑えないファクトだ。
・生成AIの出現は「AIの認知革命」と表現しても良い。・・・意外と近い未来には、われわれが想像もできないような機械の知能と、それによって変革させられた社会が実現するのではないかというのが私の考えです。・・・「指数関数的な成長」が始まる起点、人類の時代をそれ以前とそれ以降に分けるようなイベントが起きているのが、まさに今ではないでしょうか。(中略)人間にとって「賢い蟻」と頭の悪い蟻の差が大したことないことが示すように、知能とは相対的なもの。人間を超えた機械にとっては、凡人とアインシュタインの差も大したことない。機械の知能が何を生み出すかは人間には想像できない。人間の思考の限界を超えて、人にとって価値のあるものを生み出してくれる未来を期待したいが、人間の想像のはるか外にある脅威を持ち込んでくる未来を恐れる。
→第一線のAI研究者である筆者の生成AI観が示される。凡人の私には脅威でしかないわ。(pp.217ー221)
巻末の松尾教授との特別対談も興味深った。松尾先生は、個人が身につけるべきスキルや心構えとして、「極端な行動をとること」「自分自身のメタ認知を上げる」「人のできないことを淡々とやり続けたり、勝負所を見極めて一気に仕掛ける」「AIに対してうまく指示ができるスキル」などを挙げている。