その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

経験の無いブーイングの嵐・・・東京二期会/コンヴィチュニーの『影のない女』(R.シュトラウス、指揮:アレホ・ペレス)

2024-10-25 07:52:38 | 演奏会・オペラ・バレエ・演劇(2012.8~)

東京二期会『影のない女』を鑑賞に東京文化会館へ。上演前からX(旧ツイッター)上で、その改変が物議を醸していたが、私はオリジナル作品を見てないし、ワールドプレミアでもあるこのオペラを0ベースで楽しむつもりで出かけた。2010年5月にフィレンツェ五月音楽祭で、ズ―ビン・メータ指揮でのチケットも確保したのに劇場のストライキで涙のキャンセルとなった、私には因縁の作品でもある。

終演後は、私の日本でのオペラ鑑賞歴では経験の無いブーイングや怒号の嵐で苦笑いだったが、このブーイングにはもろ手を上げて賛同できる演出であった。

私にとっての一番の難点は、今回の演出が音楽を損なっているように見えた点。初めて聞くオペラ・音楽だが、「サロメ」の緊張感と「ばらの騎士」の甘美さの双方を持ち合わせた音楽。だが、この舞台は、この楽曲の甘美さに全くそぐわず、音楽がむしろ損なわれる印象だったのが最も残念であった。

また、舞台上の斬新さや目新しさの主張が目立つ一方で、舞台設定の納得感なく、人物造形もよくわからなかった。霊界の皇帝の世界を地下駐車場、バラク夫婦が住む人間界を遺伝子操作研究の世界に置いたり、エピローグでの高層ビルでの高級展望レストランなど、設定にどういう意図を込めて、どういう効果を狙っているのかわからない。人物キャラの描き方も弱いと感じた。ついでだが、舞台そのものではないが、カーテンコールではバラクの妻が主役としてコールに応えていたのにも混乱した。

個々の表現も不快に感じるところが多い。出産での鉗子摘出シーンや露骨な性交シーンなども、「日本のオペラ愛好家は真面目過ぎる」とかいう問題ではなくて、作品のテーマを描く表現手段としての効果や意図がわからない。「舞台芸術として美しい」というポストをされている方もいらしたが、私には醜悪としか見えなかったのが正直なとこである。

音楽は素晴らしいので 途中から目をつぶって音楽と歌に集中したが、字幕は見たいので時折目を開けると、舞台が目に入ってしまう。そのたびにがっかりさせられる。現代読み替えとかの問題では全く無く、舞台として納得できないし、生理的にも合わなかった。オリジナルを知らない私がこの感想だから、オリジナルの四分の1を削っているというこの舞台に、オリジナル経験のある人が許しがたい気持ちを抱いたのも理解できる。

ピットに入ったアレホ・ペレスの指揮と東響の演奏は、そのドライブ感といい、緊張感と甘美さの表現といい素晴らしかった。チェロの独奏や低弦部の合奏、管楽器や打楽器の炸裂、シュトラウスの世界全開で味合わせて貰った。歌手陣も熱演で舞台を盛り上げた。とりわけ、皇后役の冨平安希子と乳母役の藤井麻美の歌唱、演技が印象的。

終演後、私は演出家の術中にはまるような気もして、ブーイングは他の方にお任せし、相乗りしなかった。Xでの相互フォロワーさんから「炎上商法だから」と絶妙なワーディングを送っていただいたが、まさにその通りと思った。一方で 素晴らしかった東響とこの演出に「耐えた」歌手陣には大きな拍手とブラボーを送った。

日本ではここまで合わない舞台にお目にかかることは少ないが、ロンドン在住時にはロンドンやドイツの歌劇場でしばしばこうした残念な舞台に遭遇した。矛盾するようだが、こうしたサプライズやがっかりも観劇体験の面白さといえば面白さである。ある意味記憶に残る観劇体験であった。

(いくつか自分のための追記)
・ブ―イングは幕が下りた時と演出者が登場した際に吹き荒れた。特に、幕が下りた時は、怒号と併せて騒然とした雰囲気であった。歌手陣や指揮者・オケに対しては、素直なブラボーと拍手が飛んだ。この聴衆の気持ちは演者に届いたと思う。ただ、幕が上がって最初のコールを受けた歌手さんたちは、幕が下りた際のブーイングの興奮の余韻が聴衆に残っていて、賞賛と入り混じった拍手となり、お気の毒であった。

・個人的な話だが、4階左サイド1列目に陣取ったが、となりのおじさんは上演時間の95%は完睡していた。終幕直前に起き上がり、カーテンコールではスマフォで写真撮りまくって、さっさと帰っていった。不思議な方であった。カーテンコールの写真はOKということを知らず、写真を撮り漏れた自分は残念組。

 

影のない女
〈ワールドプレミエ〉

オペラ全3幕 op.65
日本語および英語字幕付原語(ドイツ語)上演

台本:フーゴ・フォン・ホフマンスタール
作曲:リヒャルト・シュトラウス

公演日時:2024.10.24 (木) 17:00開場 / 18:00開演
会場:東京文化会館 大ホール

指揮:アレホ・ペレス
演出:ペーター・コンヴィチュニー
舞台美術:ヨハネス・ライアカー
照明:グイド・ペツォルト
ドラマトゥルク:ベッティーナ・バルツ
合唱指揮:大島義彰
演出助手:太田麻衣子、森川太郎
舞台監督:幸泉浩司
公演監督:佐々木典子
公演監督補:大野徹也

10.24(木)

Der Kaiser 皇帝:伊藤達人
Die Kaiserin 皇后:冨平安希子
Die Amme乳母:藤井麻美
Der Geisterbote伝令使    :友清 崇 (全日出演)、髙田智士 (全日出演)、宮城島 康 ※(全日出演)
Erscheinung eines Jünglings若い男の声 :高柳 圭
Die Stimme desFalken鷹の声       :宮地江奈
Barak, der Färberバラク :大沼 徹
Sein Weibバラクの妻:板波利加
Des Färbers Brüder バラクの兄弟:児玉和弘、岩田健志、水島正樹 ※

Chorus合唱:二期会合唱団
Orchestra管弦楽:東京交響楽団

DIE FRAU OHNE SCHATTEN
Opera in three acts
Sung in the original language (German) with Japanese and English supertitles

Libretto by Hugo von Hofmannsthal
Music by RICHARD STRAUSS

Thu , 24 Oct ,2024 17:00 Open/18:00 Start

Venue: Tokyo Bunka Kaikan

staff
Conductor: Alejo PÉREZ
Stage Director: Peter KONWITSCHNY
Set & Costume Designer: Johannes LEIACKER
Lighting Designer: Guido PETZOLD
Dramaturg: Bettina BARTZ
Chorus Master: Yoshiaki OSHIMA
Assistant Stage Directors: Maiko OTA, Taro MORIKAWA
Stage Manager: Hiroshi KOIZUMI
Production Director: Noriko SASAKI
Associate Production Director: Tetsuya ONO
Conductor: Alejo PÉREZ
Stage Director: Peter KONWITSCHNY

CAST

Thu,24Oct

Der Kaiser: Tatsundo ITO
Die Kaiserin: Akiko TOMIHIRA
Die Amme: Asami FUJII
Der Geisterbote: takashi TOMOKIYO (all days), Satoshi TAKADA (all days), Ko MIYAGISHIMA (all days)
Erscheinung eines Jünglings: Kei TAKAYANAGI
Die Stimme des Falken: Ena MIYACHI
Barak, der Färber: Toru ONUMA
Sein Weib: Rika ITANAMI
Des Färbers Brüder: Kazuhiro KODAMA, Takeshi IWATA, Masaki MIZUSHIMA,

Chorus: Nikikai Chorus Group
Orchestra: Tokyo Symphony Orchestra


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« せんがわ劇場芸術監督演出公... | トップ | ブロムシュテット祭 最終日... »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。