その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

こういうタイトルはやめてほしい! 木村泰司 『世界のビジネスエリートが身につける教養「西洋美術史」』(ダイヤモンド社、2017)

2017-11-16 08:00:00 | 


まず出版社にお願い。こういう恥ずかしいタイトルは止めて欲しい。内容的に買ってもいいかなと思っても、このタイトルでは内気な私にはとても買えない。

なので、図書館で借りて読んだ。とっても簡単に2500年の西洋美術の歴史がまとめてある。美術史鷲掴みという感じだ。初めから終わりまで、語り口が同じなので、同じトーン・視点で読める。ピカソなどのキュビズムやダリらシュールレアリズムに全く触れらていないのには驚いたが、近代絵画以前は必要最小限のことは網羅されている。政治史、社会史的な動きも踏まえているのも良い。私にはパーツ・パーツは既知の内容が殆どだったけど、全体を通して読むことで、改めて美術史全体を概観できたし、忘れかけていた知識を呼び戻すきっかけにもなった。

 なので、なおさらこのタイトルはもったいないなあ。このタイトルに魅かれて読む人よりも、このタイトルで避ける人の方が多いでしょう。一体、このタイトルに魅かれて読む人って、どれだけいるんだろう。

 あと本書とは直接関係ないが、私の限られたグローバルビジネス経験で言うと、ビジネスベースのパーティで欧米人と絵画の話をして盛り上がった記憶は1度もないし、社員の95%が欧州人だったロンドンの職場でも、絵について話ができた同僚は一人しかいなかった。IT系の会社と言うこともあるのだろうけど、ロンドンでもフランクフルトでもアムステルダムでもシリコンバレーでも・・・、経営者クラスのビジネスパーソンと話して、サッカーで盛り上がったことは数多いけど、絵の話題で盛り上がった経験は一度もない!(オペラは一度だけある)まだ日本の方が当たる確率は多い。よって、「教養」自身は私はとっても大切だと思うけど、それがビジネスの役に立つとか、ビジネスエリートのための必要条件とかいう論者には全く賛同できない。「教養」はほんと自分の楽しみのためだけに身につけるものだと思う。それだけで「教養」は何より十分に楽しい。



【もくじ】
はじめに 美術史とは、世界のエリートの「共通言語」である

第1部 「神」中心の価値観はどのように生まれたのか?
なぜ、古代の彫像は「裸」だったのか?/ローマ帝国の繁栄と帝国らしい美術の発達/キリスト教社会がやってきた/フランス王家の思惑と新たな「神の家」

第2部 絵画に表れるヨーロッパ都市経済の発展
西洋絵画の古典となった3人の巨匠/都市経済の発展がもたらした芸術のイノベーション/自由の都で咲き誇ったもうひとつのルネサンス/カトリックVSプロテスタントが生み出した新たな宗教美術とは?/オランダ独立と市民に広がった日常の絵画

第3部 フランスが美術大国になれた理由
絶対王政とルイ14世/革命前夜のひとときの享楽/皇帝ナポレオンによるイメージ戦略

第4部 近代社会は、どう文化を変えたのか?
「格差」と「現実」を描く決意/産業革命と文化的後進国イギリスの反撃/産業革命の時代に「田舎」の風景が流行った理由/なぜ印象派は、受け入れられなかったのか?/アメリカン・マネーで開かれた「現代アート」の世界
コメント (2)
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