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いとうせいこう氏とみうらじゅん氏の『見仏記』シリーズを読んで、物書きであるいとう氏がどんな小説を書くのかに興味が湧いて、本書を読んでみた。私自身はあまり認識してなかったが、本作は東北大震災を扱った小説としてずいぶん話題になった本であるらしい。
繊細で優しいトーンが全編を通じて流れつつ、震災被害者の追悼のあり方という直球のテーマを投げかける本作品は、ユーモアも持ちながら、まじめであり、かつ哀しい。ラジオというメディアを使って、しかもリスナーの想像の上に成り立つという前提、虚構は、読む者の想像力を掻き立てる。また、当時日本におらず、震災関係者もいなかった私にとっては、本読書が震災被害者の思いを自分なりに受け止める訓練過程でもあった。
全編を通じて様々な音楽を主人公であるDJが紹介し、流れるのは、村上春樹の小説にも似たところがある。知っている曲もあれば、知らないものもあり、一度じっくりとそれぞれの音楽を味わってみたいものだ。
読んでよかったと思わせてくれる一冊だった。