その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

佐藤航陽 『お金2.0 新しい経済のルールと生き方』 幻冬舎、2017年

2019-01-09 07:30:00 | 


 起業家である筆者が自らの学習、経験を通じたお金や人類の未来に対する知見・考察を平易な言葉で共有した一冊。「お金2.0」の2.0とは、「近代に作られた金融の枠組み自体を無視して、全くゼロベースから再構築するという点で、従来の枠組みの中でITを使った効率化を目指すFintech1.0と区別する考え」のこととしている。

 ビットコイン等の仮想通貨に関する批判的な検討はされていないこと、もう少し深堀してほしいなと思う点も無くはないが、考察の射程は広く、筆者自分自身の言葉で語ろうという姿勢が見えて好感が持てた。

 面白いなと思ったのは、今後、従来の「資本主義」から「可視化された「資本」ではなく、お金などの資本に変換される前の「価値」を中心とした世界に変わっていくことが予想され」その流れを「価値主義」と呼び、新しい社会の見方を示していることだ。筆者によると、ここで言う価値とは、「経済的には人間の欲望を満たす実世界での実用性(使用価値・利用価値)を指す場合や、倫理的・精神的な観点から新・善・美・愛など人間社会の存続にプラスになるような概念を指す場合もある」(PP163‐164)。価値主義は近年の「お金や経済の民主化」と「資本にならない価値で回る経済の実現」が混ざり合わさって生まれてきている現象という。定性的な概念なので、まだ自分の理解度にも自信がないが、テクノロジーが生む自律分散型の経済圏が生まれ、新しいパラダイムに向かっているということは、実感としても分かる。

 お金だけでなく筆者の考察はテクノロジーを身体にまで取り込んだ人類の未来まで及ぶ。私自身は、筆者の楽観的な見方には懐疑的なところも多分にあるが、頭の体操としても、適宜読み返してみたい一冊である。(アマゾンには466件のカスタマーレビューという信じられない様な数のレビューがあり、その殆どがジャンク感想だったのは気になる)


【目次】
第1章 お金の正体(3つのベクトルが未来の方向性を決める
急激に変わるお金と経済のあり方 ほか)
第2章 テクノロジーが変えるお金のカタチ(テクノロジーの変化は点ではなく線で捉える
今起きているのはあらゆる仕組みの「分散化」 ほか)
第3章 価値主義とは何か?(限界を露呈し始めた資本主義
資産経済の肥大化と金余り現象 ほか)
第4章 「お金」から解放される生き方(人生の意義を持つことが「価値」になった世代
若者よ、内面的な「価値」に着目せよ ほか)
第5章 加速する人類の進化(お金にならなかったテクノロジーに膨大なお金が流れ込む
電子国家の誕生:エストニア ほか)
コメント
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