井上道義氏(以下、ミッキー)のN響での最終定期演奏会。メインのショスタコーヴィチ交響曲第13番「バビ・ヤール」は最後に相応しい渾身の演奏でした。
「バビヤールの大虐殺」は歴史として知っているものの、ショスタコーヴィチの「バビ・ヤール」については、楽曲のテーマや音楽自体も初めてです。開演前にプログラムノートと歌詞を読んで、まさに現在にも通じるそのテーマの重さ、深さにたじろぎました。
そして、演奏はミッキーの指揮の元、アレクセイ・ティホミーロフの迫力あって深みある低音、オルフェイ・ドレンガル男声合唱団のメリハリある美しいコーラス、そして前のめりのN響メンバーのアンサンブルと個人技による三位一体のスーパーパフォーマンスでした。
プログラム誌「フィルハーモニー」には亀山郁夫先生の訳詞が掲載されていましたが、訳詞の一つ一つの言葉に命が吹き込まれ、目前と脳内の双方で詞の世界・思想が展開されていきます。歌唱・演奏そのものは劇的な効果やメッセージ性を強調したものというよりも、むしろ作曲家の音楽を純粋に再現する姿勢に感じました。それがかえって詞の重みを浮かび上がらせているような気がしました。最終楽章のコンマス郷古さんのソロはこの世界の無常観を表現したような美しさに打たれました。
終演後は、ほぼ満員のNHKホールから歓声と最大限の拍手が寄せられ、ミッキーを初め、出演者たちを讃えます。何度も何度も呼び出されるミッキーは、ダンスを含めて聴衆サービスも惜しみません。引退にはまだまだ早い気もしますが、自分のキャリアのゴールラインを決めて最後まで最高の音楽を聴かせてくれようとする姿勢は素晴らしいですね。私はあと、何回聴けるのだろう。
前半は、バビヤールとは正反対の楽しいワルツ系の小品が2つ。このプログラムでどうしてヨハン・シュトラウスII世?と思ったのですが、プログラムによるとロシア皇帝にまぬかれていたパヴロフスク滞在時に作曲されたことと、その次のショスタコーヴィチの組曲の3曲目の<小さなポルカ>を踏まえた選曲であろうとのこと。なるほど。
第2004回 定期公演 Aプログラム
2024年2月4日(日) 開演 2:00pm [ 開場 1:00pm ]
NHKホール
PROGRAM
ヨハン・シュトラウスII世/ポルカ「クラップフェンの森で」作品336ショスタコーヴィチ/舞台管弦楽のための組曲 第1番 -「行進曲」「リリック・ワルツ」「小さなポルカ」「ワルツ第2番」
ショスタコーヴィチ/交響曲 第13番 変ロ短調 作品113 「バビ・ヤール」
指揮:井上道義
バス:アレクセイ・ティホミーロフ
男声合唱:オルフェイ・ドレンガル男声合唱団
Subscription Concerts 2023-2024Program A
No. 2004 Subscription (Program A)
Sunday, February 4, 2024 2:00pm [ Doors Open 1:00pm ]
NHK Hall
Program
Johann Strauss II / Im Krapfenwald’I, polka française Op. 336 (In Krapfen’s Woods)
Shostakovich / Suite for Variety Orchestra No. 1 —March, Lyrical Waltz, Little Polka, Waltz II
Shostakovich / Symphony No. 13 B-flat Minor Op. 113, Babi Yar*
Conductor: Michiyoshi Inoue
Bass: Alexey Tikhomirov
Male chorus: Orphei Drängar