ゲノム解析で人類の歩みを明らかにする一冊。先に読んだ『交雑する人類』がなかなか難解だったこともあり、同じテーマの本書を手に取った。
諸説は残るものの6万年前以降に「出アフリカ」を果たしたホモ・サピエンスがネアンデルタール人やデニソワ人との交雑を経て、中東からインド、東南アジア、中国に進出し、日本にも到達する。またユーラシア大陸を東に進んだ集団は、約2年前にベーリング陸橋を超えて新大陸に進出。そして、南北アメリカへも進んでいく。DNA分析をもとに、壮大な人類の物語が描かれる。
新書という形式や、翻訳ものでは無くて日本人の学者さんの著述ということもあってか、内容は被る所も多々あるが、『交雑する人類』よりもずっと整理された形で分かりやすい。入門としては本書の方が適しているだろう。
『交雑する人類』では記載が少なかった日本列島集団の起源についても1章を割いて解説されるのも嬉しい。縄文人は旧石器時代にさまざまな地域から入って来た集団によって形成されていて、列島に均一の集団が居住していたわけではないこと。「本土の現代日本人に関しては渡来した人々の影響が非常に大きく、ルーツを考えるのであれば、主に朝鮮半島に起源をもつ集団が渡来することによって、日本列島の在地の集団を飲み込んで成立した、と考えるほうが事実を正確に表している」(p.212)ということだ。
最終章は古代ゲノム研究の意義について筆者の持論が展開される。歴史の教科書では、アフリカでの人類の誕生の後に4大文明が語られ、そこに至るまでの人類の道のりについては記載がないことが指摘しこう述べる。
『こうした教科書的記述に欠けているのは、「世界中に展開したホモ・サピエンスは、遺伝的にはほとんど同一といっていいほどの均一な集団である」という視点や、「すべての文化は同じ起源から生まれたのであり、文明の姿の違いは、環境の違いや歴史的な経緯、そして人びとの選択の結果である」という認識である。』(p.267)
アプローチは全く異なるが、昨年読んだジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』 の主張と強く符合する。
分かりやすい記述の新書ではあるものの情報量はとっても多い。何度も読み返してみたい一冊だった。