かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

一昔前の新人漫画家のような小説を読みました。

2007-01-26 22:55:55 | ドリームハンター麗夢
その小説とは、「悪夢探偵」のことです。作者は塚本晋也、角川文庫の一冊です。昨年の12月1日の記事で、この映画について少し紹介していますが、その映画を撮った監督さんが書いたものだそうです。
 で、実は興味津々、でも不安もかなり、という状態で本をレジに持っていったのですが、不安はそれなりに当たりました。何が不安かというと、これはひょっとして偏見かもしれないのですが、映像作家というのはえてして文章が苦手、なんて事があるのではないか、と思うのです。それで、この本も内容はともかく、その文は読めるレベルかどうか、大変不安に思ったというわけですが、それが的中いたしました。ひどい、というのは少々酷かもしれませんが、それでもこれは、本屋さんに並べていいレベルとはいえないと思います。そう、たとえて言えばできの悪い同人小説。意欲過剰筆力過小を絵に描いたような文章でした。私は基本的に上手な文章が好きなので、さて、果たしてこの本最後まで読めるかどうか、最初の数ページで早くも危惧したものでした。
 それでも結局最後まで読みました。途中放り出すことも無く。
 なぜなら、文体はともかく、お話には実は結構のめりこんでしまったからでした。
 なぜか人の夢に入ることができるようになった無気力な自殺願望男とエリートコースまっしぐらな道を自ら外れて現場に足を踏み込んだ美人の女警部。二人が対峙するのは、人を悪夢で操り、被害者自らが自分の身体を切り刻んで死ぬように仕向けて殺していくという連続殺人鬼。圧倒的なパワーを持つ殺人鬼に対し、夢に入る以外に何の力も無い男と、そんな特殊能力すら持ち合わせていない女警部、ほとんど押されっぱなしの二人にはたして勝ち目はあるのか? 
 この種の本はあんまりネタばれすると面白くなくなりそうなのでこのあたりで抑えておきますが、スピード感あふれる戦い、というより一方的にやられているシーンや、本当に血の臭いが鼻の奥に押し入ってきそうな凄惨な殺戮シーン、など、読んでいるうちに、その文体からするとおよそ信じがたいほどリアルな描写に思えてくるのです。
 これは一体ナンなのだろう? としばらく考えておりましたが、やがて、文体の粗さを補って余りある描写力、テンポの良さ、内容の面白さがある、ということに気づきました。一昔前の漫画家さんは、デビューのころというとそれはひどい絵を描いていましたが、そのうち描き慣れてきて絵が見られるようになってきたものです。それでもデビューできたのは、物語の勢いや熱さ、人を引き込むような展開や絶妙なギャグの間合いなど、面白い物語をつむぎだすのに必要な何かを、その漫画家が持っていたからではないでしょうか。この初小説デビューという監督さんも、言ってみればそんな漫画家さんたちと同じ熱い何かを持っているということナンじゃないか、と思ったのです。
 というわけで、少し楽しみな作家が一人できました。私の好きな作家は、たいてい最初から文章のうまい人ばかりだったのですが、この作家の場合は、これからどんな風に成長していくのか、ということ自体を楽しめそうな気がいたします。果たして書きなれてきたらどんなスゴイストーリーをみせてくれるか、今から楽しみです。

 ところでこの話がわれらが麗夢ちゃんと似ているかというと・・・、「パプリカ」よりは親近感がありますが、やっぱり違うのではないか、というのが私の結論です。そもそも、似ているかどうか、などというのはもうどうでもいいというか、夢に入る、という舞台設定が同じだからといっても、作家が違えば視点も違い、切り口も違い、解釈が違うのですから、盗作でもしたのならともかく、似たような話になるということはないと思うのです。夢の世界は違う切り口が3つや4つ同居したからといって似通ってしまうほど狭くも単純でもない、と、今日私は思いました。後は興味のある方が、ご自分で読んで(あるいは観て)ご判断ください。


コメント (2)
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