かっこうのつれづれ

麗夢同盟橿原支部の日記。日々の雑事や思いを並べる極私的テキスト

08 原日本人の秘宝 その2

2010-10-10 20:43:10 | 麗夢小説『夢の匣』
「何を怒る麗夢。たかが土人形共に虚仮にされたのは貴様も同じだろうが。感謝してもらっても良いくらいだぞ」
 ルシフェルが浮かべる人を小馬鹿にするような傲岸な笑みが、麗夢の怒りに火薬を放り込んだ。
「それとこれとは話が別よ! たとえ彼女らがヒトでなくても、あなたに生命を左右されるいわれはないわ!」
「だったらどうする?」
「こうするのよ!」
 麗夢は両手を突き出し、胸の前でまだ見ぬ刀剣の束を取った。
「はああああああああぁぁああっ!」
 同時に、自身を悩ます目眩を振り切り、裂帛の気合を込めて全身の気を奮い立たせる。たちまち凄まじいまでの夢のエネルギーが炸裂し、真っ白な光が、ミニスカート姿の服を内側から吹き飛ばした。まばゆい光がようやく薄れた頃、青白く輝く一振りの大剣を両手に握る、一人の戦士がその場に姿を現した。赤を基調とした肌もあらわなビキニアーマーに身を包む妖艶な戦乙女。ドリームハンター麗夢が、持てる力の全てを開放したのである。
「ニャーン!」
「わん!ワンワンワン!」
 それに呼応するかのように、アルファ、ベータが飛び降りてきた。麗夢の左右にピタリと着地すると同時に、これまた目を眩ませる燭光を放って、巨大な猫と狼に変身する。
「アルファ! ベータ!」
 力強い味方の参戦に、思わず麗夢の声に喜色が漲る。対するルシフェルは、大して驚きもせずひとりごちた。
「麗夢の使い魔共か。まあ、今更何が出てこようが大した違いはない」
「違いがないかどうか、その身で試してみたら!」
「「グワァヴッ!」」
 麗夢は一声叫ぶと、唸り声を上げるパートナー達と共に、脱兎の如くルシフェルに飛びかかった。一足飛びに間合いを詰めた麗夢の剣が、大上段から一挙に振り下ろされる。と同時に、俊敏な動きで不規則に交差しつつ飛びかかったアルファとベータが、ルシフェルの左右から突っ込んだ。逃げ道を塞ぐ瞬速の包囲攻撃に、さしものルシフェルも咄嗟には反応できないかに榊には見えた。だが……。
 麗夢の剣の切っ先が、キイイィイン! と鋭い金属音を木魂させて地面を断ち割った。アルファの爪とベータの牙も、捉えるべき相手を見失って虚しく空を切り裂く。
「どこを見ている、麗夢」
「えっ!」
 驚いて顔を上げた麗夢は、ありえない光景に一瞬自分の目を疑った。今さっきまでと全く変わらない姿、荒神谷皐月の小さな身体を踏みつけるルシフェルの姿が、10mも離れたところに、そのまま立っていたのである。
「はあっ!」
 麗夢は疑問をかなぐり捨てて、もう一度ルシフェルに突進した。アルファ、ベータもそれに続く。だが、三位一体の攻撃は、再びルシフェルを捉え損ね、そのふてぶてしい姿が、またも10m離れた先で憎たらしい笑みを浮かべて立っているのを見えるばかりであった。
 麗夢は、素早くアルファ、ベータと目を合わせた。二匹が軽く頷いて麗夢の考えに同意する。今度こそ絶対に逃しはしない! 麗夢は三度ルシフェル目がけて突進した。続けてアルファ、ベータが洞窟の壁に飛びつつ麗夢を追い抜き、ルシフェルをも飛び越えてその背後を厄する。絶対に後ろに逃がさないように、と瞬時に前後からの挟撃へ切り替えた麗夢、アルファ、ベータだったが、その刃の切っ先が届く瞬間、ルシフェルの姿がふっと消え、再びそれぞれの獲物が何も無い空を刈り取った。そして、きっと睨んだ10m先に全く変わらないその姿を見出した時、麗夢は不思議な光景に気がついて、あっと驚いた。ルシフェルの直ぐ目の前に倒れる円光の姿が目に入ったのである。
 さっき一回目に斬りかかった時、ルシフェルのすぐ近くに倒れていた円光を飛び越えたことは憶えている。2回目に攻撃した時は、衝撃のためか円光がどこに居るか確かめようともしなかった。そして今回。
 麗夢は唖然としてさっと後ろを振り返り、更に驚きを深くした。力を失い、跪く榊、鬼童の呆けたような唖然とした顔が、ほんの数メートル先に見える。今、ルシフェルめがけおよそ10mづつ3度も跳びかかったというのに……。
「し、縮地の幻術だ……」
「円光さん!」
「……惑わされてはならぬ……麗夢殿……」  
 苦しげに息をつきながら、変わらぬ位置で倒れ伏す円光が、呆然とする麗夢に呼びかけた。縮地? 幻術? しかし、ルシフェルの姿ははっきりと麗夢の視覚に移り、そして何よりも、その禍々しい瘴気が麗夢の超感覚に捉えられている。それはアルファ、ベータにしても同じであろう。その、夢を護る為に授かった超感覚さえ、今のルシフェルの前では通用しない、ということなのか。
「れ、麗夢さん! 特殊なフィールドが、ルシフェルを、覆っています。恐らく、あ、あの箱の力、です。死神を、目標にしては、いけません……」
 今度は鬼童が、這いつくばりながらも、榊の助力を得て自身の装置を動かし、麗夢に注意を促した。そうか、あの箱! そう言えば、初めて荒神谷皐月を追って南麻布学園初等部に誘い込まれた時も、どう頑張っても小学生の皐月に追いつくことが敵わなかった。あの箱が生み出す夢の場の力は、榊や鬼童、円光から力を奪い、麗夢やアルファ、ベータに、無視できぬ不快感と圧迫を与え続けている。だが、どうやらそれだけではないらしい。距離感を狂わせ、物理的な距離をないがしろにし、行けども行けどもけして捕まえることのできない蜃気楼のように、行使するものの姿を夢幻に隠し続けるようだ。鬼童が元気なら、これを夢のフィールド制御による3次元空間への干渉、とでも呼んだかもしれない。麗夢はようやくその実相に気づいたが、ではそれをどう破り、ルシフェルに一太刀浴びせるか、その攻略方法が見つからない。
「どうした? もう終わりか?」
 ルシフェルが、変わらぬ格好で、余裕の笑みをたたえつつ麗夢に言った。
 麗夢は怒りに歯ぎしりしかけて、ふとあることに気づいた。
 そう言えば、何故ルシフェルは、あの強大な力を攻撃に使わないのだろう……。
 麗夢の感覚では、あの力で襲われたら、今の自分で果たして受けきれるかどうか判らない。いや、正直に言えば、あの力を駆使して襲われたら、とても勝ち目がありそうには思えないのだ。先手必勝で先制攻撃を仕掛けはしたが、かなり贔屓目に見て、防戦に徹するならなんとか持ちこたえられるかも? 位の力の差があるように、麗夢には思える。まあどうなるにせよ、かなり苦しい戦いを強いられるのは間違いない。そんな力を発揮する箱をルシフェルが手にして操っている今のルシフェルなら、麗夢やアルファ、ベータ、円光をまとめて屠ることができるはずだし、そうやって邪魔者を一層したところでやりたい事をやった方が、ことはスムーズに進むはずではないか。それなのに、ルシフェルは何故嵩に懸かって攻めて来ようとしないのか?
コメント
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