Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

難民映画祭:テザ(仮題)

2010年10月08日 | 映画
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)主催の第5回UNHCR難民映画祭が開かれている。首都圏版は10月1日から10日まで東京、神奈川、埼玉の各都市で、全国版は15日から30日まで北海道、神奈川、兵庫、福岡の各都市で。私は昨晩、東京のイタリア文化会館で上映された「テザ(仮題)」をみてきた。

 本作は2008年のエチオピア、ドイツ、フランスの共同制作映画。上映時間140分だから大作だ。途中まったくダレないで、あっという間に終わった印象。1946年エチオピア生まれ(現在アメリカ在住)の監督ハイレ・ゲリマHaile Gerimaの力量だ。

 ストーリーは、西ドイツ(当時)で医学を学び、故国エチオピアに戻ってその知識を役立てようと思った青年が、社会主義軍事独裁政権のもとにある故国で挫折を重ね、精神的に不安定になっている「今」を描いたもの。

 青年の軌跡は大きくいって3種類に分かれる――西ドイツで勉学中の理想にもえた時期、エチオピアの首都アディスアベバに戻って現実の不条理にぶつかった時期、そして故郷の村に帰って孤立している「今」――。そのうち基調としては「今」が描かれ、フラッシュバック的に西ドイツでの出来事やアディスアベバでの出来事が挿入されて、しだいに「今」の原因が解明されていく構成だ。

 理想は現実の前では無力なのか、そういう問いが、やるせないまでに――しかし淡々と――胸に迫ってくる。最後に青年は身近なところに生きる意味を見出したかにみえる。未来が開かれるきざしが感じられるエンディング。

 絶望的な現実にもかかわらず、映像が美しい。チラシ↑に使われている湖に浮かぶボートの映像はとくに詩情豊かだ。この湖はタナ湖という湖。帰宅後、世界地図をみてみたら、たしかに載っていた。琵琶湖の4.5倍もある大きな湖だ。

 題名のテザTezaとは「朝露」という意味の現地語(アムハラ語)だ。映画の冒頭で歌われる歌に出てくる言葉。ひょっとすると歌の題名かもしれない。この歌をはじめ随所に民謡風の歌が出てきて効果的だ。

 遠いエチオピアという国でなにが起きて、人々はどう苦しんでいるかを伝える映画。今は、独裁政権は崩壊しているが、状況が改善していると考えるのは早計だろう。

 本作は2008年ヴェネチア国際映画祭の審査員特別賞などを受賞している。日本での上映は昨日が初めて。2011年春にはシアター・イメージフォーラムで一般公開が予定されているとのことだ。
(2010.10.7.イタリア文化会館)
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