Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ラ・カリスト

2010年12月06日 | 音楽
 東京室内歌劇場のオペラ「ラ・カリスト」。作曲は17世紀イタリアの作曲家フランチェスコ・カヴァッリ。

 このオペラはいつかみたいと思っていた。バイエルン州立歌劇場がピーター・ジョナス前監督の時代にモンテヴェルディとヘンデルのオペラを盛んに上演していて、そのなかに「ラ・カリスト」も入っていた。人気の演目だったらしく、再演もされた。ぜひみたいと思っていたが、日程の関係で無理だった。

 今思うと、モンテヴェルディとヘンデルをつなぐ作品として「ラ・カリスト」が入っていたのだろう。1637年にヴェネツィアで商業劇場がオープンし、お金を払えばだれでもオペラをみることができるようになった(それ以前のモンテヴェルディの時代はいわゆる宮廷オペラ)。そのとき活躍したのがカヴァッリだ。「ラ・カリスト」の初演は1651年。時代がくだって、約50年後にはヘンデルの時代が来る。

 私にとっては念願のオペラだが、結果的には志半ばに終わった。まずは演出と字幕を担当した伊藤隆浩さん。碩学の士にこういうことをいうのは気が引けるが、字幕についてはどう考えるか。プログラムノートにご自身で書いておられるが、当時の歌詞には二重の意味があって、たとえば「唇を水に濡らす」という言葉にはエロティックな含意があるそうだ。伊藤さんのとった方法は、含意のほうを字幕に出すこと。その結果、字幕にはそのものズバリの言葉が並び、うっとうしかった。このやりかたは、歌詞の表面だけを追って含意を理解しないことと同じくらい正しくない。字幕はあくまでも歌詞のとおりにして、含意は演出で表現すべきだ。肝心の演出は非力で、最後は単調になった。

 歌手にはムラがあった。よかったのはタイトルロールの末吉朋子さん。ノンヴィヴラートの声がよく通り、発音も明瞭だった。プロフィールによるとモーツァルトがレパートリーの中心のようだが、バロックオペラも期待できる。エンディミオーネ役の彌勒忠史さんもよかった。カウンターテナーの人材が育ってきている。ベテランの野々下由香里さん(ディアーナ役)はいうまでもない。

 指揮は濱田芳通さん、演奏は手兵のアントネッロ。プレトークで長木誠司さん(監修を担当)が「濱田さんには『ジャズっぽくやってよ』とお願いした」という趣旨のことを語っておられた。たしかに第1幕最後の熊の踊りなど、濱田さん自身が客席を向いてコルネットを吹奏し、スゥイング感たっぷり。
 リアライゼーションも濱田芳通さん。原譜は2本のヴァイオリンと通奏低音らしいが、これに木管、金管、打楽器などを加えてカラフルな音色にしていた。
(2010.12.4.渋谷区文化総合センター大和田 さくらホール)
コメント (4)
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