Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

魔笛

2013年04月22日 | 音楽
 新国立劇場の「魔笛」を観た。もう何度か再演されているプロダクションで、わたしも一度観たことがある。今回で2度目。

 指揮のラルフ・ヴァイケルトが、おっとり、もったりした指揮で、いつまでたっても平板なまま。そのうち睡魔が襲ってきた。必死にがんばっているうちに、第一幕フィナーレでようやく流れが出てきた。第二幕は好調。それでも旧式の、古き良き時代のタイプであることに変わりはない。でも、そうだと思ってしまえば、それはそれでいい。

 そういうわけで、興味はもっぱら歌手にいった。なんといってもパミーナの砂川涼子。驚くほど成長したものだ――というのも、実はちょっと想い出があるからだ。2001年2月に宮古島に行ったとき、公民館で音楽会があることを知り、飲み屋に行くのを止めて聴きに出かけた。地元出身の砂川涼子のリサイタル。ちょうど日本音楽コンクールの第一位になり、イタリアに留学する前だった。地元では大騒ぎ。まるで国際的な歌手が誕生したかのような盛り上がりだった。高校時代はブラスバンドをやっていたようで、仲間が大勢来ていた。リサイタル終了後、ロビーで仲間と談笑している姿が目に浮かぶ。

 そのような縁があって、その後も応援していた。この数年はオペラを観る機会がなかったので、久しぶりだった。抜群の安定度がその成長を物語っていたが、ドイツ語のセリフもすばらしかった。ジングシュピールなのでセリフが大量にあるが、ドイツ語は砂川涼子とザラストロの松位浩が群を抜いていた。

 松位浩もすばらしかった。今までもなにか聴いたことがあるかもしれないが、こんなにすばらしいとは認識していなかった。艶のある、日本人離れした声だ。19日の公演は「健康上の理由」で休場したそうだ。この日は無事出ていた。出てくれてよかった。

 歌手のことはこのくらいにして、あとは雑感を。もう何度も観たこのオペラだが、今回ハッとしたのは、モノスタトスのアリアだ。第2幕に出てくる短いアリア。他のどのアリアよりもテンポが速くて軽快だ。全体的に遅いテンポで書かれているこのオペラで、このアリアは異色の存在だ。

 どう見ても人種差別としか思えないモノスタトスの扱いだが(それはシカネーダーのリブレットに帰するが)、そのモノスタトスの唯一のアリアに付けられた音楽が、一番軽快で生気に満ちている――そのことにモーツァルトの優しさが感じられた。差別されているものへの優しいまなざし。
(2013.4.21.新国立劇場)
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