Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

シュトゥットガルト:イェヌーファ

2016年02月01日 | 音楽
 カンブルランがシュトゥットガルト歌劇場の音楽総監督に就任したとき、ぜひそこでのオペラ公演を観てみたいと思った。今まで何度か計画した。でも、なかなか実現しなかった。今回の「イェヌーファ」でやっと実現した。

 さすがに前日の指揮者とは大違いだ。オーケストラに緊張感がある。ヤナーチェクの細かい音型が克明に浮き上がる。繊細な音。ハープの音が時々明瞭に聴こえる。音楽がまったく弛緩しない。テンポの急変も容赦ない。読響を振っているときのカンブルランと同じだ。上半身を大きく動かし、まるで波乗りをしているように音楽を前に前にと引っ張っていく。

 歌手ではコステルニチカを歌う予定だったアンゲラ・デノケが降板し、イリス・フェルミリオンに変わった。フェルミリオンは大好きな歌手だ。もう何年も前のことだが、ドレスデン歌劇場でオトマール・シェックの「ペンテジレーア」を観たときに、震えるほど感動した。魂の裸形を見るような想いだった。あのときはゲルト・アルブレヒトの指揮だった。すでに読響は退任していたが、まだ元気だった。その後急に衰え、あっという間に亡くなった。

 フェルミリオンのコステルニチカは期待どおりだった。コステルニチカの苦悩を真正面から受け止めた歌唱だ。声の硬質な深さはフェルミリオンならではだ。

 いうまでもないが、このオペラの原題は「彼女の養子」だ。彼女とはコステルニチカ、養子とはイェヌーファ。結果的に主人公はイェヌーファになるが、そこには常にコステルニチカの存在がある。コステルニチカの苦悩がこのオペラの中心だ。その苦悩をフェルミリオンは全身で表現していた。

 イェヌーファを歌ったのはレベッカ・フォン・リピンスキ。プロフィールによるとイギリス生まれ。この人を含め、(一人ひとりの名前は挙げないが)ラツァ、シュテヴァ、それぞれの歌手は渾身の歌と演技だった。

 忘れてならないのは、イェヌーファの友人ヤーノを歌った角田裕子だ。この歌劇場の専属歌手で、以前「ペレアスとメリザンド」で舞台を暴れまわるイニョルドを好演していた。今回もやんちゃ坊主の役作りで舞台を活気づけていた。

 演出はカリスト・ビエイト。場所を縫製工場に置き換え、生々しいドラマを展開していた。人間の欲望、焦燥、そういった感情が渦巻くドラマ。それに比べると、我が新国立劇場のオペラ公演が妙に‘お上品’に思われた。
(2016.1.22.シュトゥットガルト歌劇場)
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