Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

シュトゥットガルト:チェネレントラ

2016年02月02日 | 音楽
 序曲が始まる。幕はすでに開いている。舞台の中央には半円形の会議用テーブルが置かれている。円の弧の部分が客席に向いている。そこにスチール製の椅子が並んでいる。椅子の前にはパソコンやペットボトルが置かれている。

 序曲の途中からスーツ姿の男性がぞろぞろ現れる。女性も2名。ただし男性が女装している。金髪でハンドバックを持ち、澄ましている。異様な存在感がある(笑い)。彼ら(彼女ら)が席に着き、会議が始まろうとするところで序曲が終わる。

 テーブルの向こうから舞台がせり出してくる。足の踏み場もないほど散らかった部屋。クロリンダとティスベがソファーに座って退屈そうにしている。チェネレントラ(シンデレラ)は床に座ってテレビに夢中だ。その様子を彼ら(彼女ら)が見ている。王子(会社の跡取り息子?)ドン・ラミーロの結婚相手の品評中だ。

 序曲から第1幕の冒頭までにこれだけのことが起きる。一瞬たりとも停滞しない。しかも可笑しさ満載。その後も同様だ。じつに細かいドラマ作り。アイディアに溢れ、時には意表を突く場面になる。この日は土曜日だったせいか、子どもの観客も多かったが、あっという間にエロティックな場面になり、(わたしなどは)慌てることもあった。

 演出はアンドレア・モーゼスANDREA MOSES。才能がある人だと思う。プログラムにプロフィールが載っていなかったが(再演の場合は演出家のプロフィールは載せないようだ。2013年6月30日初演)、どういう人だろうか。

 チェネレントラを歌ったのはディアナ・ハッラーDIANA HALLER。クロアチア出身の若い歌手だ。当歌劇場の専属歌手。若いパワーとコミカルな演技に目をみはった。以前チューリヒ歌劇場でチェチリア・バルトリの「チェネレントラ」を観たことがあるが、それを想い出した。バルトリのような声とまではいえないが(あのビロードのような声は不世出のものだ)、丸い体形で舞台を動き回る姿がバルトリを彷彿させた。

 歌手ではもう1人、ドン・ラミーロを歌ったボグダン・ミハーイにも注目した。胸声による高音が強く出る若い歌手。ポーランドの出身だ。

 問題があったとすれば指揮者だ。ステファン・バーローというイギリスのヴェテラン指揮者だが、安全運転だったのだろう、テンポが遅めで、ロッシーニの弾けるような躍動感が生まれるには至らなかった。
(2016.1.23.シュトゥットガッルト歌劇場)
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