Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カンブルラン/読響

2016年06月25日 | 音楽
 今回の定期はカンブルランの多彩な持ち味を堪能できるプログラムが組まれた。まず1曲目はベルリオーズの序曲「宗教裁判官」。こんな曲があるとは、わたしは知らなかったが、ベルリオーズの若き日の作品だ。奔放な音楽はすでに表れているが、一方、ロマン派オペラの要素も共存している。途中でティンパニとバスドラムが、何者かがノシノシと歩いてくるようなリズムを打ち始める。未完のオペラの一場面を想定していた残滓だろうか。

 演奏は非の打ちどころがない。ベルリオーズはカンブルラン得意のレパートリーの一つだと、あらためて思った。ベルリオーズとか、メシアンとか、そういった音楽は本当にうまい。

 2曲目はデュティユーのチェロ協奏曲「遥かなる遠い世界」。チェロ独奏はジャン=ギアン・ケラス。人気抜群のチェリストなので、この人を目当てに来た人も多かったろう。本作の初演者ロストロポーヴィチのように太い音でグイグイ弾くのではなく、繊細な音でオーケストラのテクスチュアの一部となって弾く。

 この曲はこういう演奏が正解かもしれないと思った。プログラムにはチェロ協奏曲と表記されていたが、スコアには「遥かなる遠い世界」Tout un monde lointain…と書いてあるだけで、チェロ協奏曲という表記はないそうだ。もちろん一般的にはチェロ協奏曲として通っている。でも、デュティユーが考えていたのは、ロストロポーヴィチのような演奏ではなく、今回のような演奏かもしれないと思った。

 いずれにしてもケラスとカンブルランの叡智と洞察力と、お互いに対する信頼感がなければできない演奏だった。

 余談ながら、「遥かなる遠い世界」とはボードレールの「悪の華」所収の詩「髪」の中の詩句だが、その詩は恋人ジャンヌ・デュヴァルを謳った官能的な詩だ。ところがデュティユーにかかると、官能的というよりは、神秘的な、どこか夢の世界のような音楽になる。第4楽章(この曲は全5楽章からなる)には直截的に官能を表した詩句が引用されているが、その第4楽章でさえ、神秘的で、緊張した音楽なのが面白い。

 3曲目はブルックナーの交響曲第3番(第3稿)。弦を主体にして木管やホルンが彩りを添えるテクスチュアは、誤解を恐れずにいえば、ラヴェルのようだ。金管の咆哮はもちろんその範疇には入らないが‥。わたしは感心した。一瞬たりとも気が逸れることはなかった。
(2016.6.24.サントリーホール)
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする