Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

B→C 嘉目真木子ソプラノ・リサイタル

2021年11月10日 | 音楽
 東京オペラシティのB→Cシリーズで嘉目真木子(よしめ・まきこ)のソプラノ・リサイタル。プログラムはドイツ歌曲のアラカルトだが、シューベルトやシューマンが入っていない点に、たんなるアラカルトではなく、一本筋の通ったものを感じる。

 まずバッハのカンタータからアリアを2曲。カンタータ第64番から「この世にあるものは」とカンタータ第149番から「神の御使いは離れない」。清澄な声と自然な歌いまわしが心地よい。次にベートーヴェンの「希望に寄せて」作品94。バッハの2曲よりさらに自然な歌いまわしで、肩の力を抜いて、曲の襞にふれようとする歌い方だ。陰影は濃やかだが、それは曲に寄り添った結果生まれる陰影だ。

 次に哲学者で音楽思想家でもあったアドルノ(1903‐69)の「ブレヒトによる2つのプロパガンダ」(1943)。初めて聴く曲で、どんな曲かと楽しみにしていた。性格の異なる2曲が並んでいる。2曲目は行進曲風だ。石川亮子氏のプログラム・ノーツによると、2曲目はブレヒトの詩、ハンス・アイスラーの作曲によるプロテスト・ソングの「パロディ」ではないかと推察されているそうだ。作曲当時の背景が想起される。

 次にリーム(1952‐)の「メーリケの詩による2つの小さな歌曲」(2009)と「3つのヘルダーリンの詩」(2004)。前者は比較的簡素な曲だが、後者は聴き応えがありそうだ。そのわりには嘉目真木子の歌唱はおとなしかった。リームの歌曲は「張り詰めた響きとともに、強い表出力を持って」いるが(リームの音楽全般についての石川亮子氏のプログラム・ノーツより)、その張り詰め方と表出力が薄味だった。

 休憩後はまずワーグナーの「ヴェーゼンドンク歌曲集」から。プログラム前半でも感じたことだが、嘉目真木子のドイツ語が自然で、それが大きな美点だ。一方、歌い方は穏やかで、耳に心地よいのだが、物足りなくもある。高田恵子のピアノ伴奏は雄弁だ。ワーグナーが書いたピアノ・パートが雄弁だからでもあるだろうが。

 ヒンデミットの「陽が沈む」とアレクサンダー・リッターの「おやすみ」は、ワーグナーの後で聴くとシンプルで、こういう曲のほうが安心して聴けた。

 最後はライマン(1936‐)の「私を破滅に導いた眼差し」(2014)。まるで現代オペラの一場面のような曲だ。嘉目真木子は渾身の歌唱だった。曲への接し方がそれまでとは一線を画し、見違えるような没入ぶりだった。嘉目真木子の本領はどこにあるのか、即断は禁物だ。アンコールにリヒャルト・シュトラウスの「明日」が歌われた。
(2021.11.9.東京オペラシティ)
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