Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

インキネン/日本フィル

2021年11月19日 | 音楽
 インキネンが来日した。わたしがインキネンを聴くのは2019年10月の日本フィルの東京定期以来だ。およそ2年ぶりの来日。その2年間にはいろいろなことがあった。インキネンは2020年のバイロイト音楽祭で「リング」の新演出を指揮する予定だったが、新型コロナの感染拡大のため、2022年に延期された。日本フィルとの関係では、首席指揮者の任期満了にあたり、ベートーヴェンの交響曲チクルスを開始したが、道半ばで中断を余儀なくされた。その後、首席指揮者の契約が2年延長され、チクルスの完遂を目指している。

 そんな多事多難な2年間のブランクをへた横浜定期。どんなに感動的なシーンが繰り広げられるかと、期待しないでもなかったが、そこはインキネン(といっていいかどうかわからないが)、平常心を失わない再会だった。内面では熱いものを持ちながら、表面上はクールなインキネンだからか。それとも音楽界が(コロナは収まってはいないが)日常を取り戻しつつあるからか。

 1曲目はブラームスの「悲劇的序曲」。インキネンがこの2年間でどう変わっているか。それが興味の的だ。まず気が付いたことは、上半身の動きが大きくなったことだ。その動きでオーケストラに熱いものを注ぎこむ。以前のインキネンなら曲の半ばから熱くなる傾向があったが、いまのインキネンは曲の頭から熱くなる。クリアーな音像と端正な造形は変わらない。内部の熱量が上がっている。

 2曲目はヴィエニャフスキの「歌劇《ファウスト》の主題による華麗なる幻想曲」。ヴァイオリン独奏とオーケストラのための曲だ。ヴァイオリン独奏は日本フィルのソロ・コンサートマスターの扇谷泰朋。ヴィエニャフスキの曲は、ヴァイオリン協奏曲第2番がよく演奏されるが、この曲は珍しい。扇谷泰朋はベルギー王立音楽院に留学した。ヴィエニャフスキは同音楽院で教鞭をとった歴史があるので、その縁での選曲かもしれない。

 扇谷泰朋のヴァイオリンは艶のある音でよく鳴った。一方、インキネンも、場面ごとの描き方がうまかった。オペラ指揮者の才能の一端にふれた思いがする。もっとも、この曲は途中まではおもしろいのだが、最後の盛り上がりに欠けるのではないか。

 3曲目はブラームスの交響曲第1番。「悲劇的序曲」で感じたインキネンのこの2年間での変化(それはむしろ成長といったほうがいい)を確認する思いだ。弦楽器を中心とした分厚い音は、過去のインキネンにはなかったものだ。また集中力がまったく途切れないことも驚嘆すべきレベルだ。インキネンはいま確実に大物指揮者への階段を上りつつある。アンコールに弦楽合奏でバッハの「G線上のアリア」が演奏された。ゆったり波打つような起伏にとむ演奏だった。
(2021.11.18.神奈川県民ホール)
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