Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

カサド/N響

2024年02月15日 | 音楽
 パブロ・エラス・カサド指揮N響の定期Bプロ。スペイン・プログラムだ。1曲目はラヴェルの「スペイン狂詩曲」。冒頭のヴィオラを主体にした弦楽器の音が美しい。音の層が透けて見えるようだ。

 2曲目はプロコフィエフのヴァイオリン協奏曲第2番。ヴァイオリン独奏はアウグスティン・ハーデリヒ。1984年生まれ。両親はドイツ人だがイタリアで生まれたと、プロフィールにある。わたしは初めて聴くヴァイオリニストだ。並みの才能ではないようだ。一時のスター演奏家のような人一倍大きく張りのある音で弾くタイプではない。繊細な音が目まぐるしく動く。自由闊達に音楽の中で動きまわる。天性の音楽性を備えているようだ。

 カサド指揮のN響もそのヴァイオリンによく付けていた。抑制され、しかも俊敏な音だ。ヴァイオリン独奏のスタイルと齟齬がない。プロコフィエフの一般的なイメージ(ハッタリを利かせた奇抜な音楽と言ったらいいか)とは異なる演奏だ。とても面白かった。この曲はこういう曲なのかもしれない。

 ハーデリヒのアンコールがあった。だれの何という曲かは見当がつかなかったが、ラテン的なテイストの、甘く楽しい曲だ。驚異的なのは、1本のヴァイオリンで旋律と伴奏を弾き分けることだ。パガニーニの曲かなと思った。カルロス・ガルデル作曲の「ポル・ウナ・カベーサ(音の差で)」という曲のハーデリヒ自身の編曲だそうだ。

 3曲目はファリャの「三角帽子」(全曲)。1曲目のラヴェルも2曲目のプロコフィエフもスペイン風味を利かせた曲だが、「三角帽子」は本物のスペインだ。なにがちがうかというと、音に影の部分があることだろう。俗にいう光と影だが、影の部分が濃ければ濃いほど、光の部分が輝く。それはその通りだと思った。

 それをスコアに書いたファリャは天才だ。簡潔な音楽とオーケストレーションでスペインのなんたるかを表現する。またそのスコアを的確に音にしたカサドの指揮も賞賛すべきだ。わたしはこの曲をアンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団のLPで刷り込まれた。リズムもピッチも完璧な演奏だったと思う。そのLPを愛聴したがゆえに、逆に実演ではあまり感動したことがない。だが今回のカサド指揮N響の演奏は、アンセルメのLPにはない音の荒々しさがあった。弦楽器の激しく叩きつけるようなアタック、オーボエの太くて粗野な音、ファゴットのおどけた表現、ピッコロの鋭い音、等々。

 ソプラノ独唱は吉田珠代。ただ独唱は通常メゾソプラノではなかったろうか。P席後方で歌われた冒頭(中間部ではオフステージ)では声質がイメージよりも高く感じた。
(2024.2.14.サントリーホール)
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