Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ジェームズ・ロッホランの想い出

2024年07月03日 | 音楽
 イギリス・スコットランド出身の名指揮者、ジェームズ・ロッホラン(1931‐2024)が亡くなったと日本フィルが発表した。享年92歳。日本フィルの名誉指揮者で、数々の名演奏を残した。ご冥福を祈る。

 日本フィルのHPを見ると、ロッホランが初めて日本フィルを振ったのは1980年だ。それ以来2006年までの26年間、日本フィルを振った。わたしは1974年に日本フィルの定期会員になったので、ロッホランが振った定期演奏会はほとんど聴いた。

 一番鮮明に覚えているのは、1993年3月の定期演奏会で指揮したリヒャルト・シュトラウスの「英雄の生涯」だ。オーケストラが整然と整えられ、すべての音が同じ方向をむいた演奏だった。当時新任のコンサートマスターだった木野さん(現ソロ・コンサートマスター)が見事なヴァイオリン・ソロを聴かせた。ホルン首席の平塚さんの朗々と鳴る演奏も忘れられない(平塚さんはその後、急逝した)。

 ロッホランはバルビローリの後任としてイギリスのハレ管弦楽団の首席指揮者を務めた(1971‐1981)。またケルテスの後任としてドイツのバンベルク交響楽団の首席指揮者を務めた(1979‐1983)。当時はLPも多く出ていた。今回CDに復刻されているロッホランの録音をいくつか聴いてみた。とくに感銘を受けたのは、1996~2003年に首席指揮者を務めたデンマークのオーフス交響楽団(オーフスはコペンハーゲンに次ぐデンマーク第二の都市だ)を振ったブルックナーの交響曲第7番だ(上掲CD↑)。

 第1楽章の深々とした表現。ブルックナーの真髄がこの世の時間の流れとは異なる悠久の時間感覚にあるとするなら、その時間感覚がここにある。第2楽章の(とくに冒頭主題の)悲哀に満ちた表現にはハッとさせるものがある。第3楽章と第4楽章は一転して快適なテンポで進み、オーケストラがよく鳴る。このCDは2005年4月28日のオーフス大聖堂でのライブ録音だ。通常のコンサートホールではないので、何か特別な機会だったのかもしれない。

 前述したように、わたしは丸50年、日本フィルの定期会員なので、多くの指揮者に出会った。若き日のビエロフラーヴェクやインバルは印象的だった。並外れた個性の強さがあった。一方、ロッホランやルカーチは名匠というにふさわしい指揮者だった。4人それぞれ指揮者としての力量は甲乙つけがたいだろう。ちがうのは、上昇志向かもしれない。ビエロフラーヴェクやインバルは上昇志向が強かった。かれらはビッグネームになった。一方、ロッホランやルカーチにも上昇志向はあったろうが、それがぎらぎらすることはなかった。そのちがいは音楽にも反映した。ロッホランやルカーチが振ると、音楽が楽々と呼吸し、無理なく造形された。
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