平成エンタメ研究所

最近は政治ブログのようになって来ました。世を憂う日々。悪くなっていく社会にひと言。

クヒオ大佐 偽りのベールが剥がされた時

2010年09月28日 | 邦画
 実在の結婚詐欺師・ジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐(堺雅人)。
 彼は米特殊部隊ジェットパイロットと偽り、次々と女性をおとしていく。
 作品を見る観客の立場で見ると、何でこんなウソで女性がだまされるか?と思うんですけどね。
 たとえば小さな弁当屋を営むしのぶ(松雪泰子)。
 彼女は「自分は<秘密任務>を行っている」とか「複雑な世界情勢を知るためにコミック『沈黙の艦隊』を読め」とかいうクヒオの言葉を素直に信じる。
 〝秘密任務〟〝沈黙の艦隊〟という言葉で怪しいと気がつきそうなものだ。
 その他、「高速のジェット機に乗っているから地上ではスピードと関わりたくない」という理由で泰子に運転させたり、アメリカの空軍大佐なのに饅頭代を払わせたりする。
 まさに恋愛は人を盲目にする。
 もっと突っ込めば、他者を求めずにはいられない孤独な心ゆえダマされる。
 
 クヒオは孤独な心に入り込んで夢を見させる稀代の詐欺師だ。
 しかし、意外にシビアな現実にはもろい。
 しのぶのチンピラふうの弟にはたちまち詐欺師であることを見破られ、逆に脅迫されて金を求められる。
 銀座の海千山千のホステス・未知子(中村優子)にも「お店を出す資金をちょうだい」とせがまれる。
 クヒオよりも彼らの方が一枚も二枚も上なのだ。

 そんなクヒオ大佐とは何者なのか?
 彼は子供の頃、父親から虐待を受けていた。
 幸せな家庭に育てられなかった。
 彼は無惨な<現実>から<夢の世界><自分が創り出した偽りの世界>、へ逃げ込んだのだ。
 つまり彼は<自分の母はエリザベス女王の妹、父はカメハメハ大王の末裔>というクヒオ大佐でいられる時、イキイキと生きられる。
 そのベールが剥がされる時、彼は無力な子供の時の自分に戻ってしまう。

 後半で自分の正体がバレて、しのぶに問いつめられるシーンは圧巻だ。
 「本当のあなたのことを話して」と頼むしのぶにクヒオは自分の生い立ちを語り始める。
 しかし、その内容は<自分が創り出したクヒオ>という人物の生い立ち。決して本名の<タケウチタケオ>の生い立ちではない。
 この後に及んでも自分の本当の姿を現さないクヒオ。
 クヒオはしのぶに「いっしょに死のう。死ねばこの愛が本物になるから」と心中を迫られ、了承して自分のバッグから拳銃を取り出すが、その拳銃もモデルガン。
 またも偽り。
 彼はどんな時でも正面から他人と向き合わないのだ。
 <タケウチタケオ>という人間として他人と交われない。

 <クヒオ>という人物は実に現代を象徴している。
 人はある程度の仮面をかぶらなければ社会生活など送れないものだが、クヒオの場合は完全な仮面をかぶって、絶対に脱ごうとしない。
 そんなクヒオを愛し続けるしのぶもすごく孤独で、哀しく滑稽で、ある意味いびつだ。

 脚色はあるだろうが、これは実在の人物の話。
 すごい時代になったものだと思いつつ、自分の中にもクヒオやしのぶの要素があることを否定できない。


コメント (2)
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