3・11を忘れるな! 被災地と原発の現実
復活した電力会社の原発広告に文化人や芸能人がまたぞろ登場して原発をPR!
500万円の高額ギャラも 梶田 陽介
2016.03.11 Litera
http://lite-ra.com/2016/03/post-2054.html
本間龍『原発広告と地方紙――原発立地県の報道姿勢』(亜紀書房)
3.11から5年──。安倍政権による原発再稼働政策と連動するように、電力関連会
社による“原発広告”が完全に大復活している。
たとえば最近、読売新聞16年2月28日付朝刊に、「資源なき経済大国 どうす
る? どうなる? 日本のエネルギー」なるタイトルの全面記事広告 がうたれた。
表向きは、経済評論家の勝間和代、元総務大臣で現野村総研顧問の増田寛也、最
近は“ママタレ”として活躍する元グラドル・優木まおみが、橋本五 郎・読売新
聞特別編集委員をコーディネーターにして「これからのエネルギー」について語
るという体裁になっているが、実際は完全に、電力業界の司 令塔・電力事業連
合会(電事連)の広告である。内容は、こんな感じだ。
〈勝間 原発が停止して電源構成の約9割を火力発電に頼る日本は、3つの課題を
抱えています。1つ目は「エネルギー自給率の低下」。(略)2つ目 は「電源コ
ストの上昇」。(略)3つ目は「CO2排出量の増加」です。(略)
優木 なぜ原発が停止すると電気料金が上がるのでしょう?
勝間 原子力はベースロード電源と呼ばれ、電力供給の安定性と経済性の両面に
優れた電源として活用されてきたからです。(略)
増田 国の家計を示す貿易収支は、震災以降赤字が続いています。最大の要因
が、原発停止に伴う化石燃料の輸入の増加なのです。(略)〉
おわかりのとおり、当然懸念されるべき事故のリスクや汚染の問題などは一切触
れられないまま、原発停止による家計や経済への影響を強調し、“原発 は必要で
ある”とリードするやりとりになっている。
この種の原発広告は、震災後は一時姿を消していたものの、それがここ1、2年く
らいで頻繁に見られるようになっている。電事連や後述する原子力発 電環境整
備機構(NUMO)による広告は、新聞では読売、産経、日経、そして地方紙などに
多いときで月に2回ほど掲載され、週刊誌・雑誌などでも 「週刊新潮」(新潮
社)、「婦人公論」(中央公論新社)などにどんどん出稿しているのだ。
これらの原発広告に共通するのは、冒頭にあげた読売の電事連広告のように、名
前の知れた評論家や学者、タレントを写真入りで大々的に起用している ことだ
ろう。
周知のように、3.11以前の電事連や電力会社の広告には、ビートたけしや浅草
キッド、脳科学者の茂木健一郎など、多数の著名人が出演していた。 しかし、
福島原発事故を機に原発広告を掲載したメディアや広告に出演した “原発文化
人”たちも“共犯者”として世間から非難が殺到。人気商売の彼らは出演を取りや
めるようになった。
たとえば、前出の勝間和代は、3.11前から中部電力の原発CMなどに出演。震災直
後の『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日)では、「放射性物質が 実際より怖い
と思われていることが問題」「死者が出ましたか?」などの暴言を吐いたが、そ
んなバリバリの“原発文化人”である彼女すら、ここしば らくの間はおとなしく
していた。
それは、『行列のできる法律相談所』(日本テレビ)出演で知られる、北村晴男
弁護士や住田裕子弁護士も同様だ。北村弁護士は震災前、やはり中部電 力の原
発CMに出演。まともに機能する目処がまったくつかない核燃料サイクルを賞賛す
るなどしていた。住田弁護士に関しては、広告出演だけでなく 原子力安全委員
会の専門委員まで務めていた。
しかし、繰り返すが、こうした原子力ムラの“知識人”たちが、ここ最近、各媒体
で見事に復活を遂げているのだ。北村弁護士は昨年、電事連による元 プロテニ
スプレーヤーの杉山愛との対談風広告に出演(読売新聞15年3月7日付)。冒頭、
“日本人が世界を舞台に戦って行くためにはどのような考 え方が必要か?”とい
うかたちで杉山の現役時代の話からスタートするのだが、途中から急に北村弁護
士が、またぞろ“火力発電は高価である”と主張 し、「トータルバランスです
ね。その考え方はスポーツに限らず、日本のエネルギー政策でも同じ」などと言
い出す。そして最終的に「エネルギーミッ クスについても、あらゆるタブーを
取り払って議論してほしい」などとして、原発運用を推進する内容だ。
電力業界がメディアを広告漬けにして“原発タブー”をつくりあげてきたことを考
えると、「タブーなき議論を」というのはまるでタチの悪い冗談だ が、住田弁
護士もやはり昨年3月に読売新聞の電事連広告に出演。これは橋本五郎・読売新
聞特別編集委員との対談広告だが、そこで住田弁護士は 「“白馬の王子様”はい
ない──だからこそ、一つのエネルギーに依存しすぎないリスク分散が重要」など
と、謎の“原発推進ポエム”を開陳してい る。どうやら電事連は“価格負担増”と
“安っぽいポエム”という二段仕込みで原発プロパガンダを展開しようというつも
りらしい。
また、勝間和代に関して言えば、前述の読売新聞広告の他にも、「週刊新潮」の
電事連パブ記事シリーズ「新潮人物文庫 これからのエネルギー、私の 視座」
にも登場している(15年11月19日号)。そこで勝間は、電事連のエスコートで岐
阜県の「東濃地科学センター」を視察、高レベル放射性廃 棄物の処理問題につ
いて「目を背けることはできない」と力説する。だが、過去に本サイトの記事で
も書いたように、“核のゴミ”をめぐる啓蒙活動は 原発再稼働と完全にセット
だ。実際、細川護煕と小泉純一郎の元首相コンビが立候補した14年都知事選の
際、この問題を脱原発のひとつの理由に掲げ たのを見た経産省は、あわてて“核
のゴミ”対策にのりだした。そのとき、毎日新聞が経産省幹部のこんなコメント
を報じている。「反原発への動きを 抑えて都知事選をやり過ごすには、処分場
選定を急ぐ姿勢を見せることが大切。実現可能性? あるわけない」。
なお、この「新潮人物文庫」シリーズは、数年前からカラー見開きで展開され始
め、毎回、タレントや文化人がひとりずつ登場し、私事と絡めながらエ ネル
ギーについて語っている。2014年にデーモン小暮が出演した際、「悪魔だって興
味津々。日本のエネルギーについて学び、考えよう」という、 どうかしている
としか思えないキャッチコピーで話題になったこともあってご存知の読者も多い
だろうが、このシリーズはまさに3.11以降の新たな “原発文化人”の見本市だ。
たとえば、15年1月から16年3月現在まで調べたところ、第13回(15年2月5日号)
にはネトウヨ発言で知られる元力士・舞の海秀平が登場。 青森県六ヶ所村・日
本原燃施設の視察感想記として「日本がここで確立した科学技術が、今後、原子
力でエネルギーを賄おうと考えている国々のお手本 になってゆく。そう考える
と好悪や思想ということではなく、もっと崇高な理念や想像力を持って事にあた
らなければならないと思います」などと、ま るでカルト宗教の信者かなにかの
ようなことを言う。ちなみに、舞の海はこれ以前も同企画広告に出演していた。
また、第14回(15年3月5日号)では、ドイツ在住の作家で『住んでみたヨーロッ
パ 9勝1敗で日本の勝ち』(講談社+α新書)なる“日本スゴイ本”の著者、川口
マーン惠美がお目見え。ドイツ人は「ロマン主義的思考」としたうえで、「その
ロマンが、やみくもな脱原発に走らせたのではないか」などとトンデモ理論を唱
えながら脱原発政策を批判している。
続く第15回(15年4月23日)には、嫌韓本も多数出版の経済評論家・三橋貴明
が、エネルギーの「ベストミックス」を猛プッシュ。「国家のエネ ルギー安全
保障」として「もし、中東や東南アジアと日本にまたがる長いシーレーンのどこ
かで有事が発生するようなことになれば、日本の電力供給が たちまち危機的状
況に陥る」など、安保法制の議論で安倍政権が喧伝していたことと重なるのが興
味深い。
そして、第16回(15年7月30日号)のラジオDJなどで活躍するモーリー・ロバー
トソン、第17回に前出の勝間ときて、16年に入ると、第 18回(16年3月3日号)
で評論家の佐藤優が登場する。佐藤は、専門である外交分野、とりわけ中東情勢
を語りつつ、“天然ガスの大半を中東に依 存している日本でエネルギー問題は深
刻”“エネルギーミックスは我が国のとるべき唯一の戦略”などと強引に原発推進
へ話を持っていく。さらに、青 森県六ヶ所村の核燃料サイクルを視察して「強
く感じたのは働く人たちの道徳心と士気の高さです」なる“根性論”を理由に
“六ヶ所村施設の存在その ものが、日本が国際社会から信頼を得ている証明”な
どと語っている。ちなみに、佐藤に関しては、つい先日も青森県の地方紙・東奥
日報3月2日付の 電事連全面広告に出演しており、やはり“核燃料サイクルは日本
に不可欠”と力説している。
新手の“原発文化人”はまだまだいる。15年12月12日付の産経新聞および日経新聞
掲載の電事連広告には、元経産官僚の岸博幸・慶応大学大学院 教授とタレント
の春香クリスティーンが登場。春香の質問に岸が答えるかたちで、やはり「停止
した原子力発電所の代わりに古い火力発電所が頑張って いますが、原子力に比
べて多くのCO2を排出します。一方、太陽光を始めとする再生エネルギーでは、
今のところ電力の安定供給ができません」など と原発を推進。もちろん事故や
汚染リスクなどについては完全にシカトだ。
ちなみに岸は、原発事故直後には「脱原発依存」の旗手だった。保守系オピニオ
ン誌でも〈民間も国も、日本の組織は原子力という危険な技術を管理す る能力
がなかったことが証明された〉(「WiLL」11年8月号/ワック)、〈エネルギー
は、投資を増やすほど技術進歩が早くなります。その意味 では政府が再生可能
エネルギーに対し、予算を集中投下することが重要〉〈太陽光パネルに関して
も、送電所がたくさん増えればある程度、生産コスト は下がると思いますよ〉
(「Voice」11年9月号/PHP研究所)などと、原発に否定的かつ再生エネルギー
を肯定的に語っていたのだ。どうや らPR広告への出演で意見を原発推進に180度
変えた、そういうことらしい。
また、この電事連広告での対談相手(と、言っても岸の説明に首肯するだけだ
が)である春香クリスティーンは、本サイトでも既報の通り、産経系メ ディア
が昨年大々的に展開したNUMOのパブ記事にも登場。これは「高レベル放射性廃棄
物の最終処分」なるシリーズで、春香の他、増田寛也、科学 作家の竹内薫、哲
学者の萱野稔人、社会学者の開沼博、そして「iRONNA(いろんな)」の特別編集
長として活躍中の現役女子大生・山本みずきな どなど、タレントや学者らによ
る座談会やインタビューで“核のゴミ”問題を語らせている。
このとき、NUMOは公式サイトでご丁寧にも媒体別にパブのターゲットを「ビジネ
スマン層」や「オピニオンリーダー層」などと明記していたが、他 にも産経メ
ディアでは、主婦や家族向け地域タブロイド版「リビング」に、“カリスマ予備
校講師”の細野真宏を起用した電事連の全面広告が掲載され るなどしている
(「リビング多摩」15年3月28日付で確認)。原発広告に起用するタレントや学
者を媒体や読者層に合わせて変え、とりわけ春香や 開沼など、リベラルな読者
も持っている人物を起用しているのが興味深い。
なお、開沼および竹内は16年にも「婦人公論」の電事連広告で“共演”してい
る。これは「竹内薫の暮らしにもっとサイエンス エネルギーを考え る」なる
タイトルの不定期連載シリーズで、主に富裕層の主婦をターゲットにしていると
見られるが、その内容は、竹内がひとりのゲストを迎えて対談 するというも
の。毎回、フルカラー4ページという信じられない誌面の割り方で、15年は杉山
愛、女流棋士の矢内理絵子を相手に“原発推進トーク” に花を咲かした。これ
も、冒頭から途中まではゲスト中心の話題なのだが、中盤に突如、竹内がエネル
ギーの話に無理やりすり替えていく。たとえば矢 内棋士がゲストの回ではこん
なふうだ。
「勝つためには全部の駒の異なる性質を使い分け、総力を発揮しなくてはないら
ない。それは、日本のエネルギー事情にも似ています」
「将棋にたとえれば、ひとつの駒に頼っている状態です」
「特定のエネルギー源に依存するのではなく、これらの駒を上手に組み合わせて
バランスよく対応する必要がある。これを『電源のベストミックス』と 呼んで
います」(「婦人公論」15年4月14日号より、竹内の発言)
プロの棋士をなめているとしか思えない酷いたとえ話だが、そこはパブ対談、矢
内棋士も「将棋では、この一手を指したら局面がどう変わるのかを考 え、ずっ
と先を読んで勝負しますが、エネルギーに関しても、大局を見据えた長期的な視
点が大切だと思います」などと相槌を打つ始末だ。アホみたい な話だが、いず
れにせよ、「なんとなく読んでいたらいつのまにか原発推進に向かっていまし
た」というような手法。ほとんど詐欺であることに変わり はない。
ではなぜ、メディアはこんな読者を欺くような広告を掲載し、タレントや知識人
はすすんで出演しようとするのか。いうまでもなく、最大の理由はカネ だ。元
博報堂社員で電力業界の広告戦略に詳しい本間龍氏は、著書『原発広告と地方
紙』(グリーンピース・ジャパン)で、前述した「新潮人物文庫」 のデーモン
小暮のケースについて〈デーモン氏の知名度からすると(ギャラが)五〇〇万円
以上であることは確実〉で、〈ちなみにこの広告でいえば、 新潮への掲載料は
カラー見開きで約三五〇万円であり、そこに広告原稿の制作費、タレントの出演
料が加わって、合計の制作費・掲載料はゆうに一〇〇 〇万を超えている〉と見
積もる。なお、読売新聞全国版の全面広告は、一回で4000万から5000万の費用が
かかると言われている。いずれにして も、部数減少が下げ止まらない雑誌・新
聞業界からしてみれば、大金が動く原発広告は目がくらむようなものであること
は間違いない。
また、見てきたとおり、原発広告に起用されているのは、学者や評論家の他、春
香や優木まおみなど、テレビコメンテーターとして活躍し、知的なイ メージを
売りにするタレントだ。彼らは表向き「冷静な議論が必要」「エネルギー問題を
身近に考えよう」などと中立を振舞うが、実際には電事連や NUMOがスポンサー
であるから発言はコピーライターがリライトしており(あるいは名義だけ貸して
全てゴーストが書いていると推測される)、最終 的に意見は原発推進へ収束す
る。そうすることで、対談や鼎談という形式でオルグされた“新顔”たちもまた、
気がつけば“原子力ムラ”という利権共 同体に取り込まれていくわけだ。
そして、彼らのような“原発文化人”は、原発広告の増加とともに、今後も間違い
なく増殖の一途をたどるだろう。日経広告研究所が毎年発行している 『有力企
業の広告宣伝費』の13年度版と14年度版を見比べると、例えば東京電力の宣伝広
告費は16億9800万円から30億1000万円へと倍 増、非公開の電事連やNUMOなど関
連団体の広告予算もかなりの水準で上昇していると言われている。
もうひとつ、3.11以降に復活した原発広告に特徴的なのは、出稿主がメディアを
明らかに選別、差別化をはかっていること。そして、社員である編 集委員や記
者をがっちりと抑え込んでいることだろう。
前出の読売新聞と橋本五郎がこれに該当するが、他にも、産経新聞社刊行の保守
論壇誌「正論」では、長辻象平・産経新聞論説委員が「Eの探検隊」な るルポを
連載している。この連載には「広告」や「提供:電事連」というクレジットこそ
ないものの、読むと、原子力施設関係者が施設を案内したりす るなど、東京電
力や中部電力が積極的に長辻記者に対して取材協力をしていることがわかる。想
像のとおり、ルポの内容は「安全策の向上」などを印象 付けるようなものと
なっており、これも“原発広告”のバリエーションと呼ぶことができる。
原子力ムラが広告掲載メディアを完全に選別しだしたのは、3.11以後の確かな変
化だ。これにはふたつの理由が考えられる。
たとえば、本サイトの調査では、3.11までは原発広告を掲載していた朝日、毎日
系メディアあるいは「週刊文春」(文藝春秋)などへの原発広告の 出稿は確認
できなかった。これは、それらのメディアが福島第一原発の事故で、東電批判や
“原子力と政治”をめぐるスキャンダルを報じたからだろ う。そこで電力会社と
関連団体は、原発推進派の読売、産経、日経そして「週刊新潮」などのメディア
にのみ広告を投じることで、“身内”の関係性を より強固なものにし、原子力論
陣のスクラムを組もうとしているのではないか、というのがまずひとつ目の理由だ。
ふたつ目の理由もスクラムに関連する。巨額の広告出稿料を一部メディアにだけ
集中させることは、必然的に、電力会社や原発政策に批判的報道をする マスコ
ミに対して、ある種の“見せしめ”効果が期待できる。つまり、「これから安倍政
権による原発再稼働が着実に進んで、世間の抵抗感は薄れてい くよ。でも、君
たちみたいなマスコミにはびた一文払う気はないからね」、そうしたメッセージ
を暗に送ることで、プレッシャーをかけていると考えら れるのだ。
いずれにせよ、こうした原発広告の出稿は、安倍政権になって原発再稼働に方針
転換したことで、一気に勢いを増した。そして、大飯原発や高浜原発の 再稼働
を機に、「電力のベストミックス」「現存する放射性廃棄物の議論は避けられな
い」などといった文言を駆使して、事故と汚染のリスク、そして 今でも避難生
活を強いられている被災者への意識を薄めにかかる。その一助が、フレッシュな
知識人や知性派タレントの新起用なのだ。そして、もちろ んその最終的目的
は、メディアの原子力批判の完全なるタブー化である。
大復活、いや、新生したと言っていい“原発広告”と“原発文化人”。これが意味す
るのは、国の存亡を揺るがした3.11以前の状況の再現に他なら ない。それで
も、金に目が眩んだメディア、タレント、学者は“あの日と、それからの記憶”を
ネグり、原子力大国への旗を狂乱的に振り続ける。もや はこの国は、3.11以上
の“人災”が起こるまで、大きすぎる過ちに気がつけないのだろうか。
(梶田陽介)