ダー イッシュをトルコ政府が支えていることは公然の秘密だが、これを隠そ
うとして言論弾圧を強化
2016.03.05 櫻井ジャーナル
http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201603050000/
トルコの新聞、ザマンの経営権を政府が握った。昨年11月26日にはジュムフリ
イェト紙の編集長を含むふたりのジャーナリストが逮捕され、3月 25日か ら裁
判が始まる。トルコ政府は言論弾圧に拍車をかけていると言えるだろう。
ジュムフリイェト紙の場合、トルコからシリアの反政府軍、つまりアル・カイダ
系武装集団やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、 ISILとも 表記)へ供
給するための武器を満載したトラックを憲兵隊が昨年1月に摘発した出来事を写
真とビデオ付きで5月に報道、その報復だと見られてい る。
報復は新聞社にとどまらず、レジェップ・タイイップ・エルドアン政権はウブラ
フム・アイドゥン憲兵少将、ハムザ・ジェレポグル憲兵中将、ブ ルハネトゥ
ン・ジュハングログル憲兵大佐を昨年11月28日に逮捕した。シリアへ侵攻してい
る武装集団を支える兵站線がトルコからシリアへ延び、それを トルコの軍や 情
報機関MITが守っている「国家機密」を明らかにすることは許さないということだ。
もっとも、この「国家機密」は「公然の秘密」でもある。例えば、2014年10月19
日に 「自動車事故」で死亡したイランのテレビ局、プレスTVの記者だったセレ
ナ・シムは死の前日、MITからスパイ扱いを受けたと言われている。その直前、
彼 女はトルコからシリアへ戦闘員を運び込むためにWFP(世界食糧計画)やNGO
のトラックが利用されている事実をつかみ、それを裏付ける映像 を入手したと
言われている。
ジョー・バイデン米副大統領は2014年10月2日にハーバード大学で講演した際、
シリアにおける「戦いは長くかつ困難なものとなる。この問題を 作り出したの
は中 東におけるアメリカの同盟国、すなわちトルコ、サウジアラビア、UAEだ」
と述べ、あまりにも多くの戦闘員に国境通過を許してし まい、いたずらにダー
イッシュを増強させてしまったことをトルコのエルドアン大統領は後悔していた
とも語っている。勿論、「後悔」などしてい ないが、トルコの責任は指摘して
いる。
ウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官もCNNの番組で、アメリカの友好
国と同盟国が ダーイッシュを作り上げたと語っているが、友好国や同盟国にサ
ウジアラビア、イスラエル、そしてトルコが含まれている可能性は高 い。
また、2014年11月にはドイツのメディアDWもト ルコからシリアへ食糧、衣類、
武器、戦闘員などの物資がトラックで運び込まれ、その大半の行き先はダーイッ
シュだと見られていると 伝えている。ロシア軍は上空から兵站線や盗掘石油の
密輸ルートを撮影、公表しているが、それ以前からトルコとダーイッシュやア
ル・カイダ系武 装集団との連携は指摘されていたのだ。
アメリカ政府の場合、遅くとも2012年8月にトルコとアル・カイダ系武装集団と
の関係は知っていた。アメリカ軍の情報機関DIAが作成し た報告書の中で、シ
リアにおける反乱の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、AQIであり、反シリ
ア政府軍を西側(アメリカ/NATO)、湾岸諸 国、そしてトルコが支援している
としている。
アメリカ政府はシリアのバシャール・アル・アサド政権を倒すため、「穏健派」
を支援するとしてきたが、事実上、「穏健派」はシリアの反政府 勢力に存在し
ない。反シリア政府軍を支援すると言うことはアル・カイダ系武装集団を助ける
ことを意味し、現在の状況は予想されていたのだ。文書が作成され たときにDIA
局長だったマイケル・フリン中将は文書が本物だと認めた上で、そうした勢力を
DIAの警告を無視して支援してきたのは政府の決定だとして いる。
昨年10月7日から8日までの期間、エルドアン大統領は日本に滞在していた。ロシ
ア軍機の撃墜を決める直前ということになる。その直前に「難民危 機」が起
こっているが、これはトルコ政府が演出したもの。EUへの脅しに使っている。こ
の「危機」で日本はトルコを支援すると確約したらしい。
日本でアメリカ側の誰かと接触していた可能性もあるだろう。11 月13日にはト
ルコのイスタンブールで安倍晋三首相はエルドアン大統領と首脳会談、その11日
後にロシア軍機を撃墜した。トルコ で両首脳は日本とトルコが共同で制作した
映画「海難1890」を見たらしい。この当時、日本政府もトルコとダーイッシュな
どとの連携を知って いたはずだ。
この公然の秘密をトルコ人が口にすることをトルコ政府は禁止したがっている。
そのひとつの結果がメディアに対する攻撃だ。今回、エルドアン 政権に乗っ取
られたザマンは与党を支持していた新聞なのだが、独裁色を強める政府を批判す
るようになり、報復されたわけである。この乗っ取りに抗議する人 びとに対
し、 警察隊は放水や催涙弾で鎮圧を図った。
現在、トルコ政府はサウジアラビア王室と共同でシリアを軍事侵攻する姿勢を見
せて威圧、トルコ領内にある核兵器を盗み出す可能性が指摘され ているほか、
サウジアラビアは数年前に核兵器をパキスタンから購入したと間接的に表明して
いる。
当初、トルコ政府は自分たちがNATO加盟国だという立場を利用、ロシアはNATO軍
との衝突を避けるはずだという思い込みで強硬策を打ち 出してきた。 その思い
込みは9月30日にロシア軍がシリアで空爆を始めた段階で崩れたのだが、それに
気づかず、ロシア軍を追い払うために10 月10日にロシア軍機の撃墜を計画する。
詳細は不明だが、11月17日にはロシアの旅客機がシナイ半島で撃墜され、11月24
日にはロシア軍のSu-24をトルコ軍のF-16が撃 墜している。 トルコ政府はロシ
ア軍機が領空を侵犯したと主張しているが、説得力がないことは本ブログで何度
も書いた。11月24日から25日にかけてポー ル・セルバ米 統合参謀本部副議長が
トルコのアンカラを訪問、トルコ軍の幹部と討議した事実との関連性が話題に
なっている。
NATO軍の内部には、ロシア軍が反撃に出たら攻撃しようと構えていたグループも
いそうだが、ロシアは別の手段を講じて反撃した。即座にミサイル 巡洋艦 のモ
スクワをシリアの海岸線近くへ移動させて防空体制を強化、さらに最新の防空シ
ステムであるS-400を配備し、戦闘機を増派してシリア北 部の制空権を握ったの
である。それ以降、シリアの領空を侵犯したら撃墜するという意思表示だ。さら
に、対戦車ミサイルTOWに対抗できるロシア製のT- 90戦車も増やし、シリア沖に
いる世界で最も静かだという潜水艦がミサイルを発射してダーイッシュを攻撃し
たとも伝えられている。西側は沿岸に近 づけない状態だという。
トルコのエルドアン政権はNATOを利用して自分たちの軍事的な野望を実現しよう
としたが、思惑通りには進んでいないようだ。最大の理由は ロシアが軍事 的な
脅しに屈せず、挑発に乗ってこないことにある。苦境に陥ったエルドアン政権は
言論弾圧で乗り切ろうとしている。「日米同盟」を利用して自 らの軍事的な 野
望を実現しようと目論み、自分たちにとって不都合な事実を隠すために「秘密保
護法」を導入、言論の弾圧を強化する安倍政権とよく似ているが、両国のメ
ディア自体は全く似ていない。トルコでは言論弾圧に抵抗する人びとがいるが、
日本のマスコミは政府の政策に疑問を持つことさえなくなったよう に見える。
勿 論、そうした日本のマスコミを批判するためにアメリカの有力メディアを持
ち出すことは、さらに救いがたい。彼らこそが偽情報を流す震源地であ り、
「嘘の帝 国」を支える柱のひとつだ。