衆議院議員石井紘基著『日本が自滅する日「官僚経済体制」が国民のお金を食い尽くす!』(PHP2002年1月23日発行)
第四十七回目朗読 (2019.02.21)
第二章 経済むしばむ“官企業”―特殊法人と公益法人など (P112-186)
http://www.asyura2.com/09/senkyo68/msg/1067.html
第三節 経済の“ブラックバス”特殊法人の姿 (P131-159)
●子会社は儲かり、公団は大赤字 (P132-136)
「親」の日本道路公団本体は、先に示したように莫大な借金を抱えている。一
方で、「子」が潤う。公団は後に述べるような様々な関連事業を、事実上の天
下り会社である旧(財)道路施設協会に仕切らせている。その施設協会から公
団への年間納付額は、占用料としての六六億円(平成=年度)だけである。こ
れでさえ、私の国会での追及を受けて平成一〇年から値上げしたものだ。道路
公団が濡れ手に粟で儲かる事業をすべて回している「ファミリー企業」の実態
をみれば「官業は栄えて、国民が貧しさにあえぐ」という利権列島の実体が明
らかになる。
道路施設協会は、そもそも高速道路のサービスエリアやパーキングエリアの
「占用許可」を受けるために公団、旧建設省、政界筋が示し合わせて設立した
ものであった。昭和四〇年五月、旧建設省は一片の道路局長通達を以ってこの
巨大利権構想を実行した。
この通達によって道路施設協会は、レストランや売店、ガソリンスタンドな
どのテナント料を横取りして急成長を果たすとともに、一気に多数のファミ
リー企業を発足させ、不動産業、道路の改修メンテナンス、パトロール、料金
収受、道路交通情報などを独占的に事業展開する巨大企業にのし上がった。こ
れらの企業の間では随意契約や丸投げが常態化している。つまり、競争相手の
ない、しかも、ほとんど税金を払わない、財団法人の営利事業という、普通の
国には夢想だにできない利権システムができ上がったのである。
協会や子会社の「公団一家」が食っている不当利得は巨大だ。直接出資の子
会社六七社(平成九年度現在)の平成八年度の総収入は六八〇〇億円。また、
施設協会がサービスエリアなどで運営を委託しているレストランなどの店舗の
売上高は約三四〇〇億円であった。しかも、これら子会社の多くは、営利を目
的としてはならない公益法人なのだから、ますます許しがたい。
道路公団とそのファミリー法人は政治家や政党へ多額の献金をしており、“
政治家のサイフ”と呼ばれている。
私は国会で道路公団の数々の問題とともに旧(財)道路施設協会の不当性を
追及してきたが、平成九年二月二四日の衆議院予算委員会では当時の亀井静香
建設大臣に対し「道路施設協会は天下りによる営利事業団体であるから廃止せ
よ」と迫った。これに対して、亀井大臣は問題を認めて「見直す」と答え、道
路施設協会は廃止されることとなった。
しかし実際に旧建設省がやったのは、「(財)道路サービス機構」と
「(財) ハイウェイ交流センター」 の二つに分割することだった。「競争
原理を取り入れるため」というのがその理由だが、もともと公益法人とは「不
特定多数の利益のために……営利を目的としない」ものなのだ。そこに「競争
原理」とはデタラメ以外の何ものでもない。
この分割の結果、それまでは役員は一六人で、そのうち旧建設省・道路公団
からの天下りが一三人であったものが、役員は合わせて三〇人となり、旧建設
省・道路公団からの天下りは一五人に増やされた。これが官僚天国のやり方で
あり、日頃、多数の政治家に鼻薬を効かせてあるからこういうことが平気でで
きるのだ。
旧建設省は平成一一年度中に日本道路公団の天下り団体である、旧(財)道
路施設協会が設立した公団ファミリー企業六三社の持ち株を売却した。これ
は、平成六年から八年にかけて、私が、「公益法人や特殊法人の出資(子会社
設立)は、不適法だ」と主張した結果、平成八年九月に「公益法人の出資を止
めるべし」との閣議決定がなされたことによる措置である。
私は、このとき、「公団のファミリー企業は、廃止・清算して、出資割合に見
合う資産を回収し、そのうえで、公益法人も解散させ、売却益を国庫に繰り入
れるべきだ」と主張した。なぜなら、特殊法人・公益法人のファミリー企業群
は、とりも直さず国民の税金と公団の随意契約による事業発注によって肥り、
巨大な資産を蓄積したものだ。しかも、道路公団は、莫大な借金を抱え、国民
の負担になる。それを、単に簿価で株を売却し、出資額だけを回収するので
は、国民の資産を二重に詐取することになるからだ。
案の定、危供したことを旧建設省と旧(財)道路施設協会は、実行したので
ある。二〇~三〇年前に三五億円を出資して作った六三社の株を彼らは、平成
一〇~一一年に六四億六〇〇〇万円で売却した。売却先は、取引銀行を除いて
すべて同族のファミリー企業。しかも、同一の会社の株でも譲渡先ごとに株価
が異なった。デタラメである。通常でもこうしたケースの株売却は、純資産方
式で行われる。純資産方式で行えば、平均一八五倍となる。金額にして六四七
五億円である。
つまり、指導・監督責任を負う旧建設省は、少なくともファミリー企業のた
めに、六四〇〇億円以上の公的財産を勝手に放棄したことになる。ちなみに、
株を引き受けたファミリー企業の経営者は、大多数が公団OBや旧建設省からの
“渡り鳥”である。旧建設省や旧(財)道路施設協会にしてみれば、「民間企
業では株の引き受け手がない」という。それはそうだ。天下りファミリーであ
るからこそ公団は仕事を出す。筆頭株主が純然たる民間であれば、その瞬間
に、ほぼ間違いなく仕事はこなくなり、会社は立ち行かなくなる。不正は、取
り繕えば取り繕うほど深みにはまる。もう一度仕切り直しをして、あくまで廃
止・清算するしかない。
建設官僚の退職金について、私が追及して明らかになったものの中に、平成
九年当時、道路施設協会の理事長を務めていた宮繁護氏のケースがある。宮繁
氏は建設省局長から国土庁事務次官となり、道路公団副総裁、同総裁、道路施
設協会理事長となった人である。彼は次官退職時に五五一二万円、道路公団退
任時に三六九〇万円、道路施設協会退任時に三七六〇万円、現職の予定される
退職金も含めると計一億五〇〇〇万円以上の退職金を受けとり、その間に一〇
億円前後の報酬や給与を受けてきたことになる。
ちなみに、私の質問で明らかになったものに元日銀総裁の松下康雄氏があ
る。松下氏は旧大蔵省(事務次官)から五八五六万円、日銀から三四〇五万
円、これに旧大蔵省から“天下った”旧さくら銀行の分を合わせると、退職金
だけで二億四〇〇〇万円以上となる。また日銀の三重野康・元総裁は日銀だけ
で一億八二二一万円の退職金を手にした。
このように毎年少なくとも何百億円という気が遠くなるような退職金が高級
官僚や役人OBに支払われているのも、天下り先の行政企業が止めどなく広がり
膨らんだせいなのである。
(続く)