大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 7月5日 七年後

2016-07-05 18:38:47 | B,日々の恐怖




   日々の恐怖 7月5日 七年後



 十代のころの話です。
ある日突然、市松人形が欲しくなった。
もう欲しくて欲しくてたまらない。
白い着物に赤い帯、紅はほんのり紅い、市松人形がなんとしてでも欲しい。
 それでお店のお客に手当たり次第情報を求めた。
何処で売ってて、オーダーで作れるか、幾ら位するかなどなど、どうにかして手に入れようとした。
 何日か過ぎた頃、お店の女性客にこう言われた。

「 それ本当に貴方がほしいの?」
「 え???!」

 目から鱗が落ちた。
そうだ私何で人形なんか欲しいんだろ。
しかも市松人形。
 すると、それまでなんとしてでも欲しかった人形が、欲しくも何とも無くなった。
ただその話をしている間中、お客の後ろで市松人形が私を睨んでいた。
それが現実なのか目の錯覚なのか自分に自信をもてず、その事を忘れた。
 私は結婚、出産、離婚と色々あり、七年ほど過ぎた。
離婚し実家に戻った私に、姉と姉の友人が訪ねてきた。
 昔話をして楽しんでいる最中、姉の友人が不思議な話を始めた。

「 そういえばあの時、貴方が住んでいた家の近くに橋があったよね?」

そう、私がその時住んでいた家の近くに小さな橋があった。
別にこれといってなんてことない小さな橋だ。
ただ私はあまり好きじゃなかった。
 姉の友人は続けてこう言った。

「 私ね、あそこの橋で女の子を見たよ。
それがおかっぱ頭の着物着た子だった。」

私は鮮明に記憶が甦った。
忘れてた市松人形だ。
 恐かったけれど、私は聞いた。

「 その子、白い着物に紅い帯してなかった?」
「 そうそう何で知ってるの?
けっこう恐かったよ。
顔が突然ブワァッて大きくって、こっちに寄って来て・・・。」

 私は間違いないと確信した。
あの時私が突然欲しくなり、店の女性客に貴方の意志じゃないと指摘され、恨めしげに私を睨み消えたあの市松人形だ。
 あの橋を渡る時、私に憑いてきたのか。
そして自分が入る体が欲しくなり、私に用意させようとした。
けれど不覚にも女性客のたった一言で、私や周囲にきずかれた。
だからあんなに恨めしげだったんだ。
 なぜ市松人形が突然欲しくなり、たった一言で欲しく無くなり、なぜ恨めしげに私を睨んだのか。
七年後に分かったことだった。











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