日々の恐怖 7月26日 初雪の山(2)
登っているときは1人だけの足跡だったが、今は数人ある。
少なくとも今は3人の足跡が見える。
しかもよく観察してみると、裸足の足跡のように見えた。
それに気づくと背筋がゾクゾクして恐怖に襲われた。
自分を裸足のなにかが後をつけて来てた、しかも登山道ではない。
その時、彼は知り合いのベテラン登山家の言葉を思い出していた。
“ 初雪の日は登山してはいけないよ。
見てはいけないものが見えちまう。
普段は見えないものが、雪のおかげで見えることがあるんだ。
それは命取りになるから。“
彼はパニックになりつつあった。
暗くなり始め、得体の知れない裸足の足跡、さらに迷ってる。
彼は足早に足跡を頼りに下山を始めた。
いくら歩いても登山道には戻れなかった。
もう完全に日は落ち、足跡も見分けがつかなくなった。
遭難、頭にその言葉が浮かんだが、今日中の下山をあきらめ野宿すると決断した。
野宿の準備をしていなかったので、装備の中で使えそうなのは、アルミ箔のような保温カバーと、マッチくらいしかなかった。
彼は風がしのげる大きな岩の下で野宿をする事にした。
かなり冷えるが、雪の降った後で穏やかな夜だったので、凍死の心配はなさそうだったが、念のため眠らない事にした。
落ち着いたところで、足跡の事がふと頭に浮かんできた。
“ あの足跡はだれのものだろうか?
シカやウサギ、イノシシだろう、きっと・・・。”
彼は自分の気をごまかすように、小動物の足跡だと解釈するようにしていた。
そして眠らないように頑張っていた彼は、ついうとうとして眠ってしまった。
彼は物音で目が覚めた。
それは何かが雪の上を歩く音だった。
“ ザクッ・・・ザクッ・・・ザクッ・・・。”
その音は岩の後ろから聞こえていた。
勝気な彼は小動物だと思い、追い払おうと大声を出した。
「 コラッ!!」
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