大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆奇妙な恐怖小説群
☆ghanayama童話
☆写真絵画鑑賞
☆日々の出来事
☆不条理日記

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

☆分野を選択して、カテゴリーに入って下さい。

A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 7月4日 山

2016-07-04 18:37:47 | B,日々の恐怖





  日々の恐怖 7月4日 山




 山で二度怖い思いしたことがある。

 小学1年の頃、山にキャンプに来ていた時、ちょっとした冒険心でコッソリ周囲を探索してたら、獣道(道の右側は上り斜面、左側は急な下り斜面で下は川)を見つけた。
 その獣道を道なりに歩いてたら、道そのものが足元から崩れて、斜面を10メートル程転がった。
途中の木にぶつかる形で何とか止まったけど、落ちたら死んでたろうなぁ。

 次は小学5年生の頃。
これは、一番恐ろしかった。
これ以上の体験は、後にも先にも無い。
 内容が内容だけに信じてくれない人もいるが、俺は確かに見た、と思っている。
そして見たのは俺一人じゃない。
 親の後に付いて山中の獣道を歩いてた。
季節は夏。
 周囲は夕闇が迫って来ていた。
陸自空挺レンジャー出身の親父が先導していたので、疲れはしていたけど恐怖は無かった。
 頼れる親父であった。
聞こえる音といえば、二人の歩く音と木々のざわめき、種類は分からないが鳥の鳴き声と、谷を流れる川の音、だけだと思っていた。
 何か、人の声が聞こえた気がした。
でも、特に川の音などは人の声に聞こえる場合もある。
最初はそれだと思っていた。
けれども、気にすれば気にするほど、人の声としか思えなくなってきた。

「 とうさん、誰かの声、聞こえない?」
「 ・・・・。」
「 誰だろ、何言ってるんだろ?」
「 いいから、歩け。」

言われるままに、黙々と歩いた。
 だが、やっぱり声が気になる。

“ どこからしているんだろう?”

周囲をキョロキョロしながら歩ていると、谷底の川で何かが動いているのが見えた。
 獣道から谷底までは結構な距離がある上に、木や草も多い。
そして夕闇が迫っているので、何かがいたとしてもハッキリ見える筈は無い。
ところが、ソイツはハッキリと見えた。
 獣道と谷底の川は距離があるものの、並行したような形になっている。
そして、ソイツは谷底を歩きながら、ずっと我々に付いてきていた。

「 お~い、こっちに来いよぉ~!」

谷底を歩く坊主頭の男は、我々に叫んでいた。
 ゲラゲラ笑いながら、同じ台詞を何度も繰り返している。
それだけでも十分異様だったが、その男の風体も奇妙だった。
 着ているものが妙に古い。
時代劇で農民が着ているような服だ。
顔は満面の笑顔。
だが、目の位置がおかしい。
頭も妙にボコボコしている。
そして、結構な速度で移動している。
ゴツゴツした石や岩が多い暗い谷底を、ものともせず歩いている。

“ こんな暗くて距離もあるのに、何故あそこまでハッキリ見えるんだろう?
と言うか、白く光ってないか、あの人?”

小学生の俺でも、その異様さに気付き、思わず足を止めてしまった。

「 見るな、歩け!」

親父に一喝された。
 その声で我に返った俺は、途端に恐ろしくなった。
しかし恐がっても始まらない。
後はもう、ひたすら歩くことだけに集中した。
 その間も谷底からは、相変わらずゲラゲラ笑いながら呼ぶ声がしていた。
気付けば、俺と親父は獣道を出て、車両が通れる程の広い道に出ていた。
もう、声は聞こえなくなっていた。
 帰りの車中、親父は例の男について話してくれた。
話してくれたと言っても、一方的に喋ってた感じだった。

「 7、8年位前まで、アレは何度か出ていた。
でも、それからはずっと見なかったから、もう大丈夫だと思っていた。
お前も見ると思わなかった。」
「 呼ぶだけで特に悪さはしないし、無視してれば何も起きない。
ただ、言う事を聞いて谷底に降りたら、どうなるか分らない。」
「 成仏を願ってくれる身内も、帰る家や墓も無くて寂しいから、ああして来る人を呼んでるんだろう。」

大体、こんな感じの内容だったと思う。
 その後も、その付近には何度か行ったけれど、その男には会ってない。
今度こそ成仏したんだろうか?











童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
 大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

☆童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。

-------大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ-------