日々の恐怖 7月8日 兎(1)
十年以上も昔の話になる。
会社の先輩と中学以来の友人と俺の三人で、盆休みに有給を足して十一日間の北海道旅行へ出掛けた。
車一台にバイク一台の、むさ苦しい野郎だけの貧乏旅行だったが、それは素晴らしいものになるだろうと胸を弾ませていた。
しかし、出発当日から台風に見舞われ、フェリーは大時化の中を航行、無事に苫小牧港へ到着はしたが、何の因果か、北の大地に足をつけてから連日、怪異と遭遇する羽目になった。
艱難辛苦を乗り越え、旅は知床で折り返して六日目、道東の海岸沿いを一気に南下して根室へやってきた。
花咲港で名物のハナサキガニを食し、日本最東端の納沙布岬で北方領土の歯舞群島を間近に臨み、双眼鏡で水晶島の監視塔で小銃を肩にかけて警戒にあたる兵士の姿を捉えた。
また、西の彼方へ沈み行く夕日を、男三人が肩を並べて見守ったりした。
チャシ跡群や、旧日本軍が建造したトーチカや掩体壕の遺跡群は時間も時間なので、明日見に行くことにして、本日の宿を探しに根室市内へ向かう。
根室駅前にある観光案内所へ着いたのは時間は午後6時を過ぎていた。
パンフを見比べながら、あーでもないこーでもないとやっている俺達。
そこへ軽トラに乗ったおっちゃんが現れ、宿を探しているのかと話しかけられた。
ホテルではなく安価な民宿で、魚介類とハナサキガニが手頃な価格で食えるような所へと条件を提示すれば、それなら俺の所に決定だと、おっさんは親指を立てる。
どことなく、映画プラトーンに登場したバーンズ軍曹に似たおっさんだ。
おっさんは民宿を営みながら、漁師もやっているのだそうだ。
宿泊代に二千円を足せば、晩飯にハナサキガニ+αを付けると言った。
宜しくお願いしますと、俺達はおっさんに向けてホッチキスも斯くやの身体を折り曲げ頭を下げた。
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