大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 7月28日 初雪の山(3)

2016-07-28 18:03:46 | B,日々の恐怖




  日々の恐怖 7月28日 初雪の山(3)




 怒鳴ると足跡は遠くへ逃げていった。

“ やっぱり、イノシシか・・・。”

 数十分後、また足跡が遠くから聞こえてきた。

“ ザクッ・・・ザクッ・・・ザクッザクッ・・ザクッザクッザクッ・・。”

 今度の足音は違った。
1人の足音じゃない。
仲間を連れてきた。
 さすがの彼も恐怖を感じた。

「 コラッ!!」

もう一度おもいっきり怒鳴った。
 足音は止まったが、少しするとまた進み始めた。

“ こっちに向かってきてる・・。”

もうここまで来ると、奴らが人間だと思わずにはいられなくなった。

“ 数人の人間がこっちに向かってきてる・・。”

 彼は今までにないほどの恐怖に襲われた。
体育座りをして、目を瞑って祈り始めた。
 特に宗教には入っていなかったが、子供のころ祖父や祖母が念仏を唱えていたのをかすかに思い出しながら、保温カバーに顔も入れて外を見ないようにしながら、ひたすらめちゃくちゃな念仏を唱えた。
 足音はまだ聞こえてる。どんどん近くなってきてる。

“ ザクッザクッザクッ、ザクッ・・・。”

夜中その足音は続き、まるで彼のまわりをグルグル回ってるかのようだった。
彼は一睡もできず、半狂乱で念仏をとなえていた。
 朝が近くなり、徐々に明るくなってきたのが分かった。
足音は次第に遠くになってきていた。
彼は安堵した。
 日が昇ったのがわかった。
足音も完全に聞こえなくなり、彼はおそるおそる保温カバーから顔を出して、あたりを見回すと愕然とした。
 周りには何十もの足跡が残っていた。
しかも裸足の足跡だ。
彼は疲労困憊でその足跡を眺めていた。
 あまりの恐怖に何も考えられなかったが、荷造りを初めて下山を始めた。
30分も歩くとその足跡は途中で消えたが、少し歩くと登山道の標識がすぐに見え無事に下山した。
 その後、しばらくの間、彼は登山が出来なくなった。
だが、好きに勝るものは無い。
最近は低い山をポツポツと登っていると聞いた。
それは、見ればそこに山があるからだ。









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