日々の恐怖 7月16日 千円札(1)
深夜のコンビニでの仕事の一つに、売上金の計算と送金作業がある。
レジおよび回収箱の中に入った金が幾らか計上して、銀行や郵便局に送る作業である。
そんな中で紙幣や硬貨を数えている時に、
“ よくこんなモノをレジに出す気になるよなあ・・・。”
と思ってしまうブツを良く見るのである。
錆び付いて数字が読めない十円玉であるとか、所々破けてテープだらけの千円札。
もちろんどんなお金も基本的に受け取りを拒否する事は出来ない訳で、一日に必ず一つ二つは、見るも無残な日本銀行券の成れの果てを手にすることになる。
そんな中で一番印象に残っているのが、キスマーク付きの千円札だった。
言葉だけではどうと言うことも無いと思うのだが、想像して欲しい。
千円札の表には野口英世の肖像画があり、古札である。
その紙幣を裏返すと、逆さ富士があって、中央にはべっとりと赤い口紅のキスマークが付いている。
そんなブツがある日、売上金の中に一枚紛れ込んでいた。
見た瞬間に思わず、
「 うあ・・・・。」
と呻いて、
“ 何とも気持ち悪い事をするなぁ・・・。”
と思った。
日本銀行が発行して以来、恐らくは何百人もの手を渡り歩いてきた紙幣だ。
使用状況から考えても、どれだけの手垢、細かいゴミが付着しているか知れたモノでは無い。
そんな紙幣に、口付けをしてしまう事情がまず想像出来ないし、それを人前に出す神経もちょっと解らない。
そんなことをあれこれ思いながら、改めてその紙幣を見てみる。
地味な色の紙幣の山の中、不気味に鮮やかな色合いの紙幣は、どこか毒性の動物を想像させる。
“ 嫌だなあ、さっさと郵便局に引き取ってもらおうか・・・。”
そう思って、その紙幣は送金袋の中に突っ込んだ。
これだけなら、
“ 世の中には気持ちの悪いことをする人がいるなあ・・・。”
で済んだ話だ。
しばらく経った、やはり深夜の同じ作業中だった。
「 うあ・・・・・。」
再び、同じ紙幣が出てきた。
“ え?なんで・・・・??”
軽い混乱に襲われた。
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