日々の恐怖 7月31日 頭
学生時代、居酒屋でバイトしてたときのことだった。
一人でカウンターで飲んでたおじさんが席を立ち、私の方へ来てニコニコしながら話し掛けてきた。
内容は支離滅裂で、
「 これからは中国の時代だ。
あとのことはよろしく頼むよ。」
みたいことを言ってた。
私の両手を握りながら、とにかくニコニコ笑顔で上機嫌だった。
いつもなら、
“ 手なんか触られたらウザイ!”
って思うけど、とても楽しそうに話してるので、
“ アハハ、酔ってるんだな、この人・・・。”
と、私も笑いながらうんうんと聞いてた。
それを見かけた店長に仕事を言いつけられたので、その場を離れたけど、その人の席をチラッと見たら、ビールも料理もほとんど手をつけてなかった。
おじさんはその後、すぐに帰っていったらしい。
次の日の早朝、店長のもとに警察から電話があった。
前日の夜中に、店の近くの交差点で初老の男性が倒れており、病院に運ばれたがすぐに息を引き取った。
調べてみると、発見されたときよりもっと早い時間に、どこかで頭を打った形跡があった。
財布の中に店のレシートがあったので、
「 来店時に、なにかおかしな様子はなかったか?」
とのことだった。
つまり、どこかで頭を強打→来店→店を出てすぐ倒れた、ということらしい。
だから言動がおかしくなってたのか。
「 あとのことは、よろしく。」
とか言ってたのも、何か意味があったのか。
あんなにいい笑顔をしてたおじさんが、すでに死ぬことが決まってたなんて考えられない。
もしあのとき私が、おじさんが頭をケガしてることに気付いてたら、もしかしたら間に合ったかもしれないと、しばらく考え込んでしまった。
童話・恐怖小説・写真絵画MAINページに戻る。
大峰正楓の童話・恐怖小説・写真絵画MAINページ