大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 7月9日 兎(2)

2016-07-09 18:38:58 | B,日々の恐怖




  日々の恐怖 7月9日 兎(2)




 美味い飯を食い、美味い酒を飲み、風呂に入って、久しぶりに屋根の下で布団へ入って眠った。
テントとは違って寝心地が段違いだ。
それに熊等の襲撃を恐れる心配がないのは最高だ。
これで22:00就寝、02:00起床でなければ至福だった。
なんでも、おっさんが操舵する船ですごいところへ連れていってくれるのだそうだ。
 午後11時まで食堂で俺達と飲んでいたのだが、午前2時きっかりにおっさんは起こしにやってきた。

「 船で摂る朝飯の支度も済んでいる。
いつまで、寝てんだ?」

 厚着して眠い目を擦りながら外へ出ると、エンジンをかけた軽トラが待っていて、有無を言わさず荷台へ乗せられ港へ向かい、おっさんが操舵する船で真っ暗な海原へ出る。
出港してしばらく無言だったおっさんが、ちょっとショートカットしていくからと俺達に断りを入れた。
 深夜で島影どころか目の前の波すら見えない海の上だ。
何をショートカットするのかと思えば、現在は別の国家が占有している日本固有の領土がある海域だった。
 北海道に来て熊と相対する覚悟はしていたが、流石に拿捕までは想定外で気構えとかなんか出来ていない。
極寒の牢獄に囚われ、餓死と貧困に怯えながら、空缶に用を足すことになるのは絶対に御免だ。
 俺達は船長兼民宿の親父のおっさんに向かって、本気でやめてくれとお願いした。
地図にしか見えない赤い一点鎖線の内側へ、お願いだから帰しておくれと懇願した。
 それに対しておっさんは、

「 お前等、俺がどこでカニを捕ってくるか知っているか?
道内では船影がちらりと見えただけでカニは岩陰に隠れてしまうが、こちらでは真上を船が通ろうと、のうのうと行列を作って歩いているくらい擦れていないから捕り放題だ。
まあ、言ってみれば俺の庭みたいなものだよ。
 もし、露助の警備艇に臨検されそうになっても、漁船には分不相応な高出力エンジンを積み、操舵室うしろの壁には分厚い鉄板が仕込まれているから、小銃の弾くらいなら耐えられるぞ!」

と鼻で笑った。
 そして、

「 強力な鼻薬も常時、搭載済みなんだよ。」

これはもうおっさんに全てを任せるしかないと、腹を括った。










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