大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 7月6日 餌

2016-07-06 20:54:40 | B,日々の恐怖




  日々の恐怖 7月6日 餌




 小学校の頃、クラスの落し物係として、掃除の時間や昼休みによく落し物を拾っては職員室に届けることが多かった。
今にして思えば、落し物を見付けることが多過ぎたように思える。
先生方に、

「 また拾ったの?」

なんて言われていた。
 冬休み前のある日、学校に忘れ物をして、慌てて取りに戻った。
グラウンドにサッカーをして何人か残っていたが、もう殆ど下校しているようだ。
それを横目に下駄箱から上履きに履き替える。靴は脱いでそのまま置いた。
日が暮れかけた学校は非常に暗かった。
 省エネがブームで、廊下の明かりは放課後、掃除が終わり次第消していくため、廊下にも教室にも明かりは点いていなかった。
二段飛ばしで駆け上がり、3階の教室に飛び込む勢いで急いで忘れ物を手にすると、安心と息切れでため息混じりに無人の教室を後にする。
 先程は気付かなかったが、教室を出てすぐの廊下にキン肉マン消しゴムが落ちていた。
誰の落し物だろう?と、拾い上げる。
真っ黒に汚れていたが、当時はキン肉マン消しゴムに根強い人気があり、俺は特に興味なかったが、無くして落ち込んでいるであろう持ち主のことを考えると、届けるべきだと思った。
 暗いし怖いから早く帰りたかったけど、結局1階の職員室前の落し物BOXに寄ることにした。
階段を足早に下りながら、後ろからカシャン、カラカラと何かが落ちて転がる音を聞いた。
 1階に向かう途中、振り返った2階の図書室前廊下で更なる落し物を発見する。
最近買って、すぐ無くした赤い水性ボールペンだった。
ちょっと遠目にだったが、開封シールをキャップに貼り直していたので、その下手くそな貼り方で自分のものだと確信した。

“ あ、俺の!見つかって良かった!!”

と、思いながら赤ペンに向かって歩く。
 いつも落し物を届けて、日頃の行いがいいからかな、なんて思っていた。
風も吹いてないのにカラ、カランと、更に半分円を描くように遠ざかって暗がりの手前で止まる。

“ え・・・?”

 何か変だな、と思って手を伸ばしたまま動きを止める。
自分の影が伸びた先に、赤ペン。
その先には真っ暗な廊下があった。
 不意に鳥肌が立つ。
グラウンドでサッカーをしていた子達の声が聞こえない。
代わりに耳鳴りがしている。

“ エサ・・・?”

左手には忘れ物の体操着と体育館履き、誰かのキン肉マン消しゴム。
右手は赤ペンを手に取ろうと伸ばしたままだ。

“ さっき、落ちた音がしなかったっけ?”

図書室のドアはとっくに施錠されているようで、締まったまま誰もいない。
 ドアが開く音はしなかったし、閉じる音もなかった。
赤ペンを無くしたのに気付いたのは、3日ほど前にテストが帰ってきた時のことだった。

“ じゃあ、なんでいまさっき落ちた音がしたんだろう?”

忘れ物はいいとして、廊下にキン肉マン消しゴムが落ちてたら誰かが気付いて拾うくらいには人気だった。
教室に入る前は気付かなかったのに、教室を出たら気が付いた。
これは、上手く説明できないけどなんか嫌な予感がする。

“ 何か、おかしい!”

 俺は赤ペンと持ったままのキン肉マン消しゴムが急に怖くなり、一目散に階段を駆け下りた。
1階に着いた。

“ カシャン。”

目の前の廊下に赤ペンが落ちていた。
いや、落ちた。
今まさに。その音を聞いた。
 さっきと同じ赤ペンだった。
職員室の方に向かう廊下に落ちていた。
 その先は玄関があるが怖くなって、まだ日差しのあるグラウンドに繋がっている渡り廊下を反対方向に駆け出す。
ヒタヒタと、上履きのパカパカした足音とは違う音が階段から追ってくる。
 俺はキン肉マン消しゴムを真後ろに放り投げながら、グラウンドに飛び出した。

“ ボンッ。”

キン肉マン消しゴムが廊下の掲示板に当たって跳ね返る音がした。
 上履きのまま、グラウンドの土埃にまみれて校舎から大きく距離を取った。
そこにサッカーボールが転がって来て、

「 おーい、ボール蹴ってー。」

と、のんきな声が聞こえた。
 振り返りながら、上履きでボールを蹴り返す。
サッカーを切り上げて帰るところのようだった。
 一気に緊張が解けて、なんでか涙が出た。
耳鳴りは止んでいた。
 グラウンドから下駄箱に回り、靴に履き替えたが、結局汚れた上履きごと持って帰った。
帰り際に土足のまま廊下を恐る恐る覗いたが、赤ペンは見当たらなかったし、キン肉マン消しゴムも見当たらなかった。
そういえば壁に当たった音はしたのに、落ちた音はしなかった。
それ以来、たとえ敷地内で見かけても、落し物は拾わなくなった。











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