大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 7月24日 白い獣

2016-07-24 18:22:42 | B,日々の恐怖




  日々の恐怖 7月24日 白い獣




 外人のジョンから聞いた話です。
友人のジョンは信仰心の強い南部生まれで、ジョンの実家も当然熱心なキリスト教徒だった。
だから、週に一度の礼拝は家族みんなで行き、欠かしたことがない。
 でもジョンだけはこの礼拝が苦手だった。
何故かというと、上の方から見られてる感じがするからだ。
 教会の天井よりもっとずっと上、えらい高いとこから誰かがこっちをじいっと見てるのがわかる。
それもえらく威圧的で厳しくて、見張られてるように感じてやたら緊張したそうだ。
 やたら厳しい教師とか警官とかに、じっと見つめられてる居心地の悪さを10倍にしたくらいの視線が、終始上から降り注いできて、恐くて恐くてたまらない。
 両親に相談もして、カウンセラーなんかにも通ったけど効果無し、大きくなってもまだ感じる。
必然的に教会から足が遠のいて、逃げるように故郷を出て、無神論者みたく振る舞ってきた。
 そんなジョンが仕事の都合で日本にやってきた。
早めに打ち合わせも終わって、時間が空いたのでせっかくだからと近所を散策したら、緑に囲まれた公園らしい場所がある。
湿気の多い日本の夏に大汗をかきながら、一休みしようと目に付いた木陰のベンチに腰を下ろす。
 すると、ふっと涼しい風が吹いてきた。

“ ああ気持ちいいな・・・。”

と目を閉じた瞬間、感じたそうだ。

“ 横に、何かがいる・・・。”

なにかでっかくて、ゆったりと呼吸している動物みたいな気配を感じる。
 こちらを意識しているらしいけど視線を向けるでもなく、のんびりと寝そべっているようなリラックスした気配がする。
 ジョンが言うには、すごくでっかい犬を連想したらしい。
教会の上にいたものと、似てるけど異なるなにかだった。
あっちは同じ場所にいるとじっとり汗が出てくるほど緊張するのに、こっちのなにかはえらくのんびりしていて、まったく恐く感じない。
 自分を睨んでくるでもなく、ただ横にいて、

“ 暑いだろ。まあ休んで行けよ。”

とばかりに涼しい風がそっちから吹いてくる。
 アッという間に汗が引いて、目を開けると、そこには小さな建物があった。
建物の左右に石で出来たトーテムが建ってて、白い獣がこっちを向いていた。
 そう、それは御稲荷様の神社だった。
ジョンはもう青天の霹靂みたいな気持ちで、人生がひっくり返ったような衝撃を受けたそうだ。

「 冷たく厳しく睨んでくるヤツばっかりだと思ってたら、優しくのんびり寄り添ってくれるものに出会った。
まるでお高く止まって無くて、よそ者の僕を昔から知ってる友人みたいに歓迎してくれたんだ。
そんなの好きにならずにいられないよ。」

 そう言うジョンは、それからほどなく再来日して、今は日本に住んでいる。
大きな休みが取れると、各地の神社仏閣を廻る。
まだ一度として、この国では厳しいものに会ったことが無いと言う話だった。













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