大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 1月16日 祠のこと(2)

2016-01-16 18:26:26 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月16日 祠のこと(2)



 Kは父に水を飲ませ、詳しく話を聞いた。
しかし、帰宅途中にバイクのハンドルが効かなくなり、草むらの中に突っ込んでから先の記憶が無いと語る。
居間の散らかり具合を見た父は、自分がやったことも忘れ、唖然としていたという。
 翌朝、休日だった事もあり、Kは父と二人で事故現場に赴いた。
そこは緩やかな弧を描く道で、事故を起こすような場所には思えなかったが、Kの心の中には変なものを見た時のような、じめじめとした嫌な気分が生じたそうだ。
 Kは、

「 おお、あったあった!」

と素っ頓狂な父の声に振り返った。
 しかし、目に入ったのはバイクを手にした父の姿だけではない。
バイクが転がっていた草むらの中には、地元の人々からも忘れ去られたような小さな祠が佇んでいた。
 それは祠本体と中の像がひとつの石材から彫り出された簡素な物だったが、像の部分はおぼろげでよく分からない形だった。
風雨に晒されて削り取られたというよりは、むしろ人為的に打ち砕かれたのではないかとも思える。
Kは祠の事を聞こうとしたが、父はバイクがカスリ傷で済んだことにご機嫌で、祠のことなど眼中にない様子だった。
 帰宅してからKが祠のことを祖母に尋ねると、

「 口にしちゃならん!」

と怒鳴られ、それ以上聞くに聞けない。

“ やはり、あの祠は何かあるらしい。”

そう思ったKは、日を改めてまた例の草むらに行ったものの、生い茂った草に阻まれてか、再び祠を目にすることは叶わなかったという。
 結局、事故と父の豹変、そして祠にどんな関連があったのか分からないまま、Kにいつもの日常が戻った。
 ちなみに、この事故から一年くらい経って、Kに父からバイクを譲ってやるという話があったが、祠と関わってしまったあのバイクには何となく乗りたくなかったそうで、Kは学校を卒業するまで、雑木林の先の明かりを目指して懸命にペダルを漕ぎ続けたのである。











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日々の恐怖 1月15日 祠のこと(1)

2016-01-15 18:18:30 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月15日 祠のこと(1)



 学生時代の友人にKというヤツがいた。
Kの家は鬱蒼と生い茂った雑木林の先にある山の中の一軒家で、遊びに行くのが少し怖かった記憶がある。
 実際にKは、家と街を結ぶ山道でいろいろと変なものを見たことがあるらしい。
視界の片隅に浮遊する生首のような物が見えたが、焦点をそちらに合わせると何も無いだとか、見慣れぬ子供たちから、獣の死骸に石をぶつけるのを誘われたりとか、まあ、いろいろである。
 そんなKが高校生の頃の話である。
野球部に在籍していた彼は毎日のように帰りが遅く、家に着くのは日が暮れてからであった。
街灯もまばらで、申し訳程度に舗装された頼りない道を、自転車のか細いライトを頼りに懸命にペダルを漕ぎ、風でざわめく雑木林を振り切ると、ようやく我が家の明かりが見えてきてホッと息をつけるのだという。
 しかしある晩、その明かりがKを出迎えてくれなかったことがあった。
いつもなら一家団欒の頃で、テレビでも見ながらご飯を食べているような時間である。
ところが今日に限っては、闇夜に家のシルエットが浮かび上がるだけで、にぎやかな声も聞こえない。
玄関は開いているが、ただいまの声に返答は無い。

“ 自分に内緒で外食にでも行ってるのか・・・?”

と、Kはかすかな不安を覆い隠しつつ、二階の部屋へと向う。

「 ・・・!!」

と声にならない声を出し、Kは後ろへ飛び跳ねて今にも階段から転げ落ちそうになった。
 誰もいないとばかり思っていたが、薄明かりを灯しただけの暗い部屋に祖母・母・妹が鎮座していたのである。
妹は先まで泣いていたようで母の膝の上で寝息を立てており、祖母は数珠を手に何やら経文を唱えている。
 何事かと髪の乱れた母に尋ねると、

“ 父の様子がおかしい・・・。”

と、よく分からない説明をした。
 恐る恐る居間へ忍び寄ると、そこには大酒をかっ喰らいイビキをかいている父の姿があった。
辺りには割れた瓶や、魚の骨や肉のパックが散乱し酷い有様だった。
それを父が生で食べたと思われた。

“ 勤め先で何か嫌な事でもあって荒れたのだろうか?”

とも思ったが、それにしては異様な光景である。
父を揺り起こすと、意外にもいつもと変わらぬ呑気な口調でお目覚めのご挨拶があった。










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日々の恐怖 1月14日 海に住むもの(3)

2016-01-14 19:06:15 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月14日 海に住むもの(3)



 親父はどう考えても飛び込んだ方が早いと思ったが、普段の冷静なJさんの様子が何かおかしく、鬼気迫るものがあったので、デッキにある備え付けの救助浮き輪を外し、Hさんめがけて投げつけた。
 上手く近くに着水した浮き輪をHさんが掴んだのを確認して、親父とJさんは浮き輪に結び付けてるロープを引っ張ったが、Hさんがこちらに向かって泳いでいるのに、何かに流されてるようで中々思うように引き上げられない。
しかも、Hさんの周りの波の動きが妙な感じで、なにかが泳ぎまわってるようだった。
 Jさんは引っ張りながら大声でヨットの中で寝てる友人二人を呼び、起きたばかりで状況のいまいちわかってないながらも親父とJさんの作業を手伝い、大の男4人掛りで何とか引き上げに成功した。
 親父が、

「 大丈夫ですか!?」

とHさんに呼びかけると、肩で息をしていたHさんが、

「 出すぞ!!!」

と周囲に響き渡るような大声を上げた。
 それが合図になったかのかJさんは物凄い勢いで係留ロープを外し、ほぼ同時にHさんがエンジンをかけて、普段のHさんからは想像もできない荒い操縦でヨットは桟橋から離れた。
親父にはHさんを引き上げたあたりからずっと、

「 ンゥゥゥゥ~ゥゥン~ゥゥン・・・・・。」

と牛蛙の鳴声のような男の鼻歌のような声が聞こえおり、入り江から出た後もずっと聞こえていた。
 操縦しているHさんの様子も明らかにおかしく、ただ事ではない事態に巻き込まれたのは間違いない。
Hさんに何があったのか問いただそうとすると、Jさんが、

「 あかん・・・、追ってきてますわ・・・。」

と震えながら言う。
 JさんはHさんが落ちた時に、その周囲には人間の子供ぐらい大きさのの異様に白い何かが複数見えたそうだ。
親父が飛び込もうとした時にそいつらは一斉にJさん、親父の方を向いたが、ライトの光を反射とかそういうレベルじゃなく目が真っ赤に光っていた。

「 今は見えないが、気配だけは島から離れた今もずっと付いてきている気がする。」

 親父が妙な声が聞こえるかと尋ねると、無言で首を縦に振った。
Jさんの友人2人も声は聞こえているらしく、Jさんの話を聞いて明らかに狼狽している。
 親父も肝が冷えて変な汗が止まらなかった。
Jさんが話し終わるとHさんが、

「 俺には見えんかったけどな。
タモの先を何かが引っ張りよったせいで落ちた。
気がついたら海の中で、浮き上がろうとすると、見えんけど何かが足首や腕にしがみついてきた。」

と苦い顔をして言った。
 親父やJさんの友人2人も、Hさん、Jさんが冗談を言ってる様には見えず、もう島からはかなり離れており、航路はとりあえず出発した港に向かっているが、妙な声がまだ聞こえる。
 数分とも数時間とも時間感覚がないまま全員沈黙していたが、ふと考えが親父の頭をよぎった。
その時なぜそんなことを思いついたのかわからないが、捕まえてバケツに入れていたイカを海に逃がそうと思ったらしい。
 親父が心の中で、

“ 勝手に捕ってすまんかった、許してくれ。”

と念じながらイカを海に逃がしてやると、しばらくしてずっと続いていた妙な声が急に聞こえなくなった。
全員が同じタイミングで聞こえなくなったらしく、皆で顔を見合わせて変な笑いが出た。
 その後、深夜過ぎに出発した地元のヨットハーバーに到着し、近くの24時間やってる健康ランドに全員なだれ込んで、風呂に入ってようやく生きた心地になった。
 その時にHさんが、

「 これ、見てみ・・・・。」

と皆に肩や腕を見せてくれたが、3本爪で引っかいたようなミミズ腫れがいたるところにできており、あらためて皆ゾッとしたと言うことだった。











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しづめばこ 1月13日 P416

2016-01-13 22:34:25 | C,しづめばこ


しづめばこ 1月13日 P416  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。
小説“しづめばこ”




大峰正楓の小説書庫です。
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日々の恐怖 1月12日 海に住むもの(2)

2016-01-12 12:07:22 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月12日 海に住むもの(2)



 島について湾内に入っても全く船が泊まっておらず、どうやら海の家もやっていないようだった。

「 あー、まだシーズンやなかったか・・・。」

とHさんはかなり残念そうだったが、せっかくなので皆で釣りして、釣った魚で宴会しようという流れになった。
 皆で誰もいない島でそれぞれ適当なポイント探して釣り始めると、これが今まで一番の爆釣れ状態。
うちの親父は堪え性がない性格で、全くと言っていいほど釣りに向いてない人間でセンスもゼロだが、そんな親父でもそこそこ釣れるほどで、3時間ほど釣ればクーラーボックスいっぱいになるほどだった。
 15時か16時ぐらいに、ちょっと早目の夕飯を食ってから出航しようという流れとなり、皆が釣った魚を大量に使って豪勢な夕食を作り宴会となった。
 皆で酒を飲みながらヨットや釣りの話、仕事や家庭、子供の話で大いに盛り上がったが、酒好きだがそこまで強くない親父は途中からウトウトしてしまったらしく、ハッと気がつくと、高かった日が落ちて僅かに水際が光ってるぐらいになっていた。

“ しまった!”

と飛び起きて見回すと、Hさん、Jさんがデッキに拵えたテーブルにグラスを持ったまま突っ伏して寝てる状態で、Jさんの友人2人は船内に入って寝ているようだった。
 全員が酔って寝てしまっている状態に親父は苦笑して、

“ とりあえずHさん、Jさんを起こして帰り支度するか・・・。”

と思い、立ち上がって寝てる二人を揺り起こそうとした時、ヨットの船尾からバシャ、バシャ、バシャと派手な水しぶきが上がった。
驚いた親父が船上から覗いてみると、暗いのでよくわからんが、恐らく魚が群れて跳ね回ってるようだった。
 小型のライトをつけて照らして確認すると、イカの群れだということがわかった。
かなり近い位置でバシャバシャやってるから、備え付けてあるタモで掬えるんじゃないかと思い、船尾に降りてダメ元で群れにタモを突っ込んでみるとすごい重い手ごたえで、引き上げてみると5匹ぐらいイカが入っている。
 親父が思わず、

「 おおっ!」

と驚きの声をあげると、Hさん、Jさんも目が覚めたようで、船尾から上がってデッキでドタドタやってる親父のところに寄ってきた。
 親父が海水を汲んだバケツにイカを入れなが事情を説明すると、Hさんは、

「 じゃあ、ワシもやってみるわ。」

と言い、タモ持って船尾に降りて行った。
 親父とJさんが、

「 アオリイカかな?」

などとイカについて喋ってると、

“ ドボン!”

と大きな水音がした。

“ まさか!”

と思い船尾を見るとHさんの姿がなく、バシャバシャやってたイカの群れも消えている。

“ これは身を乗り出しすぎて落ちたな・・・。”

と思いながらも親父は、Hさんは泳ぎも上手く、波もまったく無いので、すぐに浮き上がって泳いで帰ってくるだろうと思い楽観していたが、Hさんが浮かび上がってきたのはなぜかヨットから5m近くも離れた場所で、しかも懸命にもがいていた。
 溺れたHさんを助けようと親父が反射的に海に飛び込もうとすると、Jさんがすごい力で親父の腕を押さえつけて、怖い顔で、

「 救命用の浮き輪を投げて引っ張りましょう!」

と言う。










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日々の恐怖 1月11日 海に住むもの(1)

2016-01-11 17:52:07 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月11日 海に住むもの(1)



 親父が酒の席で怖い話となると毎回話す体験談がひとつある。
今から25年ほど前、親父が30代前半の頃の話だ。
 親父はヨットが趣味なんだが、当時はまだ自分のヨットを持っておらず、友人のヨットに乗せてもらうのが休日の楽しみだった。
ゴールデンウィークで1週間以上仕事が休みになり、

“ 海に出たいな~。”

と思っていたら、タイミングよく会社のヨット仲間のHさんがクルージングに誘ってきた。
 Hさんはかなりの上役で、部署も違うし年齢も50代と親父とはかなり離れているが、趣味が同じで気も合うので、しょっちゅう一緒に飲みに行く仲だった。
自前のウン百万もする大きなヨットを持っており、当時は俺の家と家族ぐるみで付き合いがあったので、クルージングに誘われて一家で同行することもたびたびあった。
 Hさんの誘いは、家族と一緒にちょっと遠出のクルージングに来ないかとのものだったが、あいにく俺とオカンは、オカンの友人一家とキャンプに行く予定があり、家族全員での参加は日程的に難しかった。
 Hさんの家族も用事で参加できないらしく、親父とHさんが、

「 さすがに男2人だけで行くのもつまらんしなぁ~。」

などと話し合っていると、親父の後輩でヨット仲間の一人のJさんが、

「 よかったら、友人と参加してもいいですか・・。」

と会話に入ってきた。
 Jさんは高校時代からヨットをやっており、社会人になってすぐにローン組んで自分のヨットを購入した筋金入りのヨット好きだが、活動がレース中心の人で、ぶらぶらとクルージングしてるのが好きな親父達とはあまり一緒に活動することがない。
ただ、ちょうど友人2人に海釣りをやりたいから船出してくれと頼まれて、困っていた所とのことだった。
 Jさんの所有しているヨットは、レース用の少人数が乗ることを想定した小型のもので、あまり快適とは言い難いし、素人2人連れて自分一人が操縦するとなると正直疲れるので、便乗させてもらえるなら是非とも便乗させて欲しいと頼み込んできた。
 Hさんは、

「 どうせ他に行く人間もいないんだから、気にせず連れて来い。」

と快諾し、早速3人でスケジュールを練り、最終的な目的地は小豆島で、道中Hさんが知っている釣りポイントに寄り道するという感じで航路を決め、酒とつまみ大量に買い込んで出航となった。
 クルージング中の天気は週間予報でも快晴続きで、雨の心配は全く無い絶好の航海日和で、釣りも絶好調で、ヨット航行中はトローリングでハマチとかが面白いように釣れ、Hさんの知っていたポイントでも大漁で、Jさんの友人二人も大喜びだった。
 そんなこんなで若干予定よりも早く最終目的地の小豆島に着き、2日ほど観光したり釣りしたりして過ごしたが、皆疲れがたまってきたので、予定よりも1日早く帰途につくこととなった。
 まっすぐ帰る予定であったが、順調に進んで来ているし予定よりもかなり早い帰りになってしまったので、以前にHさん一家と俺の一家で行った小さな島に寄ってみようという話になった。
 俺の記憶だと海の家が2軒ほどあるだけの島だが、停泊できる桟橋もしっかりしており、入り江の水も澄んでいる綺麗なところだった。








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日々の恐怖 1月10日 岐阜の山道(2)

2016-01-10 19:11:19 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月10日 岐阜の山道(2)



 昨年の夏、バイクでツーリングに行った。(岐阜の山道(1)のさらに5年前)
三人で飛騨高山の山道をのんびり流して、休憩所の小屋みたいなのがあったのでそこで休んだ。
誰もいなかったのでAがベンチに横になり少し寝かせろと言った。
 俺とBは景色を見に遊歩道に進み、滝がある所に出たので、そこに30分くらいいた。
黒い雲が出てきたので降るかも知れない、すぐ出発しようと小屋に戻る。
 Aが爆睡してたので、揺さ振って起こそうとするも起きない。
とうとう雷雨になってしまいそこで雨宿りする事になった。
 Bと談笑してると傘をさした夫婦が入ってきた。
Bが、

「 こんにちは、災難ですね。」

と話かけると旦那が、

「 ええ、ほんとに。」

と応えた。
 俺とBが話をしている間、その夫婦はずっと黙ったまま、寝てるAのほうを見ていた。
気味が悪いので、それ以上見ないようにしていた。
 大きい雷がどこかに落ちて、俺とBがビクッとした。
突然、Aがむくっと起き上がってこう言った。

A「 今の顔、見たか?」

何言ってるかわからず見回すと夫婦がいない。
Bが慌てて外に出ると、俺たちの三台のバイクしかない。

A「 もう大丈夫かな。
寝てたら、ヤバそうなの来た気配がして起きた。
ずっと見られてたから寝たふりしてた。」
B「 俺、話かけちゃったよ。」
A「 災難ですね、だろ。
ヤツはええ、ほんとに、と答えたよな。
あれ、お前のことを言ってたんだよ。」

Bはかなりビビッてたが、

A「 大丈夫、俺、時々こんな体験するから寝た振りしながら、どっか行けって念送ってた。」










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日々の恐怖 1月9日 岐阜の山道(1)

2016-01-09 18:15:15 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月9日 岐阜の山道(1)



 3年くらい前の夏、ツーリングで岐阜の山の中走ってたときのことです。
それまで晴れてたんだけど急にポツポツ降りだして来て、たまたま休憩所というか駐車場みたいな場所があったから、休憩がてらに寄った。
 そこは駐車場とトイレと、休憩所みたいな木製の屋根とテーブルとベンチがある場所があった。
 トイレで用を足していたら雨が凄くなってきて雷も鳴り出して、いつ雨が止むかわからないし、レインコートを着て様子を見ようと思った。
着替えるのにテーブルの上に荷物を置いてごそごそレインコート取り出して、ふと見るとベンチに老夫婦が座ってた。

“ 今までいなかったのに、いつ来たんだ・・・?”

と思いながらも、雷雨がいつ止むのかのほうが俺には重要だった。
 着替えて5分くらい空を見てたんだけど、老夫婦はその間無言だった。
居心地が悪いし俺のほうから挨拶がてら、

「 急に降り出しましたね。」

と声をかけた。
 老夫婦は俺の言葉に、

「 ずっと降ってるよ。」

爺さんの声が聞こえた。

“ 今降り始めたばかりなのに、何言ってんだろ・・・・?”

と思ったけれど、顔合わせないように空を見ながら、

「 バイクだし、早く止んでくれないと帰れないんですよ。」

と返した。
 すると爺さんは2秒くらい間をあけて、

「 そうだね、可哀想に帰れないね。」

と言った。
 そこで、

“ アレ・・・・?”

と思って老夫婦のほうを見たらいない。
辺りを見回してもいない。

“ あ、これヤバイやつかも・・・。”

と思って立ち去ろうとしたら、遠くで怒鳴り声が聞こえたような気がした。
そこで、プツっと意識がなくなったんだけど、ハッと目が覚めたら、30代くらいのお兄さんが俺の肩を揺らして、

「 大丈夫か?大丈夫か?」

ってやってた。
 聞いたら、そのお兄さんがトイレから出てきたら、俺が柵を乗り超えて崖の下にダイブしそうになってたところを慌ててとめてくれたらしい。
時間からして、気を失ってたのはそう長くはなかったと思う。
 あれだけ降ってた雨もやんでいた。
というか、お兄さんが言うには雨なんか降ってなかったらしい。
でも、俺はレインコートを着てて、道路とかは確かに雨の痕跡はないんだけど、レインコートだけはびっしょり濡れていた。










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日々の恐怖 1月8日 駐車場の女(2)

2016-01-08 18:34:44 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月8日 駐車場の女(2)



 しばらくジッと身を屈めたあと、

“ もういいかな・・・?”

と見ると、女はいなくなっていたようです。
 その後は、もう無理と後部座席に移動し寝たそうです。

「 本当に見なかった?すげえヤバかったよ。」
「 そういえば、何か変な音したかも・・・。」
「 だろ?
なあ、車見た方がいいって!
手形とか、ついてんじゃねえかな?」

とか言い出したので、2人で車に行って見てみると、手形は全くなかったのですが、何とボンネットの先端辺りがペコッと小さく凹んでいました。

“ 何だ、これ・・・?”

と呆然としていると、後部を見ていた兄ちゃんが、

「 後ろにも傷がある!」

と言うので見ると、確かにエンブレムの上に、小石でもぶつけたかのような細いボコボコがありました。
 2人で、

「 何これ怖い・・・。」
「 どうしよう・・・。」

と話しといると、もう一台のトラックからおじさんが降りてきて俺らに歩みより、一言、

「 女の話だろ?」

と言いました。
 話を聞くと、おじさんも普通車が来たので珍しいなと思いつつウトウトしてたそうです。
しばらくして俺の車を見ると、女が窓の横に立っていて車の中を覗いていた。

“ どこから来たんだ・・・?”

と思い駐車場を見渡したけど、それらしい車は無く、

“ ああ、この車に乗ってたのか・・・・。”

と思ったそうです。
 おじさんは特に不気味とは思わず、ジーッと見ていたら、突然女がパッと横を向き、ツカツカともう一台のトラックの方に歩き始めたそうです。
そして、今度はトラックの前方に立ち、ジーッとフロントガラスを見上げ・・・・・。

「 いやいやいやいや・・・・・。」

ここまで聞いてメガネの兄ちゃんは顔面蒼白。
 俺が、

「 え?その人その後は?」

と聞くと、

「 気持ち悪くなって寝た。」

との事でした。
 俺は地元だけどそんなの初めて聞いたし、2人はよく利用してるけど初めて見たそうです。
ちなみに、

「 どんな人?」

って聞いたら、

「 髪が長くて、ガリガリの人でスカート履いてる。」

と。
 2人は、俺の知り合いじゃないか?とか言ってきましたが、まったく身に覚えもないです。
何が起こったのかすらわかりませんが、それから車中泊はしていません、板金代かかりますし。




 生きてる人の話だとして、こういう例はあるようです。
精神的に病んでしまった人が夜間の駐車場を彷徨って、運転手らに何かしらの因縁をつけて絡んでくる、あるいは反撃されて被害者になりたがる例があるのだと、警備の仕事をしている知人から聞いたことがあります。
 地元警察なんかだと常連として扱われるそうで、縄張りとして特定の幾つかの駐車場をウロツクそうで、カラオケ屋の駐車場なんて例もあるようです。
やはり気候が穏やかな時期の出没例が多いそうですが、本人も車やスクーターで移動しているので通報すると逃げてしまい、警察が来るまで身柄を抑えようとすると、逆に暴行を受けたと被害届けを出そうとする例もあり、極めて厄介なんだそうです。










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日々の恐怖 1月7日 駐車場の女(1)

2016-01-07 18:05:12 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月7日 駐車場の女(1)



 俺は、休みの前の日とか適当にブラーっと出掛けて車中泊をするという、他人から見たら何だそれっていう趣味がありました。
車中泊は警察に声かけられたり、若いヤツらに覗かれたりするので場所選びに結構悩みます。
 去年の夏頃、今日はどこで寝ようかなとブラブラ走っているとき、山奥に廃墟みたいになってる展望台があって、そこの駐車場でよくトラックの運ちゃんが寝てるのを思い出し、その場所にしようと車を走らせました。
 駐車場には、やはりトラックが2台止まっていました。
端っこに止まっているトラックと距離を置いて、駐車場の真ん中の街灯の下に停めました。
後部座席を倒し、その上に毛布を引いて眠くなるまで携帯をいじっていましたが、そのうちウトウトとし始め、眠りにつきました。
 しばらくしてパッと目を覚まし、喉が渇いたので前座席にあったバッグから飲み物を取り出そうと起き上がると同時に、急に後ろの方からコツンみたいな小石がぶつかるような音がしました。
 反射的に後ろを見ると、特に何にもなく、

“ 虫かな・・・?”

と思いそのままジュース飲んで寝ました。


 翌朝4時半頃、目が覚めトイレ行きたいなと車から降りました。
古い展望台、外にトイレは無く仕方なく建物の後ろで立ちションをしていると、トラックのドアをバンと閉める音がしました。
 丁度、立ちションも終え、

“ トラックの人、起きたのかな?”

なんて思いながら車に戻ろうとすると、前からトラックから出てきたであろう、同じ年頃のメガネの兄ちゃんが、

「 昨日、寝れなかったんじゃね?怖かったろ?」

と話しかけて来ました。
 俺は何のことかわからず、

「 ん?何が?」

と返すと、

「 あれ?気付いてねえの?」

と驚いています。
 それからその兄ちゃんが話してくれたことなのですが、兄ちゃんがトラックでDVDを見ていると、俺がやってきて駐車場の真ん中に停めた、

“ 普通車が珍しいな、カップルか?”

なんて思いながらDVD見てたそうです。
 DVDを見終わり寝ようかなと思い後部座席に行こうとした時に、何気なく俺の車を見ると、車のボンネットの前に女が立っていたそうです。

“ 彼女か?何してんだ?”

と思いつつよく見て見ると、ボンネットに手をついて車を抑える感じで立っていて、何か気持ち悪いなと思ったそうです。
 そのまま、

“ 嫌なもん見たなあ・・・・。”

と思いつつ後部座席に移動し寝ようとしたのですが、妙に気になってまた俺の車を見てみると、今度は運転席の窓の横に女が移動していて、また抑えるように窓に手を突き出していたそうです。

“ うわあ!気持ち悪いな・・・。”

と思い、一瞬目を離した隙に今度は助手席側に。

“ これはマズイ!ヤバイ!”

とゾッとしながらジーッと見ていると、女が一瞬兄ちゃん側に頭をグイっと動かしたので、慌てて身を屈めたそうです。











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日々の恐怖 1月6日 古い神社

2016-01-06 18:02:26 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月6日 古い神社



 俺は昔からずっと夢でみる光景がある。
橋の向こうに一本道がある。
その向こうには古い神社。
歩くと足元の砂利が気持ちイイ音をたてる。
木でできた鳥居。
人気の無い神社に砂利の音と川が流れる音が聞こえて、そこにいると何故か幸せな気分になった。
ある程度大きくなると、多分自分の不安がそういう夢にあらわれるんだろう、と分析するようになった。
 俺は赤ちゃんの頃に両親が離婚し、父親に引き取られた。
生後6ヶ月で離婚だったので、1ヶ月違いで生まれた従妹の母親(俺からみると叔母)に育てられた。
父は酒飲んでは暴れるんだが、田舎で長男だったせいか誰も文句言わなくて、俺も小さい頃から殴られる蹴られるは当たり前、酒瓶で殴られたりしたこともあった。
見たこともない景色は、誰か庇護者を求める自分が描き出したもので、神社にそれを求めているんだろうと分析した。
 ところが、俺が社会人になってすぐ叔母から母が亡くなったと連絡があった。
親父は連絡するなと言っていたらしいけど、叔母が教えてくれた。
葬式は終わったようだけど、とりあえず母を知る機会だと思い、母の生まれ故郷である東北のある村へいった。
 そこで初めて母の写真を見たが、全然何も思わなかった。
祖母とも会ったけど、懐かしいとも思わず、何故かがっかりした。
一目みて、これが母さん・・、みたいな展開を軽く期待したからだ。
でも、残念ながらそういうドラマみたいなことは起きなかった。
 その日はそこに泊まることになった。
祖母に誘われて近所に散歩に出かけた時、そこで見たことのある景色を見かけた。
川があってその向こうに一本伸びる道。
そこを辿っていくと夢で何度も見た神社があった。
 祖母に聞くと、母は初めての出産ということでここに戻ってきて俺を生み、よくこの神社へも散歩にきていた、ということらしい。
俺がそこの村にいたのは生後2ヶ月目までで、それ以後一度もいったことはない。
6ヶ月には親が離婚していたし、写真も全部親父が捨てた。
 そもそも、2ヶ月というと多分目もそんなにはっきり見えているわけでもないと思うから、どうやってあの神社のことを記憶していたのかもわからない。
でも、そこを歩くと聞き覚えのある砂利の音がして、川の流れる音が聞こえ、目の前には古ぼけた神社がどっしり構えていた。
母の写真や祖母の顔を見ても懐かしいと思わなかったのに、何故かその神社を歩きながらボロボロ泣いてしまった。










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しづめばこ 1月5日 P415

2016-01-05 19:47:43 | C,しづめばこ


しづめばこ 1月5日 P415  、大峰正楓の小説書庫で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。
小説“しづめばこ”




大峰正楓の小説書庫です。
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日々の恐怖 1月4日 画用紙の眼

2016-01-04 20:11:47 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月4日 画用紙の眼



 俺の家は二世帯住宅で、下に父方のじいちゃんばあちゃんが住んでいる。
小学校の頃なんかは、帰ったら二人に今日あったことなんかをずっと話してたもんだけど、大学生とかになると家に帰らなかったり、すぐに二階の自分の部屋に籠っちゃったりで、2、3日か、下手すると5日くらい二人と会わない状態が続いた。
 それで、大学4回の時に初めて内定を貰って、久し振りに二人と腰据えて話そうかと思った。
何かとめでたいときは理由付けてお小遣い貰ってたから。

“ 炬燵入ってテレビ見てるじいちゃんとこ行って・・・・。”

と、ここでふと違和感に気付いた。
テレビ台のガラス扉の裏側、そこにでっかい眼が画用紙に描かれて貼ってある。
その時はそれについて話すタイミングを失ったけど、まじで異様過ぎて触れられ無かった。

“ 二人ともカルトにハマるような人でもないし・・・・。”

と、暫くは見なかったことにしてたんだが、そのうちこの眼の絵が一階の至るところに出てくるようになった。
じいちゃんの枕元や洗面所、テーブル敷きの下とか。
 実害は無いのに言い知れぬ恐怖を感じた。
それで、たまたま早く帰れたある日、じいちゃんがカレンダーの裏にでかい眼を描いてた。
 俺は意を決して、

「 何してるんだ・・・・?」

と聞いた。
すると、

「 目薬さすのを忘れないように・・・。」

一気に肩の力が抜けた。
 多分皆、

“ バカじゃねーの・・・。”

とか思うだろうけど、当時は本当に怖かった。
因みにこの習慣は、遊びに来た姪がどうしても泣くのでやめたらしい。










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日々の恐怖 1月3日 土蔵の中

2016-01-03 19:26:38 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月3日 土蔵の中



 母方の祖母から聞いた話である。
何十年も前のことだ。
 その日、祖母は珍しく夜更けにふと目が覚めたそうだ。
喉が渇いたので、水を飲もうと台所の灯りをつけたところ、台所から続いている土間の方から、

「 スミマセン、スミマセン。」

と声が聞こえた。
おそるおそる土間の様子を伺うと、どうやら土間の先から繋がっている土蔵の中に誰かがいるらしい。
 声の調子から女性のようだが、蔵の扉には外から閂がかかっているし、扉以外には人が入れるような窓も無い。
祖父を起こそうとも考えたが、一度寝付いたらなかなか起きない人だった。
 相手は女性のようなので、危険はないだろうと思い、祖母は取り敢えず、

「 どなたですか?」

と声をかけてみた。
そうすると、蔵からは早口な喋り方で、

「 コチラに迷い込んでしまって、出るに出られなくなってしまいました。」

と聞こえた。
 これは不思議だ。
どうやって入ったのかと問うても、

「 ナンマンダ、ナンマンダ。」

と繰り返すばかり。
祖母はかわいそうに思い、出してやろうと閂を上げようとした。
 しかし、閂は何故だか動かない。
普段は1人で上げ下げしているのに、その日は重石をかけたように動かなかったのだという。
 仕方が無いので、

「 私の力では開きませんので、お父さんを呼んできます。」

と伝えると、

「 それには及びません。
空が白んでまいりましたので、元来た道を探します。」

と聞こえた後に、

“ バタン!バン!”

と扉を開け閉めするような音がして、その後の倉は静まりかえるだけだった。
 祖母が翌朝に目が覚めた時には、あれは夢か幻かじゃないかと思ったそうだ。
しかし、祖父にその事を伝えると、

「 お前さんは狐にからかわれたんだよ!ガハハ!」

と笑った。
 なんでも、早口であったり無闇に姿を見せないのは、狐が化けた時の特徴なんだそうな。
家の裏手は小川が流れる森となっており、当時は狐やムジナ、狸やらがいたらしい。
 しかし、祖父には、

「 待てよ、ただの狐に仏教は分からんかも知れんな。」

と思うところがあったらしく、蔵の中をくまなく調べてみたところ、床板の下にそれは大きな木箱が埋まっていることに気付いた。
 木箱を掘り起こし、恐る恐る開けてみると、中にはさらに黒々と輝く立派な扉だった。

「 仏壇だ!」

蔵にはそれは立派な仏壇が埋まっていたのだ。
 仏間には仏壇を置くための2畳ほどの小部屋があったのだが、置いてある仏壇の大きさに対して置き場が大きすぎた。
 掘り返された仏壇は、誂えたように仏間の小部屋に収まった。

「 もともと、これを置くための部屋だったんだな。」

祖父はそう言った。
 古来から何度か戦火に見舞われた土地であったため、家財である立派な仏壇を隠しておいたまま、いつしか忘れられてしまったのだろう。
 それ以降、母方の実家では、裏手の小川のほとりに稲荷の祠を立て、奉っている。
とある大きな地震に遭った際、土蔵も、そこから見つかった立派な仏壇も潰れてしまったが、幸い家中に怪我人は出なかった。

「 お稲荷様のおかげだろうて・・・・・。」

とは、当時存命であった祖母の言だ。
 祖父も祖母も既に他界してしまい、事の真偽は確かめようがない。
しかし、稲荷の祠は新調され、今でも家を見守っている。












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日々の恐怖 1月2日 犬の行方

2016-01-02 19:05:43 | B,日々の恐怖



  日々の恐怖 1月2日 犬の行方



 都内に住むMさんの話です。
以前、祖母の家に数年程度住まわせてもらっていた時期がある。
祖母はかなり元気でいろんな活動をしていたし、オレは気楽な大学生だったので、オレにとってはとてもいい環境だった。(祖母には負担だったのかな)
 都心からはそう離れていない場所だったけど、最寄駅からかなり遠くて周囲は畑や雑木林も多かった。
その家では色々あったけど、その内の一つです。
 隣の家には老夫婦が住んでいたのだが、この夫婦は近所で有名なくらいに仲が悪い。(仮に田中さん)
田中の婆ちゃんは爺ちゃんそっちのけで近所付き合いをして、飼い犬をかわいがっていた。
オレの祖母と田中の婆ちゃんは昔から仲が良く、特に田中さんが、元気で活動的な祖母に対し、多少依存的な面があったようだ。
 しかし、オレが祖母宅に居候を始めた頃には、田中の婆ちゃんは少しずつボケ初めていたらしい。
ボケは始まっているが、調子が良い時はそれなりに元気で話も通じる、といった具合だったようだ。
 ボケと共に少しずつ足腰も弱ってきていたようで、犬の散歩が満足に出来なくなったのだろう。
爺ちゃんが、たまに犬を散歩させていた。
爺ちゃんは、自分が飼いたくて飼ってるワケでもない犬の散歩などイヤでイヤで仕方なかったのだと思う。 
 近所の人達が色々と目撃していた事がある。
人気の少ない道で爺ちゃんが、犬にタバコの煙を吹きかけてたとか、蹴っ飛ばしてたとか、噂がすぐに広まった。
 おそらくそれらの噂は当たらずとも遠からずだったと思う。
なにしろ犬がストレスで完全におかしくなっていった。
以前はおとなしい犬だったが、もう吠えっぱなし。吠え方もひどいし、相当イカレてたと思う。(それでも爺ちゃんに噛みつかなかったみたい)
 しかし、ある日忽然とその犬がいなくなった。
当然、近所では、

「 田中さんのご主人、犬が厄介になって首輪外しちゃったのね。」
「 犬が自力で逃げたのかしら?」

といった噂が飛び交った。
犬は確かに可哀そうだったが、うるさくてたまらなかったので、オレは内心ホッとしていた。
 その後、田中さん夫婦は息子さん夫婦と同居する事に決まり、そこから引っ越すことになった。
 最期の挨拶に来た時の事を、祖母から後で聞いた。
オレの祖母を好いていた田中の婆ちゃんは、さよならの挨拶ついでに、こんな内容の事を言ったそうだ。

「 犬はね、私が逃がしてやったのよ。
あんな爺さんに任せてたら可哀そうだからね。
あの子がいなくなりゃ、爺さんは犬が嫌いで捨てちゃったって、薄情だって、みんなに思われるでしょ。
いい気味だわ。」

といった感じ。
 ただ、田中の婆ちゃんはボケ始めていたので、そこまでの気が回ったかどうか。
もしかすると、逃がしたのは爺ちゃんで、犬がいなくなった状況から、婆ちゃんが妄想・願望などで脳内構築した作り話(本人は事実だと思ってる)かもしれない。
そう考えてみたが、どちらにしろ救いがない。
 しかし、もし爺ちゃんが犬を逃がしたのなら、婆ちゃんは責めるだろうし、近所に言いふらすように思うから、やはり逃がしたのは婆ちゃん自身だろうか。
痴呆が少し進行した時の思考や精神状態は分からないけど、正気と非正気の入り混じった状況においてさえ、夫への嫌悪だけは強烈に残っていて、行動・思考に影響を与えているのは、何ともと切ないなと思った。











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