極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

フライドキャツフィシュサンド

2017年04月13日 | 創作料理

 

 

          大道は称あらず、大弁は言わず、大仁は仁ならず、大廉は賺(れん)
          ならず、大勇は忮(さか)らわず―知の限界を悟ることこそ真の知

                            「斉物論」(さいぶつろん)     

                                                

      ※ 真の「道」は、概念では把握できない。真の認識は、ことばでは表現できない。
       真の愛には、愛す
るという意識をともなわない。真の廉潔は、廉潔であろうと努
       めない。真の勇は、他者と争わない。
「道」は、道であると判断された時、「道」
             ではなくなる。ことは(概念)は成立した時、事物の実相から離れる。愛は、特
             定の対象に向けられた時、愛ではなくなる。廉潔は、意識的に行なわれれば偽り
             になる。勇を頼んでひとと争う時、勇は勇でなくなる。

     ※ 
つまり、人間にとって最高の知とは、知の限界を悟ることだといえる。それにしても、この
                    「不知の知」を体得することは、なんという至難のわざであろうか。もしこれを体得したも
             のがいたとすれば、その知は無尽蔵な「天の庫(くら)」にたとえることができ
       よう。いっさいを受
容し、事物とともに推移して、しかもなぜそうなるのか意識
             しない、これこそ、明であることを意識しない明のであると解説する。

         ※ このように禅問答のような荘子の不可知論は難解ゆえ、二千年に一人の思想家な
       のかと思わせる傍ら滑稽さが残る。また、特権的な視点を設定しない内在的な相
       対主義と評されていることも納得できる。社会が複雑化し息苦しさを増し続ける
       現代、「荘子」を読み解くことで、様々なしがらみから抜け出し自由になるヒン
       トや、あるがままを受け容れ伸びやかに生を謳歌する方法として取り上げられて
             いる。




     

 読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅰ部』  

   13.それは今のところただの仮説に過ぎません

  それは彼が彼女とのあいだでこれまで経験したどのようなセックスとも、まったく追っていた。
 そこには温かさと冷ややかさが、堅さと柔らかさが、そして受容と拒絶が同時に存在しているよ
 うだった。彼はそのような不思議に背反的な感触を特った。しかしそれが具体的に何を意味する
 のか、よく理解できなかった。彼女は彼の上にまたがって、小さなボートに乗った人が大波に揺
 られるみたいに、激しく上下に身体を動かしていた。肩までの黒い髪が、強風に煽られる柳の彼
 のようにしなやかに宙で揺れていた。抑制が夫われ、喘ぎ声も次第に大きくなった。オフィスの
 ドアをロックしたかどうか、免包には自信がなかった。したような気もするし、し忘れたような

 「避妊しなくてもいいの?」と彼は尋ねた。彼女は避妊に間しては普段からとても神経質だった。
 「大丈夫よ、今日は」と彼女は彼の耳元で囁くように言った。「あなたが心配することは何もな
 いの」

  彼女に間する何もかもが、普段とは追っていた。まるで彼女の中に眠っていた別の人格が突然
 目を覚まし、彼女の精神と身体をそっくり乗っ取ってしまったかのようだった。たぶん今日は彼
 女にとって何か特別な日なのだろうと彼は想像した。女性の身体に間しては男には理解できない
 ことがたくさんある。
  彼女の動きは時間を追ってますます大胆にダイナミックになっていった。彼女の求めることを
 妨げないようにする以外に、彼にできることは何ひとつなかった。そしてやがて最終的な段階が

 やってきた。彼が耐えきれずに射精をすると、それに合わせて彼女は異国の鳥のような声を短く
 いた。彼女は免色の唇に軽くキスをし、さあ、急いで行かなくてはと言った。既に通刻しちやっ
 ているから。そしてそのまま部屋を足早に出ていった。後ろを振り返りもしなかった。その歩き
 去っていくパンプスの靴音が彼の耳にまだ鮮やかに残っている。

  それが彼女に会った最後だった。その後一切の音信は途絶えた。彼がかけた電話にも、送った
 手紙にも返事はなかった。そしてそのニケ月後に彼女は結婚式を挙げた。というか、結婚をした
 という話を、彼は共通の知人からあとになって聞かされた。彼が結婚式に招待されなかったこと
 を、そればかりか彼女が結婚したということすら知らなかったことを、その知人はずいぶん不思
 議に思ったようだった。免色と彼女は仲の良い友人だと思われていたからだ(二人はとても注意
 深く交際していたので、恋愛関係にあることは誰にも知られていなかった)。彼女の結婚相手は
 免色の知らない男だった。名前を耳にしたこともない。彼女は自分が結婚するつもりでいること
 を免色には告げなかったし、匂わせもしなかった。彼の前からただ黙って去っていったのだ。

  あのとき彼のオフィスのソファの上でもたれた激しい抱擁はたぶん、これが最後と訣めた別れ
 の愛の行為だったのだ、と免色は悟った。免瓦はそのときのことを、あとになって何度も繰り返
 し思い返した。その記憶は長い歳月が経返したあとでも、驚くほど鮮明であり、克明だった。ソ
 ファの軋みや、彼女の髪の揺れ方や、耳元にかかる彼女の熱い息をそのまま再現することができ
 た。
  それでは免色は、彼女を失ってしまったことを悔やんでいるだろうか? もちろん悔やんでは
 いない。あとになって何かを後悔するようなタイプの人ではないのだ。自分は家庭生活に適した
 人間ではない――そのことは免色にもよくわかっていた。どれほど愛する相手であれ、他人と日
 常生活を共にできるわけがない。彼は日々孤独な集中力を必要としたし、その集中力が誰かの存
 在によって乱されることが我慢できなかった。誰かと生活を共にしたら、いつかその相手のこと
 を憎むようになるかもしれない。それが親であれ、妻であれ、子供であれ。彼はそのことを何よ
 り恐れた。彼は誰かを愛することを恐れたのではない。むしろ誰かを憎むことを恐れたのだ。

  それでも彼が彼女を深く愛していたことに変わりはなかった。これまで彼女以上に愛した女性
 はいなかったし、たぶんこれから先も出てこないだろう。「私の中には今でも、彼女のためだけ
 の特別な場所があります。とても具体的な場所です。神殿と呼んでもいいかもしれません」と免
 色は言った。

  神殿? それは私にはいささか奇妙な言葉の選択のように思えた。しかしそれがたぶん免色に
 とっての正しい言葉なのだろう。
  免色はそこで話をやめた。細部までとても詳しく具体的に、彼はその個人的な出来事を私に語
 ったわけだが、そこにはセクシュアルな響きはほとんど聴き取れなかった。まるで純粋に医学的
 な報告書を、目の前で朗読されているような印象を私は持った。というか、実際にそのようなも
 のだったのだろう。

 「結婚式の七ケ月後に、彼女は東京の病院で無事に女の子を出産しました」と免色は続けた。
 「今から十三年前のことです。その出産のことも実を言えば、私はずっと後になって人から間い
 て知ったのですが」
  免色は空っぽになったコーヒーカップの内側をしばらく見下ろしていた。まるでそこに温かい
 中身がたっぷり入っていた時代を懐かしんでいるみたいに。
 「そしてその子供は、ひょっとしたら私の子供かもしれないのです」と免色は絞り出すように言
 った。そして個人的意見を求めるように私の顔を見た。

  彼が何を言わんとしているのか、それが呑み込めるまでに少し時間がかかった。

 「時期的には合っているのですね?」と私は尋ねた。
 「そうです。時期的にはぴたりと符合しています。私のオフィスで彼女と会ったその日から、九
 ケ月後にその子供が誕生しています。彼女は結婚する直前、おそらく受胎がもっとも可能な日を
 選んで私のところにやってきて、私の精子を――なんと言えばいいのだろう――意図的に収集し
 ていったのです。それが私の抱いている仮説です。私と結婚することは最初から期待していなか
 ったけれど、私の子供を産むことを彼女は決意していた。そういうことではなかったかど」 
 「でも確証はない」と私は言った。
 「ええ、もちろん確証はありません。それは今のところただの仮説に過ぎません。しかし根拠の
 ようなものはあります」
 「でもそれは彼女にとって、ずいぶん危険な試みですよ」と私は指摘した。「もし血液型が違っ
 ていれば、あとになって父親が違うとわかってしまうかもしれない。そんな危険をあえて冒すで
 しょうか?」
 「私の血液型はA型です。日本人の多くはA型だし、彼女もたしかA型です。なんらかの理由が
 あって本格的なDNAの検査をしない限り、秘密が露見する可能性はかなり低いはずです。彼女
 にはそれくらいの計算はできます」
 「しかしその一方で、その女の子の生物学的父親があなたであるかどうかということも、正式な
 DNAの検査をしないかぎり判明しない。そうですね? あるいは母親に直接尋ねてみるか」
 免色は首を振った。「母親に尋ねることはもはや不可能です。彼女は七年前に亡くなりました」
 「お気の毒です。まだお若いのに」と私は言った。

 「山の中を散歩しているときに、何匹ものスズメバチに刺されて死にました。もともとがアレル
 ギー体質で、蜂の毒素に耐えられなかったのです。病院に運ばれたときには既に息がなかった。
 誰も彼女にそんなアレルギーがあったことを知りませんでした。たぶん本人も知らなかったはず
 です。あとにはご主人と、娘が一人残されました。娘は十三歳になります」

  妹が死んだのとほぼ同じ歳だ、と私は思った。
  私は言った。「その女の子があなたの子供であるかもしれないと推測する根拠のようなものを、
 あなたはお持ちになっている。ということでしたね?」
 「彼女の死後しばらくして、私は突然、死者からの手紙を受け取ったのです」と免色は静かな声
 で言った。


  ある日彼のオフィスに、聞き覚えのない法律事務所から大型の封筒が、内容証明付きで送られ
 てきた。中にはタイプされた二通の書簡(弁護士事務所の名前入り)と、談いピンク色の封筒が
 ひとつ入っていた。法律事務所からの手紙は弁護士の署名付きのものだった。「****(かつ
 ての恋人の名前だ)様がら生前にお預かりした書簡を同封いたします。****様はもし自分か
 死亡するようなことがあれば、この書簡を貴殿に郵送するようにという指示を残しておられまし
 た。ちなみに、貴殿以外の目には絶対に触れることがないように、という注意書きも添えられて
 おりました」

  そういう趣旨の書簡だった。そして彼女の死の経緯が簡単に、ごく事務的に記されていた。免
 色はしばらく言葉を失っていたが、やがて気を取り直し、鋏を使ってピンク色の封筒の封を切っ
 た。手紙は青いインクを使った自筆で、便箋四枚に及んでいた。彼女はとても美しい字を書いた。



  免色は文面をそっくり覚え込んでしまうまで、その手紙を何度も何度も読み返した(そして彼
 は実際その文面を、私に向かって最初から最後まで淀みなく暗唱してくれたのだ)。その手紙に
 は様々な感情と示唆が光となり影となり、陰となり陽となり、複雑な隠し結となって描き込まれ
 ていた。もう誰も語すことのない古代言語を研究する言語学者のように、彼は何年もかけてその
 文面に潜むあらゆる可能性を検証した。ひとつひとつの単語や言い回しを取り出し、様々に組み
 合わせ、交錯させ、順序を入れ替えた。そしてひとつの結論に達した。彼女が結婚して七ケ月後
 に生んだ女の子はまず間違いなく、あのオフィスの革張りのソファの上で免色とのあいだに宿っ
 た子供なのだと。
                                  

 ● 今夜のアラカルト

Menu : Fried-Catfish Sandwiches with Spicy Mayonnaise

コーン・ミールの衣で鮮明な揚げたキャッシュフィシュにペッパーマヨネーズを添えたスタイリ
ッシュな肉厚
ロールで美味しいサンドイッチ。熱々で安くてジューシーなナマズのサンドだ。
今夜はこれで決まりだ。

 ● 今夜の一曲

 Backstreet Boys   Shape Of My Heart

バックストリート・ボーイズ(Backstreet Boys、BSB)は米国の5人組ポップ・アイドル。日本で
は主にビーエスビー(BSB)やバックスと呼ばれている。1995年デビュー。CD総売り上げは1億3
千万枚を超えるスーパーボーイズグループ。代表曲は「アイ・ウォント・イット・ザット・ウェ
イ」「エヴリバディ」「君が僕を愛するかぎり (As Long As You Love Me)」「シェイプ・オブ・
マイ・ハート」 など多数。映画『レオン』のエンディングで使われた曲「shape of my heart」と
して有名である。

 

 

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