極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

リチウムイオン電池のケインズ

2013年03月29日 | ネオコンバーテック



 

【世界一の高性能リチウムイオン電池】

日立マクセル株式会社が、世界に先駆けて電池断面のリアルタイム観察技術を電池開発に導入し、充放電
最中のリチウムイオンの"見える化"技術を確立。この技術により、高エネルギー密度の材料を用いて、信
頼性や寿命を確保することができるようになり、単位エネルギー密度あたりの重量40%減、単位体積当た
りのエネルギー密度1.6 倍、寿命10年以上相当の高信頼・長寿命かつ軽量なリチウムイオン電池を開発し
たとのニュースが入ってきた。さっそくその中身をチェックする。

 

上図のグラフをみれば一目瞭然だ。エネルギー密度が2倍を切るもののトップランナーだし、10年以上の
耐久性が保障され、コンパクト(ダウンサイジング)も実現した。なかでも注目したのが、独自開発可視
化技術だ。というのもリチウムイオン電池の負極では、一か所にリチウムイオンが集中すると、デンドラ
イト発生(下図参考)の危険度が増す。リチウムイオンと負極の反応の偏りを直接観察することで、危険
度を一目で判断できるスピーディな開発を可能にした。リチウムイオンの流れが停滞すれば「抵抗」とな
り電池容量の低下を招く。正極も含めた電池全体のリチウムイオンの流れを可視化することで、問題とな
る流れの停滞箇所を特定でき、三次元シミュレーションを駆使して改善点を絞り込むことで、集中的な対
策と無駄のない電池設計(試作レス)で、電池全体のリチウムイオンの流れをスムーズに改善に貢献でき
たという。

尚、可視化は、SPring-8の産業用専用ビームライン(BL16B2)を活用し、X線吸収スペクトルのイメージン
グ技術により、正極断面におけるリチウムイオンとリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物の反
応をほぼリアルタイムに近い形で可視化し、反応分布を確認したとのことだ。

http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/press_release/2013/130326
http://www.spring8.or.jp/wkg/BL16B2/instrument/lang/INS-0000000454/instrument_summary_view
http://cars9.uchicago.edu/~ravel/talks/pimst.pdf

 

【新たな飛躍に向けて-新自由主義からデジタル・ケイジアンへの道】

1.タブーと経路依存性
2.複雑系と経路依存性
3.複雑系と計量経済学
4.ケインズ経済学の現在化
5.新自由主義からデジタル・ケイジアン

 

【ケインズ経済学の現在化】

  

 

【資本主義経済と貨幣の役割に関するケインズの考え】

 
ケインズを知らないわたしは今日も、ただ、ただ、率直に傾聴するだけだ。なお、引用分の下線、背景色
はこれ
までも、これからもわたしが恣意的に加筆したものである。
 

 ケインズがエルゴード性の公理を拒否した一方で主張したことは、重大な意思決定がなされなけれ
 ばならないとき、意思決定者は,たんに将来の成り行きがすでに存在する市場データから算出され
 る数量化されたリスクに還元されうるとは,想定できないということであった。かなりの長さの期
 間にわたり巨額になる可能性のある現金流出や所得流入を伴う意思決定に当たり、人びとは将来の
 成り行きがどうなるのかを自らが知らないことを「知っている」。かれらはこれらの意思決定にあ
 たり将来の成り行きを見誤ることは非常に損失が大きく、今日決断するのを留保することが考えら
 れる最も賢明な意思決定であるのかもしれないと考えている。

  現代の資本主義は、人びとに不確実な経済的命運を多少なりともコントロールできる能力を与える
 ような仕組みを作り出そうとしてきた。資本主義経済においては、財・サービスの生産、販売およ
 び購入を行なうに当たり、貨幣や法的に拘束力のある貨幣表示の契約を用いることにより、個々人
 は、キャッシュインフローとキャッシュアウトフローを、したがって自らの将来の貨幣金融状態を、
 ある程度コントロールすることが可能になる。例えば、家計は家賃や持家に関わる住宅ローンの元
 利金の支払いに同意する契約や電力、ガスおよび電話の公益企業に対し、それらが一定期間提供し
 てくれるサービスの対価を支払う契約を結ぶが、これらの契約は、家計が今日あるいは来る数カ月
 間またはおそらく今後数年間の生計費の主要部分について、ある程度の支出管理を行なうことを可
 能にする。これらはまた、貨幣表示の契約のもう一方の当事者(企業)に対し、その生産費用をま
 かない利潤を生み出すのに十分な現在および将来のキャッシュインフローについて法的な保証を与
 えることになる。

 人びとも企業も、契約上の合意事項を履行することが自らの最大の利益になると考えているため、
 進んで契約を結ぶのである。もし何らかの予期できない事態の発生により、契約当事者のどちらか
 がその契約上の義務を果たすことができないか、果たす気のない状態に陥った場合、政府の司法部
 門は、契約を守らせようとし、履行しようとしない当事者には、その契約上の義務を果たすか、さ
 もなければ、不履行によって発生した損害や損失を他方の当事者に弁償するのに十分な金銭を支払
 うよう要求するであろう。したがって、ケインズの伝記作家であるロバート・スキデルスキー(上
 写真)卿が述べているように、ケインズにとって「不法とは不確実性の問題であり、公正とは契約
 による予測可能性の問題である」。言い換えれば、契約関係を結ぶことによって、人びとは、不確
 実な世界においてさえ、自分の契約上のキャッシュインフローとキャッシュアウトフローに関して
 ある程度の予測可能性を確保することができるのである。

 貨幣とは、それによってすべての法的な債権債務関係を清算できると政府が決めたものである。貨
 幣のこの定義は、合衆国の紙幣である連邦準備銀行券に印刷されている法貨の定義、すなわち「こ
 の紙幣は、私的公的を問わない一切の負債にとっての法貨である」という定義よりもはるかに広い
 概念である。これらの紙幣は連邦準備銀行制度の負債に過ぎないからである。(中略)政府はどの
 ような契約上の債務をも弁済するために法定通貨の引渡しのみならず、銀行の当座預金勘定から振
 り出される小切手の使用も認めている。ということを指摘するにとどめておこう。要するに、読者
 は人びとが自分への請求額(契約上の債務)のほとんどを、自分の銀行勘定から振り出される小切
 手によって、ないしはインターネットによるエレクトロニック・バンキングが盛んな当節において
 は、特定の請求者に支払うのに十分な金額を自分の銀行口座から引き出すため取引銀行宛に電子手
 形を振り出すことによって、支払っていることを承知しているであろう。もしある個人がすべての
 契約上の債務を期日どおりに返済できるならば、流動性を持っているといわれる。もし破産を免れ
 たいと思うならば、流動性のある状態を維持することは、企業や家計にとって最重要事である。現
 代の世界において破産は、経済的な意味で絞首台に向かう行為に等しい。流動性を維持することに
 より、個人も企業も破産という絞首刑を免れることができるのである。

                     ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                   『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』


そこで、ポール・デヴィッドソンはすべて、自分自身が流動性を維持する必要のあることを承知していて、
流動性
維持の必要性は通常、支払期日が到来したときにすべての契約上の債務を返済できるようにいつも
小切手帳の残
高をプラスに維持できているか確認し、もしある月において、多額の小切手を切ったため口
座残高に対し超過振り出しそうになったとき(1)次の月の所得が自分の銀行預金口座に預け入れられる
まで小切手を切るのを停止、(2)口座残高を超えて小切手を超過振り出ししたとき、銀行が銀行預金残
高を補充することを約諾する銀行との融資契約を取り決め、その見返りに、将来の自分の契約上の現金所
得から銀行に対し利子を支払い借入元本を返済を約束、(3)自分のポートフォリオから流動的な金融資
産を売却し、売却代金を自分の銀行預金口座の補充に用いることの3つの方法のいずれかによって解決す
る。そこで彼は次のように問いかける。「なぜ個人は、預金残高をゼロとしないでプラスの状態を維持し
たいと思うのだろうか」と。それに対するケインズの返答は「将来の成り行きは不確実であるから、予想
せず、また予想できなかった、ある将来時点での支払い義務や、その将来時点で入手予定のキャッシュイ
ンフローだけでは果たすことができなくなった支払い義務に、いつ突然に直面するのかが分からないとい
うことである。さもなければ、期待されたキャッシュインフローが、予期しない理由から一例えば、金融
市場価値の下落による年金所得の減少や、失職や、一家の稼ぎ手の死亡のために、突然なくなってしまう
ことになるのかもしれないということである。そこで、予見できない出来事から自らを守るために、プラ
スの銀行預金残高を維持するため、流動性保有の予備的動機を持つ。将来の成り行きの不確実であること

が知られている資本主義経済では、起こるかもしれないどのような出来事のショックをも和らげうるよう
流動性の状態を高めておくことは、理にかなった人間の行動である」と。 そして次のようにつづける。


 もし個々人が将来の成り行きが昨日の時点よりさらに不確実になったと突然信じるようになるとすれ
 ば、
将来についてのかれらの不安は高まるであろう。そこでかれらは、不確実な将来に起こるどのよ
 うな不都合な出来事にもよりよく対処できるように、今日財やサービスヘのキャッシュアウトフロー
 を削減して自らの流動性状態を高めようとするであろう。現金支出を削減するもっともわかりきった
 方法は、生産された財やサーヴィスにより少ない所得を費やすこと一すなわち、現在の所得からより
 多くの貯
蓄をすることである。しかしながら、もし多くの人が突然に将来の成り行きがより不確実に
 なったと考えるならば、産業の生産物に対するすべての支出削減の累積的影響は、企業の生産物への
 重大な需要減退という結果になるであろう。おそらく企業は、このような市場需要の減退に直面して、
 労働者の雇用を減らすであろう。

 これとは対照的に、もし仮にも現実世界の市場が真に効率的であるのならば、家計も企業も、契約に
 盛り込まれた今後の一切のキャッシュインフローとキャッシュアウトフローについての約束を含めて、
 将来の成り行きについての信頼できる知識をもっていることになるであろう。したがって、私利を図
 る意思決定者は、自分が果たすことができないような将来の支払い義務を伴う契約をけっして結ぶこ
 とはないであろう。だれも契約上の債務の履行を怠るようなことはしないのである。その結果、思い
 がけず発生した返済の問題をキャッシュフロー上のゆとりでうまく処理するためのクッションとして
 追加的な流動性を蓄える必要はないであろう。しかし、現実の世界においては、家計や企業、地方政
 府でさえ、契約上の債務不履行を起こしているのである。

 実際に、サブプライム住宅ローンに基づく危機は、住宅ローンについてかなり高い率の債務不履行が
 生じたため、引き起こされたのである。(中略)
効率的市場理論は、仮定によって、人びとが自らの
 契約上の債務の不履行を起こす可能性を排除しているから、この古典派理論がサブプライム住宅ロ-
 ン問題と2007年に始まったグローバルな金融危機との間の関係を論理的に説明することができない
 は、明らかである。また効率的市場理論は、問題の解決を自由市場に委ねておけば長期的には経済が
 常態に戻るのを可能にするであろうと勧告する以外に、グローバルな金融危機を解決するための何ら
 の指針も提供できるはずがないのである。(中略)そこではおそらく百万人以上の人びとが自分の持
 家から追い出されることになり、また自分の持家に留まった人びとも6兆ドルもの資産価値を失うだ
 ろうとされている。だれがこのような自由市場による解決が社会的に望ましいとか、あるいは効率的
 であるなどと、真面目に考えることができるであろうか。しかしながら、ケインズの分析においては、
 契約についての民事法と流動性を維持することの重要性は、国内の見地からのみならず、多数の国が
 異なる通貨や契約についての異なる民事法さえ用いているグローバル経済という文脈においても、資
 本主義経済の動きを理解する上で決定的な役割を演じる。

 
ケインズの考えによれば、貨幣表示の契約が神聖にして犯すべからざるものであることは、われわれ
 
が資本主義と呼んでいる企業家システムの要諦である。貨幣は、契約についての民事法の下での契約
 上の債務をつねに決済することのできるものであるから、貨幣はすべての資産の中で最も流動的なも
 のである。それにもかかわらず、流動的な資産がほかにも存在する。それらの流動性は、貨幣よりは
 いくらか
るが、それは、一方の契約当事者にそれらの資産を契約上の債務の決済手段として「差し
 出す」一手渡すことができないからである。にもかかわらず、これらの他の資産が、よく組織化され
 秩序ある金融市場で容易に転売できる(換金できる)かぎり、流動性を持っているといえる。人びと
 は、そのような金融市場で資産を素早く売却することにより、自らの契約上の債務を決済するために
 その代金を用いることができるのである。

 例えば、ニューヨーク証券取引所で取引される株式は貨幣ではない、にもかかわらず、これらの有価
 証券は流
動性を持っている。なぜなら、取引所は、市場株価がつねに秩序ある仕方で変化することを
 人びとに保証する一方で、人びとが自分の希望するだけの量の株式をいつでも売り買いできるのを確
 実にするよう企図された規則と制度を整えているからである。わたくしは、「秩序ある仕方」という
 言葉によって、次に行なわれる株式取引の価格が直前に行なわれた取引時の価格からさほど大きくか
 け離れないことを意味している。したがって、ある個人が株式仲買人に電話をして株式を株「時価
 で」売りたいといったとき、その売り手は、受け取れる売却価格が直前に公表された市場取引価格か
 ら数ペニー以上も異なることはないのを承知しているのである。

                        -中略-

 流動的な有価証券の保有者に、かれらの保有する証券の市場価格がつねに秩序ある仕方で変動するこ
 とを保証するためには、「マーケットメーカー(値付け業者)」と呼ばれる個人ないし企業が市場に
 存在しなければならない。このマーケットメーカーの存在が大衆に次のようなことを保証することに
 なる。すなわち、ある金融資産の多くの保有者が突然速やかな出口戦略を取りその証券を売却したい
 と思うようになったものの、その流動資産を買いたいと思う人がほとんどいないか全くいないときは
 いつでも、マーケットメーカ-には市場に介入して十分な量だけその資産を買い上げる義務があり、
 それによってその資産の次の市場取引価格が直前の取引価格から「秩序ある」仕方で連続的に変動す
 ることを保証されることになるのである。要するに、マーケットメーカーは、流動資産の保有者に、
 直前の取引価格とさほど変わらない価格でいつでも速やかな出口戦略を取ることができることを保証
 していることになる。これらのマーケットメーカーは、ニューヨーク証券取引所では「スペシャリス
 ト」と呼ばれている。

                         ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                    『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』



【1ペニーの貯蓄は1ペニーの所得にならない】

ここまで、現実の追認識(あるいは「自己意識の社会化」)をやっているんだと思い、読み進めてきたが
斜め読みやめ、ある意図を予感しつつもう少し根を詰め読み進めてみよう。


 貨幣を使用している資本主義システムにおいては、ひとびとは将来が不確実であることを承知してお
 り、家計や企業は流動性のある状態を維持したいと思っている。そこで、ひとびとは通常、かなりの
 流動性のある状態を手に入れるために、自分の
毎週、毎月ないし毎年のキャツシュインフロー(貨幣
 所得)のすべてを、産業の生産物に費やそうとはしない。われわれは、この貨幣所得のうちの支出さ
 れない部分を「貯蓄」と呼ぶ.これらの貯蓄-すなわち、契約上の債務の支払い能力一を将来に持ち
 越すために、貯蓄者はたんす預金をしたり、貯蓄銀行預金口座の残高をプラスに維持したり、株式や
 社債のようなよく組織化され秩序ある市場で売買されることから高い流動性をもっていると貯蓄者の
 信じるその他の金融資産を購入し保有するなどの、流動性を保つさまざまな手段、すなわち「タイム
 マシン」を用いる。
                      -中略-

 資本主義経済において何が雇用を生み出すのであろうか、政府は、ある程度の働き口を創り出し公務

 従事者-警察官、消防署員、軍人、公立の学校や大学の教員、裁判官などを雇うが、働き口の大部分
 は民間部門で労働者を雇う企業によって生み出される。企業が多数の労働者を一時解雇しているとき、

 景気後退や不況が起こり、企業が十分な利潤を上げつつあり働く意欲を持ちその能力もあるほとんど
 すべ
ての人を雇用しているとき、繁栄がもたらされる。企業が労働者を雇用するか解雇するかを決め
 る要因は何であろうか。売上げ増加の期待は、利益の上がる価格で販売できる生産物を追加的に生産
 するために企業がより多くの労働者を雇用することに積極的なインセンティブを与える。しかしなが
 ら、もし企業が、利潤獲得の機会の低下を意味する売上げ減を予想する(ないし経験する)ならば、
 採用を予定しているか現に雇用している労働者の数を減らすであろう。要するに、将来予想される売
 上げや受注の変化が、民間部門の雇用主の雇用姿勢に大きな影響を与えるということである。

                      -中略-


 今日の所得から貯蓄をする行為は、全所得が支出され貯蓄されないときに比べて、産業の生産物の購
 入がより少ないことを意味する。貯蓄された1ペニーは、財やサービス販売している企業の所得にな
 り得ないのである。貯蓄は、販売を行なう企業にとって利潤獲得の機会のより少ないことを表わして
 おり、したがって企業は貯蓄ゼロの場合よりもより少ない労働者を雇用するであろう。そこで、もし
 財やサービ
スのすべての購入者が全体として、より少なく支出し代わりに自らの貯蓄を増加させる決
 心をするならば、企業にとってより儲けの少ない市場の需要と向き合うことになり、企業はより少な
 い働き口の提供を中し出ることになるであろう。


                       ポール・デヴィッドソン著 小山庄三・渡辺良夫訳
                    『ケインズ・ソリューション-グローバル経済繁栄の途』


                                       この項つづく

 


天気が良ければ、明日は奥比良、4月は桜見がてら比良南北縦断トレッキング予定(1回/週)。
参加希望者があればウエルカムだ(日程調整が入るので同調できるかはジグザギング)。

 

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