極東極楽 ごくとうごくらく

豊饒なセカンドライフを求め大還暦までの旅日記

晴れ時々右脳

2017年08月13日 | デジタル革命渦論

   

    

               宣公13年~襄公20年 鞌(あん)の戦い   / 晋の復覇刻の時代 

                                 

       ※ 夫の安否は問わず:

       まんまと謀られたと知った韓厥は、逢丑父を郤克のもとに引っ立てていった。
       郤克は、すぐさま逢丑父の処刑を兪じた。すると逢丑父が大声で、「わが身
       を捨てて主君の命を救ったこのわたしを殺すというのか。さようなことをすれ
       ば、今後、主君のために尽くす人物がいなくなるぞ」
       鄙克は、はっと気づいた。
       「死を賭して主君を逃れさせた忠義者を殺したりしては、わたしの身に天罰が
       くだろう。赦して忠臣の手本といたそう」
       と言って処刑をとりやめさせた。

       一方、逃れた斉侯は、なんとか逢丑父を救出しようと、三たび晋の陣内に押し
       寄せた。出陣のたびに、尻込みする兵士を叱陀して先頭に立ち、ついに狄の陣
       へ突入した(秋は晋とともに出陣していた)。
       ところが、斉を恐れている狄の兵士たちは、斉侯をとらえる気がまるでない。
       晋の手前、戈をふりあげていちおう打ちかかるが、片手の楯で斉侯の身体をま
       もり、衛の陣へ押しやった。衛の軍もわざとこれをとり逃した。こうして斉侯
       は、徐関から都へもどった。
       斉侯は、城邑の守備兵たちに言った。
       「わが軍は敗れた。しっかり守ってくれ」
       都に入り、道で一人の婦人に出会った。その婦人が、斉侯とは知らずにたずね
       た。
       「主君はご無事でしょうか」
       「無事だ」
       「では、鋭司徒は」
       「無事だ」
       「主君と父が無事とうかがえば、それ以上の望みはもちますまい」
       と言って走り去った。
       斉侯は、まず主君の安否を問い、つぎに父の安否を問いて、夫のことはたずね
       なかったことに感じ入り、あとでその婦人の身もとを調べさせた。それは鋭司
       徒の妻であった。石窌の地をあたえて、その心根をほめた。


【ZW倶楽部とRE100倶楽部の提携 Ⅵ】  

● IoT 機器の電池寿命を延ばす超小型の充電 IC

8月10日、トレックス・セミコンダクター社は、20~100mAh クラスの小容量リチウム電池で駆動す
る小型IoT機器やウェアラブル端末などに向けて、❶ 待機時の電池消耗を従来比2分の1以下に抑え
ることのできるリニア充電IC「XC6808」を発売。リチウム電池から充電ICへのシンク電流(バッテリ
ー消費電流)を従来比30
分の1以下に抑える。充電ICは、充電を行わない待機時でも入力と出力の
電圧比較コンパレーターを動作させる必要があり、蓄電池から微量の電力供給し電力を消費する。こ
の待機時に消費するシンク電流(吸い込み電流)は、スマートフォンなどモバイル機器に搭載される
充電ICであれば、2~3μA程度(詳細仕様は下写真ダブクリ参照)。




尚、このXC6808は、昨今のリチウム電池の充電完了電圧の高電圧化に対応。充電完了電圧として、
従来の4.20Vだけでなく、4.35V4.40Vにも対応し、幅広いリチウム電池用充電ICとして使用できる。
さらにXC6808、2.0×1.8×0.33mmサイズの超低背モールドパッケージ「USP-6B07」を採用。「パッケ
ージの高さを0.4mm以下に抑える必要のあるスマートカードにも実装可能。補聴器や完全ワイヤレス
型イヤフォンなど小型パッケージが要求される用途などにも適した充電IC」となっている。また、

ンプル価格が100円(税別)である。

この事例のように、蓄電池を構成するデジタルデバイスは、省エネ、ダウンサイジングを実現すると
同時に充電時間を短縮、電池寿命を延ばすことができるなどのメリットをもたらす。下記に特許事例
を参考掲載する。


❏ 特開2010-081790  電子機器 パナソニック株式会社

携帯電話やポータブル型のCDプレイヤー、デジタルスチルカメラ(DSC)等のポータブル型な
の電子機器の電源にはリチウムイオン(Li-ion)やニッケル水素(Ni-H)等の充電式バッテリー(充
池)が使用されている。従来、この種の電子機器には、その機器本体のシステム制御を行うメイン
イクロコンピューター(=メインマイコン)が、機器本体を介して、充電式バッテリー(=バッテ
ー)にACアダプターからの電力を充電する制御を行っているが、❶この種の電子機器は、その機
本体を起動する必要がない充電時であっても、メインマイコンの起動に伴い機器本体が起動して
しま
いACアダプターからの電力の一部を機器本体で消費することになり充電効率がい。❷また、電
子機
器の機器本体の起動で発生する熱でバッテリーを加熱することとなり、バッテリーの温度上昇し
充電中のバッテリー温度上昇が許容温度以上になり、充電電流を抑える必要が生じ、充電時間が長く
なる。

バッテリーの充電時に、本体機器を制御す
る制御手段のON動作に伴う機器本体の起動により、充電
動作に寄与しない消費電力が増加し、また
バッテリーも加熱されるため、十分な充電電流が流せない
ため、下図のように、自装置としての機器
本体10の制御を行う主制御装置としてのメインマイコン
5と、バッテリー6の充電を行う充電IC2と、充電マイコン3とを備え、充電マイコン3は、メイ
ンマイコン5が動作しているか否かを監視
し、ACアダプター1が機器本体10に接続されている場
合において、メインマイコン5が動作して
いるとき、充電IC2による充電動作を禁止する一方、メ
インマイコン5が動作していないとき、充電IC2による充電動作を許可する機構で、主制御手段と
は別に充電制御に特化した消費電力の小さ
い充電制御手段を設け、主制御手段が動作していないとき、
充電手段による充電動作を許可すること
で、充電動作に寄与しない消費電力の低減を実現できるよう
にする。

【符号の説明】

1 ACアダプター 2 充電IC(充電手段) 2a メモリー 3 充電マイコン(充電制御手段)
4 電源管理IC  5 メインマイコン(主制御手段)6 バッテリー(充電池)6a メ
モリー 6b
 温度センサー 10 機器本体

【特許請求範囲】

  1. 電力の供給を受けるために外部と電気接続可能な接続手段と、充電池を装着可能な装着手段と、
    前記接続手段を介して供給された電力を用いて、前記装着手段に装着された充電池を充電する
    充電手段と、自装置を制御する主制御手段と、前記主制御手段が動作しているか否かを監視し、
    前記接続手段が外部に接続されている場合において、前記主制御手段が動作しているとき、前
    記充電手段による充電動作を禁止する一方、前記主制御手段が動作していないとき、前記充電
    手段による充電動作を許可する、充電制御手段と、を備える、
  2. 前記充電制御手段は、さらに前記接続手段が外部に接続されたか否かを監視し、前記接続手段
    が外部に接続され、前記主制御手段が動作していないことを認識した場合に、前記充電手段に
    よる充電動作を開始させる、請求項1に記載の電子機器
  3. 前記装着手段には、定格容量の異なる複数種類の充電池が装着可能とされ、前記装着手段に装
    着された充電池の種類を検出する種類検出手段をさらに備え、前記充電手段は、前記種類検出
    手段により検出された種類の充電池の定格容量に対応する電力を前記充電池に充電する、請求
    項1または2に記載の電子機器
  4. 充電中に定期的に所定の処理を行わせるために前記主制御手段の起動が必要になった場合に、
    前記充電制御手段が、この充電制御手段に設けたタイマーにより所定時間が経過したことを検
    知した際に、前記充電手段への通電をOFFさせるとともに、前記主制御手段への通電をON
    させて、自装置の制御を開始させて、前記所定の処理を行わせ、この後、前記充電手段への通
    電をONさせるとともに、前記主制御手段への通電をOFFさせる、請求項1~3の何れか1
    項に記載の電子機器。
  5. 充電池に当該充電池の容量を記憶する領域を有するメモリーが設けられ、充電中に、前記充電
    制御手段が、この充電制御手段に設けたタイマーにより所定時間が経過したことを検知した際
    に、前記充電手段への通電をOFFさせるとともに、前記主制御手段への通電をONさせて、
    前記充電池の前記メモリーへの容量の書込み処理を行わせ、この後、前記充電手段への通電を
    ONさせるとともに、前記主制御手段への通電をOFFさせる、請求項4に記載の電子機器。
  6. 前記主制御手段は、前記充電池の温度情報に基づいて、前記充電池の充電量を補正し、補正し
    た値に対応する容量の充電池の前記メモリーへの書込み処理を行わせる、請求項5に記載の電
    子機器。
  7. 電子機器がビデオカメラであることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の電子機器。 

 

       

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』        

    第45章 何かが起ころうとしている 

 「いつものように拡が朝食を用意しました。今朝あの子はほとんど口をききませんでした。でも
 それはいつものことです。時としていったんしゃべり出すととまらなくなることがありますが、
 普 段は返事だってろくにしません」

  秋川笙子の話を間いているうちに、拡もだんだん不安になってきた。時刻は十一時に近づいて
 いるし、もちろんあたりは真っ暗になっている。月も雲に隠れている。秋川まりえの身にいった
 い何か起こったのだろう?
 「あと一時間待って、もしまりえと連絡がつかなかったら、警察に相談してみようかと思いま
 す」と秋川笙子は言った。
 「その方がいいかもしれませんね」と拡は言った。「もしぼくに何かできることがあったら、遠
 慮なく言ってください。遅くなってもかまいませんから」

  秋川笙子は礼を言って電話を切った。拡は残っていたウィスキーを飲み干し、グラスを台所で
 洗った。
  そのあと私はスタジオに入った。明かりをすべて点し、部屋をすっかり明るくして、イーゼル
 に載せられた描きかけの『秋川まりえの肖像』をあらためて眺めた。絵はあと少し手を加えれば
 完成するところまできていた。そこには十三歳の無口な少女の、あるべきひとつの姿が立ち上げ
 られていた。ただ彼女の姿かたちばかりではなく、彼女の存在が孕んでいる、目には映らないい
 くつかの要素がそこに含まれているはずだった。視覚の枠外に隠されているそのような情報をで
 きるだけ明らかにすること、それらが発するメッセージを別の形象に置き換えていくこと、それ
 が私が自分の作品にもちろん営業用の肖像画は別にして――求めることだった。そういう意味で
 は、秋川まりえは私にとってずいぶん興味深いモデルだった。彼女の姿かたちには、多くの示唆
 がまるで朧し絵のように潜んでいたからだ。そして今朝から彼女の行方がわからなくなっている。
 まるでまりえ白身がその服し絵の中に引き込まれてしまったみたいに。

  それから私は床に置いた『雑木林の中の穴』を眺めた。その日の午後に描き上げたばかりの油
 絵だ。その穴の絵は『秋川まりえの肖像』とはまた違った意味合いで、別の方向から、私に何か
 を訴えかけているようだった。
  何かが起ころうとしているのだ、とその絵を見ながら私はあらためて感じた。今日の午後まで
 はあくまで予感でしかなかったものが、今では現実を実際に侵食し始めている。それはもう予感
 でもない。すでに何かが起き始めているのだ。秋川まりえの失踪はその『雑木林の中の穴』と何

 か繋がりを持っているに違いない。私はそう感じた。私が今日の午後にその『雑木林の中の穴』
 の絵を完成させたことによって何かが起勤し、動き出したのだ。そしておそらくその結果、秋川
 まりえはどこかに姿を消してしまった。
 でもそれを秋川笙子に説明するわけにはいかない。そんなことを言われても、彼女はわけがわ
 からなくて余計に混乱するだけだろう。

  私はスタジオを出て、台所に行って水をグラスに何杯か飲み、口の中に残っていたウィスキー
 の匂いを洗い流した。それから受話器を取り上げて、免色の家に電話をかけた。三度目のコール
 の途中で彼が電話口に出た。その声からは、誰かからの重要な連絡を待っていたときのような、
 いくぶんこわばった響きが微かに聴き取れた。電話をかけてきたのが私であったことに彼は少し
 驚いたようだった。しかしそのこわばりは瞬時にほどけ、普段の冷静で穏やかな声に戻った。

 「こんな夜分に電話をして申し訳ありません」と私は言った。
 「かまいませんよ、ぜんぜん。私は遅くまで起きていますし、どうせ暇な身です。あなたとお話
 ができるのはなによりです」

  挨拶は抜きにして、秋川まりえの行方がわからなくなっていることを、私は手短に説明した。
 その少女は学校に行くと言って朝に家を出たきり、まだ帰宅していない。絵画教室にも姿を見せ
 なかった。免色はそのことを知らされて驚いたようだった。少しのあいだ言葉を失っていた。

 「そのことで、あなたには心当たりみたいなものはないんですね?」、免色はまず私にそう尋ね
 た。
 「まったくありません」と私は答えた。「寝耳に水です。免色さんの方には?」
 「もちろん思い当たることは何もありません。彼女は私とはほとんど口をきいてくれませんか
 ら」
  彼の声にはとくに感情は混じっていなかった。ただ単純に事実を述べているだけだ。
 「もともとが無口な子なんです。誰ともろくに口をききません」と私は言った。「しかしとにか
 く、まりえさんがこの時刻になってもまだ帰宅しないことで、秋川笙子さんはずいぶん混乱して
 いるみたいです。父親はまだ帰ってこないみたいだし、∵Λきりでどうしていいかわからない様
 子です」
  免色はまたひとしきり、電話口で黙り込んだ。校がそのように何度も言葉を失うのは、私の知
 る限りきわめて珍しいことだった。

 「それについて、何か私にできることはありますか?」、彼はようやく目を開いた。
 「急なお願いですが、これからこちらに来ていただくことは可能ですか?」
 「あなたのお宅にですか?」
 「そうです。そのことに関連して、少しご相談したいことかあるんです」
 て私にそう尋ね
  免色は一瞬間を置いた。それから言った。「わかりました。すぐにうかがいましょう」
 「何かそちらでご用事があるわけではないんですね?」
 「用事というほど大したものじやありません。なんとでもなることです」と免色は言った。そし
 て小さく咳払いをした。時計に目をやるような気配があった。「今から十五分ほどでそちらにう
 かがえると思います」
  受話器を置いてから、私は外に出る支度をした。セーターを着て、革ジャンパーを用意し、大
 型の懐中電灯をそばに置いた。そしてソファに座って、免色のジャガーがやってくるのを待った。

 Berliner Mauer

    第46章 高い強固な壁は人を無力にします

  免色がやってきたのは11時20分だった。ジャガーのエンジンの音が聞こえると、私は革ジ

 ャンパーを着て家の外に出て、免色がエンジンを切って車から降りてくるのを待った。免色は紺
 色の厚手のウィンドブレーカーに、黒い細身のジーンズという格好だった。首に薄手のマフラー
 を巻いて、靴は革製のスニーカーだった。豊かな白髪が夜目にも鮮やかだった。
 「これからあの林の中の穴の様子を見に行きたいのですが、かまいませんか?」
 「もちろんかまいません」と免色は言った。「でもあの穴が、秋川まりえの失踪となにか関係し
 ているのですか?」
 「それはまだわかりません。ただ少し前から、不吉な予感がしてならないんです。あの穴に開運
 して何かが持ち上がっているのではないかという予感が」
  免色はそれ以上何も尋ねなかった。「わかりました。一緒に様子を見に行きましょう」

  彼はジャガーのトランクを開け、中からランタンのようなものを取り出した。そしてトランク
 を閉め、私と一緒に雑木林に向かった。月も星も出ていない時い夜だった。風もない。

 「こんな夜中にお呼び九てをして、申し訳ありませんでした」と私は言った。「でもあの穴の様
 子を見に行くのに、あなたに一緒に来ていただいた方がいいような気がしたんです。もし何かあ
 ったとき、一人ではうまく処理しきれないような気がしたものですから」
  彼は手を仲ばし、ジャンパーの上から私の腕をとんとんと軽く叩いた。励ますように。「そん
 なことはぜんぜんかまいません。気にしないでください。私にできることならなんでもします」
  我々は木の根に足をひっかけたりしないように、懐中電灯とランタンで足もとの地面を照らし
 ながら、慎重に歩を連んだ。我々の靴底が積もった落ち葉を踏む音だけが耳に届いた。夜の雑木
 林には、それ以外どんな音もしなかった。まわりにいろんな生き物が身を隠し、息をひそめて
 我々をじっと見守っているような重苦しい気配があった。真夜中の深い関がそのような錯覚を生
 み出すのだ。事情を知らない誰かがこんな我々の姿を目にしたら、これから墓荒らしに出かける
 二人組だと思うかもしれない。

 「ひとつだけ、あなたにうかがいたいことがあるのですが」と免色は言った。
 「どんなことでしょう?」
 「秋川まりえがいなくなったことと、あの穴とのあいだに何か関連性があると、どうしてあなた
 は思うのですか?」

  私は少し前に彼女と一緒にその穴を見に行ったことを話した。彼女は教えられる前から、既に
 この穴の存在を知っていた。この一帯は彼女の遊び場なのだ。このあたりで起こった出来事で彼
 女の知らないことはない。そこで彼女が口にしたことを、私は免色に教えた。その場所はそのま
 まにしておくべきだった、その穴を開いたりするべきではなかった、とまりえは言ったのだ。
 「彼女はあの穴を前にして何か特別なものを感じているみたいでした」と私は言った。「どう言
 えばいいのだろ・・・・・・たぶんスピリチュアルなもの
 「そして関心を特っていた?」と免色は言った。
 「そのとおりです。彼女はあの穴に警戒心を抱いていたのと同時に、その姿かたちにとても心を
 惹かれているようでした。だからあの穴に関連して彼女の身に何かが起こったのではないかと、
 ぼくとしては心配でならないんです。ひょっとして穴の中から出られなくなっているかもしれな
 いと」

  免色はそれについて少し考えていた。それから言った。「あなたはそのことを彼女の叔母さん
 に言いましたか? つまり秋川笙子さんに?」
 「いいえ、まだ何も言っていません。そんなことを言い出したら、そもそも穴の説明から始めな
 くてはなりません。どういう経緯であの穴を関くことになったのか、なぜそこに免色さんが関わ
 ってくるのか。とても長い話になるし、ぼくの感じているものはうまく伝わらないかもしれませ
 ん」
 「それに余計な心配をさせるだけだ」
 「とくに警察が絡んでくれば、話は更に面倒になります。もし彼らがあの穴に関心を抱いたりし
 たら」
  免色は私の願を見た。「警察が既に絡んでいるのですか?」
 「ぼくが彼女と話をした時点では、まだ警察に連絡はしていませんでした。しかしたぶん今頃は
 もう捜素願が出されているはずです。なにしろもうこんな時刻になっていますから」
  免色は何度か肯いた。「まあ、それは当然のことでしょうね。十三歳の女の子が真夜中近くに
 なっても家に戻ってこない。どこに行ったかもわからない。家の人としては警察に連絡しないわ
 けにはいかない」

  しかし警察が関与してくることを、免色はどうやらあまり歓迎してないようだった。彼の声の
 響きにはそういう雰囲気が聞き取れた。

 「この穴のことは、できるだけあなたと私だけのことにしておきましょう。あまりよそには広め
 ない方がよさそうだ。たぶん話が面倒になるだけです」と免色は言った。私もそれに同意した。

  そして何よりも騎士団長の問題かおる。そこから出てきた騎士団長としてのイデアの存在を明
 かすことなく、その穴の特殊性を人に説明するのはほとんど不可能に近い。そんなことをしても、
 免色が言うようにたぶん話がより面倒になるだけだ(それにもし騎士団長の存在を明かしたとし
 ても、誰がそんなことを信じてくれるだろう? 私の正気が疑われるだけだ)。

  我々は小さな祠の前に出て、その裏手にまわった。ショベルカーのキャタピラに無残に踏みつ
 よされ、いまだに倒れ伏したような格好のままのススキの茂みを踏み越えていくと、そこにいつ
 もの穴があった。我々はまず明かりをかざしてその蓋を照らした。蓋の上には重しの石が並べら
 れていた。私はその配置を目で調べた。ほんの少しではあるが、石が勤かされたような形跡があ
 った。このあいだ私とまりえがその蓋を開けて閉めたあと、誰かがその石をどかして蓋を開け、
 それからまた蓋を閉めて、石をできるだけ前と同じように並べ直したようだった。そのちょっと
 した違いを私は見て取ることができた。

 「誰かが石をどかせて、この蓋を開けた形跡があります」と私は言った。
  免色は私の顔をちらりと見た。
 「それは秋川まりえでしょうか?」

  私は言った。「さあ、どうでしょう。でも知らない人はまずここにやってこないし、我々以外
 にこの穴の存在を知っている人間といえば、彼女くらいのものです。その可能性は大きいかもし
 れない」 もちろん騎士団長はこの穴の存在を知っている。なにしろ彼はそこから出てきたのだ
 から。しかし彼はあくまでイデアだ。そもそも形のない存在だ。中に入るのにわざわざ重しの石
 をどかせたりはしないだろう。

  それから我々は蓋の上の石をどかせ、穴の士に被せていた厚板をすべてはがした。そして直径
 ニメートル近くの円形の穴が、再びそこに出現した。それは前に見たときよりもより大きく、よ
 り黒々として見えた。でもそれもやはり夜の開がもたらす錯覚だろう。
  私と免色は地面にかがみ込むようにして、懐中電灯とランタンで穴の中を照らしてみた。しか
 し穴の中には人の姿はなかった。何の姿もなかった。いつもと同じ高い石壁にまわりを囲まれた、
 無人の筒型の空間があるだけだった。しかし一つだけ前とは違っていることがあった。梯子が姿
 を消していたのだ。石塚をどかせた造園業者が厚意で置いていってくれた折りたたみ式の金属製
 の梯子だ。最後に見たとき、それは壁に立てかけてあった。
 「梯子はとこにいったんだろう?」と私は言った。
  梯子はすぐに見つかった。それは奥の方の、キャタピラに踏みつよされなかったススキの茂み
 の中に横だわっていた。誰かが梯子を外して、そこに放り出したのだ。重いものではないから、
 持ち運びにそれはどの力は要しない。私たちはその梯子を運んで、元のように壁に立てかけた。
 「私か下に降りてみましょう」と免色が言った。「何かが見つかるかもしれません」
 「大丈夫ですか?」
 「ええ、私なら心配ありません。前にも一度降りたことはありますから」
  そう言うと、免色はランタンを片手に何でもなさそうにその梯子を降りていった。
 「ところでベルリンの東西を隔てていた壁の高さをご存じですか?」と免色は梯子を降りながら
 私に尋ねた。

 「知りません」
 「三メートルルです」と免色は私を見上げて言った。「場所にもよりますが、だいたいそれが基
 準の高さでした。この穴の高さより少し高いくらいです。それがおおよそ百五十キロにわたって
 続いていました。私も実物を見たことかあります。ベルリンが東西に分断されている時代に。あ
 れは痛々しい光景だった」

  免色は底に降り立ち、ランタンであたりを照らした。そしてなおも地上にいる私に向けて語り
 続けた。

 「壁はもともとは人を護るために作られたものです。外敵や雨風から人を護るために。しかしそ
 れはときとして、人を封じ込めるためにも使われます。そびえ立つ強固な壁は、閉じ込められた
 人を無力にします。視覚的に、精神的に。それを目的として作られる壁もあります」
  免色はそう言うと、そのまましばらく口を閉ざした。そしてランタンをかざしてまわりの石壁
 と、地面を隅々まで点検した。まるでピラミッドのいちばん臭にある石室を調査する考古学者の
 ように、怠りなく丹念に。ランタンの明かりは強力で、懐中電灯よりずっと広い範囲を照らし出
 した。それから検は地面の上に何かをみつけたらしく、膝をつくようにして、そこにあるものを
 子細に観察していた。しかしそれが何なのか、上からはわからなかった。免色も何も言わなかっ
 た。彼がみつけたのはどうやら、とても小さなものであるらしかった。検は立ち上がり、その何
 かをハンカチにくるんでウィンドブレーカーのポケットに入れた。そしてランタンを頭上に掲げ、
 地上にいる私を見上げた。

 「今から上がります」と検は言った。
 「何かみつかりましたか?」と私は尋ねた。

  免色はそれには答えなかった。そして梯子を注意深く登り始めた。一歩上がるごとに身体の重
 みで梯子は鈍く軋んだ。私は検が地上に戻ってくるのを、懐中電灯で照らしながら見守っていた。
 身の動かし方を見ていると、検が日頃から身体中の筋肉を機能的に鍛え、整えていることがよく
 わかった。身体に無駄な動きがない。必要な筋肉だけが有効に使用されている。検は地面の上に
 立つと、一度大きく身体を仲ばし、それからズボンについた上を丁寧に払った。それほど多くの
 上がついていたわけではなかったのだけれど。

 Israeli West Bank barrier

  一息ついてから免色は言った。「実際に下に降りてみると、壁の高さにはずいぶん威圧縮かあ
 ります。そこにはある種の無力感が生まれます。私は同じような種類の壁をしばらく前にパレス
 チナで目にしました。イスラエルがこしらえた八メートル以上あるコンクリートの壁です。てっ
 ぺんには高圧電流を通した鉄線がめぐらせてあります。それが五百キロ近く続いています。イス
 ラエルの人々は三メートルではとても高さが足りないと考えたのでしょうが、だいたい三メート
 ルあれば壁としての用は足ります」

  彼はランタンを地面に置いた。それは私たちの足もとを明るく照らし出した。

 「そういえば、東京拘置所の独房の壁の高さも三メートル近くありました」と免色は言った。
 「なぜかはわかりませんが、部屋の壁がとても高いのです。来る日も来る目も目にするものとい
 えば、その高さ三メートルののっぺりした壁だけです。ほかには何も見るべきものがありません。
 もちろん壁には絵とかそういうものは飾られていません。ただの壁です。まるで自分か穴の底に
 置かれているような気がしてきます」

  私は黙ってそれを聞いていた。

 「少し前のことになりますが、私はわけあって一度、東京拘置所にしばらく勾留されていたこと
 があります。それについては、たしかまだあなたにお話ししていませんでしたね?」
 「ええ、まだうかがっていません」と私は言った。彼が拘置所に入っていたらしいことは人妻の
 ガールフレンドから聞いていたが、もちろんそれは言わなかった。
 「私としては、その話をあなたによそから耳に入れてもらいたくなかったのです。ご存じのよう
 に噂話というのは、おもしろおかしく事実をねじ曲げてしまうものですから。ですから私の口か
 ら直接事実をお伝えしておきたいのです。とくに愉快な話でもありませんが、ことのついでとい
 うか、今ここでお話ししてもかまいませんか?」
 「もちろんかまいません。どうぞ話してください」と私は言った。

  免色は少し間を置いてから話を始めた。「言い訳するのではありませんが、私には何ひとつや
 ましいところはありませんでした。私はこれまでいろんな事業に手を染めてきました。多くのリ
 スクを背負って生きてきたと言っていいと思います。しかし私は決して愚かではありませんし、
 生来用心深い性格ですから、法律に抵触するようなことにはまず手を出しません。そういう線引
 きには常に留意しています。しかしそのとき私がたまたま手を組んだ相手が、不注意で無考えだ
 ったのです。おかげでひどい目にあわされました。それ以来、誰かと手を組んで仕事をするよう
 なことは一切避けています。自分ひとりの責任で生きるようにしています」

 「検察が持ち出した罪状は何だったのですか?」

 「インサイダー取り引きと脱税です。いわゆる経済犯です。最終的に無罪は勝ちとりましたが、
 起訴にはもち込まれました。検察の取り調べが厳しく、かなり長いあいだ拘置所に入れられてい
 ました。いろんな理由をつけて、勾留期限が次々に延長されました。壁に囲まれた場所に入ると、
 今でも懐かしささえ感じてしまうくらい長い期間です。さっきも申し上げたように、私の側には
 法で罰せられるような落ち度は何ひとつなかったのです。それはあくまで明白な事実でした。し
 かし検察は起訴のシナリオを既に書いてしまっていて、そのシナリオには私の有罪もしっかり組
 み込まれていました。そして彼らは今更そのシナリオを書き直したくなかった官僚システム
 いうのはそういうものです。いったん何かを決めてしまうと、変更することがほとんど不可能に
 なります。流れを逆行させると、どこかの誰かがその責任をとらなくてはなりません。そんなわ
 けで払は長期にわたって東京拘置所の独房に収容されることになったのです」

                                     この項つづく

 

 ● 今夜の一曲


「悲しい自由」(かなしいじゆう)は、1989年7月26日にリリースされたテレサ・テンのシングル。
発売元はトーラスレコード(のちに解散。現在はユニバーサルミュージックから発売)。

     ひとりにさせて 悲しい自由が
     愛の暮しを 想いださせるから
     ひとりにさせて 疲れた心が
     いつか元気を とりもどすまで
     あなたを近くで愛するよりも
     心の宝物にしていたいから
     So-long このまま ちがう人生を
     So-long あなたの 背中見送るわ 

     ひとりにさせて 淋しい約束
     何も言わずに 時のせいにするわ
     ひとりにさせて 優しくされたら
     きっと昨日に 帰りたくなる
     あなたのすべてを 愛するよりも
     綺麗なお別れ 選びたいから
     So-long 涙を いつか微笑に
     So-long 想い出だけを置きざりに 

     So-long このまま ちがう人生を
     So-long あなたの 背中見送るわ



     スピーカー大音量に迷ひぴと八十二歳をさがすゆふぐれ 

     真夜中に点けしラジオにテレサ・テンの繊く優しき歌ごゑひびく 

     もはや世にあらぬ歌ごゑテレサ・テンの人を慰撫してやまぬ歌ごゑ 

     歌ごゑに時をり交じる拍手よし鄧麗君の母語ライプ版 

     正調の北京語にテレサ・テンうたふ「夜来香」の”香”に聞き惚る 

                           丹波真人 / 𩛰(たべ)る禽(とり)

 ● 晴れ時々右脳

本当に歌が書けなくなるんだ。目一杯左脳を使いパンパンの日々をつづけていると、あれほど短歌を
書き綴った日々が嘘のようで何も浮かばない。ということで「
角川 短歌」7月号を購読し時折眼を
通していて、今夜は鄧麗君を読める「丹波真人/𩛰る禽」がめにとまる。中国から帰国する1982年の
個人的に開催してくれた送別会(通訳をつとめてくれた青年一名、女性二名)を思いだし、その後、
「天安門事件」につながっていったことを思いだし(このエピソードはブログ掲載)、鄧麗君の「悲
しい自由」をユ
ーチューブし思い出を再確認する。その話はさておき、右脳を使わなくてはと考え、
前はテーマが浮かばないときは「花言葉」をつづることで連想空間を広めるという手法をとっていた
ので、今回も、関心のある「植物図鑑」を整理し、それをプロモータに「短歌の宅トレ」を再開させ
ようと考える。が、本家の「宅トレ」は日曜の奉仕作業の疲れで腰痛が再発し中止中とうまくいかな
いものだ。

 

 

 

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国家の自爆前夜

2017年08月13日 | 時事書評

   

    

               宣公13年~襄公20年 鞌(あん)の戦い   / 晋の復覇刻の時代 

                                 

       ※ 主君の身がわり

       ところで、司馬の韓厥は開戦の前夜、夢を見た。亡父の子興が夢枕に立ち、
       「明日は、兵車の左右さて、翌朝、斉の高固は、敢然として晋の陣内に兵車
       に乗ってはならん」と告げたのである。そこで韓厥は、自ら御者となって斉
       侯を迫った。これを見た邴夏が、斉侯に言った。
       「あの御者を狙いなさい、君子ですぞ」だが、斉侯は首を振った。
       「いや、君子と知りつつ夫を射掛けるのはいかにも礼にもとる」
       と言って韓厥の左乗者を狙い、兵車から射落した。つづいて右乗者を狙い、
       これも車中に射倒した。このとき、兵車を失なった晋の大夫綦母張が、韓厥
       の兵車に追いすがった。
       「たのむ、乗せてくれ」
       そして、左乗者の位置につこうとした。韓厥はそれを肘でおしのけた。する
       とこんどは、右乗者の位置につこうとする。韓厥はまた肘でおしのけ、自分
       のうしろにしか立たせない。そのあと身をかがめて、倒れた右乗者の身体が
       落ちないようにした。このわずかの隙を見て、敵の逢丑父は斉侯と位置を入
       れかわっておいた。
       斉侯の車は、車泉にさしかかったところで、副馬のたづなが木にからまり、
       動きがとれなくなった。
       ところで逢丑父は前夜、車の中に寝たが、車の下から這いのぼってきた蛇を
       うち殺そうとして肘に負傷していた。それを隠して出陣していたので、この
       事態になっても、とびおりて兵車を抑すことができない。とうとう韓厥に追
       いつかれてしまった。
       韓厥は、斉院の馬前に歩みより、たづなを手にとった。そして再拝稽首し、
       持参した盃に璧を添え、斉侯に捧げて言った。
       「わが主君は、魯・衛救援をわれわれに命じてこう申しました。『目的は両
       国を救うことにある。斉の地に深入りしてはならん』と。車を進めるうちに、
       不幸にして貴軍に出くわしてしまいました。とはいえ、逃げ隠れするわけに
       もまいらず、また、故意に避けるのは、主君の名を恥かしめ、君に対しても
       かえって無礼なふるまいかと存じ、あえて 戈を交えさせていだだきました。
       失礼の段、お許しを願いたい。この私がお伴いたしますのでおいでいただき
       たい」このとき、斉侯になりすました逢丑父は、何食わぬ顔で、華泉の水を
       汲んでこい、とかたわらの斉侯に命じた。車をおりだ斉侯は、鄭周父が御を
       宛筏が右をつとめる副単にとび乗って、逃げおおせてしまった。




ぼくらが旅に出る理由(2015年) ※GAMBA ガンバと仲間たちの主題歌

    ● 今夜の一曲

 

              わが恋のごとく悲しやさくら貝 片ひらのみのさみしくありて 

                                                            鈴木義光

鎌倉・由比ヶ浜の近くに住む鈴木義光という青年が、胸を病んで18歳で亡くなった恋人・横山八重子
を偲んでこの歌を作る。この歌をモチーフにして、彼の友人で、当時逗子町役場の職員だった土屋花
情が作ったのがこの歌詞である。山田耕筰が気に入り編曲して、昭和24年にNHK「ラジオ歌謡」と
して放送、問い合わせや楽譜毬藻の歌がほしいという要望が殺到する。ところで、作曲した鈴木は、
この後、八洲秀章(やしま・ひであき)という筆名で、『山のけむり』『あざみの歌』『チャペルの
』『毬藻の唄』など、抒情歌を数多く作くるが、どれもこれも心に深く残る曲である。


   美わしきさくら貝ひとつ
   去りゆけるきみに捧げん
   この貝は去年(こぞ)の浜辺に
   われひとりひろいし貝よ

   ほのぼのとうす紅染むるは
   わが燃ゆるさみし血潮よ
   はろばろと通う香りは
   きみ恋うる胸のさざなみ

   ああ なれど わが思いははかなく
   うつし世の渚に果てぬ

                                                         『さくら貝のうた』
 
                               唄  賠償美津子
                               作詞   土屋  花情
                              作曲  八洲  秀章
 

ところで、この曲を歌う倍賞千恵子(1941年6月29- )は、日本の女優、歌手、声優。愛称は「チ
コちゃんは
お元気らしい。実妹は女優の倍賞美津子。弟は猪木事務所社長の倍賞鉄夫、日産自動車硬
式野球部元監督の倍賞明。夫は作曲家の小六禮次郎。
西巣鴨生まれ。東京都北区滝野川に育つ。戦時
中は茨城県に疎開。北区立滝野川第六小学校、北区立紅葉中学校(現:北区立滝野川紅葉中学校)卒業。
父は都電の運転士、母は車掌であったとか。下町の太陽(1962年)をはじめ、
さよならはダンスの後
に(1965年)、忘れな草をあなたに(1971年)、オホーツクの船唄(1976年)、世界の約束(2004年)
(ハウルの動く城の主題歌)、さよならの夏(2011年)(コクリコ坂からの主題歌)。

       

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』        

    第45章 何かが起ころうとしている 

  同時進行させていた二つの絵のうちで、先にできあがったのは『雑木林の中の穴』の方だった。
 金曜日の昼過ぎにそれは完成した。絵というのは不思議なもので、完成に近づくにつれてそれは、
 独自の意志と観点と発言力を獲得していく。そして完成に至ったときには、描いている人間に作
 業が終了したことを教えてくれる(少なくとも私はそう感じる)。そばで見物している人には、
 ――もしそのような人がいたとすればだが――どこまでが制作途上の絵なのか、どこからが既に
 完成に至った絵なのか、まず見分けはつくまい。未完成と完成とを隔てる一本のラインは、多く
 の場合目には映らないものだから。しかし描いている本人にはわかる。これ以上手はもう加えな
 くていい、と作品が声に出して語りかけてくるからだ。ただその声に耳を澄ませているだけでい
 『雑木林の中の穴』も同じだった。ある時点でその絵は完成し、もうそれ以上私の絵筆を受け入
 れなくなった。まるで性的にすっかり満ち足りてしまったあとの女性のように。私はそのキヤン
 バスをイーゼルから下ろし、床に置いて壁に立てかけた。そして自分も床に腰を下ろし、その絵
 を長いあいだ見つめていた。蓋を半分かぶせられた穴の絵だ。

  どうして自分か突然思い立ってそんな絵を描いてしまったのか、私にはその意味や目的をつき
 とめることができなかった。私はあるとき、その『雑木林の中の穴』の絵をどうしても描きたく
 なったのだ。そうとしか言いようがない。そういうことはときとして起こる。何か――ある風景、
 物体、人物――がただ純粋に、とてもシンプルに私の心を捉え、私は筆をとってそれをキャンバ
 スに描き始める。これという意味もなければ目的もない。ただの気まぐれのようなものだ。
  いや、違う、そうじゃない、と私は思った。「ただの気まぐれ」なんかじゃない。私がこの絵
 を描くことを何かが求めていたのだ。とても強く。その求めが私を超勤させ、この絵に取りかか
 らせ、私の背中を手で押すようにして、短い期間のうちに作品を完成に至らせたのだ。あるいは
 その穴自体が意志を持ち、私を使って自らの姿を描かせたのかもしれない――何かしらの意図を
 持って。ちょうど免色が(おそらくは)何かしらの意図をもって、自分の肖像を私に描かせたの
 と同じように。

  ごく公正に客観的に見て、悪くない出来の絵だった。芸術作品と呼ぶことができるかどうか、
 そこまではわからない(弁解するわけではないが、私はそもそも芸術作品を生み出そうとしてこ
 の絵の制作にとりかかったわけではなかった)。しかし技術的なことに限っていえば、ほとんど
 文句のつけようはないはずだ。構図も完璧だし、樹間から差し込む太陽の光も、積もった落ち葉
 の色あいも、どこまでもリアルに再現されていた。そしてその絵はきわめて細密で写実的であり
 ながら、同時にどこかしら象徴的な、ミステリアスな印象を漂わせていた。
  その完成した絵を長いあいだ睨んでいて私が強く感じたのは、その絵の中には勁きの予感のよ
 うなものが潜んでいるということだった。それは表面的に見ればタイトル通り、ただの「雑木林
 の中の穴」を描いた具象的な風景圃だった。いや、風景圃というよりはむしろ「再現圃」と呼ん
 だ方が事実に近いかもしれない。私は曲りなりにも絵を描くことを長く職業としてきたものとし
 て、身につけた技術を駆使し、そこにある風景をキャンバスの上にできる限り忠実に再現した。
 描くというよりはむしろ記録したのだ。

  でもそこには動きの予感のようなものがあった。この風景の中で、これから何かが動き出そう
 としている――私は絵の中からそのような気配を強く感じ取ることができた。今まさに何かがこ
 こで始まるうとしている。そして私はそこでようやく思い当たった。私かこの絵の中に描こうと
 していたのは、あるいは何かが私に描かせようとしていたのは、その予感であり気配だったのだ。
 私は床の上で姿勢を正し、もう一度あらためてその絵を見直した。
  そこにはこれからいったいどのような動きが見られるのだろう? 半分だけ闇いた丸い暗闇の
 中から誰かが、何かが這い出てくるのだろうか? あるいは逆に、誰かがその中に降りていくの
 だろうか? 私は長いあいだ集中してその絵を眺めていたが、そこに出現するのがどのような
 「動き」なのか、画面から推し量ることはできなかった。ただ何かしらの動きがそこに生まれる
 に違いないと、強く予感するだけだった
  そしてなぜ、何のために、この穴は私に描かれることを求めていたのだろう。それは何かを教
 えようとしているのだろうか? 私に警告のようなものを与えようとしているのだろうか? ま
 るで謎かけのようだ。たくさんの謎がそこにあり、そして解答はひとつとしてない。この絵を秋
 川まりえに見せて、彼女の意見を聞きたいと私は思った。彼女ならそこに何か、私の目には見え
 ないものを見て取るかもしれない。


  金曜日は小田原駅近くの絵画教室で講師を務める日だ。秋川まりえが生徒として教室にやって
 くる日でもある。教室の絵わったあと、彼女とそこで何か話ができるかもしれない。私は車を運
 転してそこに向かった。

  駐車場に車を駐め、教室が始まるまでにはまだ時間があったので、いつものように喫茶店に入
 ってコーヒーを飲んだ。スターバックスのような明るくて機能的な店ではなく、初老の店主が一
 人で切り盛りしている昔ながらの、路地裏の喫茶店だ。濃い真っ黒なコーヒーを、ひどく重いコ
 ーヒーカップに入れて出す。古いスピーカーから古い時代のジャズが流れている。ビリー・ホリ
 デーとかクリフォード・ブラウンとか。そのあと商店街をぶらぷらと歩いているうちに、コーヒ
 ーフィルターが残り少なくなっていることを思い出して、それを買った。そのあと中古レコード
 を売っている店をみつけて中に入り、古いLPを眺めて時間をつぶした。考えてみればずいぷん
 長いおいた、クラシック音楽しか聴いていなかった。雨田典彦のレコード棚にはクラシック音楽
 のレコードしか置かれていなかったからだ。そして私はラジオではAM放送のニュースと天気予
 報以外の番組をまず間かなかった(地形の関係でFM放送の電波はほとんど入らなかった)。



  私が広尾のマンションに持っていたCDとLPは――たいした数ではないが――全部あとに残
 してきた。本にせよレコードにせよ、私の所有する物とユズの所有する物とをひとつひとつ分別
 することが煩わしかったからだ。ただ面倒というだけではなく、それは不可能に近い作業でもあ
 った。たとえばボブ・ディランの『ナッシュヴィル・スカイライン』や、『アラバマ・ソング』
 の入ったドアーズのアルバムは、いったいどちらの持ち物になるのだろう? どちらがそれを買
 ったかなんて、今となってはどうでもいいことだった。とにかく我々は同じ音楽を一定期間二人
 で共有し、一緒にそれを聴いて日々の生活を送ったのだ。物体を区分けすることができても、そ
 れに付随する記憶を区分けすることはできない。だとしたらすべてをあとに残していくしかない。



  私はそのレコード店で『ナッシュヴィル・スカイライン』と、ドアーズのファースト・アルバ
 ムを探してみたが、どちらも見当たらなかった。あるいはCDでならあったのかもしれないが、
 私はやはり昔ながらのLPでそれらの音楽を聴きたかった。それにだいいち、雨田典彦の家には
 CDプレーヤーは置いていない。カセットデッキだってない。レコード・プレーヤーが何台かあ
 るだけだ。雨田典彦は何によらず新しい機器に好意を抱かないタイプの人であったようだ。電子
 レンジのニメートル以内に近づいたこともないのではないだろうか。

  私は結局、その店で目についた二枚のLPを買った。ブルース・スプリングスティーンの『ザ
 ・リブァー』と、ロバータ・フラックとダュー・ハサウェイのデュエットのレコード。どち
らも
 懐かしいアルバムだった。ある時点から私は新しい音楽をほとんど聴かなくなってしまった。

 そして気に入っていた古い音楽だけを、何度も繰り返し聴くようになった。本も同じだ。音読ん

 だ本を何度も繰り返し読んでいる。新しく出版された本にはほとんど興味が持てない。まるでど
 こかの時点で時間がぴたりと停止してしまったみたいに。



  あるいは時間は本当に停止してしまったのかもしれない。あるいは時間はまだかろうじて勣い
 てはいるものの、進化みたいなものは既に終了してしまったのかもしれない。ちょうどレストラ
 ンが閉店の少し前に、もう新しい注文を受け付けなくなるのと同じように。そして私ひとりがま
 だそのことに気がついていないだけかもしれない。
  私はその二枚のアルバムを紙袋に入れてもらい、代金を払った。それから近くの酒屋に寄って
 ウィスキーを買い求めた。どの銘柄にしようか少し迷ったが、結局シーヴァス・リーガルを買っ
 た。ほかのスコッチ・ウィスキーよりも少し値段は高かったが、雨田政彦が今度うちに遊びに来
 たとき、それが置いてあればきっと喜ぶだろう。



 そろそろ教室の始まる時刻になったので、゛私はレコードとコーヒーフィルターとウィスキーを
 車の中に置いて、教室のある建物に入った。まず最初に五時からの子供たちのクラスがあった。
 秋川まりえが属しているクラスだ。しかしそこにまりえの姿は見当たらなかった。それはとても
 意外なことだった。彼女はずいぶん熱心にその教室に通っていたし、私の知る限りでは欠席した
 のは初めてのことだ。だから彼女の姿が教室のどこにも見えないと、なんだか落ち着かない気持
 ちになった。そこには何かしら不穏な気配さえ感じられた。彼女の身に何かが起こったのだろう
 か? 急に体調を崩したとか、何か突発的な事件が起きたとか。



  しかしもちろん私はなにごともなかったように、子供たちに簡単な課題を与えて終を描かせ、
 一人ひとりの作品について意見を述べたり、アドバイスを与えたりした。そのクラスが終了する
 と、子供たちは家に帰り、今度は成人のための教室になった。その教室もとくに支障なく終えた。
 人々とにこやかに世間話をした(私のあまり得意とする分野ではないが、やってできなくはな
 い)。それから絵画教室の主宰者と、今後の予定について短い打ち合わせをした。秋川まりえが
 なぜ今日教室を体んだかは、枚も知らなかった。彼女の家からの連絡もとくにないということだ。

  教室を出てから一人で近所の蕎麦屋に入って、温かい天ぷら蕎麦を食べた。これもいつもの習
 慣だ。いつも同じ店で、いつも天ぷら蕎麦を食べる。それが私のささやかな楽しみになっている。
 それから車を運転して山の上の宮号戻った。宮に戻ったときには、もう夜の九時近くになってい
  た。
  電話機には留守番電話機能がついていなかったので(そのような小賢しい装置も雨田典彦の好
 みにはあわなかったようだ)、出かけているあいだに誰かから電話がかかってきたかどうかもわ
 からなかった。私はしばらくのあいだそのシンプルな旧式の電話機をじっと見つめていたが、電
 話機は私に何も敦えてくれなかった。ただじっとその黒々とした沈黙を守っているだけだった。

  ゆっくり風呂に入り、身体を温めた。それから瓶に残っていたシーヴァス・リーガルの最後の
 一杯ぶんをグラスに往ぎ、冷凍庫の角氷を二つ入れ、居間に行った。そしてウィスキーを飲みな
 がら、さきほど買ってきたレコードをターンテーブルに載せた。クラシック音楽以外の音楽がそ
 の山の上の宮の居間に流れると、最初はどうもそぐわない気がしてならなかった。きっとその部
 屋の空気は長い歳月をかけ、古典音楽に合わせて調整されてきたのだろう。でも今そこに流れて
 いるのは、私にとっては聴き慣れた音楽だったから、時間の経過とともに、懐かしさがそぐわな
 さを少しずつ克服していった。そしてやがては、身体の筋肉が各部でほぐれていくような心地よ
 い感覚がそこに生まれた。私の筋肉は自分でも気づかないうちに、あちこちで固くなっていたの
 かもしれない。

  ロバータ・フラックとダュー・ハサウェイのLPのA面を聴き終え、グラスを傾けながらB面
 の一曲眼(「フオー・オール・ウィー・ノウ」、素敵な歌唱だ)を聴いているところで、電話の
 ベルが鳴った。時計の針は十時半を指していた。こんな運くにうちに電話がかかってくることは
 まずない。受話器を取るのは気が進まなかった。しかしそのベルの鳴り方には心なしか差し迫っ
 た響きが聴き取れた。私はグラスを置いてソファから立ち上がり、レコードの針を上げ、それか
 ら受話器を取った。

 「もしもし」と秋川笙子の声が言った。
  私は挨拶をした。
 「夜分まことに申し訳ありません」と彼女は言った。彼女の声はいつになく切迫して聞こえた。
 「先生にちょっとおうかがいしたかったのですが、まりえは今日、そちらの絵画教室にはうかが
 いませんでしたよね?」

  来ていないと私は言った。それはいささか不思議な質問だった。まりえは学校(地元の公立中
 学校だ)の授業が終わると、そのまま教室にやってくる。だからいつも制服姿で絵画の教室にや
 ってくる。教室が終了するころに、叔母が車で彼女を迎えに来る。そして二人は家に帰っていく。
   それがいつもの習慣だった。

 「まりえの姿が見当たらないんです」と秋川笙子は言った。
 「見当たらない?」
 「どこにもいないんです」
 「それはいつからですか?」と私は尋ねた。
 「学校に行くといって、いつものように朝に家を出ました。車で駅まで送るうかと言ったんです
 が、歩くからいいとまりえは言いました。あの子は歩くのが好きなんです。車に乗るのがあまり
 好きじやありません。何かあって遅刻しそうなときは私か車で送りますが、そうでなければ普通
 は歩いて山を降りて、そこからバスに乗って駅まで行きます。そしてまりえは朝の七時半にもの
 ように家を出て行きました」

  それだけを一息で話すと秋川笙子子は少し間を置いた。電話口で呼吸を整えているようだった。
 私もそのあいだに、与えられた情報を頭の中で整理した。それから秋川笙子は話を続けた。

 「今日は金曜日です。学校がひけたあとそのまま絵画教室に行く日でした。いつもは教室の終わ
 る頃に私が車で迎えに行きます。でも今日はバスに乗って帰るから、迎えに来なくていいとまり
 えは言いました。だから迎えにいかなかったんです。なにしろ言い出したらきかない子ですから。
 普通、そういうときには七時から七時半のあいだに家に帰ってきます。そして食事をとります。。
 でも今日は八時になっても、八時半になっても帰ってきません。それで心配になったもので、教
 室に電話をかけて、事務の方に今日まりえが米ていたかどうか確認してもらいました。今日は来
 ていないということでした。それで私はとても心配になってきました。もう十時半ですが、この
 時刻になってもまだ帰宅していません。連絡ひとつありません。それでひょっとして先生が何か
 ご存じではないかと思って、このようにお電話を差し上げたんです」

 「まりえさんの行き先について、ぼくには心当たりはありません」と私は言った。「今日の夕方
 教室に入って、まりえさんの姿が見えなかったので、あれっと思ったくらいです。彼女が教室を
 休むというのは、これまでなかったことですから」

  秋川笙子は深いため息をついた。「兄はまだ帰宅していません。いつ帰宅するかもわかりませ
 し、連絡もつきません。今日帰ってくるかどうかさえ確かじやありません。私一人でこの家に
 いて、どうすればいいのか途方に暮れてしまって」

 「まりえさんは学校に行く服装で、朝にお宅を出たんですね?」と私は尋ねた。
 「ええ、学校の制服を着て、バッグを肩にかけて。いつもと同じかっこうです。ブレザーコート
 にスカートです。でも実際に学校に行ったのかどうかまではわかりません。もう校も遅いですし、
 今のところ確認のしようがありません。でも学校には行ったと思うんです。もし無断欠席をした
 ら、学校から連絡があるはずですから。お金もその目に必要なぷんだけしか持っていないはずで
 す。携帯電話はいちおう持たせているのですが、電源は切られています。あの子は携帯電話が好
 きじゃないんです。自分から連絡してくるとき以外は、しょっちゅう電源を切ってしまっていま
 す。いつもそのことで注意しているのですが。何か大事なことがあったときのために、電源だけ
 は入れておいてくれと」

 「これまでこんなことはなかったのですか? 夜の帰宅が遅くなるようなことは?」
 「こんなことは本当に初めてです。まりえは学校にはまじめに通う子供でした。親しい友だちが
 いるわけでもなく、学校がそんなに好きというのでもないようですが、いったん決められたこと
 はしっかり守る子供です。小学校でも皆勧賞をもらっていました。そういう意味ではとても律儀
 なんです。そして学校が終わったらいつもまっすぐ家に帰ってきます。どこかでふらふらしてい
 たりするようなことはありません」

  まりえが夜中によく家を抜け出していることに、叔母はやはりまったく気づいていないらしい。
 「今朝、何かいつもとは違う様子みたいなものはありませんでしたか?」
 「いいえ。普段の朝と変わりありません。いつもとまったく同じです。温かいミルクを飲んで、
 トーストを一枚だけ食べて、家を出ていきます。判で捺したみたいに同じものしか口にしません

よくもまぁ~予定通り読み繫いでいると自分でも感心するぐらいだ。腰痛をが堪えるがなんとか読み
終えたい。
 

                                      この項つづく   
 
● 今宵の寸評:どうすれば、尊い人命の犠牲なしに最悪事態を回避できるのか?!

                         

   

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ピンチに攻め上げる

2017年08月10日 | デジタル革命渦論

   

    

               宣公13年~襄公20年 鞌(あん)の戦い   / 晋の復覇刻の時代 

                                 

       ※ 甲を擐(つらぬ)き兵を執るは、もとより死に即くなり

       さて、翌朝、斉の高固は、敢然として晋の陣内に兵車をのりいれた。そして
       晋の兵めがけて大石を投げつけ、倒れた兵を捕えて車にのせ、さらに、手近
       にあった桑の木を根もとから引き抜いて車にくくりつけた。自軍のとりでに
       馳せもどるや、大声で叫んだ。
       「勇者になりたいやつはわしを見習え」
       この日、両軍は鞌の地に対陣した。斉侯の軍には、邴夏が御を、逢丑父が右
       をつとめ、一方、晋の郤克の軍には、解張が御を、鄙丘緩か右をつとめてい
       た。
       「朝飯前に、片をつけてしまおう」
       斉侯はこう言いすてると、馬に甲も着せずに鞭をくれた。
       戦端がひらかれるや、郤克は矢傷を負い、流れる血がくつを侵した。それで
       も気力をふりしぼって鼓を打ちつづけていたが、
       「もうだめだ。これ以上は戦えぬ」
       すると、解張が励ました。
       「弱音を吐いてはいけません。わたしも早々に、腕に矢を突き立てられまし
       たが、それを折りとって、馬を御しています。左輪は私の血ですでに真っ赤
       に染まっています。それでも私はくじけません。しっかりしてください」
       鄭丘緩も言った。
       「気をたしかにもってください。いままで兵車がぬかるみにはまったときに
       は、私はかならず降りて車をおしているのです。それはあなたもご承知のは
       ず。もうだめだなどとおっしゃっているときではありません」
       さらに、解張は力づよく、
       「全軍の耳目は、わが旗鼓にあつまっています。進かも退くもすべて将軍の
       下知ひとつ。将軍おひとりが、この兵車に頑張ってさえおられれば勝利はわ
       がもの。負傷したぐらいで、主君のこの大事を失敗させるわけにはまいりま
       せん。いったんよろいを着け武器を手にしたからには、死はもとより覚悟の
       はず。これしきの傷、まだまだ戦えます」
       こう言うと、左手だけでもち、右手に郤克の手から撥(ばち)をとった。そ
       してはげしく鼓をたたく。馬もいきりたち、すさまじい勢いで走り出した。
       全軍、遅れじと後につづく。斉車はこの勢いに抗しきれず敗走をはじめ、華
       不注山のふもとをぐるぐると逃げまわった。
 

  

 No.50

♞ 蓄電池の品質❂コストが世界を制す

✔ 世界最軽量クラスを実現 6.5kWhリチウムイオン蓄電システムを事例に

先月27日、京セラは住宅用の定置型リチウムイオン蓄電池の販売を開始。住宅太陽光の自家消
費ニーズの高まりを見据えた製品で、同社のHEMS「ナビフィッツ」と連携し、生活パターンの
学習による最適な充放電制御などが行えるもの(下写真)。このホームエネルギーマネジメント
システムと連携可能な6.5kWh(キロワット時)の蓄電システム「EGS-ML0650」は、重量は52kgと
蓄電池ユニットとしては「世界最軽量クラス」としており、屋内と屋外双方での設置が可能となっている。
希望小売価格は屋外向けが270万円(税別、付属品含む)、屋内向けが268万7000円(同)。

2012年にスタートした「再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)」の買い取り価格は毎
年低下を
続ける中、今後は電力の自家消費を目的とした太陽光発電システム、蓄電システムの導
入が増加する見込み
。2019年をめどに住宅太陽光発電システムの余剰買い取り期間が終了する住
宅も増え始める。
その結果、新たに蓄電システムを導入し、既設の太陽光発電システムを有効活
用して自家消費を行う動
きが広がると予想される。
このようなニーズに向け、天気予測や電力消
費パターンから、太陽
光発電システムによる発電量や余剰電力量などを試算し、蓄電システムや
「エコキュート(ヒートポンプ給
湯機)」の自動制御を可能にするHEMS「ナビフィッツ」を
2017年1月に発売した。今回発表した蓄電シス
テムは、ナビフィッツと連携可能な初のモデルで
ある。

 



✔ エネルギー分散型社会のキーテクノロジー・蓄電システム

欧州などの相次ぐ地下化石燃料自動車から電気自動車への政策転換が報道される中、トヨタ自動
車が
マツダと共同で進める電気自動車(EV)の開発について、スバルなどの出資先や提携協議
中のスズキ
に幅広く参加をさせる動きが報じられ、日本政府内にも影響をあたえている。ここで
屋上屋を重ねるつもりはないが、デジタル革命渦論が波及している証であり、蓄電池と電動機と
いう2つの要素技術の研究開発競争の激化し驚くべき早さで技術革新が進行し、同一性能を基準
にして、コストダウン、ダウンサイジング、ボーダーレス、シームレス、イレージング、エクス
パンションが実現されていうだろう。ここではそのことを踏まえ、❶リチウムイオン蓄電システ
ム(京セラ)の2件、❷セパレーター(王子製紙)の1件の計3件の特許公開事例を参考掲載し
今後の技術開発の指針を小考する。対応遅延(誤謬?)に
「ピンチに攻め上げる」姿勢で臨む他な
しであることを確認しておこう。



❏ 特開2017-118715 電力管理装置、電力管理システム、および電力管理方法

節電・省エネルギーに対する意識の高まりから電力管理装置(EMS:Energy Management System
が着目され、さまざまな領域で活用されてきている。ここで、商業施設などの高圧受電者に課さ
れる電力料金の一部(基本料金)は、例えば直近の1年間における最大のデマンドに応じ決定
される。デマンド値は、所定時限(デマンド時限)における需要電力量を、この時限の平均値で
ある最大需要電力値(デマンド値)に換算した値である。デマンド値が大きい程、基本料金が高
くなる
。したがって、電力料金を抑制するために、当月のデマンド値、または、過去11ヵ月の
最大のデマンド値を越えないようにデマンドカットが従来行われる。具体的には、予め設定され
た目標とする電力値(デマンド目標値)よりも予測デマンド値が大きい場合に、負荷機器の動作
を制御して、負荷機器の消費電力を低減することによって、実際のデマンド値がデマンド目標値
を超えないように制御
される。ところが、負荷機器の動作抑制にとして電力制御を実行するデマ
ンドカットは必ずしも適切でない――所要の常時動作負荷機器の電力制御を行うと不測の不具合、
あるいは、エアコンまたは照明装置などの電力制御の実行に伴う、需要家施設の快適性が損なわ
れる――可能性があり、デマンドカット手法の改善余地があった。このように、負荷機器に対す
る電力制御の実行を抑制しつつデマンドカット可能な電力管理装置、電力管理システム、および
電力管理方法を提供するにあたり、下図のように負荷制御装置17および蓄電装置14を備える
需要家施設における電力管理を行う電力管理装置18は、負荷制御装置17及び蓄電装置14と
通信可能な通信部22と、制御部25と、を備える。制御部25は、蓄電装置14の残量に係る
情報を蓄電装置14から取得し、現在時刻が属する時限以降の時限のうち予測需要電力量が第1
閾値を超過する予測時限と、予測時限における予測需要電力量のうち第1閾値を超過する予測超
過電力量と、を負荷制御装置17から取得し、蓄電装置14の残量と、予測時限と、予測超過電
力量と、に基づいて、負荷機器16に対する電力制御を決定する。
 


【符号の説明】

10    電力管理システム 11    分電盤 12    電力量計 13    最大需要電力計 14    蓄電装置
15    発電装置 16    負荷機器 17    負荷制御装置 18    電力管理装置 19    電力系統
20    ネットワーク 21    サーバ装置 22    通信部 23    表示部 24    記憶部 25    制御部

【図1】本発明の一実施形態に係る電力管理システムの概略構成を示すブロック図
【図2】図1の電力管理装置の概略構成を示すブロック図
【図3】電力管理装置の動作を示すフローチャート

【特許請求の範囲】

  1. 負荷機器に対する電力制御を行う負荷制御装置、および前記負荷機器に電力を供給可能な
    蓄電装置を備える需要家施設における電力管理を行う電力管理装置であって、前記負荷制
    御装置及び前記蓄電装置と通信可能な通信部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記
    蓄電装置の残量に係る情報を前記蓄電装置から取得し、現在時刻が属する時限以降の時限
    のうち予測需要電力量が第1閾値を超過する予測時限と、前記予測時限における前記予測
    需要電力量のうち前記第1閾値を超過する予測超過電力量と、を前記負荷制御装置から取
    得し、前記蓄電装置の前記残量と、前記予測時限と、前記予測超過電力量と、に基づいて、
    前記負荷機器に対する電力制御を決定する、電力管理装置
  2. 請求項1に記載の電力管理装置であって、前記制御部は、前記負荷機器に対する電力制御
    を留保させる第1制御信号を前記負荷制御装置へ送信する、電力管理装置
  3. 請求項2に記載の電力管理装置であって、前記制御部は、前記予測超過電力量が、前記予
    測時限に前記蓄電装置からの放電を許可する上限電力量以下である場合、前記負荷機器に
    対する電力制御を前記予測時限の少なくとも一部に亘って留保させる前記第1制御信号を
    前記負荷制御装置へ送信する、電力管理装置
  4. 請求項3に記載の電力管理装置であって、前記制御部は、前記予測超過電力量が前記上限
    電力量以下である場合、前記予測時限において前記蓄電装置を定格出力で放電させるとき
    の放電電力量が前記予測超過電力量以上であるときに、前記第1制御信号を前記負荷制御
    装置へ送信する、電力管理装置
  5. 請求項1乃至3の何れか一項に記載の電力管理装置であって、前記通信部は、ネットワー
    クを介した通信機能を有しており、前記制御部は、前記ネットワークを介して、時限毎の
    電力料金を示す情報を取得し、対象時限における電力料金が第2閾値以上である場合、前
    記対象時限において前記蓄電装置に充電よりも放電を優先させる第2制御信号を前記蓄電
    装置へ送信する、電力管理装置
  6. 請求項5に記載の電力管理装置であって、前記制御部は、前記対象時限における電力料金
    が前記第2閾値以上である場合、前記予測時限に前記蓄電装置からの放電を許可する上限
    電力量が前記蓄電装置の残量未満であるときに、前記第2制御信号を前記蓄電装置へ送信
    する、電力管理装置
  7. 請求項1乃至6の何れか一項に記載の電力管理装置であって、前記通信部は、前記需要家
    施設に備えられた発電装置と通信可能であり、且つ、ネットワークを介した通信機能を有
    しており、前記制御部は、前記ネットワークを介して、時限毎の電力料金を示す情報と、
    前記発電装置による発電電力の時限毎の売電料金を示す情報と、を取得し、  対象時限に
    おける売電料金が電力料金未満である場合、前記対象時限において、発電電力の売電より
    も前記需要家施設への供給を優先的に行わせる第3制御信号を前記発電装置へ出力する、
    電力管理装置
  8. 負荷機器に対する電力制御を行う負荷制御装置と、前記負荷機器に電力を供給可能な蓄電
    装置と、電力管理装置と、を備え、前記電力管理装置は、前記蓄電装置の残量に係る情報
    を前記蓄電装置から取得し、現在時刻が属する時限以降の時限のうち予測需要電力量が第
    1閾値を超過する予測時限と、前記予測時限における前記予測需要電力量のうち前記第1
    閾値を超過する予測超過電力量と、を前記負荷制御装置から取得し、前記蓄電装置の前記
    残量と、前記予測時限と、前記予測超過電力量と、に基づいて、前記負荷機器に対する電
    力制御を決定する、電力管理システム。
  9. 負荷機器に対する電力制御を行う負荷制御装置、および前記負荷機器に電力を供給可能な
    蓄電装置を備える需要家施設に設置される電力管理装置が実行する電力管理方法であって、
    前記電力管理装置が前記蓄電装置の残量に係る情報を前記蓄電装置から取得するステップ
    と、現在時刻が属する時限以降の時限のうち予測需要電力量が第1閾値を超過する予測時
    限と、前記予測時限における前記予測需要電力量のうち前記第1閾値を超過する予測超過
    電力量と、を前記負荷制御装置から取得するステップと、前記蓄電装置の前記残量と、前
    記予測時限と、前記予測超過電力量と、に基づいて、前記負荷機器に対する電力制御を決
    定するステップと、を含む電力管理方法。
     

❏ 特開2017-139953 管理システム、管理方法、制御装置及び蓄電池装置

複数の機器と、複数の機器を制御する制御装置とを有する電力管理システムが提案されている。
複数の
機器は、例えば、エアーコンディショナー、照明装置などの家電機器、及び、太陽電池、
蓄電池、燃料発
電装置などの分散電源である。制御装置は、例えば、HEMS(Home  Energy  M-
anagement  System)、SEMS(Store  Energy  Management  System)、BEMS(Building  Energy 
Management  System)、FEMS(Factory  Energy  Management  System)、CEMS(Cluster/Comm-
unity  Energy  Management  System)
などと称される。これらの管理システムの普及には、複数
の機器と制御装置との間のメッセージフォーマットを共通化することが効果的であり試みられて
いる。そこで、下図のように機器を適切に制御することを可能とする管理システム、管理方法、
制御装置及び蓄電装置を提供するにあたり、下図のように、EMS200は、蓄電池装置140
が対応するコード群を要求するコード群要求を蓄電池装置140に送信し、蓄電池装置140か
らのコード群応答に運転モード要求に対応するコードが含まれている場合に、運転モードの通知
を要求する要求メッセージを蓄電池装置140に送信し、蓄電池装置140は運転モードを指定
する応答メッセージをEMS200に送信する。

【符号の説明】

10…需要家、20…CEMS、30…変電所、31…配電線、40…スマートサーバ、50…
発電所、51…送電線、60…ネットワーク、100…エネルギー管理システム、110…分電
盤、120…負荷、130…PV装置、131…PV、132…PCS、140…蓄電池装置、
141…蓄電池、142…PCS、150…燃料電池装置、151…燃料電池、151A…改質
器、151B…セルスタック、152…PCS、153…ブロワ、154…脱硫器、155…着
火ヒータ、156…制御基板、160…貯湯装置、170…給湯装置、180、181、182
…電流計、200…EMS、210…受信部、220…送信部、230…制御部、
300、310、320…ユーザ端末

【図1】図1は、第1実施形態に係るエネルギー管理システム100を示す図

【図2】図2は、第1実施形態に係る需要家10を示す図
【図3】図3は、第1実施形態に係る燃料電池装置150を示す図
【図4】図4は、第1実施形態に係るネットワーク構成を示す図

【特許請求の範囲】

  1. 蓄電池装置と、前記蓄電池装置と所定プロトコルを用いて通信を行う制御装置とを有する
    管理システムであって、前記制御装置は、前記蓄電池装置に対して、前記蓄電池装置が対
    応するコード群を要求するコード群要求を送信し、前記蓄電池装置は、前記制御装置に対
    して、前記コード群要求に応じて、前記蓄電池装置が対応するコード群を応答するコード
    群応答を送信し、前記制御装置は、前記コード群応答に前記蓄電池装置の運転モードの通
    知を要求する運転モード要求に対応するコードが含まれている場合に、前記蓄電池装置に
    対して、前記蓄電池装置の運転モードの通知を要求する要求メッセージを送信し、前記蓄
    電池装置は、前記制御装置に対して、前記蓄電池装置の運転モードを指定する情報要素を
    含むメッセージとして、前記要求メッセージに対する応答メッセージを送信することを特
    徴とする管理システム
  2. 前記複数の運転モードは、前記蓄電池装置以外の分散電源と前記蓄電池装置が連携する運
    転モードを含むことを特徴とする請求項1に記載の管理システム
  3. 前記蓄電池以外の分散電源は、太陽電池であることを特徴とする請求項2に記載の管理シ
    ステム
  4. 前記運転モードは、前記蓄電池を充電するモード又は前記蓄電池を放電するモードである
    ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の管理システム
  5. 前記制御装置は、所定トリガーを検出した後に、前記コード群要求を前記蓄電池装置に送
    信し、前記所定トリガーは、前記蓄電池装置の初期設定を行うタイミング、停電から復旧
    したタイミング、前記蓄電池装置の電源が投入されたタイミング、前記制御装置の電源が
    投入されたタイミング、及び前記蓄電池装置の設定を確認する必要が生じたタイミングの
    少なくともいずれかであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の管
    理システム


❏ 特開2017-053075 多孔性を有する3層積層シート及びその製造方法、
            並びに3層積層シートからなる蓄電素子用セパレータ

電池、コンデンサー、キャパシターなどの蓄電素子用のセパレータには安全性、コンパクト化、
長寿命化等の観点から高度な性能が求められている。特にリチウム2次電池用のセパレータには
ハイブリッド自動車、電気自動車、高性能電池等の普及に伴い、セルサイズの大型化、電池の
総重量ダウンのための大幅なコンパクト化、大幅なコストダウン、さらには耐熱安全性の改良
に関して緊急な対応が求められている。このリチウム2次電池用のセパレータは、電解質を均一
に保持し、正極、負極の両面に密着して電極間を確実に絶縁するという基本機能が求められる。
また、他の機能として、電池の単位容量を上げるため40μm以下という薄層化と、高速組み立
てに耐える加工性、そして多回充放電に伴う金属デンドライトの発生による物理的損傷に耐える
強度、さらには極地の極低温、熱帯砂漠の極高温に耐える耐候性、寸法安定性も求められる。こ
の様な多くの機能を達成するには、単体、単層の構成では難しく、多層化や他種機能材との複合
化がされたセパレータが望ましい。

従来からこのリチウム2次電池用のセパレータとしてはハイポア(旭化成株式会社の商標)に代
表されるようなオレフィン系の多孔膜が使用されてきた。近年では、耐熱性の向上の必要から、
耐熱性に優れ、電気化学的に安定性のあるセルロース素材をセパレータ素材として利用する開発
研究がおこなわれている。このようなセルロース素材としては、特に超微細径をもつミクロフィ
ブリル化セルロース(MFC)を高圧ホモジナイザーによりさらに微細化を進めたナノセリッシ
(ダイセル商標)、酢酸菌の培養、分離、精製によって得られるバイオセルロース等のセルロ
ースナノファイバーの開発が行われている。以上のような超微細径をもつセルロース繊維から薄
層化したセパレータを得ようとすると下記のような2つの大きな問題がある。

  1. 微細径をもつセルロース繊維は水和性が巨大で、水素結合性が強力のためその水和状態のまま
    シート形成するといわゆるパーチメント化したフィルム状シートとなる。その結果、多孔構造は消滅
    し、もはやイオンの透過性はほとんどなくなる。
  2. セルロース分子の水酸基を疎水性官能基で置換したり、アルコール類による溶媒置換等により水
    素結合の形成をブロックして多孔構造を維持したままのシートを得ようとすると、自着性を喪失し
    必要なシート強度を維持することが出来ない。

これらの問題の解決手段としては、たとえば特許文献1、2及び3に提案されているように、水
素結合の度
合いを化学的にコントロールする試みがある。このような方法により連続的に薄層化
シートを製造しようと
すると、条件設定が難しくプロセスも複雑になるので、商業化生産に際し
ては著しく不利である。また、他
の手段としては、不織布を強度支持体として、多孔構造をもつ
超微細径セルロース繊維層と不織布を積層してシートを得る方法である。微細セルロース層を成
型する支持体として疎水性シートたとえば不織布を使用し、積層した状態で脱溶媒,乾燥を終っ
たのちに、その支持体不織布を剥離して取り除き、微細セルロースのみからなる薄層を得る方法
が提案されているが、支持体不織布を適切に選択して微細セルロース繊維層と不織布を積層一体
化した状態で利用するほうがより合理的と思われる。また、この一体化したシート方法は条件設
定もしやすくプロセスも比較的簡単で商業化しやすい利点があるが、反面セルロース繊維層にも
不織布にもある程度以上の厚さと目付が必要となり薄層化、超薄層化が難しい。特に不織布は少
なくとも15g/mを超えないとセルロース繊維層の乾燥収縮によりセルロース繊維層側に大きく
カールしてしまう。セルロース繊維層も単層のため10g/m以上でないとピンホールの発生を防
止するのが難しい。したがって積層体の目付も25g/m以上の厚いシートになり、厚さも100μ
m前後になって、リチウム2次電池用のセパレータとしては使用には難点がある。これらを踏ま
え、下図のようにシート強度性及び生産性並びに通気性に優れた3層積層体シート、及び商業的
に連続生産可能な製造方法及びその3層積層体シートからなる蓄積素子用セパレータの提供にあ
たり、熱可塑性の繊維を主たる構成成分とする不織布を中芯材Sとして、その上層及び下層とし
て微細径セルロース繊維を主たる構成成分とする多孔性繊維層P,Qを備えた3層積層シートに
おいて、ガーレ法で測定された3層積層シートの透気度が1,000秒/100ml以下であり、3層積層
シートの目付が2~155g/mの範囲に在り、3層積層シートの厚さが5~40μmの範囲にあ
り、不織布Sが、EVA,PE,PP,PET等から選ばれた連続フィラメントを構成成分とす
る3層積層シートとした。



【符号の説明】P,Q  多孔性繊維層 S  中芯不織布

【図1】本発明に係わる3層積層シートの代表的な構造を示す構成図
【図2A】比較例として示した2層積層状態の1例を示す模式図
【図2B】単に積層、接合した状態を示す3層積層の構成を示す模式図
【図2C】上下の多孔性繊維層が不織布層に噛みこんだ3層積層の構成を示す模式図
【図2D】上下の多孔性繊維層が相互に近接し薄層化が進行し3層積層の構成を示す模式図
【図3】不織布として4g/mとより薄く目開きの大きい材料を選択して積層・一体化した3
    層積層シートの例を示す模式図
【図5A】本発明に係わる3層積層シートの製造方法の一実施形態のフローを示す図
【図5B】本発明に係わる3層積層シートの製造方法の他の実施形態のフローを示す図
【図5C】本発明に係わる3層積層シートの製造方法の他の実施形態のフローを示す図
【図5D】本発明に係わる3層積層シートの製造方法の他の実施形態のフローを示す図

【特許請求の範囲】

  1. 熱可塑性の繊維を主たる構成成分とする不織布を中芯材として、その上層及び下層として
    細径セルロース繊維を主たる構成成分とする多孔性繊維層を備えた3層積層シートにおい
    て、 ガーレ法で測定された3層積層シートの透気度が1000秒/100ml以下であり、
    3層積層シートの目付が2g/m~15g/mの範囲に在り、3層積層シートの厚さが
    5μm~40μmの範囲にあり  前記不織布が、EVA,PE,PP,PET,EVA/
    PE,PE/PP,PP誘導体/PP,PE/PET,PET誘導体/PETのいずれか
    の連続フィラメントを構成成分とする3層積層シート
  2. 中芯材となる前記不織布が、繊度2デニール以下の熱可塑性合成繊維を少なくとも50%
    wt以上含み、目付が1g/m~10g/mの範囲に在り、厚さが2μm~40μmの
    範囲にある請求項1に記載された3層積層シート
  3. 中芯材となる前記不織布が、「繊維間目開き率」が50%以上である請求項2に記載され
    た3層積層シート
  4. 中芯材となる前記不織布が、スパンメルト不織布である請求項2又は3に記載された3層
    積層シート
  5. 中芯材となる前記不織布が、繊度1.7デニール以下、繊維長20mm以下のEVA,P
    E,PP,PET,EVA/PE,PE/PP,PP誘導体/PP,PE/PET,PE
    T誘導体/PETのいずれかの繊維を構成成分とする、湿式不織布である請求項2又は3
    に記載された3層積層シート
  6. 微細径セルロース繊維を主たる構成成分とする前記上層及び下層の多孔性繊維層それぞれ
    が目付が0.5g/m~5g/mの範囲に在り、 厚さが2μm~15μmの範囲にあ
    る請求項1~5のいずれか1項に記載された3層積層シート
  7. 前記多孔性繊維層が微細径セルロース繊維としてセルロースナノファイバーを少なくとも
    20wt%以上含有する請求項6に記載された3層積層シート
  8. 前記多孔性繊維層が微細径セルロース繊維としてセルロースナノファイバーとMFCの2
    成分を含有し、その合計含有量が少なくとも40wt%以上である請求項7に記載された
    3層積層シート
  9. 前記多孔性繊維層に平均粒径5.0μm以下の電気絶縁性のある無機物微粒子からなる多
    孔化促進剤を前記微細径セルロース繊維重量に対して10wt%~150wt%添加する
    請求項6~8のいずれか1項に記載された3層積層シート
  10.  前記上層の多孔性繊維層と前記下層の多孔性繊維層が不織布との接触面において、相互に
    前記不織布の繊維間空隙を貫通して、上層構成繊維と下層構成繊維が混和、接合状態にな
    り一体化されている請求項1~9のいずれか1項に記載された3層積層シート
  11. 前記上層の多孔性繊維層と前記下層の多孔性繊維層が易溶融性不織布との接触面において
    相互に前記不織布の繊維間空隙を貫通して、上層構成繊維と下層構成繊維が混和、融着、
    接合状態になり一体化されている請求項10に記載された3層積層シート
  12. 請求項1~11のいずれか1項に記載の3層積層シートにより形成された蓄電素子用セパ
    レータ
  13. 請求項1~11のいずれか1項に記載された3層積層シートの製造方法であって、前記上
    層の多孔性繊維層を層P、前記下層の多孔性繊維層を層Q、前記不織布を布Sとしたとき、
    前記層P及び層Qを、あらかじめ準備された前記布Sの両面に重ね合わせ、重ね合わせた
    状態で圧着一体化する3層積層シートの製造方法
  14. 請求項13に記載された3層積層シートの製造方法であって、
    前記層Pと前記層Qのそれぞれの最表面を保護する役割の2枚の疎水性不織布をそれぞれ
    保護シートR1、R2としたとき、前記保護シートR1と前記層Pとの合体シートR1P、
    及び前記層Qと前記保護シートR2との合体シートQR2をそれぞれ成形し、前記合体シ
    ートR1P及び前記合体シートQR2を前記布Sの両面に前記保護シートR1,R2が外
    側にくるように重ね合わせて圧着一体化し  圧着一体化されたシートR1P/S/QR2
    から2枚の保護シートR1,R2を取り除き、3層積層シートP/S/Qを得る3層積層
    シートの製造方法
  15. 前記層Qあるいは前記層Pと、前記布Sとで、合体シートS/Qあるいは合体シートP/
    Sを成形し、前記層P、前記布S、前記層Qの順の層構成になるように、前記合体シート
    S/Qに層P、あるいは前記合成シートP/Sに前記層Qを重ね合わせて圧着一体化する、
    請求項13に記載された3層積層シートの製造方法
  16. 前記層Pと前記層Qのそれぞれの最表面を保護する役割の2枚の疎水性不織布をそれぞれ
    保護シートR1,R2としたとき、前記保護シートR1と前記層Pとの合体シートR1P、
    あるいは前記層Qと前記保護シートR2との合体シートQR2を成形し、 前記布Sと前
    記Q及び前記保護シートR2とで合体シートS/QR2を成形するか、あるいは前記布S
    と前記層P及び前記保護シートR1とで合体シートR1P/Sを成形し、前記合成シート
    R1P、前記布S、前記合成シートQR2の順の層構成になるように、前記合体シートS
    /QR2に前記合成シートR1P、あるいは前記合体シートR1P/Sに前記合成シート
    QR2を重ね合わせ圧着一体化し、圧着一体化されたシートR1P/S/QR2から2枚
    の保護シートR1,R2を取り除き、3層積層シートP/S/Qを得る請求項15に記載
    された3層積層シートの製造方法。
  17. 溶媒含有状態の前記層Qあるいは前記層Pと、前記布Sとで、前記合体シートS/Qある
    いはP/Sの成形が溶媒含有状態で行われ、前記層P、前記布S、前記層Q順の層構成に
    なるように、前記合体シートS/Qに層P、あるいは前記合体シートP/Sに層Qを重ね
    合わせ圧着一体化する工程が溶媒含有状態で行われ、圧着状態を経て脱溶媒、乾燥が行わ
    れる請求項15に記載された3層積層シートの製造方法。
  18. 前記合体シートR1PあるいはQR2の成形が溶媒含有状態で行われ、  布Sと、層Qあ
    るいは層P及び保護シートR2又は保護シートR1とで、前記合体シートS/QR2ある
    いはR1P/Sの成形が溶媒含有状態で行われ、前記合体シートS/QR2あるいはR1
    P/Sに前記合体シートR1PあるいはQR2を重ね合わせ圧着一体化する工程が溶媒含
    有状態で行われ、圧着状態を経て脱溶媒、乾燥が行われ、前記シートR1P/S/QR2
    から2枚の保護シートR1,R2を取り除き、3層積層シートP/S/Qを得る請求項15
    に記載された3層積層シートの製造方法。

                                        

  

    

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世界はラテン模様

2017年08月09日 | 時事書評

   

    

               宣公13年~襄公20年 鞌(あん)の戦い   / 晋の復覇刻の時代 

                                  

       ※ 宣戦の使者:六月壬申の日、晋・魯・衛の軍は、靡笄(ぎけい)山のふもとに着
        いた。そ
こに斉侯から使者が来て、こう口上を述べた。「郤克どのには、晋炭の
              軍を率いて、わが地にわざわざお出ました、まことにご苦労なこと。お粗末な

            勢ながら、明朝を期して一戦をつかまつりたい」
「わが皆は、魯・衛とは兄弟国。
       その両国が、斉の軍勢にしばしば領土を蹂躙されている、とのこと。
わが主君は
       これを黙過するに忍びず、斉軍の罪を責めよ、ただし斉に長居をしてはならぬと
       われわれに兪じられた。したがって、わざわざご挨拶をいただくまでもないこと。
       進みこそすれ、一歩たりとも退きはいたしません」「そのお言葉こそ、当方の伺
       いたかったところ。ご返事のいかんにかかわらず、どのみち一戦を交ええたく存
       じておりました」
 


MEGA地震予測】  JESEA Vol.17,No.32




● 概要

水平方向の変動(水平ベクトル)が、これまでにない変動を観測。 それまで南東方向が主流だ
ったのが、反転して全国的に南西または西南西方向に変動。東北地方はほぼ南方向の水平変動で、
南西諸島は方向がバラバラで不安定な動きを示す。
これまで比較的静かであった南海~東南海~
東海、伊豆諸島の動きが活発でした。 これにより、前回レベルダウンした南海・東南海地方を
再度レベルアップ。
これまでのデータと大きく異なり、再度二週間後の最終解(F3データ)で検
証する、大きな地震の前兆の可能性もある(詳細は上図ダブクリ参照)。



                                                  

  
● 読書録:高橋洋一 著「年金問題」は嘘ばかり   

        第2章 「日本の年金制度がつぶれない」これだけの理由


    「年金制度」よりも「健康保険制度」のほうが運営が難しい

    皆さんは、同じ公的保険制度で比べた場合、「年金制度」と「健康保険制度」とでは、
   どちらが難しいと思われるでしょうか。

    結論をいえば、「健康保険制度」のほうが、はるかに難しい問題を抱えています。
    年金の場合は、多くのことが予測可能であり、それをもとに年金数理で計算できます。
   人口減少の問題にしても、戦争や自然災害などが起こらないかぎり、10年後、2
0年
   後の人口はほぼほぼ予測可能です。予測可能なことに対しては、計算ができます。

    一方、健康保険の場合は、予測が難しい面があります。10年後、20年後に総額で
   どのくらい医療費が必要になるのかを簡単に予測できません。どんな病気が増えるかわ
   かりませんし、さらには、その治療費にどのくらいかかるかも予測できません。医療は
   どんどん進歩し、すばらしい治療法、薬が開発されます。それらはものすごく高額にな
   る可能性もあります,

   「どんなに高い治療を受けてでも助かりたい」と思う人はたくさんいます。たとえば、
   ガンの高度な治療の中には、一回で数百万円するものがあります。現在は、お金持ちの
   人が自費で受けています,そのような治療が効果を上げることもあるようです。
    こういう現実を目にして、自分で何百万円も払えるお金持ちだけが助かって、貧乏な
   人は助からないということに理不尽さを感じる人はいます。「こんなに助かる新薬なら、
   保険適用にして、みんなが使えるようにしてくれ」という声が必ず出てきます。

    高度な治療が開発されたときに、どこまでを保険適用にするのかは、大きな問題です。
    もちろん、可能なかぎり人の命は助けたいと考えるのは人情です。しかし一方で、

   し大盤振る舞いをしすぎて健康保険制度が破綻してしまったら、保険給付が行きわたら
   なくなって、簡単な病気でも亡くなってしまう人が続出するかもしれません。命がかか
   っていますから、線引きは簡単ではありません。

    延命治療の是非についても議論されるようになるかもしれません。植物人間のように
   なった人の治療費をどこまで保険で出すのか。もはや治癒の見込みがない人の治療費を
   どうするのか。人間の尊厳とも関わる問題ですから、簡胆に結論は出せません。
    際限なく保険適用をすることはできないですから、国民の合意を得ながら、どこかで
   線引きしていくしかおりません,そういうことが決まらないかぎり、給付額の総額を算
   出することができません。予測できないことが多いため、年金よりも医療のほうが計算
   しにくい面を持っています,
    現実的な解決策として、公的健康保険で、一定程度までの治療を保障して、それ以上
   は自費で出すかたちがあります。「差額ベッド」のような状況です。
    また、高度な医療を受けたい人は、その部分だけは自費で受けられるようにする「混
   合診療」も進んでいくだろうと思います,高度な医療に間しては、民間の医療保険がか
   なりカバーするようになってきています。

    一定程度までの保障は「公的健康保険」、それ以上の高度医療の保障は「民間医療保
   険」という棲み分けになっていくでしょう。
    今後、高齢化が進むと、医療ニーズはますます高まりますが、国民が負担できる保険
   料の額には限度があります。おそらく、保険給付できる医療費の総額が設定され、総額
   の範囲内で、医師が患者の症状を選別して、症状の重い人に厚く配分されるようにする
   方法がとられるのではないかと思います,
    今でも医療現場では優先順位付けが行なわれています。病棟ごとに予算が決められて
   いる場合は、重い病気の人のケアにできるだけ予算が使われるように優先順位が付けら
   ます。医師の判断に任せる部分が、さらに多くなるのではないかと思います。

    健康保険の持続可能性を高めるためには、枠組みの見直しは必要です,病気になる確
   率は地域によってかなり差があります。寒い地域と暖かい地域でも、健康状態は追って
   くるでしょう。ある程度、地域分けしたほうがうまくいきます。
    保険原理からいうと、なるべく特性が同じような人を集めたほうがやりやすくなりま
   す。年金の場合は、大きな母集団が必要ですが、医療保険の場合は、そこまで大きな母
   集団は必要ありませんので、地域差を考盧すべきでしょう。
    ただし、あまり細かく地域分けをすると、若年層の多い都市部と高齢者の多い地方部
   が分かれてしまいます。少なくとも道州(現在の47都道府県を10程度の「道」や
   「州」に再編する考え方。様々な区分け案かおるが、一例を挙げれば、北海道、東北、
   北関東、南関東、北陸信越、東海、関西、中国、四国、九州、東京特別、大阪特別など
   の規模感)くらいの大きさが必要です。
    このような規模でブロックをつくり、地域別に分けると健康保険はより効率的に運営
   できます。現在は市町村、都道府県単位ですが、それでは規模が小さすぎていずれ行き
   詰まるでしよう。都道府県を複数集めた道州くらいの大きさが一番うまく回るはずです, 
   今後運営が厳しくなると予想される健康保険に関しては、道州制を含めた議論が必要
   なります。

           第2章13節 「年金制度」より「保険制度」のほうが運営が難しい

    「公的年金破綻説」はことごとく間違っている

    何度も繰り返しますが、「公的年金が危ない」という情報を流しているのは、多くの
   場合は、年金の仕組みを理解していないメディアの人たちです。
    専門家の中にも、不安をあおるようなことをいう人がいますが、実際には「年金制度
   が危ない」とは思っていないでしょう。「危ない」ことを裏付ける根拠がないからです。
    年金問題の解決法として、「無駄カット」の話がよく出てきますが、本当に危ないの
   であれば、無駄カットどころか、すぐに根本的な対処をしなければいけません。無駄
   ットのようなレベルの話が出てくるのは、本当は危ないと思っていないからだろうと

   います。

    巷の様々な「年金破綻」説に惑わされないように、ここまで述べてきたことを整理し
    てみます,

       Q:少子化で年金制度が成り立だなくなる?
  
          
人口が急減するのではなく、漸減していく状態では、保険数理の計算さえしっかりし
   ておけば年金制度が破綻することはありません。負担が少し増え、給付が少し減るとい
   うくらいで調整できます。そのような仕組みとして、すでに「マクロ経済スライド」が
   用意されています,
    また、経済政策によって一人ひとりの「所得」を拡大できれば、徐々に進む人口減少
   分を十分にカバーできます。  

    Q:積立不足額が大きいから危ない?


    非常に長い目で見ると、年金のバランスシートはバランスします。最初のうちは、保

   険料を払わないで年金給付を受ける高齢者がいますから、その分か債務超過になります。
   制度が成熟するにつれて、保険料を納めずに給付を受ける人が減り、不足分の数字
はだ
   んだん減っていきます。

    Q:一年金積立金が枯渇する?

    積立金は枯渇するかもしれません。しかし、日本の公的年金の根幹は、積立方式では
   なく、賦課方式です
    賦課方式は、その年に集めた保険料を、その年の給付に使いますから、積立金はほと
   んど必要ありません。積立金がほぼ枯渇しても年金は破綻しません。
    日本の公的年金は、長期のバランスシートでは170兆円くらいの積立金(積立金の
   取り崩し及び運用収入)を持っていますが、そもそも、それだけの積立金を待つ必要は
   ありません。流動性確保のために10兆円程度の積立金があれば運営できます。

    Q:所得代替率5割を維持できなくなる?

    所得代替率は、はじめから5割を切っています。日本ではなぜか60%くらいの数字
   が示されていますが、OECDの数字では、日本の年金の所得代替率は4割程度です。
   5割という数字を持ち出すほうがどうかしています。
    所得代替率は、保険料負担と連動しています。保険料負担が低ければ、所得代替率は
   低くなります。所得代替率が高いほうが年金制度はより不安定になります。ものは考え
   ようで、所得代替率が4割程度というのは、年金制度の安定化にはつながっています。

    Q:一年金制度の前提となる想定数字が間違っている?

   「名目経済成長率」「利回り」については、四%くらいまでなら、日本の実力からすれ

   ばおかしな数字ではありません。その数字に違しないとすれば、想定数字が間違ってい
   るのではなく、「経済政策」が間違っているということです。
    少子化が想定より加速することはありますが、年率にすると大きな数字ではありませ
   んので、通常程度の経済成長をしていればカバーできます
    保険料の未納率の数字に間しては、きちんとした徴収をすれば変わります。未納率が
   想定より高くなったのだとしたら、徴収を厳格化する必要があります。

    Q:世代間不公平であり、若者が損をする?

    世代間不公平はあります。しかし、皆年金制度ができた当初から世代間不公平はあり
   ました。当時の高齢者は、保険料を納めていないにもかかわらず年金を受給していたの
   ですから、若い人から見ると、これ以上の不公平はありません。
    保険料を納めずに年金を受給する高齢者の分をどうやって埋めるかが課題となり、国
   費が役人されました。年々、保険料を納めなかった人は減っていきますので、時間が経
   つと穴は埋まっていきます。
    むしろ、就職できない若者がいると、いっそう若者の年金が減りますので、雇用政策
   が重要になります。
    ここで見てきたように、巷の「年金破綻説」はだいたい間違っていますが、もし、本
   当に公的年金が危なくなるとすれば、それは「ずっと経済成長をしなくなった場合」で
   す。

    経済が成長しない場合は、残念ながら年金は破綻します。年金だけでなく、すべての
   社会保障が破綻します。
    年金の制度そのものについては、それほど心配する必要はありません。かなり持続可
   能性の高い制度になっています。ただ、制度が安定するかどうかは、経済の状況次第で
   す。
    そういう意味では、年金のために国がやるべき一番重要なことは「経済政策」だとい
   うことになります。

  
              第2章14節 「公的年金破綻説」はことごとく間違っている


                第3章 年金に「消費税」はまったく必要ない

      年金が「保険」だと広く知れわたると困る人がいる

      第1章で述べたように、年金は「保険」です。どこからどう見ても「保険」でしかお
   りません。しかし、年金が「保険」であることが広く知れわたってしまうと、困る人た
   ちがいます。それは、財務省の官僚であり、厚労省の官僚です。
    年金が保険だと国民にわかってしまうと、「保険なら、保険料でやればいいじやない
   か」という話になってきます。そうすると、財務省が望む「消費税増税」が吹っ飛んで
   しまいます。第1章でも述べたように、もし、そんな意見が国民のあいだで広がれば、
   保険料が上がることになりますが、保険料を管轄するのは厚労省であって財務省ではあ
   りません。財務省からすると、自分のシマの拡大にはつながりません。
    財務省としては、「消費税があなたの年金になるんですよ。老後の安心のためですよ」
   といって、消費税を増税したいと思っています。年金が保険だということがバレて
しま
   うと、財務省のロジックが成り立だなくなります。年金が保険であることをひた隠
しに
   して、国民にわからないように、うまくロジックをすり替えています

     厚労省も似たようなものです。年金が保険だということがバレると、「年金財政が苦
   しいなら保険料を上げろ」という意見が出てきます。保険料を上げたときに、国民から
   の矢面に立だされるのは厚労省です。「保険料負担が重い」「国民いじめだ」と厚労省
   がバッシングを受けます,
    厚労省(日本年金機構)としては、保険料を集めるのが大変ですから、それならば財
   務省の陰に隠れていて、国税庁が集めた消費税をそっくりそのまま、年金財政にいただ
   いたほうがラクです。消費税でやってもらえば、「保険料が高くなった」という批判も
   受けなくて済みます。
   「保険」だということがわかってしまうと、厚労省は財務省の陰に隠れていられなくな
   ります。厚労省も、保険であることを何とかして隠したいと思っています

    結局、財務省と厚労省は利害で結びついて、手を組んでいるような状態です。保険で

   あることが前面に出てこなくなり、国民の中に「年金は、国からもらえるもの」「年金
   は福祉だ」という誤解を生んでいます
   「福祉のために消費税を上げるのはやむをえない」という人が増えれば、消費税は増税
   されます。
    消費税増税が経済にどういう影響を与えるかは、2014年4月の消費税率8%への
   増税後の経済状況の落ち込みを見れば明らかです。
    前章の最後に強調したように、年金の安定にとって一番重要なことは、「増税」では
   なく、「経済成長」なのです。もちろんデフレも脱却し、経済成長が軌道に乗ったら増
   税するのもいいと思いますが、現在のような経済状況で消費税増税を強行してしまった
   ら、その一番大事な経済成長の腰をへし折ってしまいます。それは年金制度のことを考
   えても、まさに本末転倒といわざるをえません。

    年金保険に「消費税」はまったく関係ない

   「保険」というのは、披保険者が保険料を納めて、給付を受ける仕組みです。きわめて
   単純な仕組みで、どこにも消費税の話は出てきません。
   民間の保険のことを考えてもらえば、よくわかると思います。保険料とその運用です
   てまかなわれています。

    公的年金保険は、公的な管理がされていることと、皆保険としてすべての国民に義務
   づけられていることが、民間の保険とは違いますが、「保険」であることに変わりはあ
   りません。保険である以上、保険料とその運用によって、すべての支給がまかなわれる
   べきものです。
    しかし現実には、所得が低くて「保険料」を払えない人がいます。民間の保険であれ
   ば、保険料を払えない人は、加入できず、給付もされません。しかし、公的年金は皆保
   険ですから、すべての人が保険料を納めなければなりません。所得が低くて払えない人
   の分は、どこかから持ってくるしかありませんが、どうするのが一番いいでしょうか。

    正解は「所得税」です。所得税の場合、累進課税制度になっています。すなわちお金
   持ちからは厚く、そうでない人からは薄く税金を徴収しています。それによって所得の
   再分配を行なっているのです。
    年金保険料の不足分を所得税で徴収すれば、お金持ちからたくさん税金をもらって、
   そのお金で保険料を支払えない人の分をまかないます。そういう意味では、公的年金保
   険でもっとも公平なのは、「保険料」十「所得税」です。
    一方、プロローグでも触れましたが、「消費税」の場合、金持ちとそうでない人のあ
   いだの所得再分配機能は、あまり期待できません。その意味では、そんな税金で保険料
   をまかなうことにしたら、保険料を払えない貧しい人の保険料を、同じく貧しい人も等
   しく支払っている消費税から持ってくるかたちになってしまいます。別にそれでもいい
   のですが、発想としてはどこか間違っているように思えます。
    つまり、公的年金には税金を役人するにしても、すぐに「消費税だ!」と決めつける
   ことの妥当性はどこからも出てこないのです。「保険料+所得税」――これがきわめて
   
まっとうな年金保険の考え方です。

   《保険原理》

   ・公的年金保険→保険料+所得税(保険料を払えない人の分を所得税で補填)
   ・私的年金保険→保険料のみ  (保険料を払えない人は加入できない)

    繰り返し述べますが、つまり保険原理からいえば、消費税はまったく必要ないもので
   す。世界各国ともに保険原理でやっていますから、消費税を社会保障に充てる国はあり
   ません。
  「税と社会保障」という言葉で、「社会保障のためには消費税を上げなければいけない」
   といわれますが、「それ、違うでしょ。消費税は関係ないでしょ」で終わる話です。
    保険原理をわかっていないと、「社会保障のために消費税だ」というまやかしを信じ、
   頭にすり込まれてしまいます,
   「給付が増えて保険料が足りなくなったらどうするの?」という疑問が出てくるかもし
   れません。保険原理からいえば、「保険料を土げる」という解か筋なのです,

                第3章2節 年金保険に「消費税」はまったく関係ない

                                    この項つづく

今夜の寸評:世界はラテン模様

台風5号後の猛暑かと思っていると天候不順で曇り空と小雨があり読みにくい天候だ。欧州は、
場所によっては連日、日中の最高気温が40度を超えるなど、広い範囲で記録的な猛暑・
渇水模
様で
、イタリアなど11か国は警報を発令している。この間の、スティーブンホーキン博士(
ブログ「地球を金星に変えるトランプ・リスク」2017.07.06
)ではないが、気温が上昇すれば、
陽気でキレやすいラテン気分で、景気高揚感が増し、いざこざや紛争が絶えなくなる暴力的な季
節となる。また千年に一度の地殻変動の季節が加わり不安定となる。




  

コメント
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量子ドットソーラー製造技術

2017年08月08日 | デジタル革命渦論

 

   

    

 

             宣公13年~襄公20年 鞌(あん)の戦い   / 晋の復覇刻の時代


                                                 

      ※ 膀(そしり)を分かつ:衛の孫良夫は、新築の戦いで斉軍に敗れ、国都にもどっ
        た。だが、城門を入らず、すぐその足で援軍を乞いに晋へ行った。ちょうどこの
        とき、同じく斉軍に敗れた魯の臧宣叙もまた援軍を乞いに晋に来ていた。二人と
              も、晋侯の臣で斉に恨みをもつ郤克を頼みとしたのである。
             晋侯は、二人の要請にこたえて、七百乗をさしむけようとした。すると、かたわ
        らの郤克が、七百乗と申しますと、城の戦いのときと同数でございます。あの
        勢で勝利をおさめることができましたのは、ひとえに文公の明、大夫がたの御器
       量があったればこそ。今度指揮をとる私などは、当時の大夫がたにはとても及び
       ません」と言ってもう一百乗を請うた。この願いが容れられ、八百乗が派遣され
       ることになった。

       かくして、中軍の将に郤克、上軍の将に士燮、下軍の将に欒書、司馬に韓厥、と
       いう編成で、魯・衛救援に出発した。臧宣叔が、魯への案内役をつとめた。この
       援軍に、季文子に率いられた魯軍が合流する。
       衛の地にさしかかったときである。司馬の韓厥が、無実の罪で部下を斬るろうと
       した。この噂を聞いた郤克は、それを止めようと兵車で駆けつけた。が、時すで
       におそく、刑が執行されたあとだった。

       すると郤克は、車中に、あたかも自分の命令で刑を執行したかのようにふれまわ
       らせた。そのわけを、自分の兵車の御者にこう言った。
       「こうすれば、非難はわしにも向けられよう。全軍の団結を乱さぬためだ」
       晋・衛・魯の連合軍は、斉軍を追って斉の地莘(しん)に駒を進めた。


【ZW倶楽部とRE100倶楽部の提携 Ⅴ】 
✪  エネルギータイリング事業篇
量子ドット工学講座  No.43
 
今回はエネルギータイリング事業のソーラータイル部門は、変換効率20%超級仕様に該当する、最
新量子ドットソーラー製造技術(※変換層材料はシリコン、無機半導体化合物、ペロブスカイト系ハ
イブリット)の4つの国内公開特許事例を掲載する。

❏ 特開2017-135280  光電変換膜および光電変換装置

【概要】

量子ドットを単純に膜状に集積した光電変換膜は、量子効果に基づき、吸収できる光は、バンドギャ

ップに対応するエネルギーの波長を有す光で、光吸収量を高められない場合があり、光吸収量を高め
られる光電変換膜と太陽電池の提供にあたり、下図の光電変換膜7は、複数の量子ドット7aが集積
され可視光領域の波長に相当する直径Dを有する量子ドットロッド7Aが、周期的にアレイ状に配置
され量子ドットロッド7Aの直径は700~1000ナノメータで、その直径以下の間隔で配置され、
量子ドットロッド7Aは量子ドット7a間に有機分子7bを有す光電変換装置は、2つの導体層間に
光電変換膜7で構成する。

 

【符号の説明】

3 第1導体層 5 リンドープシリコン基板 7 光電変換膜 7A 量子ドットロッド 7a 量子ドット 7b 有機
成分 9 ホウ素ドープアモルファスシリコン膜 11 第2導体層 

【図面の簡単な説明】

【図1】本発明の光電変換装置の一実施形態を部分的に模式的に示す分解斜視図。
【図2】本実施形態の他の態様を示すもので、光電変換膜を部分的に拡大した模式図
【図3】量子ドットロッドが長さ方向に2種類の有機分子を有する状態を拡大して示す断面模式図
【図4】本実施形態の光電変換装置の製造方法を示す工程図

【製造方法】 

次に、光電変換装置の製造方法(下図4)は、本実施形態の光電変換装置の製造方法を示す工程図で
ある。まず、リンドープシリコン基板を準備する。
次に、このリンドープシリコン膜5 の表面上に
光電変換膜7を形成する。この
場合、慣用のメタルアシストエッチング法を用いる。まず、図4(a)
に示すように、第1導体層3とは反対側のリンドープシリコン基板5上に量子ドット7aの集積膜8
を形成。
次に、図4(b)に示すように、量子ドット7aの集積膜8の表面にAgなどの金属粒
10を置いて、溶解液によって金属が置かれた部分を厚み方向に溶解させていく。このような処理の
後に残った部分が量子ドットロッド7Aとなる。この場合、エッチング溶液としては、過酸化水素と
フッ化水素水との混合溶液を用いる。このとき、集積膜8の下層側を残すようにする。
次に、図4
(c)に示すように、量子ドットロッド7Aを除く領域に絶縁性材料12を充填する。絶縁性の材料
としては、有機樹脂または金属酸化物が好適なものとなる。
 


【特許請求の範囲】 

  1. 複数の量子ドットが集積され、直径が可視光領域から近赤外領域までの波長の範囲内に在る複
    数の量子ドットロッドが、アレイ状に配列していることを特徴とする光電変換膜。
  2. 前記直径が700~1000nmであることを特徴とする請求項1に記載の光電変換膜。
  3. 前記量子ドットロッドは、前記直径以下の間隔で配置されていることを特徴とする請求項2に
    記載の光電変換膜。
  4. 前記量子ドットロッドは前記量子ドット間に有機分子を有していることを特徴とする請求項1
    乃至3のうちいずれかに記載の光電変換膜。
  5. 前記有機分子が、ヨウ化テトラブチルアンモニウム(Tetrabutylammonium iodide(TBAI) )1,
    2-エタンジチオール(1,2-Ethanedithiol(EDT))、トリオクチルホスフィン(trioctylphosphine(
    TOP)
    )、トリオクチルホスフィンオキシド(trioctylphosphine oxide(TOPO))、オレイン酸、
    オレイルアミン、オクチルアミン、トリオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタンチオ
    ール、ドデカンチオール、ヘキシルホスホン酸(HPA)、テトラデシルホスホン酸(TDP
    A)、オクチルホスフィン酸(OPA)およびポリオキシエチレンの群から選ばれる少なくと
    も1種であることを特徴とする請求項4に記載の光電変換膜。
  6. 2つの導体層間に光電変換層を備えた太陽電池であって、前記光電変換層が請求項1乃至5の
    うちいずれかに記載の光電変換膜であることを特徴とする光電変換装置。

 

❏ 特開2017-135282  光電変換膜および光電変換装置

【概要】

量子ドットは、通常、その周囲を、量子ドット自身のバンドギャップよりも大きなバンドギャップを
有する障壁層によって囲まれている。このため、理論的には、電子のフォノン放出によるエネルギー
緩和が起こりにくく消滅し難いと考えられている。複数の量子ドットによって集積部を形成した場合
には、量子ドット内に生成したキャリア(電子、正孔)は、障壁層を含む量子ドット集積部内に存在
する欠陥と結合して消滅しやすく、これによりキャリアの密度が低下し、電極まで到達できる電荷量
の低下が起こり、光電変換効率を高められないという問題がったが、キャリアを収集する部材として、
酸化亜鉛のナノ粒子を用い、これを量子ドット間に多数介在させた、いわゆるナノヘテロジャンクシ
ョンタイプの光電変換膜※が開示されているがキャリアの収集効率が低い。このため、キャリアの収
集効率を高めることのできる光電変換膜と光電変換装置の提供に当たり、下図の光電変換膜10は、
光電変換機能を有する第1ナノ粒子1と集電機能を有する第2ナノ粒子3とを含む集積膜5を有する。
第2ナノ粒子3が球状粒子3aとを有している。第1ナノ粒子1が球状粒子1aと多角形状粒子1b
とで構成されている。扁平状粒子3bは球状粒子3aよりも最大径が大きい。多角形状粒子1bは球
状粒子1aよりも最大径が大きい。光電変換装置20は第1導体層23、第2導体層27間に光電変
換層21を備え構成する。

A.K.Rath etal 「Remote Trap Passivation in Colloidal Quantum Dot Bulk Nano-heterojunctions and Its in Sol-
  ution-Processed Solar Cells」Adv.Mater.2014,26,4741-4747
 


【符号の説明】

1 第1ナノ粒子 1a 球状粒子 1b 多角形状粒子 3 第2ナノ粒子 3a 球状粒子 3b
扁平状粒子 
5 集積膜 10 光電変換膜 20 光電変換装置 21 光電変換層 23 第1
導体層 
25 ガラス基板 27 第2導体層 

【図面の簡単な説明】

【図1】本発明の光電変換膜の一実施形態を部分的に示す断面模式図
【図2】(a)は、図1の光電変換膜から第1ナノ粒子だけを抽出した断面模式図であり、(b)は、
    図1の光電変換膜から第2ナノ粒子だけを抽出した断面模式図

【図3】本発明の光電変換装置の一実施形態を部分的に示す断面模式図である。
【図4】作製した光電変換装置の短絡電流密度を評価した結果である。
 

【特許請求の範囲】 

  1. 光電変換機能を有する第1ナノ粒子と集電機能を有する第2ナノ粒子とを含む集積膜を有する
    光電変換膜であって、前記第2ナノ粒子が球状粒子と扁平状粒子とを有していることを特徴と
    する光電変換膜。
  2. 前記第1ナノ粒子が球状粒子と多角形状粒子とで構成されていることを特徴とする請求項1に
    記載の光電変換膜。
  3. 前記第2ナノ粒子の前記扁平状粒子は前記第2ナノ粒子の前記球状粒子よりも最大径が大きい
    ことを特徴とする請求項1または2に記載の光電変換膜
  4. 前記第1ナノ粒子の前記多角形状粒子は前記第1ナノ粒子の前記球状粒子よりも最大径が大き
    いことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれかに記載の光電変換膜
  5. 前記第1ナノ粒子が硫化鉛であり、前記第2ナノ粒子が酸化亜鉛であることを特徴とする請求
    項1乃至4のうちいずれかに記載の光電変換膜
  6. 前記集積膜を厚み方向に2等分したときに、前記集積膜の一方の領域には、前記第2ナノ粒子
    よりも前記第1ナノ粒子が多く存在し、他方の領域には前記第1ナノ粒子よりも前記第2ナノ
    粒子が多く存在していることを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれかに記載の光電変換膜
  7. 前記第2ナノ粒子は、前記集積膜の一方の表面には露出していないことを特徴とする請求項1
    乃至6のうちいずれかに記載の光電変換膜
  8. 2つの導体層間に光電変換層を備えた光電変換装置であって、前記光電変換層が請求項1乃至
    7のうちいずれかに記載の光電変換膜であることを特徴とする光電変換装置
      

❏ 特開2017-135223  量子ドット製造装置

【概要】

電子デバイス技術の高度化にともない、量子ドットの離散エネルギー準位を用いた電子制御技術が注
目を集めている。量子ドット製造技術は、❶薄膜製造技術を応用した自己組織化法及び液滴エピタキ
シー法、❷溶媒中でコロイド状量子ドットを得る化学的手法がある。これら従来の手法では、室温以
上において熱揺らぎに負けずに離散エネルギー準位を維持することが可能な2ナノメートル以下の量
子ドットのサイズを原子制御することが難しい。加えて、量子ドット内の電子は量子トンネル効果に
より外側へ浸み出すため、量子ドットの周囲を均一な材料で覆うことも高度な電子制御を行うために
必要である。原子制御された量子ドットを形成する新たな試みに❸溶液中で化学的に金属含有数を制
御した量子ドット前駆体分子を基板上で互いに離隔して配置させ酸化物量子ドットへと化学変換する
新手法が見出されている。但し、酸化物量子ドットの形成においては、量子ドット前駆体分子を基板
上で離隔して配置させるため基板上に施与する量子ドット前駆体溶液の量や濃度の正確な制御が必要
である。施与する方法としては、従来、❹塗布が使用されてきたが、塗布による方法では自動化や大
面積化に限界があり、デバイス製造等の原子制御された量子ドットの応用及び高度電子制御技術の拡
充の大きな課題としてある。❺また、原子制御された量子ドットの周囲を均一な素材で覆う目的で
子層堆積法(ALD)等の真空薄膜形成技術との組合わせが検討されている。その際、真空状態を維
持したまま連続し両技術の自動化や真空下の原子制御型量子ドット製造装置及びプロセスの自動化が
求められているものの依然として有効な方法は見出されていない。

一般的にスプレー噴霧法は、エア(空気)等のガスの共存による二流体方式があり、真空下での使用
には不適切であり、一般的にはスプレー角度が約30°程度であり噴霧された液流体の分布範囲は狭
く、しかも均一な厚みにするのが難しいという問題がある。これ対して、ガスを用いる二流体方式の
スプレーノズルではなく、液流体のみの一流体スプレーノズルがある。なかでもノズル射出口部への
旋回子(ワーラー)の配置によりスプレー角を大きくとれて、液流体の分布範囲を広くでき、均一な
厚みとすることができる一流体方式のスプレーノズルがある。しかし、一流体スプレーノズルは、減
圧下でノズルの開閉を行うバルブを閉じた後にもバルブからノズル先端部(=ノズルチップ)までに
留まった液流体が陰圧によって引き出され、定量噴霧することができない。接着剤等は蒸気圧も低く
粘稠流体であるので、真空下でディスペンサにより供給するが、量子ドット前駆体の溶液のような
粘度液流体を減圧噴霧では配慮されていなかった。

そこで、下図8のように減圧下でも定量噴霧が可能な一流体スプレーノズルを備えた量子ドット製造
装置の提供にあたり、真空チャンバと真空チャンバ内に載置して使用される、温度制御可能な基板支
持台と基板支持台上に載置される基板に、量子ドット前駆体溶液を定量噴霧する一流体スプレーノズ
ルとを備え構成する。
  


【符号の説明】

1  スプレー射出口部   1A  液流体射出口   1B  通路   2  筐体部   21  前室部   22  後室部  2A 
ロッド   2B  液流体入口   2C  ダイヤフラム   2D  O(オー)リング   2E  O(オー)リング   2F  ピスト
ンロッド   2G  スプリング   2H  エア流出入口   2I  エア流出入口   3  旋回子(ワーラー)   3A  開口
3B  ロッド接触範囲   4  量子ドット製造装置   41  一流体スプレーノズル   42  真空チャンバ   43  基
板支持台 

【図面の簡単な説明】

【図1】本発明における一流体スプレーノズルの一例の、閉位置における構成の断面概略図
【図2】図1のスプレーノズルの開位置における構成の断面概略図
【図3】旋回子の一例について、ロッド2Aの接触範囲と、旋回子の開口とを示した平面図
【図4】(a)、(b)、(c)は、旋回子の種類を例示した図
【図5】旋回子を備える一流体スプレーノズルによりスプレーされた流体膜の断面形状を例示した
    説明図

【図6】従来の二流体方式スプレーノズルによりスプレーされた流体膜の断面形状を例示した説明図
【図7】実施例で得られた膜の、分光エリプソメトリで測定された膜厚分布を示す図
【図8】本発明の量子ドット製造装置の一例を示す概略図

【特許請求の範囲】 

  1. 真空チャンバと、 該真空チャンバ内に載置して使用される、温度制御可能な基板支持台と、
    該基板支持台上に載置される基板に、量子ドット前駆体溶液を定量噴霧する一流体スプレーノ
    ズルと、を備える量子ドット製造装置。
  2. 量子ドット前駆体と反応させるための反応性ガス供給部をさらに備える請求項1記載の量子ド
    ット製造装置
  3. 前記一流体スプレーノズルが、液流体射出口を備えたスプレー射出口部とこれに連通する筐体
    部とを有し、
    前記筐体部には液流体入口が設けられているとともに、前記一流体スプレーノズ
    ルの閉位置と開位置の間の移動によって前記液流体入口から注入された液流体の前記流体射出
    口からの射出の実施または停止を切替制御するロッドが内装されており、
    前記液流体射出口と
    これに対向する前記ロッドの先端部との間には、開口を有し、液流体を旋回吐出する旋回子が
    配置され、
    前記旋回子の開口が、前記ロッドの前記閉位置への移動により、前記ロッド先端部
    の該開口への当接によって塞がれることで、前記スプレー射出口部の液流体射出口からの液流
    体の射出が停止され、
    前記ロッドの前記開位置への移動で前記旋回子の開口が開放されて、液
    流体が旋回子から旋回吐出されて前記スプレーの射出口部の液流体射出口からの液流体の射出
    が実施される、ことを特徴とする、請求項1又は2記載の量子ドット製造装置
  4. 前記ロッドの筐体内にエア操作部が配置され、エアの圧力制御によってロッドの前記移動が制
    御されることを特徴とする請求項3に記載の量子ドット製造装置
  5. 前記旋回子は板状体であって、その厚み方向に貫通されている複数の開口によって、前記液流
    体射出口からの該液流体が円錐状に旋回射出されることを特徴とする請求項3または4に記載
    の量子ドット製造装置
  6. 射出のスプレー角度が30°超であることを特徴とする請求項5に記載の量子ドット製造装置
  7. 前記旋回子が樹脂製であって、前記ロッドは、先端部が樹脂被覆されていてよい金属製もしく
    はセラミック製であるか、または前記旋回子が金属製もしくはセラミック製であって、前記ロ
    ッドが、先端部が樹脂被覆された金属製もしくはセラミック製であることを特徴とする請求項
    3~6のいずれか一項に記載の量子ドット製造装置
  8. 液流体射出口を備えたスプレー射出口部とこれに連通する筐体部とを有し、前記筐体部には液
    流体入口が設けられているとともに、前記一流体スプレーノズルの閉位置と開位置の間の移動
    によって前記液流体入口から注入された液流体の前記流体射出口からの射出の実施または停止
    を切替制御するロッドが内装されており、前記液流体射出口とこれに対向する前記ロッドの先
    端部との間には、開口を有し、液流体を旋回吐出する旋回子が配置され、前記旋回子の開口が、
    前記ロッドの前記閉位置への移動により、前記ロッド先端部の該開口への当接によって塞がれ
    ることで、前記スプレー射出口部の液流体射出口からの液流体の射出が停止され、 前記ロッド
    の前記開位置への移動で前記旋回子の開口が開放されて、液流体が旋回子から旋回吐出されて
    前記スプレーの射出口部の液流体射出口からの液流体の射出が実施される、ことを特徴とする、
    一流体スプレーノズルを備えた量子ドット製造ユニット
  9. 前記量子ドット製造ユニットを備える薄膜製造装置  

❏ 特開2017-132268  液体噴射ヘッド、液体噴射装置、
             圧電デバイスおよび液体噴射ヘッドの製造方法  

【概要】
 

液体噴射のノズル開口に連通する圧力発生室形成された基板と、圧電体層、圧電体層の下方側に形成
された下電極と圧電体層上方側に形成された上電極を有する圧電素子を備える液体噴射ヘッドが知ら
れているが、このような液体噴射ヘッドは、下電極を圧力発生室毎に対応した個別電極とし、上電極
を複数の圧力発生室に対応する複数の圧電素子用の共通電極としする(下図参照)。このように、両
電極間に電圧が印加され変位し圧力発生室内へ撓むが、上電極、圧電体層および下電極が重なる範囲
(能動部)と、能動部では無い部分(非能動部)との境界に大きな応力が発生し歪みが集中、場合に
よっては圧電体層にひび割れ等が生じる。あるいは、振動板の変形により圧力発生室内からノズル開
口外噴射する液体量が増加する不具合の原因となり噴射ヘッド性能の向上が求められていた。

このよ
うに圧電体層におけるクラック等の不良発生を防止法の提供ににあたり、ノズル開口に連通す
る圧力発生室が形成された基板と圧電体層とに対応し形成された第1電極と、圧電体層の第1電極側
とは逆側の複数に亘り形成された第2電極と、を有する圧電素子から構成された液体噴射ヘッドの第
2電極は、圧力発生室の長手方向でこの圧力発生室の外側まで延出形成構造とする(図2)。
  

 


【符号の説明】

1 記録ヘッド、1A,1B 記録ヘッドユニット、2A,2B カートリッジ、2 下電極膜、3 
圧電素子、4 上電極膜、5 圧電体層、5a 開口部、5b スルーホール、7 タイミングベル
ト、8 プラテン、9 リザーバ、10 基板、11 隔壁、12 圧力発生室、13 連通部、
14 インク供給路、16 キャリッジ、17 装置本体、18 キャリッジ軸、19 駆動モータ、
20 ノズルプレート、21 ノズル開口、30 保護基板、31 リザーバ部、32 圧電素子保
持部、40 コンプライアンス基板、41 封止膜、42 固定板、43 開口部、50 振動板、
51 弾性膜、55 絶縁体膜、60,61 リード電極 


【図1】記録ヘッドの概略を示す分解斜視図。
【図2】記録ヘッドの長手方向に平行な面による断面図

【特許請求の範囲】 

  1. ノズル開口に連通する圧力発生室が形成された基板と、圧電体層と、前記圧電体層の前記基板
    側に
    おいて前記圧力発生室に対応して形成された第1電極と、前記圧電体層の第1電極が形成
    された側
    とは逆側において複数の前記圧力発生室に亘って形成された第2電極と、を有する圧
    電素子と、を備
    える液体噴射ヘッドであって、前記第2電極は、前記圧力発生室の長手方向に
    おいて前記圧力発生室
    の外側まで延出して形成されていることを特徴とする液体噴射ヘッド
  2. 前記第1電極と、前記圧電体層と、前記第2電極と、が重なる範囲が、前記長手方向において
    前記圧
    力発生室の外側まで延出して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の液体噴
    射ヘッド
  3. 前記圧力発生室間に略対応する領域において前記圧電体層を除去した圧電体層の開口部を形成
    当該開口部は、前記長手方向において前記圧力発生室の端よりも外側まで形成されているこ
    とを特
    徴とする請求項1または請求項2に記載の液体噴射ヘッド前記第2電極に対して積層さ
    れて配線として機能する金属層が、前記圧力発生室の内外を跨ぐ位置
    に形成されていることを
    特徴とする請求項1~請求項3のいずれかに記載の液体噴射ヘッド
  4. 請求項1~請求項4のいずれかに記載の液体噴射ヘッドを備えることを特徴とする液体噴射装

● 余韻録

8日午前1時すぎ、長浜市内を流れる姉川の大井橋の近くで、川の水があふれているのが確認された
というテレビニュース(NHK NEWS WEB)――「長浜市が、台風による大雨で市内を流れる姉川が
あふれているという情報が入ったため、午前1時すぎ、流域の大井町や国友町、下之郷町の合わせて
417世帯1267人に避難準備の情報を出し、高齢者や体の不自由な人などに早めに避難するよう
呼びかける」――をブログを打ち込んでいる最中にはいる(「滋賀の豪雨対策」彦根市民の飲み水を
守る会 2017.08.08)。
 

 長浜市姉川-大井橋罹災地

氾濫場所は、約80年前に築かれた道路が通っており、堤防が途絶した状態になっていたことが、県
浜土木事務所への取材で分かった。堤防より約3メートル低い「切り通し」と呼ばれる構造で、幅
は約6メート
ルあった。土木事務所は、増水した川の水がここから流れ出たのが氾濫の一因とみてい
る。「切り通し」は昭和8年に大井橋を架ける際にできた。洪水の危険性は以前から認識され、1993
年に大井橋から下流に約百メートルの地点に新大井橋ができた際、大井橋をふさぐことを提案したが、
住民の要望で残り、大雨の際は板や土のうなどでせきを造り、「切り通し」部分に壁を造ることが想
定されていたものの、今回も市と地元自治体が土のうを準備するなど備えていたが、急激な変化で
に合わなかったと市は説明している(産経WEST、2017.08.08.20.52)。滋賀県では
独自に作成した「地
先の安全度マップ」(前出ブログ参照)など対策を講じているが、中村仁芝浦工業大学教授らの研究
のようなシミュレーション手法での事前調査研究は今や必須条件である(下図ダブ栗参照)。



テレビ放送などの罹災ニュースで親戚や友達から電話がかかってきたが、竹馬の友の片山博臣氏は
屋が長浜市は木之本町の関係で心配してことので長電話となる。ところが話題はお盆休暇期間中の話
など四
方山となる。こちらは浄土宗で宗安寺だが、彼は真宗(大谷派)だが墓地は服部緑地にあるが
納骨(分骨)先の京都は東山にもあり、親類縁者はそちらに参るというが、外人観光客で混雑し迷惑
気味。一度盆明けに暇なときに会おうという約束をしたが、話が地元(大学などの)山岳会になり、
それじゃ10月末までに一緒に登ろうということになり、車での往復が便利な氷ノ山(日本二百名山)
@兵庫県を提案して終えた。

  

 ● 氷ノ山へGO!

氷ノ山周回(福定親水公園→東尾根コース)登山(所要時間:約6時間)

      

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スノーデンの返信 Ⅲ

2017年08月06日 | 時事書評

   

    今日の名言        

           量子力学が“わかった”と思っているうちは、まだわかっていない

                       リチャード・P・ファインマン


                              
                             May 11, 1918 – Feb. 15, 1988
 

             宣公13年~襄公20年 鞌(あん)の戦い   / 晋の復覇刻の時代


                                                

      ※  邲に敗れた晋にかわって、北方に覇を成さんとの野望を抱く斉の頃公は、成公

        二年春、みずから軍を率いて魯の北愉に攻め入った。その隙を衝いて、衛炭は
        孫良夫らに命じて行の地へ侵入をはかったが、途中、魯を敗って引きあげてく
        る行軍と遭遇した。夏、四月丙戌、行・衛両軍は衛の珀新築で戈を交えた。衛
        軍は敗れ、孫良夫は新築の大夫仲叙于奚に救われてかろうじて脱出し、すぐさ
        ま盟邦晋に救援をもとめる。

        【経】 六月癸酉、季孫行父、臧孫許、叔孫僑如、公孫嬰斉、師を帥いて、晋
            の郤克、衛の孫良夫、
曹の公子首に会して、斉侯と鞌に戦う。斉の師、敗
                  績す。

 

● 事件背景と告発の意味 Ⅲ  

    第1章 スノーデンの日本への警告   

ここまで読み進め、スノーデンの教養に驚くことになる。前節(秘密主義は政治の意思決定のプロセ
スや官僚の質を変えてしまう」)で、総力戦の戦時配給態勢に入り、外国からまさに侵略されている
ような事態にあるならば、軍事上の必要性や社会を根本から揺るがす脅威が存在する場合の法制度変
更を許容するという、愛国青年の側面をのぞかせ実際主義(pragmatism) に立脚し日和っているとこ
ろがある。盗聴・監視はどこの国でも行っていると開き直るオバマ前アメリカ大統領と拮抗し曖昧さ
を残し学習課題を残しつつ、「大量監視の問題」として国際的な議論に俎上させることに成功する。
また、「暗号化技術がプライバシーを守る鍵」で暗号化技術が紹介されているが、権力側から暗号解
読技術が高度化されるというマッチポンプと協力企業の回転ドアーが活性化する。例えば、現状では
実用化できないが将来的には、ゲート方式の量子コンピューターでShorというアルゴリズムというア
ルゴリズムを使うと、素因数分解を劇的に高速計算し、RSA暗号を破れることが数学的に証明されて
おり、悪しき権力との戦いは終わることはない。

   

                     プライバシーは、自分であるために必要な権利

  マス・サーベイランスに関与する官僚は、「隠すことがなければ恐れる必要はありません」と
  述べて監視を正当化します。このような説明は第2次大戦中にナチスのプロパガンダで用いら
  れていたレトリックとまったく同じです。第2次回路大戦中のプロパガンダ省のゲッベルス大
  臣は、前代未聞の大規模な人権侵害が起きていた時にこう言いました。
 
  「心配することはありません。政府を信じて下さい。我々は権限を適切に使いますから」

   民主主義とはそういうものではないはずです。開かれた社会ではこのようなことは許されま
  せん。こうしたレトリックは、プライバシーを間違ってとらえています。
   ブライバシーとは、悪いことを隠すということではありません。ブライバシーとは力です。
  プライバシーとはあなた自信のことです。プライバシーは自分であるための権利です。他人に
  害を与えない限り自分らしく生きることのできる権利です。思索する時、文章を書く時、物語
  を想像する時に、他人の判断や偏見から自らを守る権利です。自分とは誰で、どのような人間
  になりたいのか、このことを誰に伝えるかを決めることのできる権利です。
   訪れるところ、関心や趣味、読んだ本の題名は、あなたが共有したいと思わない限り、ほか
  の人が知ることはできません。どこで線引きするかはあなた次第です。

                           第1章 スノーデンの日本への警告                                                     
          イントロダクション:プライバシーは、自分自分であるために必要な権利 

                                権限を有する人が説明責任を果たさねばならない

  Q:あなたの暴露があってから、一般人や政治家の間で、プライバシーと国家安全保障のバラ
    ンスをどうやって取るべきかについての議論が始まりました。実際、アメリカではアメリカ自
  由法(USA Freedom Act) が制定され、国連もプライバシーに関する対策を採りました。ご自
  身のリークがもたらしたこのような影響をどのように見ていますか。予想通りのリアクション
  でしょうか、それとも予想した以上の影響を及ぼしたでしょうか

  予想をけるかに上回る影響だと感じています。これは私個人によるものではなく、メディア
  力によるものだと感じています。2013
年以降、アメリカでは法律が改正され、大統領の
  策も変わりました。2016年5月には、一年前に退任し
た前任のアメリカの司法長官、つま
  り、リークの当時、政府の
司法部のトップにいた人が、私のリークは公共のためになったと述
  べています。この態度の変化はとてつもないも
のです。彼が個人的に私を評価するか否かは関
  係ありません
。NSAのプログラムを擁護する人たちも、リークされた内容とそれがもたらし
  た結果を見て、アメリカにおいてこの
問題に対する見方は完全に変わったと認めています。こ
  れ
はほかの国でも同様です。

  ヨーロッパは、包括的なマスーサーベイランスを可能にするデータ保持についての指針を撤回
  しました詞祠川。EU
は、アメリカとEUのセーフハーバー合意が、基本的人権を侵害すると
  判断しました。国連も大量監視の問題は国際人権条約に違反しプライバシーを侵害すると初め
  て明言し、プライバシーの権利に関する特別報告者を任名しました。こうした事柄は、今まで
  は議論すらされてきませんでした。(中略)

  Oct. 15, 2014

    監視や情報機関について話をする際に、私たちは、直感的にこうした機関は私たちのために活
  動しているのだと思っていたわけです。これは自然な反応かもしれません。ほとんどの場合は
  その通りでしょう。しかし理解しなければならないことは、プロセスが秘密だということ、そ
  して、それが最終的に組織や個人にとってどういう意味を持つのかということです
  どのような機関でも、説明責任から切り離され法律も適用されないという状況になれば、腐敗
  の影響が忍び寄ってきます。そして、権限が拡大し、影響力が拡大し、特権が拡大し、予算が
  拡大していくということになります。最初はごくわずかだった権力の濫用も次第に大きくなる
  でしょう。

  政府関係者の一部は、「もう心配する理由はない。監視プログラムは用いられない」と述べて
  います。また、「NSAは何ひと
つ違法行為を行っていない。メタデータしか集めておらず、
  電話
の中身を関いているわけではない」とも主張しています。しかし、裁判所はこのNSAの
  主張を明確に否定しました。実
際、NSAの最高ランクの機密文書川利川には、NSAが法律
  や
NSAの指針に一年間で2776回にわたって違反したと書かれています。毎年3000回
  近くにわたって違法行為に手を
染めているのに、誰もその責任を問われていません。訴追され
  た
人も投獄された人もいません。裁判所で検証されたことすらありません。

  自由で公平な社会を維持するためには、安全であるということだけでは足りません。権限を有
  する人たちが説明責任を果たさな
ければなりません。さもなければ社会の構造が二層化してし
  まい
ます。私のような一般人たちは法律を破れば厳正に処罰される一方、権力をもった官僚は
  同じように法を逸脱しても、国家安全保障の
ためであるなどと言い逃れできてしまいます。拷
  問をしても帽個月、
国家安全保障のためとして免責されてしまいます。日本でも、たとえば犯
  罪と無関係にムスリム・コミュニティや神道関係のグル
ープを監視しても、「監視する必要が
  あった」という言葉のみ
で、結果について責任を問われなくなってしまいます。
  こういう傾向が続けば、すなわち、法律に反しても政府の関係者であれば免責されるというこ
  とになれば、自由社会にとって回
復できない打撃になるでしょう。坂道を転げ落ちていくよう
  に

                           第1章 スノーデンの日本への警告                                                     
           イントロダクション:権限を有する人が説明責任を果たさねばならない 


                  人類史上未曽有のコンピューター・セキュリティの危機

  Q:情報技術について東大で勉強している方のようです。質問は、「監視の時代において、技
  術専門家の役割はどのようなものでしょうか。技術専門家の倫理というものはどうあるべきで
  しょうか」というものです。

  技術者が心得ておくべき最も重要なことは、完全に安全なシステムは現在のところ、誰にも作
  ることができないということす。もちろん努力は続けられていますが、メッセージ・プログラ
  ムであれプロトコルであれ、根本的な脆弱性が存在しています。政府が特別なアクセスを求め
  てくる時には、特定のグループに関する通信のセキュリティを突破するマスターキーを作るこ
  とを要請してくるわけです。アメリカ政府は、「そのためには裁判所の令状が必要で、事前に
  第三者が審査するから心配ない」と主張しています。しかし、インターネットの世界において
  ひとつの政府のために働くということは、必然的にすべての政府のために働くことになってし
  まうことを忘れてはなりません。たとえば、日本で何らかのサービスを提供している会社が日
  本の裁判所の令状に基づき日本政府に対し特定の通信にアクセスすることを認めるとします。

  一度認めてしまうとその後に中国政府がやってきて、「中国の裁判所の令状に基づいて情報を
  提供しなさい。さもなければ中国で製品を販売することは許されない」と言われてしまうわけ
  です。さらに、政府は合法的な捜査手続きを経る必要もサービスを提供する会社の協力を待つ
  必要もないということも留意しなければなりません。政府は、独力で特定のシステムに潜入し
  たりハッキングしたりすることができます。政府は、暗号化をすり抜けることができるわけで
  す。NSAは毎日やっています。暗号化か無意昧だと言っているのではありません。暗号化は
  今でも強力な方法です。しかし、暗号化は人々を集合的なレベルで保護してくれるに過ぎませ
  ん。すべての通信の暗号を解読することはできませんからね。他方で、暗号化をすり抜けて特
  定のデバイスにハッキングしてキーを盗むというようなことは可能なわけです。

  技術者として考えなければならないのは、私たちが人類史上未曽有のコンピューター・セキュ
  リティの危機の中に生きているということです。つまり、フェイスブックのメッセージやニコ
  ニコ動画その他のシステムを保護するためのものと同じ基準やプロトコルが、ダムの開閉や東
  京全体の灯りを制御する仕組みにおいても用いられているということです。政府に協力しこれ
  らのシステムを弱体化させるということは、単に自国の政府がシステムに入れるようにするだ
  けではなく、世界中のすべての政府との関係でこれらの基礎的なシステムが脆弱化してしまう
  ということです。

  その結果、システムの脆弱性が悪用され、政府に協力することによってあなたが防止しようと
  した被害よりも大きな被害が発生してしまう可能性もあります。私たちはまず、セキュリティ
  保護の質の問題に目を向けなければなりません。可能な限り強力なセキュリティのシステムが
  なければなりません。さもなければ私たちのすべての安全性が確保されなくなってしまうので
  す。

                            第1章 スノーデンの日本への警告                                                     
         イントロダクション:人類史上未曽有のコンピューター・セキュリティの危機

  May. 13 , 2014

                         民主主義では、市民が政府に法律を守れと言えなければならない

  Q:内部通報者の問題です。チェルシー・マニング(47)やダニエル・エルズバーグーという
    人物が過去にいましたが、こう
いった内部通報者は、安全な生活を捨て生命のリスクを冒しな
    がら
活動し、場合によっては国を出なければならなくなりました。あなたは、政府の内部通報
    者にどのようなメッセージを送りたいと考えているのでしょうか

  アメリカの内部通報制度は現在うまく機能していません。適切な保護制度が存在しないのです。
  実はトーマス・ドレークという人物が、私よりも前にNSAの大量監視」に関して正式の手続
  きを通じて内部通報を行っていまし
た。彼はジャーナリストとは接触せず、その前に政府内の
  監督機関
、すなわち政府機関が法律を遵守しているかを確認する機関である監察官に面会して
  告発を申し出ていまし
た。
  彼は議会の情報機関監視委員会にも話をしました。彼の行動は法律の定める手続きに則った正
  当な
もので、本来これらの機関には彼を危険から守ることが期待されていました。彼は政府に
  よる典型的な権力濫用を通報したのであっ
て、これらの機関は本来彼のキャリアを守り、彼が
  訴追されないよ
うにするべきでした。
  しかし、彼は検察官に送り付けられました。本来であればNSAで高官の地位にいるべき人物
  であるにもかかわらず、政府から解雇
され、家を失い、妻も失い、今はアップル・ストアで・
  iPadを売っています。このように内部通報制度はうまくいっていないのです。このことを理解
    することは重要です。

   ドレークはNSAに所属する最高位の法律家を訪ね、このプログラムは違法で違憲だと訴えま
    した。しかし、当時NSAに所属していた100人のうちナンバー2の役職にあった高官は、
  「私をかかわらせないでくれ。聞きたくない。私には関係ないことだ」と言ったのです。実際
  インタビューで次のように述べています(上図ダブクリ参照)


  ------------------------------------------------------------------------------------

  ピート・ポテンザ(NSA副ジェネラルカウンセル) 「プログラム」に精通していない者が
  私のところにきて、「我々は狂ったことをやっている。憲法に違反している」と告発したとし
  ても、私としては、「自分の仕事に戻れ。これ以上この問題で私をわずらわせるな」というし
  かありません。彼が、憲法違反だと告発してきたとしても、私は即座に会話を打ち切ったでし
  ょう。彼が憲法違反だといったところで、私はそれ以上彼の話を聞くことはなかったでしょう。

    ------------------------------------------------------------------------------------

  この人たちは政府の違法行為を監督することが仕事です。その彼らが、憲法違反の話に耳を傾
  けず、「私には関係ない。聞きたくない」と言い逃れすることが許されるならば、これは構造
  的な問題です。単発的な人権侵害以上に深刻です。こうした状況が積み重なれば民主的なコン
  トロールが失われてしまいます。小さな権限の濫用が繰り返されやがて大きな濫用になったと
  しても、罰則が定められていないという状況です。濫用の圧力を解放するバルブがないと、事
  態はますます悪化してしまいます。

  トーマス・ドレークこそが、エドワード・スノーデンを2013年のリークに結び付けた直接
  のきっかけといっても過言ではありません。民主的なコントロールを実現するためには、内部
  告発者を適切に保護する法制度を整備しなくてはなりません。これはアメリカだけの問題では
  ありません。日本やヨーロッパその他すべての国において適用される国際的な基準が必要です。
  権力者が自らを罰することに積極的になるはずがありません。「これは恥ずかしい過ちだった
  ね。是非記事にして下さい」などという政治家はいないでしょう。しかし、市民は政府が違法
  行為をしていないか知る必要がありますし、政策が法律に違反している場合には責任者が説明
  責任を果たすよう追及できるようにしなければなりません。

  シンプルなことです。民主主義においては、市民が政府に法律を守れと言えなければならない
  のです。政府がベールに包まれた舞台裏で政策判断を下す限り、何もわからない市民には発言
  権がないわけです。もはや市民ではなく召使です。対等なパートナーではなく、それ以下の存
  在でしかなくなってしまいます。

                            第1章 スノーデンの日本への警告                                                     
    イントロダクション:民主主義では、市民が政府に法律を守れと言えなければならない

  Wikipedia

        判断過程をAIやアルゴリズムに委ねた時、生み出されるものは権力の濫用

  Q:もうひとつ伺います。「最近AIが急速に発達しています。政府は人工知能をどのように
  使
っていくでしょうか。市民の監視に用いるのでしょうか。将来の見通しを教えて下さい。

  マス・サーベイランスは、極めて質の悪いAI、無能なAIに喩えられると思います。世界中
  の人のあらゆる情報を集めれば、誰がテロリストかわかるかもしれないというの
がマス・サー
  ベイランスの理屈です。しかしこれは誤りです。このような膨大な情報を収集し
てもテロリス
  トを見つけることはできません。フォルスーポジティブ比率が高のでうま
くいかないとい
  うことが判明しているわけです。

  ホワイトハウスは2013年のリークを踏まえ、「PCLOB」という独立委員会川洲眉に、
  NSAのマス・サーベイランス・プログラムを検証するよう指示しました。委員会は、プログ
  ラムが憲法に適合するか、実効性が認められるか、改善の必要性はないかなどを検証し、20
  14年に報告書を公開しました。
  結論はプログラムは違法であって、終わらせるべきだというものでした。10年近くにわたり
  3億3000万人の全アメリカ国民と世界中の人々の通信情報を、裁判所の審査な
く、意義の
  ある法的な手続きを経ずに収集しながら、ひとつのテロをも防止できなかったと報
告されてい
  ます。それどころか、テロ捜査にとって何らかの意味で有意義な情報すらひとつも
なかったと
  報告されています。膨大な情報を集めてもまったく意味がないことが明らかになっ
たわけです。
 
  テロ捜査とAIというと、すべての人を監視すればコンピューターに誰がテロリストであるか
  を学習させることができると考えられがちです。そんなことはできません。テロリストは異常
  値なのです。当然のことですが、ほとんどの人はテロリストではありません。テロリストは全
  体の母数からすると極めて希少な例外的な存在です。
  その結果フオルスーポジティブの比率が極めて高くなり、テロリストではない人たちを特定し
  てしまいます。他方でフォルス・ネガティブ比率、つまりテロリストをテロリストではない
  と特定してしまう確率も非常に高くなります。オサマ・ビン・ラディンすらテロリストではな
  いと判断してしまいます。これがAIの問題です。

  AIが役に立つ場面もあります。たとえば画像認識などの一般的な判断です。ある画像を見せ
  て、リンゴかオレンジか、あるいは自動車かと識別することはできます。このように人間の判
  断をサポートすることはAIにもできるでしょう。
  しかしながら、現在のところ法制度の代わりになるようなものではありませんし、近い将来に
  取って代わるとも思えません。突き詰めれば人間はアルゴリズムよりもけるかに複雑だからで
  す。判断過程をアルゴリズムに委ねた際、生み出されるものは権力の濫用だけでしょう。
 

                   
                            第1章 スノーデンの日本への警告                                                     
         判断過程をAIやアルゴリズムに委ねた時、生み出されるものは権力の乱用

※ 誤検知には 2つのパターンがあるとされている。1つは、False Positive(フォールス・ポジティ
  ブ)と呼ばれるもので、もう 1つは False Negative(フォールス・ネガティブ)と呼ばれるもの。
  フォールス・ポジティブは、たとえば正常なメールを迷惑メールフォルダーへ入れてしまう、正
  常なアクセスを不正アクセスと判断して通信を遮断してしまう、正常なファイルをウイルスと認
  識してしまうといったこと。つまり、正常なものを誤って不正と判断する誤検知
  フォールス・ネガティブは逆に、迷惑メールを見逃して通常の受信フォルダーに入れる、不正ア
  クセスを見落として通信状態を維持する、ウイルスを発見見できないといったこと。つまり、
  常なものを見落として正常と判断する検知漏れ

  どちらがより問題が大きいかは状況による。迷惑メールが受信フォルダーに入っていた場合、大
  事なメールが迷惑メールフォルダーに入ってしまって見落とすよりはいいと考えられる。つまり
  フォールス・ネガティブの方がいい。

                                      この項つづく

 ● 今夜の一曲

「風と共に」は、エレファントカシマシのボーカルの宮本浩次が、バンドデビュー30周年を迎え、自
らの半生を振り返り「みんなのうた」に書き下ろした楽曲。人は誰でも、傷つくことを恐れて立ち止
まったりすることもあるが、曇りのち晴れ。夢や希望に向かい、♪行こうチケットなんかいらない、
行き先は自由なんだ。風と共に今を生きていこう!と歌う。聴く人を励ますメッセージソングとなっ
ている。

音楽誌『ROCKIN'ON JAPAN』にて、破格の新人衝撃のデビューの見出しで大々的に紙面に取り上げ
られる。アマチュア時代の楽曲を含むセルフタイトルが冠せられたファーストアルバムは、ストレー
トかつオーソドックスなメロディーとサウンドではあったが、洋楽ロックからの借り物でありながら
日本語であることを不自然に感じさせないという点で新鮮味があり、宮本浩次というアーティストの
才気を充分に感じさせる作品であった[独自研究 ?]。セカンドアルバム以降、政治への強い関心や、
文学作品からの影響を受けた宮本の独裁的とも言える姿勢をより顕著にバンドの楽曲に反映させるこ
とになった。2
作目のアルバム「エレファントカシマシⅡ」では、資本主義社会の中で追い詰められ
る人間の姿を真正面から取り上げ、社会の不条理をヘヴィーなサウンドと共に提示して見せる。以降
22枚目のアルバム「RAINBOW」(2015.11.18)発売し、1981年結成から2017年までの35年と活動
を続けてきている。



風に吹かれて

 

   

● 今日は広島「原爆の日」                 

  

元沖縄開発庁長官の上原康助氏が6日午前10時6分、呼吸不全のため沖縄市登川の中頭病院で死去
した。84歳。本部町出身。上原氏は沖縄戦の体験を原点に全沖縄軍労働組合(全軍労)の委員長と
して軍雇用員の待遇改善や反戦平和運動に取り組み、衆院議員10期、県選出の国会議員として初の
国務大臣を務め、沖縄の振興開発や基地問題の解決に尽力した。沖縄返還で現地でお会いしたことを
思い出す。お疲れ様でした。
                                          合唱

今日は早朝から町内一斉、河川道路(犬上川)で草刈り美化。前日にエンジン草刈りで粗刈りしてお
き、高枝鋏と剪定枝鋸で竹、雑木を伐採、昼から刈り残しの雑草をエンジン草刈りで伐採。虫除けで
メンソレターム(近江兄弟社)を使用してみる。持続性など試してみて効果あり。高枝鋏は太い枝は
切り落せず、次回から鋸歯に交換しておくことに。竹は青竹は鋸で簡単に伐採できるが、立ち枯れ竹
は炭化し切り難い、なので次回は鉈も持参することに。色々と勉強になるが、体力・筋力不足は拭え
ない。刈り残しはまた別の日に予定する。

 手をやくアレチウリ

    

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スノーデンの返信 Ⅱ

2017年08月05日 | 時事書評

   

            

             宣公十二年(- 597) 邲(ひつ)の戦い   / 楚の荘王制覇の時代


                                                

    ♞ 晋の知罃ちおう)、とらわる

    ※ 楚の大夫熊員羈は晋の下軍の大夫荀首(荀林父の弟、知荘子)の子の知罃を生
      捕りにした。萄首は のとなり、その一族郎党を従えて知罃を奪返しようと引
      き返した。厨武子(魏錡)が車御となり、下軍の兵士のの大部分はそのあとに
      従った。


      萄首は弓を射るたびに、よい矢を抜きとって前にいる厨武子の矢袋に入れた。
      厨武子が怒って、「あなたは御子息を取り返そうとなさっているはずだ。それ
      なのに矢を借しむとは何事です。矢の材料なら董沢にそれこそ採り尽くせぬほ
      どあるではありませんか」
      萄首は言った。
      「人の子を捕えないことには、わが子は取り返せぬからな。わたしは無駄矢を
      射るわけに行かぬのだ」

      果たしてかれは楚の連尹襄老を射とめてその死骸を車に載せ、さらに楚の公子
      穀臣(荘王の子)を射てこれを生捕りにし、この二者を連れ帰った。
      日が暮れて、楚軍は筆部に陣営をかまえた。百の敗残部隊は陣営を設営するこ
            と
ができず、夜になって黄河を渡った。人馬の騒ぐ音が夜通し続いた。

     ★ このようにして晋は敗北した。実力において晋は必ずしも楚に劣っていたわ
       けではなかったが、将軍間の不和がこの大敗をもたらしたのである。その秋、
       晋軍は本国に引きあげた。帰着するや元帥萄林父は、敗軍の責任を負うて、
       晋侯に死を賜らんことを請うた。晋侯は願いをいれようとしたが士貞子(士
       渥独)が、城濮の戦いの後、楚が子玉を自殺せしめた轍を踏むべきでないと
       疎めたので、罰をとりやめた。この判断が正しかったことは、後に荷林父が
       晋のため荻を鍼ぼす大功を立てたことで証明される。

 

   Full Movie

☑ エドワード・ジョセフ・スノーデン 

Edward Joseph Snowden、1983年6月21日 - )は、アメリカ国家安全保障局 (NSA) および中央情報局
(CIA) の元局員。NSAで請負仕事をしていたアメリカ合衆国のコンサルタント会社「ブーズ・アレン・
ハミルトン」のシステム分析官としてアメリカ合衆国連邦政府による情報収集活動に関わる。➲2013
年6月に、香港で複数の新聞社(ガーディアン、ワシントン・ポストおよびサウスチャイナ・モーニ
ング・ポスト)の取材やインタビューを受け、これらのメディアを通じてNSAによる個人情報収集の
手口を告発。
PRISM)。➲2013年6月22日、米司法当局により逮捕命令が出され、エクアドルなど
第三国への亡命を検討しているとされていたが、同年8月1日にロシア移民局から期限付きの滞在許可
証が発給されロシアに滞在中である。➲2014年1月、ノルウェーのボード・ソールエル(英語版)元
環境大臣からノーベル平和賞候補に推薦されている(閲覧出典:Wikipedia,日本語版 2017.08.05)。

✔ 略歴

☈1983年6月21日、アメリカ合衆国ノースカロライナ州エリザベスシティで生まれ、ウィルミントン
市で育てられた。父ロニー・スノーデンは、ペンシルバニア州籍でアメリカ沿岸警備隊に勤務し、母
はボルチモア出身でメリーランド州の連邦裁判所職員を務める。国家公務員として公職に就く両親の
元に育ち、後に自らもCIA職員として公職を務める事になる。16歳の時、両親の離婚により、母方の
故郷であるメリーランド州のエリコット・シティに転居。☈病気療養――伝染性単核球症(キス病
のため、約9ヵ月の間学校を休校――を理由にボルチモアの高校を退校、General Educational Develop-
ment
(中等教育修了証)を取得し、メリーランド州のアン・アランデル・コミュニティカレッジ(単
科大学)に入学しプログラミングなど計算機科学を専攻。この時に学んだ知識が後の立場に繋がった
とみられるが、卒業はしておらず中退。☈インターネット上ではテクノロジー・ウェブサイト・Ars
Technica
に文章や写真及びゲームを投稿する常連投稿者として知られる。日本のアニメ・漫画・コン
ピュータゲームなども好み、趣味が高じて日本語を1年半ほど勉強したり、自分の名前を日本語のア
クセント風に「エドワアド」と発音することもある。ゲームについては対戦型格闘『鉄拳シリーズ』
のファンで、困難を物ともせず悪と戦うこのゲームが、自分の道徳観を形成した、あるいは、子供時
代はスポーツやテレビ鑑賞に関心を示さずギリシャ神話を読みふけり影響を受けたと語る。☈2002
年から2004年にはアニメファンの同人サークル「Ryuhana(竜花) Press」の会員として、ウェブサイ
ト管理を引き受ける。

☈2004年5月7日、当時19歳であったスノーデンは大学を離れた後、対テロ戦争により米軍が大幅な
人員増加を進めに応じ、アメリカ合衆国軍に志願入隊。情報工学の知識を評価されて特技兵(技術担
当兵)の兵科に配属、さらにイラク戦争に派兵される予定の特殊部隊に配属され「自由の為の戦い」
のイラク戦争派遣を志願するも、訓練中の事故で両足骨折の重傷を負って同年9月28日に除隊。☈20
05年、ケース・アレクサンダーNSA長官との契約は12か月でスカウトを受け、メリーランド大学言語
研究センターの警備任務に配属される。☈2006年にCIA職員雇用されコンピュータセキュリティ関連
任務に参加。☈2007年スイスのジュネーヴでの情報収集に派遣され、同じくコンピュータセキュリテ
ィを担当。☈2009年2月にCIAを辞職。同年NSAと契約を結んでいたDELLに勤務、スノーデンは横田
基地内のNSA関連施設で任務]。高官や軍将校を対象に中国からのサイバー戦争に対する防衛技術を
指導。このとき、日本語に加え、中国語(普通話)や仏教などにも造詣を得る。☈2011年に彼はDELL
からの主任技術者としてCIAに出向メリーランドへ戻り、☈2012年3月、ハワイのNSA施設で主任技術
者となる。2011年時点でリヴァプール大学に籍を置いていたと報道。ブーズ・アレン・ハミルトンを
通じNSAのハワイ州「クニア地域シギント工作センター」に赴任、同拠点のシステム管理者に就任。

 
Kunia Regional SIGINT Operations Center

✔ 情報収集の告発 

➲2012年3月から2013年3月、アメリカ合衆国の議会はNSA長官のケース・アレクサンダー将軍やジェ
ームズ・クラッパーアメリカ合衆国国家情報長官に対して、NSAが情報収集対象としアメリカ人の人
数の公表を繰り返し求める。2013年3月、クラッパー長官はアメリカ人に対する一切の情報収集を否
定。☈2012年12月1日、スノーデンはキンキナトゥスを名乗り、アメリカのジャーナリスト・グレン・
グリーンウォルド――グリーンウォルドはNSA批判で名が知られる――に電子メールを送る。盗聴を
恐れるスノーデンは、グリーンウォルドが電子メールにGnuPGをインストールして使うなら情報提供
すると持ちかけたがグリーンウォルドは多忙を理由にGnuPGのインストールを拒否、今度はVerax(ラ
テン語で「真実を述べる者」)と名乗り、ドキュメンタリー作家のローラ・ポイトラス(に電子メー
ルを送る。ポイトラスはグリーンウォルドにこの情報を伝え、グリーンウォルドはPGPその他のセキ
ュリティソフトをインストールした上でスノーデンとの折衝開始(なお、この時点のグリーンウォル
ドは「キンキナトゥス」と「Verax」が同一人物であることに気づいていない。

 Glenn Edward Greenwald

☈2013年5月、スノーデンはハワイのオフィスで、告発の根拠となった文書(スノーデン自身のイン
タビューに先立って各紙で報道されたもの)を複写した後、病気の治療のために3週間の休暇が必要
と上司に伝え、同月20日香港へ渡航した。九龍尖沙咀のホテルにチェックインし、『ガーディアン
のインタビュー(グリーンウォルド、ポイトラス、ユーウェン・マカスキル)を受け、アメリカ合
国や全世界に対するNSAの『PRISM』による盗聴の実態と手口を内部告発。スノーデンは持ち出した
機密資料のコピーを分割して民間の報道機関に提供し、自身の身に危害が及んだ場合は自動的に取得、
全情報が流出すると述べる。香港で暴露した機密情報は、NSAの情報以外に、❶アメリカ合衆国を含
む全世界でのインターネット傍受、❷ IT企業の協力、❸ NSAの海外に対するクラッキング、❹同盟
国に対する情報収集、❺英国による情報収集など、☈2014年5月13日、スノーデンが持ち出した未公
の機密文書を収めた書籍が、世界24か国で同時刊行。 

  Oct. 9, 2013
Guardian has handed a gift to terrorists', warns MI5 chief: Left-wing paper's leaks caused, | Daily Mail Online

✔ スノーデンの主張

香港滞在中に、香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストの取材に応じ以下のような主張を行う。

  1. アメリカを離れて香港に移動したのは隠れるためではなく、アメリカの犯罪を暴くためである。
  2. 香港には退去の要請があるまで当分滞在する予定する。
  3. アメリカ政府は市民の同意を尊重せず密かに情報収集作戦を行っていたが、この曝露により今
    後は社会への説明責任と監督が求められることになるだろう。
  4. オバマ大統領は人権上問題のある政策を推進している。

✔ 逃亡

☈連邦捜査局(FBI)は情報漏洩罪など数十の容疑で捜査に乗り出す。スノーデンは、「表現の自由を
信じる国に政治亡命を求めたい」として複数のメディアを通じてアイスランドへの政治亡命を求める
もアイルランド拒否、香港の滞在先ホテルを記者らに特定されたために、その後は弁護士の案内で個
人宅に移動。☈ 同年6月23日にスノーデンは、香港国際空港発モスクワ行きの飛行機に搭乗し、モ
スクワのシェレメーチエヴォ国際空港に移動。アメリカは同氏のパスポートの失効手続きをしていた
が、
香港政府は手続きに不備があるとし、スノーデンの香港出国を追認。駐モスクワのエクアドル大使館
でエクアドル政府に亡命申請、同国のリカルド・パティーニョ・アロカ外務大臣は亡命申請を受け取
る。スノーデンは弁護士を通じて、空港内にある露外務省の領事部窓口に、キューバ・ベネズエラ・
中華人民共和国・スイスなど、18カ国の国々に対して亡命申請を行う。☈2014年7月、弁護士により
ロシア内の滞在期間延長が申請され3年間の期限付き居住権を得る。☈2017年1月に、スノーデンに
対するロシアの居住許可は、2020年まで延長される。☈2015年9月29日、スノーデン本人と認証され
たアカウントが突如現れ、僅か2日で118万人のフォロワーを獲得。☈
2014年1月14日、アメリカ
NPO「報道の自由財団」が取締役会の理事として迎える意向をホームページ上に発表。翌2月から
スノーデンは同理事に就任。☈
2014年2月、グラスゴー大学の名誉総長に選出。☈2015年2月 エドワ
ード・スノーデンの一連の暴露をドキュメンタリー化した映画"CitizenFour"がアカデミー賞の長編ド
キュメンタリー賞を受賞。アメリカ連邦捜査局(FBI)のモラー長官は、NSAの情報収集について、何
ら違法性はないとの認識を示し、スノーデンの逮捕に向けて全力で捜査していると表明。☈2013年6
月22日、アメリカ合衆国司法省は逮捕状を取得。☈2013年7月に発表されたアメリカのキニピアック
大学の世論調査ではスノーデンを内部告発者だと考える有権者が55%に上り、裏切り者だと考える
有権者は34%に留まる。

 Oct. 30, 2013

➲オバマは各国駐米大使館への盗聴に対して、一般論として「諜報機関を持つ国ならどの国でもやっ
ていることだ」として、同盟国の大使館に対する諜報活動を否定せず。情報収集活動の見直しを指示。
※。☈2013年10月にはクラッパー国家情報長官らがNSAによるドイツのメルケル首相ら35人の外国
首脳に対する長年に亘る盗聴を認める。一部はすでに中止されたが、一部は有益な情報をもたらして
いるとして継続されているという。また、盗聴の対象はNSAが独自に決定、オバマの承認は得ていな
かった――NSAは数多くの盗聴を行っているため、全ての活動について大統領に報告することは現実
的ではないとの弁明を行う。

※ オバマ大統領「情報機関がある国はどこでもやること」アサヒ新聞デジタル, 2017.07.02

✔ 日本政府の対応

菅義偉内閣官房長官は「米国内の問題なので、米国内で処理されることだ」「日米間の外交において
は、しっかりと秘密は守られるべきだ」とのみ述べる]。☈2015年7月31日には、内部告発サイト「ウ
ィキリークス」がNSA(アメリカ国家安全保障局)が少なくとも2006年ごろから日本の内閣、日本銀
行、財務省などの幹部の盗聴を試みていたとして、米政府の関連文書を公開する。菅義偉内閣官房長
官と安倍晋三内閣総理大臣は「事実であれば極めて遺憾」と述べたが、抗議には至らず。
 

  

● 事件背景と告発の意味Ⅱ  

    第1章 スノーデンの日本への警告     

  議会はどうでしょうか。実際、アメリカの議会にはこうしたプログラムを監視する義務があ  
 ります。この義務に基づいて、議会はDNI(国家情報長官;Director of National lntelligence
 というインテリジェンス部門のトップであったジェームズ・クラッパー将軍に対し監視プログ
 ラムに関して証言を求めたことがあります。宣誓に基づく証言なのでここで嘘をつくことは重
 罪になります。質問者は情報機関の活動を監督する上院議員でした。情報機関は法に従って活
 動しているのか、NSAがアメリカ人を対象に大規模な監視捜査を実施していることはないか、
 行っている場合必要な手続きを踏んでいるかということを尋ねました。「はい」という回答を
 予想しますよね。あるいは、国家機密保護法で発言することが法的に禁止されている場合には、
  「公開された議会で回答することはできません。機密が保持される会議において、機密が保持
  される討議をする必要があります」などと答えるはずだと思いますよね。ところが実際には、
  以下のようなやりとりになりました。

  上院議員  NSAは、数百万人あるいは数億人のアメリカ人から情報を収集していますか。
  クラッバー 国家情報長官いえ、ありません。
  上院議員  集めてないのですか。
  クラッパー国家情報長官  意図的には集めていません。NSAが、偶発的に収集してしま
  ったということはあるかもしれませんが、意図的ではありません。

  政府の高官が、議会において一般的・概括的な文脈で質問を受けながら、秘密保持が優先さ
 れると判断したわけです。この事実が、アメリカの民主主義あるいは日本の民主主
義にとって
 何を意味するか考えてみて下さい。オサマ・ビン・ラディンのスパイをしています
かと尋ねて
 いるわけではありません。具体的な捜査手法を尋ねているわけでもありません。

  一般論として、この国のすべての人の憲法上の権利は侵害されていないのか、この国の国民
 はスパイの対象になっていないのかと質問され、将軍はNOと笞えているのです。これは危険
 です。これは説明責任に対する大きな脅威です。民主主義社会において秘密とは何かという重
 大な問題を提起しています。

  総力戦の時代、すなわち港に潜水艦や魚雷を配備し、戦時配給態勢に入り、外国からまさに
 侵略されているような事態にあるならば、軍事上の必要性や我々の社会を根本から揺るがす脅
 威が存在することを理由に、法制度を変更することも許されるでしょう
  しかし、果たして今の世の中に、私たちが享受する市民としてのすべての権利を放棄しなけ
 ればならないような、社会を根本から揺るがす脅威が存在するでしょうか。私たちの社会を素
 晴らしいものにしている環境や、私たちの社会を真似したいと思わせるような理念をすべて投
 げ出さなければならないような脅威が存在するのでしょうか。人々が、日本に住みたい、アメ
 リカに住みたいと思う理由を放棄していいのでしょうか。
  さらに重要なことは、このような秘密主義は政治の意思決定のプロセスや官僚の質を変えて
 しまうということです。ある政策が適切なのか、信頼できるのか、正しいのかといったこと
 は、ジャーナリストが知るべき事実です。政策がどのように実施されているかを知ることも大
 変重要です。

  しかし、政府が安全保障を理由として、政策の実施過程は説明せず、単に法律に従っている
 と説明するだけとなれば、ジャーナリストが政策の実施過程を知ることはできなくなり、やが
 て政府による法律の濫用が始まるでしょう。政府からすれば、何をやっても伝えなくてよいと
 いう普遍的な正当化の盾を持っていると思うわけですから。
  もちろん政府を信頼する人もいるでしょう。それは問題ありません。しかし、信頼するとし
 ても仕組みは必要です。仮に政府が信頼を裏切り、権限を逸脱し、法律に違反した時には、私
 たちが法律に違反した時と同様、説明責任が問われなければなりません。しかし、「秘密」は
 この仕組み自体を危険にさらしてしまうわけです。
 


                           第1章 スノーデンの日本への警告 
               イントロダクション:秘密主義は政治の意思決定のプロセスや
                                官僚の質を変えてしまう


                                       メディアは大きな変革をもたらす力を持つ

彼は、政府の権限濫用を抑止するためのメディアの重要性について言及するが、アメリカの主流メデ
ィアの一部はあなたを裏切り者と呼んでいるが、一体主流
メディアの役割をどのように見ているのだ
ろうか?主流メディアは、政府の暴走を抑止する役割を
果たしうると思うかと問いかけにタイしてつ
ぎのようにこたえる。

   はい。果たしうると思います。私は、自分がどう呼ぼれようとどうでもいいと思っていま
  す。なぜなら問題とされているのは私自身のことではなく私たちのことだからです。
自分の
  国を愛していれば、自分が少々批判されても耐えられます。私を非難することは勝手です。
  しかし、ジャーナリズムが生み出した変化を非難することはできないはずです。
   2013年の暴露をきっかけに、アメリカ政府が合法的だと言い続けてきた問題が初めて
  公開の法廷で審査され、裁判所はこのブログラムについて、法律の授権をまったく受けてい
  ないというだけでなく、私が主張していたように、違憲と考えられると判断しました。裁判所
  は、ジョージーオーウェルの書いた『一九八四年』という小説に言及しながら、これらのプロ
  グラムの及ぶ範囲はオーウェル的だと述べています。
   また、議会がほぼ四〇年ぶりに、情報当局の権限を拡大するのではなく制約する法律を制定
  しました。私は彼のファンではありませんが、オバマ大統領(当時)は、私がやったことは絶
  対許すことはできないが、このような問題について議論したことはアメリカを強くしたと述べ
  ています。

   また、オバマ政権の下で、アメリカ史上初めて、日本国民やドイツ国民などの外国人に対し
  て、わずかではありますがプライバシーが保障されることとなりました云)。もちろん規模と
  しては小さいです。意味ある改革ではありません。でも、第一歩ではあります。
   私を嫌いであればどうぞ非難して下さい。それはもちろんフェアなことです。私が選んだ方
  法についても、非難したい人は非難していただいて結構です。でも私が申し七げたような変化
  は、今まで公にされていなかったことが明らかにされなければ生じなかった変化です。それこ
  そがメディアの方にフォーカスしていただきたいことです。私の性格や顔なんてどうでもよい
  のです。もっと本質的な議論をしましょう。

   メディアは大きな変革をもたらす力を持っています。今回の暴露において本当のヒーローは
  私のような内部占発者ではありません。ヒーローはジャーナリストたちです。彼らは、政府の
  脅迫に立ち向かいました。イギリスでは、すでに報告されているように、政府関係者が実際に
  メディアの社内に立ち入って、ジャーナリストに対して、資料をすべて破棄し、ハードドライ
  ブやラップトップを物理的に破壊するように命じたのです1づ詞帽。政府関係者は、確実に破
  壊されたことを確認するために現場に立ち会っていました。 
   けれどもジャーナリストは屈しませんでした。彼、彼女らは、その情報を電子的にニューヨ
  ークに移転したのです。ニューヨーク市であれば、英国政府が情報を破棄させる権限を有して
  いなかったためです。

                           第1章 スノーデンの日本への警告 
              イントロダクション:
メディアは大きな変革をもたらす力を持つ  


                                日本の報道は危機的状況

   政府は自分たちの持つ地位と権力を理解しています。政府は放送法の再解釈を通じてプレッ
  シャーをかけています。政府はあたかも公平性を装った警察のようにふるまいます。「この報
  道
は公平ではないように思われますね、報道が公平でないからといって具体的に政府として何
  か
をするわけではありませんが、公平でない報道は報道規制に反する可能性がありますね」な
  ど
とほのめかすのです。
   こうした類の脅迫は、メディア各社の上層部に明確に伝わっています。これは驚くことでは 
  ありません。メディアの事情も理解はできますが、脅威に屈してはいけません。政府が嫌いな
  ニュース会社やニュースキャスターを排除してはなりません。今求められていることは連帯で
  す。
   ニュース絹織、TBS、NHK、テレビ朝日、その他のさ末ざまなテレビ・チャンネル、そ
  してジャーナリスト団体が一緒になって、自由な報道というものは政府の言いなりになって書
  くのではないこと、聞かれた社会における報道の自由の目的は政府による情報の独占に対抗す
  ることにあることを訴え続ける必要があります。
   とりわけ、日本社会や日本で暮らす人々の権利に大きな影響を及ぼす事項については、対抗
  していく必要があります。政府の動きを調査できなければ、企業の動きを調査できなければ、
  また調査の結果判明した実態を人々に伝えることができなければ、ジャーナリストではなくな
  ってしまいます、ジャーナリストではなくただの速記者です。それは日本の市民社会にとって
  非常に大きな損失であり、ひいては日本にとっても大きな損失だと思います。

                           第1章 スノーデンの日本への警告 
                      イントロダクション:日本の報道は危機的状況 


                            暗号化技術がプライバシーを守る鍵

Q:アップルのような企業が、政府によるマス・サーベイランランスから個人のプライバシーを守っ
てくれると期待していいだろうか

   過去数十年で監視がこれほど爆発的に拡大したのは、技術的に筒単になり経済的に安くなっ
  たためです。政
府からすればやらない理由がないわけです。学術的にも技術的にも難しさはな
  く、またほとんど無料で技術を入手できま
す。修士号を持っている優秀な学生であれば、今回
  の監視プ
ログラムを数カ月で複製できるでしょう。
   政府にとって現実的な問題は情報を集める際の利益面量だけでした。令状を取得して収集で
  きる範囲はどこまでか、
企業にお願いしたり威嚇したりすることで取得できる範囲はどうかと
  いった問題だけが現実の課題でした。

   しかし、今回のリークによってインターネットの安全性に企業が疑問を抱くようになり、政
  府のこの目論見は修正を余
儀なくされつつあります。
   2013年のリークによって得られた技術的な教訓は、ネットワークの回路は危険に満ちあ
  ふれているということで
す。2013年以前から、インターネット通信の傍受が可能であると
  いうことは理論的には明らかでした。ハッカー集団
に悪用されうるということも理論的には明
  らかでしたが、証
拠はありませんでした。こうした活動を政府が行っているという確証もあり
  ませんでした。

   今回のリークにより、政府がインターネット回禄を傍受して、テロリストだけでなくまった
  く無罪の人をも監視してい
るということが明らかになりました。
   これを受けて企業もセキュリティ・レベルを上げています。多くの企業が、通信回路が危険
   なネットワークであることに気付きました。たとえば、オープン・ウィスパー・システム社
  (Open Whisper Systems Signalのような暗号化された電話プログラムを用いずに電話をかけたり、
    WhatsAPPのように暗号化されたアプリを用いずにテキストメッセージを送るということは、ま
  ったくの無暗号ということです。裸の通信ということです。誰でもそれを見ることができます。
  保存して、利用することもできてしまいます。暗号化は裸のコミュニケーションに鎧を着せる
  ようなものです。コミュニケーションに服を着せて、安全な形でこの危険な道を歩けるように
  する、そして目的地に安全にたどり着けるようにするということです。

                            第1章 スノーデンの日本への警告 
                  イントロダクション:暗号化技術がプライバシーを守る鍵 





       
                                      この項つづく
                                  

   

 

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スノーデンの返信 Ⅰ

2017年08月04日 | 時事書評

    

            

             宣公十二年(- 597) 邲(ひつ)の戦い   / 楚の荘王制覇の時代


                                                

    ♞ 晋軍敗走す

    ※ 楚の荘王は、二人の大夫唐狡および蔡鳩居を使者として唐(楚の属国)の恵俣に
      告げさせた。「わが軍がこのような大敵と戦う破目におちいったのは、わたしの
      不徳・貪欲のいたすところ、すべての責任はわたしにあります。しかし万一わが
      楚国が敵に勝てなかった場合は、同盟国たる貴国の恥ともなるわけ、恐縮とは思
      うが、わが軍の勝利のため、御助力をいただきたい」
      荘王は潘党に遊軍の兵車四十乗を授けて、救援に赴いた唐の恵公の下に付け、こ
      れを左拒(左翼)として、晋の上軍を迫撃させた。

       晋の上軍の副将駒伯(郤克の子郤錡宇)が、「断固迎え打つべきです」と言っ
      た
が、隋季(士会、上軍の将)は、「楚軍の士気はいま絶頂にある。もし敵が全
      力を投じて
わが軍にかかってくれば、わが軍の全滅は必至だ。それよりは兵をま
      とめて引き揚げた
方がよい。敗走のそしりを友軍と分がちあい、戦わずに人民を
      生かすことにもなる。それ
もよいことではないか」と言って、自分のひきいる兵
      卒をもって殿軍とし、撤退した。
かくて下軍だけは敗北を免れたのである。

      ところで撤退する晋軍のなかに、道の穴ぼこに落ちこんで動きがとれなくなった
      兵車があ
った。これを追って来た楚兵が、「軍の横木を抜け」 と教えた。言わ
      れた通りにすると、少
し進んだ。だが、こんどは馬がどうどう巡りしてやっぱり
      進めない。すると楚兵がまた、「大旗
を抜きとって、馬の頌の横木の上に投げる
      んだ」と教えた。その通りにして、ようやく
穴ぼこから出ることができた。する
      と、兵車の兵士たちは皆兵の方をふり返って、へらず口
を叩いた。「こちらは
      お国のように何度も負けて逃げた経験がないものだからね」

      さきに林の中に逃げこみ、戦況をうかがっていた趙旃は、持っていた二頭の良馬
      を自分の兄と叔父に譲って二人を逃がし、自分はほかの馬に乗って逃げていたが、
      途中で敵に遭遇し、これをふりきることができず、ふたたび林の中に逃げこんだ。
      逢大夫は二人の息子とともに兵車に乗って逃げる途中、趙旃の姿を認めたが、か
      れを乗せれば、二人の息子を降ろさねばならないので、「うしろを見るな」と二
      人の息子に言った。ところが、息子たちはうしろをふりかえり、「あっ、うしろ
      の方に趙老人(趙旃をさす)・・・」 と言った。逢大夫は腹を立てて二人を車から
            下ろし、一本の木を指差して、「お前たちの死骸をそこに捜しに来る」と言い、
      趙旃に車の握り綱をつかまらせて車に乗せ、難を免れさせた。あくる日、その木
      を目印にして二人の死骸をさがしたところ、兄弟折り重なって戦死していた。

      



● 彼は現代の英雄か悪漢か

昨日の昼、麦とろろ御膳を食べに行きましょうというので「美濠の舎」に出かけ、帰り道、珍しくレンタル
DVD『スノーデン』を借りて観賞する。ところで、1992年、米連邦議会が Scientific and Advanced-Techno-
logy Act
(科学および先端技術法案、合衆国法典第42編第1862(g)条 42 U.S.C. § 1862(g))を可決し、Windows 3.1
for Workgroup
が発売され世界的インターネットが普及することになるが、この技術が米国政府の監視下に入
ることは公知の秘密であったが、それから21年後、米国の一人の愛国青年の内部告発が世界が震撼させる
ことになる。

それは、まさしく世界中に激震が走った瞬間だった。2013年6月、英国のガーディアン紙が報じたスクープ

で、米国カ政府が秘密裏に構築した国際的な監視プログラムの存在が暴露されたのだ。さらに驚くべきは、
ガーディアン紙に大量の最高機密情報提供者は、たったひとりのNSA(米国国家安全保障局)職員であり、
ごく普通の29歳の若者だった。匿名ではなく自らカメラの前に立ち、エドワード・スノーデンと名乗って
素性を明かしたその青年は、なぜNSACIAから得られる多額の報酬と輝かしいキャリア、恋人と築き上げ
た幸せな人生のすべてを捨ててまで重大な告発を決意したのか。はたして彼は英雄なのか、国家の裏切り者
なのか。ハリウッドきっての社会派の巨匠オリバー・ストーンが史上最大の内部告発“スノーデン事件”の
全貌に迫った問題作、映画『スノーデン』(参考:公式ホームページ|イントロダクション)。

2004年、9.11後の対テロ戦争を進める祖国アメリカに貢献したいと考えて軍に志願入隊したスノーデン
は、足に大怪我を負って除隊を余儀なくされる。失意のさなかCIAに採用され、ずば抜けたコンピュータ技
術を教官に認められ、2007年にスイス・ジュネーヴへ派遣される。そこで、米国政府が対テロ諜報活動の名
のもとでの世界中のメール、チャット、SNSを監視、膨大な情報を収集する実態を目にする。やがてNSA
契約(情報システム管理)技術者(として東京の横田基地、ハワイのCIA工作センターへと赴任し、民主主
義と個人の自由を揺るがす政府不信を募らせたスノーデンは、恋人のリンゼイをハワイの自宅に残し、命が
けの告発に踏みきる。



映画は2013年6月,ハワイのオフィスで NSAの最高機密を盗み出したスノーデンが、香港の高級ホテルでド
キュメンタリー作家のローラ・ポイトラス、ガーディアン紙のコラムニスト、グレン・グリーンウォルドと
初めて対面するところから始まる。その密室での異様な緊迫感に満ちたやりとりは、アカデミー賞長編ドキ
ュメンタリー賞を受賞した『シチズンフォー スノーデンの暴露』に克明に記録されているが、本作はそこ
から9年前にさかのぼり、コンピュータのオタクであり、国を愛する平凡な若者だったスノーデンが、恐る
べき現実に理想を打ち砕かれる。

※ Q&ANSAPrismインターネット監視計画, BBCニュース, 2013.07.01



米国の情報収集プログラムはテロリストだけでなく民間企業や個人におよび、日本を含む同盟国まで対象に
なってい
た驚愕の事実の数々。加えて、スノーデン自身が私生活を監視される恐怖に襲われ、ストレスに蝕
まれていった極限心理が生々しいサスペンスとともに描かれる。テロとは何の関係もないインターネットや
携帯電話での発言、個人の趣味、愛情、友情さえも脅かされかねない現実はもはやSFではなく、スノーデン
が世界最強の情報機関に反旗を翻した動機もまさにそこにあった。

また、この作品では長年にわたってスノーデンのパートナーとして寄り添うリンゼイ・ミルズとの出会いと、
その後の軌跡を描き、思想や趣味はまったく異なるふたりが幾多の試練に直面しながらも、共に人生を歩ん
でいくことを確かめ合い、かけがえのない絆で結ばれていく。史上最大の内部告発者スノーデンが実は日本
のカルチャーに興味を持っていた意外な一面など、プライベートの領域にも切り込み観客者の共感を誘う。
『(500)日のサマー』『インセプション』『ザ・ウォーク』などで日本でも多くのファンを獲得する若き
実力派俳優ジョセフ・ゴードン=レヴィットの渾身の役作りも見逃せない。スノーデン本人と見まがうほど
瓜ふたつの風貌、声色、仕種をマスターするとともに、内部告発者としての崇高な信念、ナイーヴなひとり
の青年の心の機微を表現したその演技は、あらゆる観客の目を釘付けにする。また、恋人リンゼイに扮する、
『ダイバージェント』『きっと、星のせいじゃない。』 でハリウッドの若きスター女優となったシャイリ
ーン・ウッドリー。
『ザ・ファイター』 でアカデミー賞助演女優賞を受賞したメリッサ・レオ、『スター・
トレック』 シリーズのスポック役で知ら
れるザカリー・クイント、『イン・ザ・ベッドルーム』 『フィク
サー』 でアカデミー賞にノミネートされたトム・ウィルキンソン、
『ノッティングヒルの恋人』 のリス・
エヴァンスたちが脇を固め、ニコラス・ケイジがCIAの指導教官役で登場。

『プラトーン』『7月4日に生まれて』で二度のアカデミー賞監督賞に輝き、『JFK』『ニクソン』『ブッシ
ュ』というアメリカ大統領をテーマにした3本の問題作を発表してきたオリバー・ストーン監督が、今回映
画化に挑んだ原作はルーク・ハーディングのノンフィクション「スノーデンファイル 地球上で最も追われ
ている男の真実」。“自由な世界”への純粋な信念に突き動かされ、命がけで国家権力に立ち向かうスノー
デンの生き様を力強く描き上げている。『スラムドッグ$ミリオネア』『ラッシュ/プライドと友情』の撮
影監督アンソニー・ドッド・マントルが、ドキュメンタリーの手法を交えた臨場感あふれる映像も必見。

”自分のすべての発言や行動、仕事、表現、愛情や友情が監視される世界に住もうとは思わない。

【スノーデン事件】

 




● プリズム(監視プログラム)とは

PRISM(プリズム)とは、アメリカ国家安全保障局(NSA)が2007年から運営する、極秘の通信監視プログ
ラム。正式名称はUS-984XN。コードネームは名前の通りプリズムにちなむ。
マイクロソフトの「So.cl」(
ソーシャル)、Google、Yahoo!、Facebook、Apple、AOL、Skype、YouTube、PalTalkの、合わせて9つのウェブサ
ービスを対象に、ユーザーの電子メールや文書、写真、利用記録、通話など、多岐に渡るメタ情報の収集を
意図している。
2013年6月6日、ガーディアンとワシントン・ポスト両紙が、当時NSA勤務者だったエドワー
ド・スノーデンからの内部告発調査報道により、極秘プログラムの存在が明らかとなり、米国政府筋もこの
機密計画の存在を認めている(Wikipedia)。
 




● 実話と映画の相違点

映画では、未だ全貌が明らかになっていない事件を扱っているため創作された部分がある(Wikipedia)。

  1. スノーデンが告発する動機は、映画の中ではNSAの監視の目的が国防ではなく世界を支配することであ
    り、スノーデン自身への身辺調査の延長として同居している女性まで監視されているとされているが。
    実際は、違法となる米国人の通信までをも、NSAが盗聴監視していたことに対する告発である。
  2. スノーデンがマイクロSDカードで情報を盗み出したと描くが、実際には膨大な量を持ち出しており、
    さらに、高度な方法を使わないと持ち出せない(盗み出した方法は、スノーデンもNSAも未公表)。
  3. 映画では、FISA(外国情報監視法)秘密裁判所の暴露をメインで描かれるが、実際はプリズムの告発が
    メインである。
  4. 映画の中では、NSAが主要IT企業のサーバーに直接侵入されているが。実際の「プリズム」においては
    NSAIT主要企業は協力している。

 

● 事件背景と告発の意味   

早速、上図『スノーデン 日本への警告』を購読。これをもとに事件背景を読み解く。

   2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロ事件により、世界は一変しました。

   テロの恐怖が世界を覆い、テロ対策と名がつけばあらゆる監視が許されるようになりました。
   テクノロジーが飛躍的に進化したことと相まって、SFの中でしか見られなかった技術が現実
   のものとなり、想像を絶する監視政策が進められています。安全・安心の旗印のもとプライバ
   シーなどの市民の自由は後退を余儀なくされる一方、政府は秘密のベールに包まれたままほと
   んどフリーハンドで情報を集めて利用するという非対称な社会が実現しつつありました。
    そこに登場したのがエドワード・スノーデン氏です。2013年6月、彼がリークした機密
   資料をもとに、イギリスの「ガーディアン紙」やアメリカの「ワシントンポスト紙」などが連
   日にわたり、アメリカ連邦政府の監視捜査の実態を白日の下にさらしました。光ファイバーに
   直接アクセスして膨大なインターネット通信を取得していたこと、グーグルやフェイスブック
   といった世界に名だたるインターネット会社に顧客の個人情報を提供させていたこと、議会や
   裁判所の監督が実質的に骨抜きとなっていたことなどが、次々に暴かれていきました。自由で
   オープンで民主的な国家というアメリカの理念は、根元から崩れつつあったのです

    スノーデン氏の登場は、9・11同じように社会を大きく変える画期的な出来事となりまし
   た。テロに怯えるあまり国家の理念を放り投げてしまってよいのか、最先端のテクノロジーを
   用いた監視はどこまで許されるべきなのか、現代においてプライバシーにはどのような意義が
   あるのか-スノーデン氏のりークにより議論の土俵が変わりました。世界は新しいフェーズ
   入ったのです。

    日本ではともするとスノーデン・リークが対岸の火事のように扱われます。日本政府の監視
   政策はアメリカほどひどくないと信じられているのかもしれません。しかしそのように考える
   ことはふたつの点て間違いです。
    第一に、日本の監視政策は世界に類を見ないほど秘密主義的です。全貌が明らかにされるこ
   とは皆無です。顔認証技術、DNA型データベース、Nシステムなどの強力な監視技術が秘密
   のベールに包まれたまま日常的に用いられています。そして、単発的に白日の下にさらされる
   事実をつなぎ合わせてみれば、日本政府が他国に引けを取らないほど強力な監視捜査を実施し
   ていることが明らかになります。2017年1月31日には、政府が10年以上にわたり捜査
   にGPS装置を利用しながら、捜査資料にはGPSに関する事実を一切記載しないよう日本中
   の警察に徹底させていたことが明らかになりました。組織ぐるみで監視の事実を完璧に隠蔽す
   ることに成功していたわけです。2016年8月には、大分県の警察が野党の選挙事務所
に監
   視カメラを違法に設置していたことが明らかになりました。2010年10月には公
安資料が
   インターネットに流出し、警察が日本に住むすべてのムスリム(ィスラム教徒)を秘密裏
に監
   視していたことも明らかになりました。

    他国でこのような事実が明らかになれば、世論の後押しを受け、メディアや議会が検証を求
   めたことでしょう。しかし日本では、これらの事実が明らかにされても、捜査機関自身が内部
   調査を公開することも、議会に検証委員会が設置されることもなく、月日が経てばなかったよ
   うにされていきます。依然として情報公開は進まず、制度を変革しようという動きもありませ
   ん。
    結局、偶発的な事情によって氷山の一角が明らかにされても、氷山がどれほどの大きさなの
   かうかがい知ることすらできないため、現時点において、日本政府の監視政策がアメリカのも
   のよりも緩やかである保証はどこにもないのです。

    第二に、たとえ現時点ではアメリカほどの監視技術が用いられていないとしても、近い将来
   には現実のものとなる可能性があります。一般にテロ対策は各国の連携が求められがちな分野
   です。実際、先述のムスリム捜査の流出資料の中には、アメリカの捜査機関が日本政府に監視
   捜査の実施を委託したとみられるものが含まれています。アメリカ政府から、アメリカ政府が
   実施するものと同レベルの監視捜査を実施し、相互に情報を共有するよう要請されることが予
   想されます。また、仮に2017年3月現在国会で議論されている共謀罪が成立すれば、共謀
   の事実を立証するための重要な捜査手法として、近い将来にSNSや電子メールの内容を傍受
   する監視捜査の合法化が求められるでしょう。
    スノーデン・リークは決して対岸の火事ではありません。これからの日本の監視政策を考え
   る際に、スノーデン・リークを基礎として積み重ねられている議論の理解は不可欠です。そし
   てそのためには、オルタナティブーファクトやポスト真実といった言葉が世間をにぎわせてい
   る今だからこそ、正確な事実を議論の土台としなければなりません。
    スノーデン氏の言葉には正確な事実が満ち溢れています。日本における監視政策の議論を実
   りあるものとするために、スノーデン氏の警告に耳を傾けることが必要です。

                            第1章 スノーデンの日本への警告 
                                   イントロダクション


2016年6月4日、東京大学のキャンパスで200名以上の聴衆者の前で、「これから国家のナショナル・
セキュリティとプライバシー」についての講演がエドワード・ジョセフ・スノーデン氏とのインタビュー形
式で行われ次のように答えている(聞き手=金晶浩)。

    権限が拡大するなかで、国に貢献するとは一体どういうことなのだろうと疑念を持ち始めま
     した。トップ・シークレットとされる情報にアクセスできるようになり、政府が公表する内容
   とかけ離れた活動に従事していることに気付くようになったのです。政府は国が定めた法律に
   反しているのではないかと。国が掲げる価値観と正反対の活動がなされていることに気付いた
   のです。
    これで悩みました。そして国民の義務とは何か、民主主義とは何を意味するのかを考えるよ
   うになったのです。

    民主主義とは政府の正統性の根源です。国民は、国のあるべき方向を選択して選挙で投票し、
   結果として統治される国民の総意として選ばれたという事実が政府の正統性の由来です。

   もし投票するために十分な情報が開示されていなければどうでしょうか。さらには政府が実施
   する施策について情報を隠し、嘘をついているとなればどうでしょうか。このことは国の民主
   主義の将来にとってどのようなことを意味するのでしょうか。
    私は、私たちが内実を知り理解する政府こそが良い政府であると強く信じています。とはい
   え政府はあらゆる情報を公開するべきだと言っているわけではありません。マフィアのボスや
   やくざの親分、テロリストに開する捜査情報を公表するべきだなどと言っているわけではあり
   ません。
    しかし、オープンで自由な民主主義社会において、市民が政府と対等の当事者として社会に
   関与し、公的・私的・政治的問わず何らかの役割を果たすためには、政府が求める権限の概要
   と外延は少なくとも知らされなければなりません
    政府の中にこのことに反対の人がいるならば、それがトップの安倍首相であれ、自衛隊や防
   衛省の事務方であれ、地方自治体の職員であれ、協力企業の職員であれ、社会福祉法人の職員
   であれ、この民主主義の原則を信じていない人がいるならば、そこから政府の腐敗は始まるの
   です。2013年のリークが投げかけたテーマは監視だけではないと考えています。問われて
   いるのは民主主義の問題です。
    捜査のためにあるいは世論を形成するために、国民の名の下に実施しつつ、大衆としての国
   民を対象としていたアメリカ政府の広範な監視政策について、私たちはどこまで知る必要があ
   るのでしょうか。このことを私たちが制御できなくなれば、監視の方法について民主的な統制
   を及ぼすことができないとすれば、市民と政府の関係は根本的な変容を迫られていることにな
   ります。

                
                            第1章 スノーデンの日本への警告 
                          イントロダクション:NASの活動の疑念

    機密情報を私の手で一方的に外部に公表したことはありません。公表する情報に自分自身の
   政治的な信条の影響が及ばないようにするために、常にジャーナリストを通じ

   て公表してきました。これは私の確固たる方針です。どの情報を公開しどの情報を公開しない
   かという問題は、道徳的に考えられなければならなりません
    このインタビューにはジャーナリストを関与させていませんから、この質問に答えるにあた
   り現在公開されている情報以上のものをここで提供することはできません。しかし、すでに知
   られている情報をもとに申し上げたいことは、アメリカと日本が、ほかの国々と同様に、イン
   テリジェンス情報を交換する関係にあるということです。
   「ニューヨークタイムズ紙」とProPublicaが公表した記事によって、アメリカ政府がAT&Tな
   どの通信会社を経由して実施するマス・サーベイランスの方法が明らかにされてい
ます。記事
   によると、フェアビューというプログラムに基づいて、たと
えば、ヨーロッパとイギリス、あ
   るいはヨーロッパとアメリカといった国同士・大陸同士が、
光フアイバーによってつなげられ
   ています。みなさんのインターネットのコミュニケーション
は、海底地下ケーブルを使って伝
   達されていますが、ここを経由したほとんどの情報は最終的
にはアメリカを通ることになりま
   す。アメリカの通信事業会社はこうした情報に関して、NS
Aに対し収集・利用などのあらゆ
   る権限を与える無制限のアクセスを許可しています。通信事
業者は、データを無許可でコピー
   し、監視目的で使用しているわけです。

    ここで重要なことは、この問題が合法かどうかではありません。一部の捜査活動は完全に合
   法です。けれども非道徳な活動です。つまり政府は合法的に非道徳的な活動に従事することが
   できるのです。今回のスキャンダルにおいて最も重要な問題は、政府が法律を破らなくとも権
   利を侵害する活動ができてしまうことにあるのです。
    日本も、こういった国際的な光ファイバーをアメリカと共有しています。日本側の通信は、
   NTTコミュニケーションズなどによって管理されています。アメリカの通信会社はアメリカ
   を経由する通信を傍受しNSAに提供しているわけですが、日本の通信事業会社も日本を経由
   する通信については同じように傍受することができます。では日本の通信会社もこうした情報
   を政府と共有しているのでしょうか。私にはわかりません。具体的に知っていることはありま
   せん。しかしこういうことがありました。

    ハワイでNSAの仕事をしていた時に、Xキースコアいう大量監視ツールを用いていました。
   このツールを用いると特定の調査対象の通信をすべて把握することが
できます。
    たとえば私の担当国は中国で、中国のハッカーなどを追跡するという仕事がありました。追
   跡によって得られるIPアドレスから、通信がどこからどこへ接続しようとされていたかを把
   握することができます。IPアドレスとは、完全に正確な比喩ではありませんが、大まかにい
   うとインターネットの世界における住所のようなものです。IPアドレスを見ればどこからど
   こに向けて接続されたかがわかります。NSAでは、通信ごとにフラグをつけて、アメリカの
   IPアドレスから来た通信、中国のIPアドレスから来た通信、といった形で分類しています。

    NSAが保管する通信の中には、日本のフラグがつけられたものが多数ありました。こうし
   た情報はどのように入手されたものなのでしょうか。アメリカ政府が日本政府に知らせずに一
   方的に情報を得ていたのでしょうか。それとも、このような監視活動に関して、両国政府は情
   報を交換していたのでしょうか。十分にありうることですが、断言はできません。
    ただ横田基地という、アメリカと日本の情報機関の橋渡しをする施設で働いた経験から申し
   上げると、アメリカの情報機関は、常時、日本の情報機関とアメリカにおける情報を交換して
   いますし、日本もしばしばアメリカに対して日本に関する情報を交換しています。政府同士
   が、潜在的なテロの脅威や軍事上の脅威、敵対的な行動の兆候や警報といった情報を交換する
   ことは、正常かつ適切なことです

                            第1章 スノーデンの日本への警告 
              イントロダクション:監視活動に関するアメリカと日本の協力関係
   

    2013年6月、私は政府による違法な情報収集に関するトップ・シークレットの機密情報
   を暴露しまし
た。政府はこの行為を犯罪だと主張しています。しかし、ここで重要なことは、
   政府にはこのような事態を回避するチャ
ンスがあったということです。
    政府には、こうした違法な情報収集活動を廃止する機会がありました。私が情報を暴露する
   数カ月前の2013年2
月、監視プログラムの違法性を争う訴訟について連邦最高裁判決が出
   されました。この訴訟はACLU(アメリカ自
由人権協会)が原告の代理を務めており、アメ
   リカでは大規模な監視捜査が行われていると指
摘する多くのジャーナリストの調査報道をもと
   に、NSAが
憲法に違反する無差別な監視を行っていると主張していました。原告はこのプロ
   グラムが提起する憲法問題は非常に重要
であると主張しました。これに対し政府は、国家機密
   を理由
として、ジャーナリストであれ市民団体であれ自らが監視の対象であるという事実を立
   証することは許されないから、裁
判所にはこれらのプログラムの違憲性を判断する権限がない
   と主張しました。最終的に最高裁は、政府の主張どおり監視プログラムが現に実施されている
   か否かを立証すること自体
が禁止されていると判断しました。このプログラムは法の支配の枠
   外、裁判所による監督の対象外に置かれてしまったの
です。

                            第1章 スノーデンの日本への警告 
                イントロダクション:秘密主義は政治の意思決定のプロセスや
                                 官僚の質を変えてしまう



                                         この項つづく


 
  

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虎パンダとカホコ

2017年08月03日 | 時事書評

  

            

             宣公十二年(- 597) 邲(ひつ)の戦い   / 楚の荘王制覇の時代


                                                

    ♞ 舟中の指、掬きくすべし

    ※ 晋軍の方では、魏錡(ぎき)、趙旃(ちょうせん)の二人が一晩帰らなかったので、
      あるいは楚軍を怒らせたのではないかと心配し、軘(とん)車と称する防備用の兵
      車で迎えにやった。魏錡を追っていた楚将藩党(はんとう)は、その兵車のあげる
      塵埃を望み見て、本陣に急使をやって知らせた。「晋軍の来襲です」 楚車の方で
      は、楚王が深入りして晋軍に包囲されては一大事と、ついに兵をくりだした。
      楚の令尹孫叔敖(そんj¥しゅくごう)は言った。
      「進んで戦おう。人に追るとも、人に追られるな。『先頭の兵車十乗、まっさきに
      道をひらく』と詩(小雅、六月)にもある。敵に先をかけよと教えたのだ。兵書に
      も、『敵に先んずれば敵の戦意はくじけ
 る』とある。敵に迫れと敦えたのである」
      かくてただちに出陣、兵車と兵車と、もみにもんで駈せ、晋軍に襲いかかった。
      桓子(荀林父)はなすすべを知らず、あわてて太鼓を叩いて軍中に告げさせた。
      「先に河を撹った特には恩賞を取らせようぞ」
      そこで中軍・下軍の兵士はわれがちに舟に乗ろうとした。そのために舟の中には切
      断された指が両
手ですくうほどだった。
      かくて晋軍は中軍も下軍も総崩れになって右に移勤し、動かぬのは上軍だけとなっ
      た。そこで楚の
工尹斉(こういんせい)は右拒(右翼)の軍をひきいて晋の下車を
      追撃した。


      〈舟中の指掬(きく)べし〉 大勢の者が争って舟に乗ろうとし、先に乗った者はあ
      とから大勢が乗って
舟が転覆することを恐れ、舟べりにつかまった者の指を斬り落
      した。そのため舟中に指が両手に
すくえるほどになったというのである。



【ZW倶楽部とRE100倶楽部の提携 Ⅳ】

✪  エネルギータイリング事業篇

● ソーラータイルのリサイクル事業

先回、ソーラールーフタイル事業開発と技術課題を考察。その折り、廃棄物回収ループ事業について
は保留
したが、今回はシリコン結晶系太陽電池(変換効率20%超)に絞り小考する。なお、このブ
ログでもシリコンの回収に関して掲載――例えば、『太陽の道の技術』(2011.07.06)では、半導体
用シリコン製造工程から廃棄されるシリコン屑あるいは廃棄物(不良品、デバイス廃棄物など)から
の回収、あるいは「籾殻から金属シリコンをつくる錬金術(特開2011-6316)事例掲載、『二つのリゾ
ットと金属シリコン』(2012.01.23)では下図の【シリコンリサイクル】を掲載している。さらに、
今年に入り「リチウムイオン電池の大容量化に産業廃棄物を活用した新たな道筋- 東北大/阪大の研
究グループ、シリコン切粉を用いて従来容量比3.3倍に」(2017.02.22) 「廃シリコン粉末のレーザ
焼結による多孔質複合厚膜の創製に成功-産業廃棄物からリチウムイオン電池製造の可能性」(慶応
大 2017.01.08)などが成果報告が公表されている。



このように、半導体、蓄電池、太陽電池、バイオ(農産物)産業からの廃棄物は再生可能エネルギー
産業の興隆などの動向を類推すれば、金属シリコン、半導体シリコンのリサイクル事業はここにきて
ビッグビジネスとなりつつあることが了解でき、リサイクルループ構築競合が加速していくものと考
えられる。
 

♞  高容量の次世代リチウムイオン電池、産廃シリコンで実現

 

7月20日、慶應義塾大学の研究グループは廃シリコン粉末から単結晶シリコンピラーを形成する手
法の開発に成功。リチウムイオン電池の性能を高める手法に、シリコンを利用した負極の研究開発が
進んでいるが、容量を従来の3
倍程度に高められるが、充電時にリチウムを貯蔵すると体積が3倍以
上に増え、電極割れ、導電経路崩壊する。このように電池寿命の急速低下回避には複雑な負極の構造
をとる必要がありコストが嵩む。同グループは、体積膨脹を完全に緩和できる単結晶シリコンピラー(
シリコンで作る微小柱)の形成に成功。原料には産業廃棄物として処分されている、廃シリコン粉末
活用するのが特徴で、高容量、長寿命、低コストのシリコン負極を作るための新しい製造プロセスと
して期待されている。半導体デバイスや太陽電池の生産では、単結晶シリコンのブロック(インゴッ
ト)を切断し、シリコンウエハーを製造する。その際に、粒径サブミクロン~数ミクロン程度のシリ
コン粉末が大量に発生する。現在そのシリコン粉末は、砥(と)粒などの不純物を含むことから再びイ
ンゴット生産に再利用されることはなく、産業廃棄物として処分されている。

研究グループはシリコン粉末に導電助剤としてアセチレンブラック、バインダーとしてポリイミドを加え集電体と
して銅箔(はく)上に塗布し、これに対してレーザー照射を行うことで、シリコンマイクロピラーを形成する手法
を確立。 レーザーを吸収した最表面のシリコン粒子は加熱され、融点を超えると溶融する。このとき、粒径が
小さい粒子は素早く蒸発するが、大きい粒子は溶融し、液相となる。液相となった粒子は周囲の粒子を取り込
みながら沈殿していき、凝集しつつ銅箔表面に達する。一方、導電助剤として加えたアセチレンブラックはレー
ザー照射で気化し、高圧プラズマになる。このプラズマの圧力によって液相のシリコンはピラー状に成長し、液
相シリコンの再凝固によって、シリコンマイクロピラーが形成されるという仕組み。 



❏ 関連特許:特開2017-081770:シリコンナノ粒子の製造方法及び装置

シリコンナノ粒子は、サイズや結晶構造に応じて光学的・電気的特性を制御できるため、次世代太陽
電池やデータ記憶素子、量子コンピューターなどのデバイスの高効率化と高機能化に使用される需要
が増加している。したがって、サイズや結晶構造を安定して制御できるシリコンナノ粒子製造プロセ
スが必要不可欠である。これまでに、イオン注入法、プラズマCVDによるシリコンナノ粒子合成法
や、化学析出法、電気化学エッチング法によりシリコン粉末あるいはシリコンウエハからシリコンナ
ノ粒子を製造する方法が提案されている。また、エキシマレーザーアブレーション法によるナノ粒子
堆積方法も提案されている。さらにに、パルスレーザを用いる方法も提案されている。

しかし、上記方法のいずれも、粒径や結晶性の揃ったシリコンナノ粒子の合成が困難であり、生成能
率も低いのが現状である。また、いずれも純シリコンを使用しており、生産コストの増加も問題とな
っている。さらに、生成したシリコンナノ粒子を有効に回収する方法も課題となっている。従来の問
題点の解消したもので、原料コストの安価な材料を用いて、安価で大量生産に適したシリコンナノ粒
子製造プロセスで、粒子サイズや結晶構造が均一であるシリコンナノ粒子を製造可能とすることを課
題とする。

JP 2017-81770 A 2017.5.18

 ● 消費者は売電より“自家消費”に期待

7月26日、ソーラーフロンティアは新築一戸建ての住宅購入を検討している消費者を対象に、家庭
のエネルギーに関する意識調査――5年以内に新築一戸建て住宅の購入を検討している全国の既婚男
女約1000人を対象に、家庭のエネルギーに関する意識調査を実施。その中でZEHや、ZEHの実現に必
須の太陽光発電システムに対する印象を実施。
その結果、 住宅の購入にあたり、電気代を削減する
ための施策を行う意向があるかを聞いてみたところ、意向がある人は92.2%で大多数を占めた。その
具体的な施策としては「こまめに電気を消す」が68.2%と最多で、「電力会社を比較・検討する」
(30.1%)、「家電の電源コードをこまめに抜く」(28.9%)などソフト面での取り組みが続く。工
事を伴うようなハード面での施策を検討するユーザーは少数派となったが、ハード面の施策の中では
「太陽光パネルを導入する」と回答した人が21.7%で最多となっている。



次にZEHの導入時に必須の条件となる太陽光パネルの導入についての印象を聞いた。最も多かったのは
「月々の電気代が安くなる」で、「とてもそう思う」(28.3%)と「まぁそう思う」(54.4%)の合
計が82.7%を占めた。「災害時の電源として安定する」(79.8%)、「家庭内で使用するほとんどの
電源を賄える」(70.5%)が続く。太陽光パネルは、家計負担を軽減する手段として期待されている。
一方で、「初期投資の費用負担が少ない」(35.1%)、「投資が短期間で回収できる」(37.5%)の
印象は低く、初期投資が導入のハードルになっている。次に太陽光発電システムを設置する利点につ
いて聞いたところ、「発電した電力を自家消費できるが68.1%で、「発電した電力を売電できる」
の55.1%を上回る結果となった。

Q11.あったらいいなと思う太陽光パネルの機能(n=1045)



 

 

【過保護のカホコ】

テレビドラマが面白いと彼女が言うので観る。結構面白い。はじめ、高畑充希扮するカホコ(根本加
穂子)は発達障害者、あるいは行動障害者なのかなと思わせるほど異常なもの感じたのだが、翌日、
そのことを話すと、それこそ、母親の根本泉(いずみ)過保護に育てられたからよ。と、説明する。

観たのは第4話――カホコ(高畑充希)が生まれて初めて泉いずみ(黒木瞳)に反抗したことで、固
い絆で結ばれた母娘の関係は冷戦状態に突入→間を取り持とうと奮闘する正高(まさた)か(時任三
郎が、お互い譲らない2人の板挟みにあう。そんな中カホコは、勢いで告白したまま逃げ出してきて
しまった竹内涼真扮する、麦野初(はじめ)と顔を合わせづらく悩む。人は誰かと出会うことで自分
を変えることができるとい中島ひろ子扮する叔母の並木環(たまき)の言葉に励まされ、改めて初に
会うカホコだったが、変な期待をさせない方がいいと思った初から、過保護でガキっぽいところがタ
イプではないとフラれ、ショックから部屋に引きこもるが、失恋中もしっかり空腹を感じることに自
己嫌悪で落ち込むカホコに、正高は泉に隠れてカホコに差し入れをするが、そのことが泉にバレて過
保護だと責められる。



一方、退院した並木糸(イト)はカホコを通じて知り合った初を訪ねるが、チェロを弾けなくなった
ことを親のせいにするイトに、初は冷たく接してしまう。部屋に引きこもったまま『失恋から立ち直
る方法』を調べるカホコに、正高は気分転換のため泉の実家を訪ねることを提案。しかし、集まった
親戚もタイミング悪く各々の家庭の問題を抱え、泉がいないこともあり気分は沈んだまま。失恋の痛
手を忘れるにはお酒が効くと聞いたカホコは、初めてお酒をガブ飲みしてしまうが、その勢いのまま
初の元へ向かうという。というストーリー。なんとなく、自分と母親の関係もこれとにたところがあ
るのではと重ね合うところあり。



全ての行動を親任せにする過保護の性格を持つ箱入り娘のカホコ、外泊はおろか買物すらしたことが
ない。そんなカホコとは性格が全く反対な青年・麦野初との出逢いで人生観が一変するという、2017
年7月12日から始まった日本テレビ系水曜ドラマ『過保護のカホコ』。毎週水曜午後10時の時間帯は
要約済み!


 

       

読書録:村上春樹著『騎士団長殺し 第Ⅱ部 遷ろうメタファー編』        

    第44章 人がその人であることの特徴みたいなもの 

  あたりがもうかなり暗くなった頃、私は懐中電灯を手に、秋川まりえを「秘密の通路」の少し
 手前まで送っていった。夕食までに家に帰らなくちやならない、と彼女は言った。夕食が始まる
 のはだいたい七時だ。

  彼女は私にアドバイスを求めてやってきた。しかし私にもうまい考えは浮かばなかった。しば
 らく事態の推移を見ているしかないだろう。私に言えるのはそれくらいだった。もし二人が性的
 な関係を持っているとしても、結局は独身の成人男女が合意の上で進めていることなのだ。私に
 いったい何かできるだろう? そしてその背景となっている事情を私は誰にも(まりえにも、そ
 の叔母にも)明かすことはできなかった。そんな状態で誰かに有効なアドバイスを与えることな
 んて不可能だ。利き腕を背後で縛られてボクシングをしているようなものなのだから。

  私とまりえはほとんど口をきかずに雑木林の中の道を並んで歩いた。歩いている途中でまりえ
 は私の手を握った。小さな手だったが、力は予想外に強かった。彼女に急に手を握られて少し驚
 きはしたが、たぶん子供の頃によく妹の手を握って歩いていたせいだろう、とくに意外には感じ
 なかった。それは私にとってはむしろ懐かしい、日常的な感触だった。
  まりえの手はとてもさらりとしていた。温かくはあるけれど、汗ばんだりはしていない。彼女
 は何か考えごとをしているらしく、おそらくは考えていることの中身によって、ときどき握る手
 がぎゅっと強くなったり、またそっと緩んだりした。そういうところも妹の手が与えてくれた感
 触によく似ていた。

  祠の前にさしかかると、彼女は握っていた手を放し、何も言わずに一人でその裏手に入ってい
 った。私はそのあとをついていった。
  ススキの茂みはキャタピラに踏みつよされた痕跡をまだしっかり残していた。そして穴はいつ
 もどおりひっそりとその奥にあった。穴の上には厚板が何枚か蓋としてかぷせられ、蓋の上には
 重しの石が並んでいた。それらの石の位置が前と違っていないことを私は懐中電灯の明かりで確
 認した。この前見たときから、誰もその蓋をどかせてはいないようだ。

 「中をのぞいてかまわない」とまりえは私に尋ねた。
 「のぞくだけなら」
 「のぞくだけ」とまりえは言った。

  私は石をどかせ、一枚の板を取り除いた。まりえは地面にしやがんで、その間いた部分から、
 穴の底をのぞき込んだ。私はその中を照らした。穴の中にはもちろん誰もいなかった。金属製の
 梯子がひとつ立てかけてあるだけだ。もしそうしようと思えば、その梯子を便って穴の底まで降
 りて、また上ってくることができる。深さは三メートルもないが、もし梯子がなければ、地上に
 出るのはほぼ不可能になってしまう。壁はつるつるしていて、普通の人にはとてもよじ登れない。
  秋川まりえは片手で髪を押さえながら、その穴の底を長いあいだのぞき込んでいた。目を凝ら
 し、そこにある暗黒の中に何かを深し求めるように。その穴のいったい何か彼女の興味をそれほ
 ど惹きつけるのか、私にはもちろんわからない。それからまりえは顔を上げて私を見た。

 「誰がこんな穴をつくったのかな」と彼女は言った。
 「さあ、誰が作ったのかな。最初は井戸なのかと思ったけど、そうでもないみたいだ。だいいち
 こんな不便なところに井戸を掘る意味もないからね。いずれにせよ、かなり昔に作られたものみ
 たいだ。そしてとても丁寧に作られている。ずいぶん手間がかかったはずだ」

  まりえは何も言わず、じっと私の顔を見ていた。

 「このあたりは昔からずっと君の遊び場だった。そうだね?」と私は言った。 まりえは肯いた。
 「でも、祠の裏手にこんな穴があることを、つい最近まで君も知らなかった」

  彼女は首を横に振った。知らなかったということだ

 「先生がこの穴をみつけて、開いたのね」と彼女は尋ねた。
 「そう。みつけたのはぼくということになるかもしれない。こんな穴があるとはわからなかった
 けど、積まれた石の下に何かがあると思った。でも実際に石をどかせて、この穴を間いたのはぼ
 くじやなくて、免色さんだ」、私は思い切ってそのことを打ち明けた。きっと正直に話しておい
 た方が良いはずだ。

  そのとき樹上で、鋭い声で一羽の鳥が鳴いた。仲間に何かの警告を与えるような声だった。私
 はそのあたりを見上げたが、鳥の姿はとこにも見えなかった。葉を落とした彼が幾重にもかさな
 りあっているだけだ。その上にはのっぺりとした灰色の雲に覆われた、冬も近い夕暮の空か見え
 た。

  まりえは顔を少しだけしかめた。でも何も言わなかった。
  私は言った。「でもどういえばいいんだろう、この穴は誰かの手で開かれることを、強く求め
 ていたみたいだった。そしてまるで、ぼくがそのために召喚されているみたいだった」
 「ショウカンされる?」
 「招き、呼び寄せられていた」
  彼女は首を曲げて私の顔を見た。「開かれることを先生に求めていた」
 「そう」

 「この穴が求めていた?」
 「ぼくでなくても、誰でもよかったのかもしれない。たまたまぼくがそこに居合わせたというだ
 けかもしれない」
 「そしてじっさいにはメンシキさんがこれを開いた」
 「うん。ぼくが免色さんをここに連れてきたんだ。もし彼がいなかったら、この穴はたぶん開か
 れなかっただろうな。人の手ではとても石はどかせられなかった、ぼくは重機を手配したりす
 るようなお金も持ち合わせていないし。つまり巡り合わせみたいなものだよ」

  まりえはそれについてしばらく考えていた。

 「そんなことしない方がよかったかもしれない」と彼女は言った。「前にも言ったと思うけど
 「そのままそっとしておけばよかったと、君は思うんだね?」

  まりえは何も言わず地面から立ち上がって、ブルージーンズの膝についた土を手で何度も払っ
 た。それから私と二人で穴に蓋をかぶせ、その上に重しの石を並べた。私はその石の位置をあら
 ためて順に刻み込んだ。
 「そう思う」、彼女は両手の手のひらを軽くこすり合わせながら言った。
 「ぼくは思うんだけど、この場所には何か伝説というか、言い伝えみたいなものが残っているん
 じやないかな。特殊な宗数的背景があるとか」
  まりえは首を横に振った。彼女は知らない。「うちのお父さんならなにか知っているかもしれ
 ないけど」
  彼女の父親の一族は明治以前からずっと、地主としてこの一帯を管理してきた。この隣の山も
 丸ごと秋川家の所有物だ。だからこの穴と祠の意昧についても何かを知っているかもしれない。

 「お父さんに訊いてもらえるかな?」
  まりえは小さく唇を曲げた。「そのうちにきいてみてもいい」、それからしばらく考えて小さ
 な声で付け加えた。「もしそういう機会があれば」
 「いったい誰がいつ、何のためにこんな穴をこしらえたのか、それについて何か手がかりがある
 といいんだけど」
 「この中になにかを閉じ込めて、重い石をかぷせて積んでいたのかもしれない」とまりえはぽつ
 んと言った。
 「つまり何かが抜け出してこられないように、穴の上に石の塚を積んで、そして崇りを避けるた
 めに小さな祠をこしらえたそういうことなのかな?」
 「そういうことかもしれない」
 「でも我々がそれをこじ開けてしまった」

  まりえはまた小さく肩をすくめた。

  私は雑木林が終わるところまでまりえを送っていった。そこで、あとは自分一人にしてほしい
 と彼女は言った。暗くても道はちゃんとわかるから大丈夫。「秘密の通路」を通って自宅に帰る
 ところを、誰かに見られたくないのだ。それは彼女だけの知っている大事な抜け道だった。だか
 ら私はまりえをそこに残し、一人で家に帰った。空はもうほとんど明るさを残していなかった。
 冷ややかな闇が訪れようとしていた。

  祠の前を通ったとき、同じ鳥がまた同じような鋭い声を上げた。でも今回は私は頭上を見上げ
 なかった。ただまっすぐ祠の前を通り過ぎ、家に戻った。そして自分のために夕食をつくった。
 料理をしながら、シーヴァス・リーガルを少しの水で割って一杯だけ飲んだ。瓶にはあと一杯分
 か残った。夜は深く静かだった。空の雲が世界中の音を吸収しているみたいに。

  この穴はひらくべきではなかった。

  そう、秋川まりえの言ったとおりかもしれない。おそらく私はあの穴に関わるべきではなかっ
 たのだ。私はここのところ、見当違いなことばかりしているみたいだ。

  秋川笙子を抱いている免色の姿を私は想像してみた。白い大きな屋敷の、どこかの部屋にある
 広いベッドの上で、二人は裸で抱き合っている。それはもちろん私とは関わりのない世界で起こ
 っている、私とは関わりのない出来事だ。しかし二人のことを考えるたびに、置き場のない気持
 ちが私の中に生まれた。駅を通過していく無人の長い電車を目にしているときのように。
  やがて眠りが訪れ、私にとっての日曜日が終わった。私は夢を見ることもなく、誰に妨げられ
 ることもなく、ただ深く眠った。
                                
      この項つづく  




● 虎パンダに優勝を託す! 

8月2日夜、テレビ放送がなく仕方なく、今朝、阪神-広島戦(セ・リーグ、広島3-4阪神、16
回戦、8勝8敗、マツダ)のダイジェストで結果――阪神が逆転勝ちで連敗を2で止めた。1点ビハ
インドの9回、4番のジェイソン・ロジャース内野手が左翼線に逆転2点打を打った
。チームはこの
日敗れるか、引き分けの場合は自力優勝の可能性が消滅という瀬戸際。「パンダ」の愛称を持つ新助
っ人が危機を救ってくれたのだ。
試合は1回に2番・菊池の11号2ランで広島が先制すると、阪神
は3回に3番・福留が10号2ランを放ち、同点。
その後は両軍得点のないまま、展開。広島は8回、
松山が3番手の中継ぎ高橋から右中間スタンドへ勝ち越しの7号ソロを放つ。
阪神は9回一死満塁と
好機を作ると、4番・ロジャースが4番手今村投手の2球目を左翼線へと弾き返し勝ち越す。その裏
守護神のドリスが無失点で締め競り勝つという展開。
ロジャースは、いい仕事できる自信があったの
で、回してくれて、いい仕事ができたとインタビューにそう答えている。ここは、ロジャースに優勝
の願いを託すしかない。

  Jason Douglas Rogers                                 

  ● 今夜の一曲

※ 外見や行動から「Panda(パンダ)」という愛称が付いていることにちなんで、メジャーリーガー
  時代から登場
曲に使用されている。


 
  

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