「ちょっと今週末トンカツでも食べにいきませんか」わたしは仕事の合間に
上司に言った。パートの女性においしいと聞いていた店があったのだ。
「ちょっとイヤな予感がするなあ」と上司。
このところ、「来年はいないですし…」とか「年内までだし…」とか、小出しに
ほのめかしていたのである。本来なら「ちょっと一杯どうですか」と誘うところだが、
上司は下戸なのである。
すでに話していた同僚のY君も誘い、3人でカツを食べつつ、10月一杯で退職したい旨
伝えた。すでに予期していた上司は、「まあ、そう急がなくても…10月と言わず~12月
来年も…」と言葉を濁しながら言った。上司は来年定年退職の予定なのである。
正直あまり美味しくなかったカツを食べ終えて、ひとしきり話をした後、店を出ると、
外はすでにほの暗くなっていた。「それじゃあ」と挨拶を交わして、二人と別れた。
わたしは正式に伝えたので「これで会社とも本当にお別れだな…」としみじみ思い、
帰る車の運転をしていたが、しばらく行くうちに、何とも言えない寂しさが胸をこみ上げて
きて全身を覆ったのである。
それは、自分でも予期しない凄まじさで襲いかかってきたのだ。ゾクリと心臓が凍りつくような
冷たさだった。会社での心身の疲労がピークに達し、大地震、原発、友人知人の病などが
心を揺さぶり、熟柿が自然に枝から落ちるように、自分にもその時が来たのだ…と自覚していた
にもかかわらずである。わたしは、事故を起こさないようにハンドルを握りしめるのがやっとの
状態だった。
仕事は、ほとんどが早番で、一人でその日の準備をするのだが、これがけっこう
時間がかかるので、出勤時間の1時間前に出勤するのは日曜茶飯事だったのだ。
これは、肉体的なものより、絵を描く時間が取られてしまうという気持ちのほうが
辛かったのである。
しかし、知らないうちに会社内に人間関係を築き、知らないうちに深く入り込んでいたようだ。
それが、完全に断たれてしまう恐怖と心残りとが相まって、そうなってしまったのかも
しれない。心の中の内なる声は、正直に出てしまうことを思い知らされたのである。
その夜、ベッドに入ってもんもんとしていたが、いつの間にか寝入っていた。
この日は、安どと寂寥のはざまに揺れた一日だった…。
上司に言った。パートの女性においしいと聞いていた店があったのだ。
「ちょっとイヤな予感がするなあ」と上司。
このところ、「来年はいないですし…」とか「年内までだし…」とか、小出しに
ほのめかしていたのである。本来なら「ちょっと一杯どうですか」と誘うところだが、
上司は下戸なのである。
すでに話していた同僚のY君も誘い、3人でカツを食べつつ、10月一杯で退職したい旨
伝えた。すでに予期していた上司は、「まあ、そう急がなくても…10月と言わず~12月
来年も…」と言葉を濁しながら言った。上司は来年定年退職の予定なのである。
正直あまり美味しくなかったカツを食べ終えて、ひとしきり話をした後、店を出ると、
外はすでにほの暗くなっていた。「それじゃあ」と挨拶を交わして、二人と別れた。
わたしは正式に伝えたので「これで会社とも本当にお別れだな…」としみじみ思い、
帰る車の運転をしていたが、しばらく行くうちに、何とも言えない寂しさが胸をこみ上げて
きて全身を覆ったのである。
それは、自分でも予期しない凄まじさで襲いかかってきたのだ。ゾクリと心臓が凍りつくような
冷たさだった。会社での心身の疲労がピークに達し、大地震、原発、友人知人の病などが
心を揺さぶり、熟柿が自然に枝から落ちるように、自分にもその時が来たのだ…と自覚していた
にもかかわらずである。わたしは、事故を起こさないようにハンドルを握りしめるのがやっとの
状態だった。
仕事は、ほとんどが早番で、一人でその日の準備をするのだが、これがけっこう
時間がかかるので、出勤時間の1時間前に出勤するのは日曜茶飯事だったのだ。
これは、肉体的なものより、絵を描く時間が取られてしまうという気持ちのほうが
辛かったのである。
しかし、知らないうちに会社内に人間関係を築き、知らないうちに深く入り込んでいたようだ。
それが、完全に断たれてしまう恐怖と心残りとが相まって、そうなってしまったのかも
しれない。心の中の内なる声は、正直に出てしまうことを思い知らされたのである。
その夜、ベッドに入ってもんもんとしていたが、いつの間にか寝入っていた。
この日は、安どと寂寥のはざまに揺れた一日だった…。
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