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ぽかぽか春庭「熟字訓クイズ」

2012-05-13 00:00:01 | 日本語教育
2012/05/13
ぽかぽか春庭にっぽにあにっぽん語教師日誌>にほんごクイズに挑戦(5)熟字訓クイズ

 熟字訓(中国語の漢字を日本語に当てはめて読む熟語と、日本で当て字読みが考え出されたものの二種類があります)

 たとえば、七夕は、中国語でも七夕(qixi)です。日本の「棚機津女祭り(たなばたつめ祭)」が中国の行事「七夕」と習合したため、たなばた(棚機)を七夕と書くようになったのです。もともとの日本のタナバタは、巫女が川辺に棚をしつらえ、神光臨の準備のために機織りをし、禊ぎを行う「汚れ払い」の行事で、これを行う巫女を棚機津女(たなばたつめ)と呼びました。汚れ払いは、新年を迎えるにも、3月3日の祓えにも行われてきました。古来は土俗行事や古神道の先祖霊迎えの祓えであった夏の祓え行事と七夕が習合し、中国の織り姫星牽牛星の伝説なども混ざって、現在の七夕になったのです。

 花がお日様を追って回るというひまわりsunflower。南アメリカ原産のひまわりがヨーロッパ経由で中国から伝えられたときには向日葵(シャンリークイ)という漢字もともに伝えられました。日本での栽培は江戸時代に盛んになりますが、その頃には、お日様に顔を向けて回る「ひまわり」という呼び名が定着し、漢字の向日葵も「ひまわり」と読むようになりました。
 以上は、中国語由来の熟字訓。日本で独自に読み方が考えられた当て字もあります。

 二十歳は、熟字訓「はたち」
 日本語古来の和語での数の数え方、ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ~とお、はた、みそ、よそと、読む場合の、二十日は、はつか、二十歳は、はたち。この「はたち」の漢字表記として、二十歳をあてています。
 十六夜「いざよい」。満月の次の夜、いざって軒端まで出て、見る月の夜なので、いざよい十六夜。
 春先の野辺に生えるつくし。形が筆そっくりなので、土の上の筆「土筆」。
 大和(やまと)は、もともとは水門(みなと=港)に対する山門(やまと)であったでしょう。中国では日本人を「チビ」という意味で「倭人」と呼んでいたので、「やまと」という名乗りを聞いて、「やまと国」の表記を「倭国わこく=チビの国」としました。しかし、それじゃあんまりです。地域名、国名として漢字を採用するときに、「大和」という壮大な字をあてました。これも熟字訓のひとつです。
 
 万葉仮名では「久羅下」と表記されたクラゲ、いろいろな当て字熟字訓があります。「水母」という表記、初出は、元和板下学集(1617年)に見えるということですが、海に漂う透明なクラゲが、海の水を生みだしているかのような趣のある当て字です。「海月」という熟字訓もあります。「海星ひとで」と並べるとおもしろいですね。

 さて、では、以下熟字訓クイズ。これは漢字圏留学生にもおもしろがってもらえるクイズです。レベル1~5は、教育漢字常用漢字の範囲内の漢字ですが、漢字圏の留学生にもなじみのない単語をこの熟字訓で覚えてもらう、というメリットがあります。

 以下の熟字訓は、日本人シニアにとっては常用漢字内で、なんということもない常識範囲内の漢字です。レベル7以上は、留学生には教えない「覚えなくても一生不自由はない熟字訓」です。頭の体操としてチャレンジしてください。(今回は自主採点してみましょう。一問1点。ただし、レベル10は、全部できて10点)

(100点満点)
レベル1
1一昨年 2二十日 3五月 4上手にできた 5梅雨 6紅葉 7雪崩 8百合 9銀杏 10果物

レベル2
1部屋 2団扇 3浴衣 4海苔 5山車 6五月雨 7太刀 8土産 9田舎 10為替
 
レベル3
1真面目 2八百屋 3玩具 4松明 5蚊帳 6祝詞 7神楽 8台詞 9十八番 10老舗

レベル4
1不味い 2相撲 3草履 4仲人 5日和 6足袋 7流鏑馬 8時雨 9景色 10雑魚

レベル5
1八百長 2竹刀 3行方 4寄席 5若人 6小豆 7海女 8乳母 9お神酒 10風邪

レベル6
1陽炎 2独楽 3欠伸  4時化 5黄昏 6許嫁 7黒子 8野点 9宿生木 10提灯

レベル7 
1蝶番 2東風 3木乃伊 4掏摸 5東雲 6生憎 7熨斗 8旅籠 9嗚咽 10美人局

 レベル8と9は、同訓の熟字訓がふたつ以上並んでいます。左側を知らなくても右側はかなり知られているので、どちらかを知っていれば同じ読みだから、もうひとつも読める。)

レベル8 
1松魚 堅魚 2 鹿驚 案山子 3羅漢柏 翌檜 4映日果 無花果 5水獺 川獺 6梔子 山梔子 7呉桃 胡桃 8石榴 柘榴 9拳螺 栄螺 10霸王樹 仙人掌

レベル9 同訓の熟字訓
1瓊脂 心太 2告天子 雲雀 3酸漿 鬼灯 4老海鼠 海鞘 5角鴟 木菟 6壁虎 守宮 7猟虎 海獺 8石竜子 蜥蜴 9紅娘 瓢虫 天道虫 10槓杆 梃子

レベル10  以下の熟字訓をすべて読んでください。(全部読めて10点)
1時鳥 2蜀魂 3沓手鳥 4霍公鳥 5子規 6田鵑 7杜鵑 8杜宇 9不如帰


解答はレベル6以上のみ。レベル5まででわからなかった字は、ご自分で検索答え合わせ願います。

レベル6 
1かげろう 2こま 3あくび 4しけ 5たそがれ 6いいなづけ 7ほくろ 8のだて 9やどりぎ 10ちょうちん

レベル7
1ちょうつがい 2こち 3みいら 4すり 5しののめ 6あいにく 7のし 8はたご 9おえつ 10つつもたせ

レベル8
1かつお 2かかし 3あすなろ 4いちじく 5かわうそ 6くちなし 7くるみ 8ざくろ 9さざえ 10さぼてん

レベル9
1ところてん 2ひばり 3 ほおずき 4ほや 5みみずく 6やもり 7らっこ 8とかげ 9てんとうむし 10てこ

レベル10
1~9(すべて)ほととぎす

 熟字訓、ふたつ並んでいるのも、当て字にはさまざまな経緯があることの表れです。
 無花果を「いちじく」と読むのは、中国語の「無花果」がそのまま使われているのだと思われます。花が実の中に隠されていて、木を見ても花が無いように見える果物、という見た目からの命名。
 もともとはメソポタミア地域の原産。ペルシャを経由して中国にこの果物がもたらされたとき、中世ペルシア語「アンジール」(anjīr)を当時の中国語の発音でanを「映」という文字で表記し、ジーを「日」で表記した(音写)のが「映日」。これに果物の意味の「果」を付け加えて「映日果」。アンジールカ、アンジーカ、エンジーカ、インジークと口の中で唱えると、イチジークになまっていく感じがわかります。イチジクの日本語発音は、イチジュク(一熟)が正しいとの説もありますが、イチジクがアラビア半島から日本までシルクロードを通ってきた旅を思うと、イチジュクではなく、イチジークだったのではないかと思います。

 日本に伝来したのは江戸時代初期。長崎に伝来当時は、葉や樹液を漢方薬として用いるのが目的でしたが、果実がおいしいので、瞬く間に全国に普及しました。初期には「異国の果物」という意味で、「蓬莱柿(ほうらいし)」「南蛮柿(なんばんがき)」「唐柿(とうがき)」などと呼ばれましたが中国語の無花果がイチジクの代表的な熟字訓となりました。
 現代中国で映日果、無花果どちらの表記が優勢なのか、中国人留学生にアンケートしてみたいところです。

 このように、当て字、熟字訓ひとつをとってみても、ことばやものの大きな広がりが感じられます。
 こどものころ、わが家の庭にも一本のイチジクがあって、大きくて甘い実がなると好きなときに食べられるおやつとなりました。当時はたくさんありすぎて、あまり有り難いおやつとは思いませんでしたが、一本のイチジクにも、調べてみれば深く広いことばの世界が広がっていたのだと思います。
 
<おわり>
コメント (8)
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